「色々な道具があるものよねえ・・・」
ある日の夜。
夕食の片づけをしているお姉ちゃんとおばさま、縁側でビールを飲んで月を見ているお父さんとおじ様、お風呂に入っている乱馬君とは別に、
居間で寛いでテレビを見ていたあたし。
すると、同じように居間で時間を過ごしていたあかねがそんな事をポツリと呟いた。
一体何のことを言っているのだろう?
あたしがテレビから目線をそらしそう思ってあかねを見ると、あかねは週刊テレビ雑誌の、ある特集記事を見ていた。
それは、「未来の猫型ロボット」を主人公にした子供向けアニメの、放映開始数十年というアニバーサリー記念の記事。
アニメのストーリ自体は、この猫型ロボットがいわゆる未来の色々な道具を袋と言うか自分の胴体についているポケットから取り出して、男の子を助けつつ友情を育む物語だ。
ただ、まあ物語はのことは置いておいて、
このロボットが取り出す道具というのが本当に色々とある。
あかねは、それを踏まえつつ記事を見ながらそんな事を呟いていた。
「億万長者になるとか寝ている内にお金が増える道具もあるの?」
未来ならばそれくらい便利な道具もたやすく作れたりするのかしら?あたしがそう呟くと、
「もう、お姉ちゃんは夢がないなあ・・・そういう道具は無いの。だいたいそんな道具があったって、子供の夢を壊すだけよ」
「だーって、未来ならばそういうのも可能かもしれないじゃない。どうせ居候するんだから、それぐらい貢献してもらわないと」
「そんな風に目先の事ばっかり考えるなんて、お姉ちゃんはまだまだ子供ね」
・・・生意気にもあかねは、「やれやれ」という表情であたしにそう返してきた。
「・・・」
お菓子が好きだったり、可愛いものに目がなかったり自分だってまだまだてんで子供の癖に、
身体が大人になると随分と中身も変わるのかしら?
勿論さすがにそれは口に出さないけれど、「あーそうですか」とあたしは返す。
「このロボットが出す道具は、子供の『憧れ』を実現した素敵な道具ばかりなのよ」
あかねはそういって、記事の中に乗っている道具をあれこれと説明し始めた。
あたしは仕方なしにあかねの説明を聞きつつ、それらの道具を見ていた。
けれど、その中の一つに「ん?」と首を傾げてしまった。
「・・・ねえ、何このライト。月の光をチャージして人に当てると誰でも狼になれるって。これも子供の憧れ?」
どうやら、誰でも狼男に変身できるライトみたい。物語の中では、それを使って本物の狼と出会ったりしたみたいね。
でもこれ、子供の夢とは関係ないような気がするんだけど。
「月の光浴びて中途半端に狼男に変身するなんて、子供が憧れる?」
あたしが、見た目は懐中電灯のようなそのアイテム部分を指でトントンと指すと、
「ライトを当てるだけで狼に変身できるのよ?夢見たいなアイテムじゃないの」
「どこが。だいたい狼に変身した所で何の得があるのよ」
「変身願望が誰にでもあるのよ。そう、変身願望を満たす道具ね、きっと!狼語も分かるのよ!」
あかねはそういって、一人納得している。
「・・・」
まあ、確かに?このロボットが取り出す道具は、子供の憧れと夢がいっぱいのアイテムだらけよね。
どこにでも一瞬で行くことができるドアとか、頭につけるだけで空を飛べる道具とか、タイムマシンとか。
あたしなら、その道具が詰まっている袋というかポケットごと欲しいけど。
でもねえ、光を当てて狼になるアイテムに夢って・・・。どうせ変身するのなら、それこそ大富豪とかに変身させていただきたいわ。
ま、そんな事を言おうものならまたあかねに「子供の夢を壊す!」って怒られそうだけど。
それに、だ。
「家にも、一瞬で人を狼に変えるアイテムはあるからねえ・・・このライトにはあまり夢を感じないわ」
「え!?何それ」
「身近なところにあるじゃないの」
・・・そう。
夢が詰まっているかどうかは分からないけど、我が家にはこのネコ型ロボットの出すライトよりももっと早くもっと確実に、一瞬で人を狼に変えることができるアイテムがある。
あたしは普段それを見慣れているからってのもあるから、この道具にあまり夢を感じないのかしら。
あたしがあかねにそう呟くと、
「見たい!それ、見たい!」
あかねが、それまで夢中になって読んでいた雑誌をパタンと閉じてそう叫んだ。
「あら、見たいの?」
「見たいよ!もう、そんなすごいアイテム、早く教えてよっ」
「・・・まあ、あんたがそうまで言うのなら」
ふーん、見たいんだ。
あたしは、ドキドキと胸を弾ませ嬉しそうにしているあかねに、まずは目をつぶるように指示をした。
そして、目をつぶったままの彼女の手を引き、とある場所へと連れて行く。
「お姉ちゃん、まだ?」
「もうちょっと」
まずはガチャリ、とドアを開けてあかねをその中へと入れた。
そして、あたしはあかねの手を離し、再びパタンとドアを閉めた。
ドアをきちんと閉めた後、あたしは中へ向かって「目を開けていいわよ」と声をかけてやった。
「うん・・・」
ドアの中からは、あかねの小さな声がした。
が、その直後、
「きゃー!何っ何なの!?」
あかねのただならぬ叫び声と、何故かカチャン、とドアの内側から鍵がかけられた音がした。
そして、
「何するのよー!やっ、ちょっと待ってってばっ・・・こら、抱きつくなっ服を着なさい服を・・・いやー!」
ドタドタと脱衣所の中を暴れまわる音、ガタッと脱衣カゴが倒れる音。
・・・そう、あたしがあかねを連れてきたのは「風呂場の脱衣所」だ。
今の時間は、乱馬君が一人でお風呂に入っている。
お風呂に入っている乱馬君の元に、「あかね」を一人ぽーん、と投入してやればほら、ね?
乱馬くんはすぐに、オオカミになっちゃうから。我が家の「オオカミ男瞬間製造アイテム」はあかねってことね。
・・・
その内中は静かになり、あかねの声も聞こえなくなった。
無論、あかねも中に入ったきり出てくる気配は無い。
「・・・」
あかね、あんた自分で「見たい」って言ったんだから。これは仕方が無いわ。
でも自分の身体はもっと大切にしないとね・・・と、あたしは心の中でそっと涙を拭いつつも、
「充電もいらないし、便利なアイテムがこんなに身近にあるなんてね」
・・・充電なんてされた日にはそれこそあかねの身が持たないかもしれないし、あかね以外にはオオカミとして機能もしないけど、
猫型ロボットに負けないようなすごいアイテムが我が家にあったことを立証できたことに、あたしは妙に満足をしながら一人、居間へと戻っていったのだった。
現代にもまだまだ未知の能力を込めた道具はたくさん、存在する。