(…かなわねえよなあ)
グランドの反対側で体育の授業をしてる女子をぼんやりと眺めながら、俺はそんなことを考えていた。
俺たちが「走り幅跳び」の授業をしているちょうど反対側では、女子がソフトボールをしていた。
最初は女子の授業なんて気にならなかったんだけど、
たまたま俺が幅跳びの順番待ちの時にふと、目をやった瞬間。
…偶然、あかねがホームランを打ってグランドを回って帰ってきたところが目に入った。
そんなあかねは、みんなにワイワイと迎えられて…笑っていた。
笑顔だった。
すげー嬉しそうに、あかねは笑ってた。
…その笑顔があんまりにも可愛かったので、俺は何だか目が離せなかった。
屈託なく笑う、あかねのその顔。
そんな無防備な明るい笑顔を向けられたら、きっと、どんな恐持ての男だって…思わず顔が緩んじまうぜ。
…あかねの笑顔を見ているうちに、俺はふとそう思った。
あかねの笑顔は。
きっと、どんな恐持ての男でも、
どんな心を閉ざした奴でも、
どんな屈強な体格の野郎でも、
即座にノックアウトしちまうような…そんな力がある気がする。
俺だって、無差別格闘早乙女流の二代目。
そん所そこらの奴らには絶対に負けねえような、拳法の使い手。
今までだって、
戦う相手はどんな事をしてでも勝って来た。
…でも。
こうやって改めて見せられるあかねのあの笑顔には、
さすがの俺も敵わない気がする。
どんな恐持ての男も、
どんな屈強な体格の持ち主でも、
そして、俺のような最強の拳法の使い手でも。
あかねの笑顔は、きっとそんな俺たちを一撃でノックアウトする。
…こんな事考えるの、もしかしたら、あかねに惚れた、弱みかな?
俺がそんな事考えていると、
「危ない!」
…ふとそんな声がして、空気を切る音が俺の耳に飛び込んできた。
「え?」
ぼんやりしてた俺がふと顔を上げると、
バコ!
…顔を上げた瞬間、俺の顔面にはソフトボールが思いっきりめり込んでいた。
「ぐえッ…」
俺が思わず地面に崩れ落ちると、
「乱馬!大丈夫!?ごめんねー…」
…グランドの向こうから、あかねがそんな事を言いながら走ってきた。
どうやら、俺の顔面にめり込んだのはあかねの打った打球のようだ。
「乱馬ー、大丈夫?避けてくれても良かったのにー」
…そう言いながらばつが悪そうに笑うあかね。
あかねの笑顔でノックアウト、
そして更に、あかねの打球でもノックアウト。
どうやら俺は、色んな意味であかねにはかなわない、ようだ。