「ねえねえ、もしも…中国呪泉郷に行くチャンスがあって、その時を逃したら二度と行けなくなると思ってね」
「ああ」
「その出発の日に、あたしが急に『行かないで、ずっと側にいてくれなきゃ乱馬の事なんて大ッ嫌いになる。いない間に他の人と付き合っちゃうから』って
駄々をこねて泣き出したとするでしょ?そしたら乱馬…どっちを取る?あたし?呪泉郷?」
何となく思いついた事だし、そんなこと言うつもりも全く無いのだけれど、いつも意地悪されている仕返しに、ちょっと乱馬を困らせてやろうと思った。
乱馬が「完全な」男に戻りたいって思っているのを知っているのに、我侭を言うあたし。
一体乱馬は、なんて答えるだろう。
「ねえねえ、どっちを取る?呪泉郷?それともあたし?」
呪泉郷なんだろうな、とは思えども、きっぱりそう言ったらわざと落ち込んで見せてやる。そんな事を思いながら、あたしが乱馬の顔を覗き込むと、
「どっちも」
…顔を覗き込んできたあたしに対し、乱馬は動揺どころかニヤリ、と不気味な笑いを浮かべながら、きっぱりとそう答えた。
「どっちもって何よ。そんなのダメよ、あたしか呪泉郷か、どっち?」
予想外の答えに、あたしが慌てて再び乱馬にそう問うと、
「だから、どっちも」
乱馬はにやりと笑いながら、
「駄々をこねるあかねを連れて、一緒に呪泉郷に行く」
と、あたしに向かって言った。
「そんなのずるいわよ!どっちかしか選べないのっ」
あたしがそう叫ぶも、
「ずるいって言っても、そうするったらそうする」
「旅券は乱馬の分しかないのよ?」
「海を泳いでいけばいいだろ」
「あたし泳げないもん」
「俺、泳げるから。どうにかなるだろ」
乱馬はあたしの言葉を悉く返しては、意地悪く笑っている。
「…」
答えは二択だって言っているのにも関わらず、勝手に答えをアレンジしてくるなんて。
…初めは我侭を言って乱馬を困らせてやろうと思っていたのに、これじゃあ我侭な乱馬に、あたしが困らされている感じじゃない?
しかも、我侭で困っているあたしを見てなんだかとっても楽しそうだし。
「乱馬って意地悪で我侭ね。その性格は直さないと後々大問題よ」
自分がしようとしていた事は一応棚に上げておいて、あたしはうっすらと笑っている乱馬に向かってそう言った。
すると、乱馬は、不服そうな顔をしているあたしの頬を軽く片手で一撫でし、
「俺?我侭だよ。でも」
「でも、何よ?」
「俺が出かけている間に、浮気をするって事を思いつく事の方が、俺は大問題だと思うけど?」
そう言って、あたしの身体を自分のほうへと引き寄せた。
「浮気するなんて言う奴は、お仕置きだな」
「な、何よっ…冗談で言っただけでしょっ」
「冗談でも言っちゃダメなことはダメ」
乱馬はそう言いながらあたしの耳元へと口をつける。
「そんなの乱馬の勝手な理屈でしょっ」
あたしが乱馬から逃れようとするも、
「そうだよ、俺の勝手。だって俺、我侭だから。俺なりのルールってのがあるんだよな。だからあかねは、これからお仕置き決定、な?」
乱馬は意地悪い笑いを浮かべながら、逃げようとするあたしをさらにきつく、ぎゅっと抱き締めた。
…我侭を言って乱馬を困らせてやろうと思ってたのに、
なんだかこれじゃあ、あたしが乱馬の我侭に困っている感じだわ。