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→同音異義語 5

「ばかばかっ。乱馬のばかっ」
「うるせーなっ。仕方ねえだろっ」


…ある日の朝。
ロードワークから帰ってきて、朝ごはんも食べ。
いつものごとく学校へ登校するさなかに、俺と、そして不機嫌に喚いているあかねは、いつものフェンス沿いの道を歩きながら言い争いをしていた。
その原因はいたって単純なもの。
朝ロードワークに行く際、あかねは俺と一緒に出たい…と昨日の晩から言っていたのだが、
俺はそれを知っていながらも一人で先に出てしまった。それが原因だ。
あかねにしてみれば、走るペースが早い俺についていくことができれば自分の運動になる。それに体力もUPするだろう…きっとそう思ってのことなのだ ろうが、
俺にしてみればあかねが一緒だと、気になって気になって、ロードワークどころの話では無い。
そりゃあ、ロードワークはトレーニングの一貫。それに格闘家、という志が一緒なあかねと走っても全然問題はないと思う。
だけど。それはあくまで「表向き」な事であって、
いざ一緒にロードワークへと出ても、気になることが山ほど出てくるのだ。
第一、一生懸命に俺の横に並んで走られると、
「…」
何だか最近、嬉しい事に大きくなってきた胸の揺れが気になる。
逆に前を走られると、微妙に揺れながら走るその後ろ姿に見とれる。
じゃあ後ろを走らせれば…とは思うも、後ろは後ろで、危ない目にあっていないかと妙に気になる。
…つまり、あかねと一緒に走ると俺の修行にならないのだ。
だから、昨日の晩も、いやその前からもずっと「一緒に行こう」と言われていても、俺はなんだかんだいって断っていた。
あかねはそれが気に食わないらしく、ついに今日、こうして爆発してしまったようだ。

「なんでよっ。何でいつも、乱馬は勝手なのっ」
俺のそんな思いを知らないあかねは、
道の真ん中、しかも登校や通学途中の人がたくさんいるにも関わらず、大きな声で俺にそう叫んでいる。
「そんなの、仕方ねえだろ」
「仕方ないって何よっ」
…普段の喧嘩なら、
「はいはい、俺が悪かったよ」
俺があかねの怒りをそうやって受け流してやれるも、
「仕方ねえもんは仕方ねえだろ」
今回のこればっかりは、さすがの俺も譲れない。それこそホントに仕方が無いのだけれど、俺は喧嘩をしながら頭を悩ませていた。
しかし。
「何よ、乱馬のバカっ」
…俺の気持ちを理解する事が出来ずに、怒りつづけるあかね。
そんなあかねの吐き出す言葉に俺は徐々に、更に深刻な状況に陥れられ頭を悩ます事になる。
そう、それは…



「なによ!乱馬のばかっ。!」
「うるせーなっ」
「何でいつも、一人で勝手にいッちゃうの!?なんであたしと一緒にいッてくれないのよっ」
「…」
「いつも自分ひとりだけ早くいッて!それで気持ちよく汗かいてっ」
「あ、あかね、あの…あのな?」
「乱馬には、いつも一緒にいけないあたしの気持ちなんて全然分からないんだっ。最低!」
…あかねは、そんなことを叫びながらふくれっつらをしている。
そうやって叫ぶあかねの言葉に、俺は思わずごくり、と息を呑む。
と、その内。
そんな俺に対し、周りを歩いていた人々が、
「…まー。若いのにねえ」
「自分勝手らしわよ」
だの、
「一人で先にいッちまうらしいぞ」
「きっと早いのよ」
…だの、
「我慢できない気持ちは分からなくもないよなあ。あの彼女じゃなあ」
と、妙に同情的、かつ白い目で俺を見ているのを感じ取れた。
「…」
喧嘩をしている姿を見られているうんぬんではなく、俺は、別の意味で人々の視線が痛い。
「お、おいあかね。その、もうちょっと声…」
あらぬ誤解を受けたくなく、俺が叫ぶあかねを必至に宥めようとするも、
「何よっ。乱馬が一人でいッちゃうからいけないんでしょっ。あたしも明日からは一緒にいくのっ。乱馬と一緒にいきたいのーっ」
「こらー!だからおめーは、何でそう…」
「あたしは悪くないもんっ。自分勝手に一人でいッちゃう乱馬が悪いんだもんっ」
「だ、だからな?あかね。あ、あのな?」
「約束してっ。明日からはあたしと一緒にいくって約束して!ね?!ね!?」
あかねは更にそう叫びながら、がしっと俺の腕にしがみついてくる。
俺はそんなあかねに対し、思わず顔を真っ赤にしながら、
「そ、そうだな」
と、とうとう折れてしまった。
「嬉しいっ。ほら、周りの皆もちゃんと聞いてるからねっ。皆の前で乱馬は公言したんだからねっ。約束よっ」
あかねはそんな俺に対して、素直にそんなことを叫びながら笑顔を見せるが、
「まー、明日からは一緒にいけるみたいよ」
「すぐには治らないんじゃないの?ああいうのって」
…だの。
笑顔のあかねは気がつかないのかもしれないが、俺は俺に対する周りの視線が痛くて痛くて仕方がない。
なので、とうとう耐え切れなくなった俺は、
「…ちょっと来い」
「え?な、な」
「いいからっ」
…と、あかねを近くの路地裏へと引っ張っていった。そして、
「いいか?あかね。道端で叫ぶのはいいんだけど、その…」
「?」
「ま、まわりの目がな?その、あってだ」
「目?」
「そう。だから…周りの奴らが俺達の話を聞いていたのは、だな…」
と、どうして俺がまわりの目を気にしていたか、とか、周りの奴らが必要以上に俺達の喧嘩をじっと見ていたかを親切丁寧に説明した所、
「いやー!この変態!エッチ!スケベ!」
「なんでだよっ。べ、別に俺はっ…。あ、何なら俺、みんなに弁解してやってもいいぞ?いつもは大体、あかねの方が…」
「乱馬のばかー!もう一緒に寝てあげないんだから!」
ドカっ…
俺は、立ち上がれなくなるまであかねに殴り倒され、そして挙げ句の果てには、
「ロードワークには一緒に行くけどっ…しばらくあたしには触らせないからねっ」
「な、なんでー!」
「何でもよっ。乱馬のばかばかばか!」
…と、とばっちり宜しく、俺はそんな残酷なお達しまで受けるはめになってしまったのだった。



一緒にいきたいの…その言葉を連呼したのは、あかね、お前じゃねえのかよ?


これって俺が、悪いのか?
同音異義語、言葉が織成す哀しいマジック。

 

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