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愛玩修行(前編)
毎晩夜這いにきては、あたしの体力を根こそぎ消耗させていく乱馬が、早乙女のおじ様に半ば強引に連れられて修行に出たのはニ週間前のことだった。
普段は怠け者のおじ様も、一年に数日くらいは「格闘術鍛練」に目覚めるらしい。
「ここ数日、寒い日が続きます」
毎日の様にTVのニュース番組がそう流していた事を受け、「寒い日は一緒に寝ないと・・・」と、あたしの返事を聞かずに一人楽しみにしていたらしい乱馬は、
「このクソ親父!何が修行だ!いっつも怠けてばっかりのクセに!」
「情けないぞ、乱馬!無差別格闘を精進する者、思いつきと腰の軽さは必要不可欠!」
「バカやロー!世間ではそれを『行き当たりばったり』って言うんだよ!」
・・・と、おじ様が修行に出ようとしている事に対してかなり抵抗していたけれど、
「乱馬、お父さんが修行に行こうって言ってるんだから、付き合ってあげたら?」
おじ様はともかく、おば様にそういわれてしまっては、乱馬も我侭を通すわけには行かないみたいで、
「さ、乱馬。存分に修行するぞ」
「・・・」
結局は、おじ様と一緒に修行に出ることになった。
それでも、
「・・・もう。おじ様、外で待ってるでしょ」
「だってよー・・・」
「せっかくおじ様がやる気なんだから、気持ちよく付き合ってあげなさいよ。ね?」
「じゃあ、帰ってきたら毎日一緒に寝るからな」
「何で毎日なのよ」
「一緒に風呂にも入るんだからな」
「何でお風呂も出てくるの」
「うー・・・いいじゃねえかよ、それくらいっ。それを楽しみにして俺は頑張るんだぞっ」
「楽しみにしなくても頑張りなさいよ。もー」
さんざんあたしに駄々をこねた乱馬は、玄関を出る最後の最後まで、家族に隠れてポケットの中で、あたしの手を握っていた。
ここまでされると、何だか少し可哀想になってくるけれど、
でも、修行にいくこと自体は全然悪い事では無いし、それにあたしもたまには体力を温存させる期間を作らないと・・・と、ここは乱馬に涙をのんで、修行に行ってもらう事にしたのだった。
でも。
「・・・」
乱馬達が修行に出かけたのは、あたし達が住んでいる町から電車で何駅か離れた、人里離れた山の中。完全に街の賑わいなんて忘れ去られた場所
だ。
勿論そんな場所には、電話など、ない。
修行に行っている間は乱馬とも連絡は取れず、ただ無事を祈るしかないのだ。
声を聞けない事は寂しいけれど、でも初めはあたしも、
「これで毎晩、ゆっくりのんびり眠る事が出来る」
・・・なんて、割と悠長に構えていた。
だけど・・・声を聞けないという聴覚的なことや、姿を見ないという視覚的なことよりも、もっともっと別の事で、「乱馬」の存在の大きさを、あたしは妙に感じ
ていた。
例えば、二人のときじゃ明らかに狭いシングルベッドが、一人になると何だか妙に広く感じてならなかった。
昔はここに一人で寝ていて、「セミダブルくらいがゆったりと眠れるのに・・・」なんて考えていたのに、どんなに寝返りを打っても転がっても、今のあたしに
は自分のシングルベッドが広くて広くて仕方がない。
「もー、狭いなあっ」
「だったらもっとくっつけばいいだろ」
「くっついたって狭いもんは狭いでしょ」
「だったら重なればいいだろ」
「何でベッドの中で上下に重ならなくちゃいけないのよ。あたし、重いの嫌よ」
「じゃあ上に乗ればいいだろ。俺は大歓迎だ」
「・・・」
我侭言いたい放題の乱馬にいつも苦労させられ、何だかんだいっては、乱馬の腕の中で小さくなって眠っていた、あたし。
それが、久し振りに手足を自由に伸ばして蒲団に横になるだけで、何だか妙な虚無感というか孤独感に襲われる。
ベッドの中って、こんなに寒かったっけ?・・・そんな事さえ、思う程。
ふんわりと洗剤のいい香りがするシーツに顔を埋め、そっと目を閉じてみる。
・・・何だか、違う。
シーツに顔を埋めても、枕に頬を寄せても、何だかいつもとやっぱり、違う。
「・・・」
普段は、あんなに暑苦しいとか、邪魔とか狭いとか言いたい放題だったのに、
ようやく身体が休まる、なんて暢気に思っていたのに、
いざあの温もりや存在がなくなって見ると・・・何だか猛烈に寂しさを感じる。
「・・・」
いつしか、
早く、帰ってこないかな・・・。そんな風にあたしの方が根を上げてみたりして。
何だか、今までじゃ考えられないような展開だ。
そういえば、いつ帰って来るかなんて言っていなかったな・・・あたしは、いつしかそんな事を思いながら、乱馬の帰りを待つようになっていた。
そんな中、
「あかね、すぐに支度をしなさい」
「え?何の?」
「お父さん、今から早乙女君達の修行場に行こうと思ってるんだ。あかねも行きたいだろ?」
「えっ・・・う、うん・・・」
乱馬達が修行出てからニ週間後の、とある土曜日の午後。
朝ご飯を食べ終わり、あたしが居間から出て行こうとしたそのときに、不意にお父さんがそう声をかけてきたのだった。
「お父さん、おじ様に急用なの?」
お父さんがおじ様達の修行場に出向くなんて、よっぽどの事がない限りありえないこと。
一緒に連れて行ってもらえる事は嬉しいけれど、あたしは不思議に思って尋ねてみた。
けれど、
「うん、まあちょっとね。とにかく、すぐに支度をして。三十分後に出発するからね」
「う、うん・・・」
お父さんは何だかはっきりしない様子で、出向く理由をあたしにはちゃんと話してくれなかった。
しかも、ただ修行場に出向くだけなのに、お父さんが準備しているリュックは妙に膨らんでいた。
おば様から、荷物や差し入れでも預かったのだろうか?
「・・・」
・・・何か、おかしい。あたしの中で、そんな思いが湧きあがる。
でも、乱馬に逢えるのだから文句ばかりは言えない。
「あかね、行こうか」
「うん・・・」
それから、三十分後。あたしは、なにやら荷物で膨らんでいるリュックを背負って楽しそうなお父さんと供に、家を出発した。
乱馬達が修行をしている山は、あたし達が住んでいる町から電車で、一時間ほど移動した場所にある。
電車を最寄駅で降り、そこからハイキング用登山コースをしばらく登り、途中の分岐点で、ハイキングコースからわき道へとそれる。
山奥にひっそりと存在する湖の周りを沿って歩きしばらく行った所に、ちょうど洞窟のような、雨風が凌げるスポットが存在する・・・そこが、今回の乱馬達
の修行場だ。
以前にもこの場所で修行をしていた・・・と、乱馬や玄馬がお父さんに話していたようで、お父さんは道に迷うことなくあたしをつれてその場所へとたどり着
いた。
「『あれ?天道君。どうしたの?』」
修行場に着いたあたし達を迎えたのは、見慣れたパンダ姿でごろごろと横になっていた早乙女のおじ様だった。
「早乙女君、乱馬くんは?」
「『いるよ。』」
おじ様は、むくっと起き上がりあたし達にそう答えた。そして、
「なんだよ、クソ親父!俺はさっきまでのトレーニングで疲れて・・・!」
「『天道君とあかね君が来てるよ。』」
「え?」
そう言って、乱馬を洞窟の奥に貼ってあるテントの中から引きずり出してきた。
「・・・」
まさか、あたしがいきなりたずねてくるとは思わなかったのだろう。
乱馬は、驚いたような表情をしてあたしとお父さんにお辞儀をした後、おじ様の隣に胡座をかいて座り込んだ。
二週間ぶりに逢った乱馬は、パンダのおじ様とは違って、少し身体が締まって痩せたような印象があった。
連れ出したのおじ様でも、実際に修行に出れば一生懸命に修行をするのは乱馬だけ。
きっと、この二週間たくさん修行したんだろうなあ・・・あたしがそう思って、おじ様の隣に座り込んだ乱馬に目線を投げると、
「・・・」
・・・あれ?
乱馬は、なぜかあたしと一瞬あったその目線を、逸らした。
「・・・」
何で、目をそらしたんだろう。あたしの気のせい?
不思議に思ったあたしがもう一度目線を乱馬に向けるも、やっぱり乱馬はあたしから目をそらした。
「・・・乱馬、修行頑張ってる?」
目をそらされたことがショックで、あたしは何故か焦れた。
だけどせっかくこうやって尋ねてきたんだから何か会話でも。
出かける前はあんなにあたしと離れたくなさそうだった乱馬。きっと、話をすれば乱馬だって喜んでくれるかも・・・あたしはそう思って、すでにあたし達そっ
ちのけで話し込んでいるお父さんやおじ様を横目に、向かい側に座っている乱馬に話し掛けてみた。
けれど、
「ああ、まあ・・・」
「そ、そう・・・」
「・・・」
「・・・」
あたしと乱馬の二週間ぶりの会話、そこで終了。
何だか、話が続かない。
「乱馬、ちゃんと食べてる・・・?」
「ああ」
「そうなんだ・・・」
「・・・」
「・・・」
他の話題を振ろうにも、乱馬は二言三言あたしに答えて、それでお終い。
全くと言って良いほど、会話のキャッチボールが出来ていない、あたし達。
乱馬はあたしと話していても、何だかすぐに目線を逸らすし、足元に落ちている木の枝をパキパキと手持ち無沙汰に折っては捨てて・・・の繰り返し。
まるで、あたしとの会話はつまらない、とでも言っているかのように。
「・・・」
せっかく、乱馬に二週間ぶりに逢えると思ってこうしてやってきても、そんな態度を取られてはまったく面白くない。
・・・もっと喜んでくれると思ったのに。
何だか、肩透かしを食らったかのような感じだった。
この二週間、どんな修行をしていたんだろうとか、あたしがどんな風に毎晩眠っていたのとか・・・たくさんたくさん、話をしたかった。
乱馬が、またいつもみたいにあたしの話を聞いて笑ってくれるんじゃないかって、そう思っていたのに・・・何だか、期待していた分その反動が大きくて、あ
たしはショックを隠せない。
「・・・」
何か、話してよ・・・。
そんな願いと希望を込めて、あたしがもう一度乱馬へ目を向けるも、
「・・・」
乱馬はそんなあたしからまた、目をそらした。
「・・・」
あたしは、そんな乱馬の態度に腹が立つよりも虚しくなった。
「寂しいな」・・・そんな事を考えて夜を過ごして来た自分が、何だか急に恥かしくなる。
逢える喜びを胸に、こうしてノコノコと修行場にやって来たあたしは・・・何だか一人で舞い上がって、バカみたいじゃない・・・。
「・・・」
そんな思いが、胸の中でひしめき合う。
「おやあかね、どこにいくんだい?」
「顔、洗ってくる…」
・・・だから。
そうやって一人舞い上がっていた恥かしい自分の頭を冷やすべく、あたしはノロノロと立ち上がった。
そして、楽しそうに話しているお父さんと早乙女のおじ様の横をすり抜けて、
「水場は、さっきの湖?」
「『そう』」
ここへ来る時に通り過ぎてきた湖まで、歩いていく事にした。
このままこの場所で乱馬と向かい合っていても、何の会話もないまま終わってしまいそうな気がした。
向かい合っているのに、こんなに近くにいるのに。
ろくに話も出来ずに落ち込んでいるだけなんて・・・何だか寂しい。
しかも、寂しいと思っているのが自分だけだというのが更に、寂しくて虚しくて、情けなくて仕方がない。
「・・・」
来ない方が、良かったのかな。そんな事さえ、思ってしまう。
「・・・あーあ」
自然と、口から大きなため息が出た。このため息は、思った以上に乱馬がそっけなかった事への絶望なのか、それとも一人舞い上がっていた自分への
呆れなのか。それは良くわからない。
あたしは、ポケットからハンドタオルを取り出しゆっくりと湖へと歩きだした。
歩いてきた道を少し戻り、少し草の丈が高い砂利道へと反れると、湖のほとりまで近づく事が出来る。
あたしはゆっくりとバランスを取りながらその道を進み、湖のほとりへと、立った。
山の奥にある湖だ。しかも、季節は初冬。
夏ならばともかく、一体誰が、こんな湖で遊ぼうとするものか。
シャッターの締め切った貸しボート小屋の錆びた看板や、「夏季のみ営業」の文字が寂しげな店など、水際の寂れた景色が何だか余計に虚しさを増して
いた。
ザっ・・・ザっ・・・
湖の水が打ち寄せられる水際。あたしはゆっくりと歩を進めていた。
ザザー・・・ザザー・・・と、一定のリズムで冷たい水が、ジャリに打ち上げてくる。
森林に囲まれた湖は、水が打ち寄せられるたびに、木の香りを運んでくる。
ヒンヤリとした空気が、水際をゆっくりと歩くあたしの頬を撫でていった。
あたしは水際をそのままぐるりと歩いていき、閉められた店の横、錆びたベンチが置いてある場所へと腰をかけた。
そして、そこに同じく設置してある広めの木のテーブルへと身を伏せ、再び大きなため息をつく。
「顔を洗う」なんて言って皆の所を離れてきたけれど、素直に顔を洗う気力さえ起きてこない。
むしろ、顔を洗う気など全くないのだ。ただあの場から逃出したかった。それだけだった。
乱馬と話をできないだけでこんなに落ち込むなんて・・・自分の事なのに、何だかあたしは妙な感じだった。
「・・・」
・・・へんなの。
あたし、あれだけ乱馬に対して嫌がったり疎んだりしていたのに、
実際にこうやって相手にされないと、こんな風に落ち込んだりして・・・これじゃあまるで、あたしばっかり乱馬を必要としているみたいで、何だか寂しい。
目をそらされた瞬間、会話が終わった瞬間、あまりのそっけなさに驚いたあの時の気持ちが、ふと過った。
二週間前はあんなに、あたしと離れたがらなかったくせに。それを思うと、更に寂しさが胸をこみ上げる。
「・・・」
乱馬、修行に忙しくて、あたしの事なんかどうでもよくなっちゃったのかな・・・。
「・・・」
付き合い始めるまでは、修行であえなくても話をする機会がなくなっても、こんな風には寂しくならなかったのに・・・恋をすると、人間てこんなに変るんだ。
胸に込み上げる寂しさをずっしりと受け止めながら、あたしはもう一度大きなため息をついた。
・・・と、その時だった。
ザっ・・・
あたしが座っているベンチのすぐ近くで、一面に敷き詰められているジャリが動く音がした。
「・・・」
湖なのに、いわゆる一つの「アヒル型貸しボート」の類も浮いていないような、人気のない湖だ。
それなのに、観光客・・・?と、あたしがゆっくりと伏せていた顔を上げると、
「あ・・・」
そこに立っていたのは、乱馬だ。乱馬は、何だか困ったような表情をしながら、あたしのすぐ近くまで歩みよってきた。
でも、歩み寄っては来たものの、あたしに対して何かを言うわけでは無い。
乱馬は、あたしのすぐ近くまで歩いてきて立ち止まると、何も言わずじっと、あたしを見ていた。
「・・・」
・・・何しに来たのよ。
思わずそう言ってやろうとしたあたしだったけれど、とりあえずその台詞は飲みこむ。
あたしは、近寄ってきた乱馬から先程自分がされたように目をそらし、そのまま、ふて腐れたような表情で目の前のテーブルに突っ伏していた。
ザっ・・・
乱馬は、そんなあたしの元へと又一歩、側へと歩み寄った。
そして、
「あかね・・・」
さっきはあたしの名前なんて呼ぼうともしなかったくせに、あたしのすぐ側までやって来た乱馬は、不意に、あたしの名を呼んだ。
「・・・」
でも。
何よ、今更・・・と、さっきの事を引きずるあたしは、テーブルに身体を突っ伏したままでそっぽを向く。
「あかね・・・」
そんなあたしに、乱馬はもう一度呼びかけてきた。が、乱馬はそれ以上は何も言おうとはしない。
「・・・」
あたしはむくっとテーブルから身体を起こすと、今度は乱馬に背を向けるようにベンチに座る。
・・・あたしが顔を洗いに行くといったまま帰ってこないので、お父さんに探しに行くようにとでも言われたんだろうか。
仕方なしに来たゆえに、あたしを呼ぶ以外に声を出そうとしないのか。
乱馬がここへやって来た理由が、どうしてもそんな理由のように思えて・・・あたしの胸の中の寂しさが、またぐっと増して来る。
・・・
「・・・すぐに戻るから、戻ってていいわよ。一人で戻れるから、あたし」
あたしは、乱馬に背を向けたままボソッとそう呟いた。
が、乱馬は戻る気配がない。ジャリが動く音がしなかった。
「顔洗ったら、戻るからっ」
あたしは、もう一度背を向けたまま、そう叫んだ。
「・・・」
乱馬は、そんなあたしに対してそれ以上は何も声をかけては来ない。ジャリ・・・その代り、足元のジャリが動く音がした。どうやら、言われたとおりお父さ
ん達の元へと戻ろうとしているのだろう。
「・・・」
何よ、乱馬のバカ。
あたしは、去っていこうとしている乱馬に対し、そちらを向かないままため息をついていた。
が。
「あかね」
・・・次の瞬間、遠ざかっているはずの乱馬の声が、不意にあたしの背後でした。
ジャリ、という足元のジャリが動く音が、遠ざかるどころかすぐ近く・・・あたしの真後ろ、ううん、あたしが腰掛けているベンチのすぐ下でしたような気がし
た。
え?
あまりにもその声が、音が近くて驚いたあたしが振り返ると、
「・・・逢いたかった」
「え?」
「逢いたかった、あかね」
その振り向きざま、側に立っていたはずの乱馬の身体が、あたしの身体に折り重なってきた。
不意に、息苦しいくらいの強い力で、あたしは乱馬に背後から抱き締められる。
「ちょ、ちょっと!?」
さっきは、話し掛けても何も答えなかったくせにっ・・・と、やはり先程の事が心に引っ掛かるあたしが、慌てて自分の身体に不意に回された腕から逃げよ
うとするも、
「だって・・・あんな所で、こんな事・・・」
「・・・」
「おじさんや親父の前で、あかねにこんな事、出来ねえじゃねーか」
乱馬はそう言って、「逃がさない」とばかりにぎゅっと、あたしの身体に回している腕に更に力を込める。
そして、
「逢いたかった・・・二週間、ずっと俺・・・」
乱馬はあたしの身体を抱き締めたまま、小さな声でそう呟いてあたしの首筋に顔を埋める。
ゾクっ・・・
その瞬間、身体中を、まるで電気が走り抜けるような感覚があたしを包んだ。
柔らかい唇が、あたしの剥き出しになっている首筋へと押し付けられる。
「や、やだっ・・・」
・・・先程感じた孤独感なんて、一瞬で吹き消されるような熱い抱擁。
でも、やはり先程目をそらされたことやそっけなくされた事が何だか許せなくて、あたしは素直に乱馬に自分の身体を預けようとしなかった。
すると、乱馬はそんなあたしの首筋に先程よりも強く、唇を押さえつけた。
それに加え、まるで吸い付くかのように・・・唇を押さえつけた部分へと舌も、這わせる。
まるで、あたしが感じた孤独感を全て吸い尽くしてしまうかのような感じだ。
「ひゃっ・・・」
ゾワっ・・・生暖かくザラリとした感触に、あたしは身を竦ませた。
「・・・怒ってるのか?さっきのこと」
ゾワっと身を竦ませたあたしの身体を抱き締めながら、乱馬が耳元でそう囁いた。
「だって・・・」
せっかく乱馬と逢って話せるって楽しみにしてたのに・・・あたしが先程感じた寂しさを素直に口にすると、
「話始めたら、我慢できなくなる」
「え?」
「俺だってずっと・・・ずっと逢いたかったのに。ずっと我慢してて、それを必死で堪えてたのに。
そんな状態で、中途半端にあかねと接したら俺・・・」
乱馬はそう言って、あたしの首筋に這わせている舌を、ゆっくりと動かしていく。
「やっ・・・乱馬っ・・・」
熱い。
あたしが更に身を竦ませると、乱馬はその竦んだ身体を更に強く抱きしめた。
そして、舌と共に動かしていた唇を、あたしの唇のすぐ近くまで持ってくると、
「・・・もう、家に帰るまでなんて我慢できねえよ」
「ら、乱馬っ・・・」
「・・・逢いたかった。逢えるなんて思ってなかったから・・・」
乱馬は小さな声でそう呟いて、そのままあたしの唇に自分の唇をぎゅっと、押し付けた。
「んっ・・・」
不意に唇を塞がれて、あたしが慌ててそれを跳ね除けようとすると、
乱馬はあたしが離れないように・・・と、先程まで首筋に這わせていた舌を、強引に唇の中に押し入れてきた。
「んっ・・・あっ・・・」
チュっ・・・チュっ・・・と何度も吸い付いては離れる唇と、少し長い間押し付けられた唇の間で激しく絡み合う舌の音が、はっきりとあたしの耳の中に飛び込
んできた。
湖の、水際だ。本来ならば寄せては返す水の音で満たされているその空間は、今はあたしと乱馬の苦しげな呼吸と、絡み合う舌の音で満ちている。
初めは乱馬に対して背を向け、顔だけ乱馬のほうを向いていたあたしだったけれど、
いつの間にかベンチに腰掛ける乱馬と向かい合うように座っていた。
乱馬は、あたしの身体を片手で支えながら、向き合うあたしの身体をグッと抱き寄せる。
あたしはいつの間にか、乱馬の膝の上に乗せられてキスをしている状態になった。
「・・・長えよなあ・・・二週間」
・・・あたしに自分の首へと腕を回させて、乱馬はキスの合間にそんなことを呟いた。
小さく乱馬がぼやくたびに、少しだけ離れているあたしの唇へと乱馬の唇が触れる。
「・・・あたしの事なんか忘れちゃったのかと思った」
乱馬の首に抱きつきながら、あたしは自分が先程抱いていた妙な孤独感を再び口にすると、
「忘れるわけねえだろ」
乱馬はそう言って、自分の首に抱きついているあたしの頭を優しく撫でた。
「うそ」
あたしが、頬を膨らましながら少しふて腐れた声を出すと、
「嘘じゃないよ。俺、あかねの事ばっかり考えてた。・・・約束、楽しみにして」
乱馬はそう言って、あたしの耳元へと唇を付けた。
そして、
「・・・帰って一緒に寝たら、どんなことしようかな、とか」
そんな事言いながら、抱きついているあたしのセーターの中へとするっと腕を滑り込ませた。
「きゃっ・・・」
山奥で寂れていて、人気は無いとは言えどもここは外だ。
いつ何があるかも分らないし、それこそ、誰が来るかも分らない。
油断していたとはいえ、家の中ならともかくのこの行動にあたしが戸惑っていると、
「さっき言っただろ?」
「言ったって?」
「・・・もう、我慢できないって」
「!」
乱馬は、まるで聞き分けのない子供のような口調でそんな事を呟き、あたしの唇に軽くキスをした。
そして、セーターの中で少し汗ばみ火照っているあたしの身体を、ゆっくりと撫で始めた。
「乱馬っ・・・こんなところじゃダメだってばっ・・・」
あたしが慌ててその手をセーターから抜き取ろうとするも、
「じゃあ、どこならいいの?」
乱馬はそう言って、全くその手を止める様子を見せない。
それどころか、乱馬の手はゆっくりと、あたしの肌を上へ、上へと滑っていく。
そして、すぐに下着で覆い隠されている部分にまで到達すると、布の上から、その柔らかで緩やかな形を描いている部分を撫で始めた。
少しづつ少しづつ・・・手のひらで押しては弾力を楽しんだり。そうかと思えば、すこしづつ形がはっきりとし始めた先端部分だけを指で撫でたり。
指で周りをなぞるようにしたかと思えば、不意にくっと・・・爪を立てるかのように軽く、刺激を与える。
「あっ・・・やっ・・・」
乱馬の手は、あたしの手よりも勿論大きくて、そしてごつごつしている。
それなのに、二週間前までも、今も・・・あたしの身体に触れるときは恐ろしいくらい優しい。
しかも、どんな事をすればあたしが吐息を洩らしたり、そして身体を震わせるのか・・・乱馬は知っているのだ。
知っていてわざと、そういう悪戯をする。
「あ・・・ん」
こんな場所では嫌だと思う気持ちとはウラハラに、あたしの口からは吐息だけが洩れていく。
ゾクゾクと湧き上がってくる不思議な感覚に、あたしはビクン、ビクンと、何度も身体を震わせた。
乱馬はそんなあたしの様子をじいっと見入りながら、ごくん、と唾を飲み込んでいた。
もちろん、手や指はそのままあたしの身体へと滑らせながらだけれど。
・・・
「・・・」
あたしの身体を自由に這う乱馬の大きな手は、下着の上からその下に隠れている白い肌をまるで飛び出させるが如く、ゆっくりとしたリズムで収縮運動
を繰り返している。
形が徐々にくっきりとしてきた胸の先端部分に、時折親指を引っ掛けるようにしてわざと刺激を与えたり・・・そうかと思えば、その部分だけを執拗に撫で
まわしたり。
「あっ・・・んっ・・・」
・・・乱馬は、あたしがそうして時折声を洩らすのが楽しいのか、そのくせその声を防いでしまうが如くわざと、舌を絡めるようなキスをする。
いつも以上の執拗な身体の愛撫のされ方と、そして強引だけれど決して嫌では無い優しいキスに、あたしは何だか身体中の力を吸い取られてしまった
かのようだ。
頭の中がぼわーっとして、徐々にぼやけてくる。。
さっきまであんなに乱馬に対して腹を立てたり寂しく思ったりしていたのに・・・そんな事、どこか遠い場所へと押しやってしまったかのように、今は何も考え
られない。
・・・
「ん・・・」
あたしが少し乱れ始めた呼吸を整えようと、乱馬の首筋にぎゅっと抱きついていると、
「・・・」
乱馬は大きく息を吐き出しながら、きゅっと・・・胸の先端部分を指でつまんだ。
「やあっ・・・」
布越しとはいえ、既に敏感になっている部分をそんな風に触れられたら全身を、頭の先から足のつめの先まで電気のような感覚が走り抜ける。あたしが
ぎゅっと更に強く乱馬の首筋に抱きつくと、
「・・・嫌?嘘つきだな、あかねは」
乱馬はそんなあたしの声を殺させるが如く、まるで悪戯して喜んでいる子どものような意地悪い顔で笑うと、吐息を洩らすあたしの口を、再び自分の唇で
塞いでしまった。
唇の合間から強引に押し入れられる舌は、かろうじて残されているあたしの理性と抵抗力を殺いでいく。
「・・・まだ嫌なの?」
虚ろな表情でぼーっと唇を奪われているあたしに、乱馬がそんな事を囁いた。
でも。
理性と抵抗力をそがれたあたしの身体は、その問に対してもう、首を左右に振ることしか出来なくなっていた。
唇があたしを支配する。頭の中を全て真っ白にされて、怒りも寂しさもみんなみんな、どこかへ持ちされれてしまった。
「嫌じゃない・・・」
あたしがかたかたと震える小さな声でそう呟くと、乱馬はそんなあたしにゆっくりと長い、キスをした。
乱馬は、キスして離れたあたしの頬に、そっと何度か頬擦りをすると、
「・・・じゃあ、これ取っちゃおうか」
その内・・・そう言いながら、それまで触れていた胸を覆いかぶしていた下着を、セーターの中でぐっと、上に捲りあげた。
勿論そんな事をされれば、セーターの中でそれまで覆い隠されていた胸は、遮る物を無くしてぶるん、と揺れてこぼれ出る。
乱馬は、そのセーターを完全に露わになる位置まで捲りあげると、外にこぼれだし微かに揺れているその胸に直接、唇で触れ始めた。
「あんっ・・・」
ザラッとした感触と、フワリとした柔らかい感覚。強弱の感触が、ぼわーっ・・・とあたしの上半身へと走りぬける。
まるで唇でついばまれるようなその仕草に、あたしは身体を震わせて翻弄されていた。あたしの胸に顔を埋めては舌を這わせる乱馬の頭を、あたしはぎ
ゅうっと強く抱きしめて身を捩らせる。
乱馬は、あたしの身体から離れまいと軽くテーブルに押さえつけながらずっとその行為を続けている。
身を捩じらせ、この身体中を走り抜ける熱い感覚に耐えるあたしの肌に、乱馬の結っているおさげが触れて揺れていた。
そのフンワリとしたくすぐったい感覚が、更にあたしの身体を熱くさせる。
「あっ・・・いやあっ・・・」
・・・二週間ぶりに愛されるこの身体が、全く言う事を聞いてくれない。
あたしの身体は、乱馬に倒されるがままに側のテーブルの上へと横たえられる。
乱馬は、テーブルに完全にあたしを横たえらせると、完全にあたしから身に纏っているセーターを剥ぎ取ってしまった。
初冬の、湖からの冷たい風が、あたしの露わになった肌を撫でていく。
「・・・恥かしい」
でも。今のあたしには、寒さよりも「恥かしさ」の方が強い。
あたしは、露わになってしまった胸を隠すように両腕を自分の身体の前でクロスさせ身を守る。
が、
「・・・それじゃ見えない」
乱馬は、恥かしそうに胸を隠していたあたしのその両腕をくっと掴むと、なんなく片手で、その両手首を握り締めた。
そして、握った両手首をテーブルへとくいっと押さえつけ、まるで自由を奪うかのように、再び素肌を露わにさせたあたしの身体を、上からじっと見つめて
いる。
「・・・」
じっと見られていると思うと、どうしても恥かしさが増して乱馬の顔が見れない。
しかも、いつも家にいる時のように、夜・部屋の電気を消して・・・というわけでは無い。
昼間、しかも屋外で。全てを彼に見つめられていると思うと尚更恥かしさがつのった。
あたしがきゅっと目を閉じていると、
「・・・」
不意に乱馬が、そんなあたしの身体に腕を伸ばし、そのまま背中へと腕を通したかと思うと、
ヒョイっ・・・
テーブルに横たえていたあたしのその身体を、軽々と抱きかかえた。
「え・・・ら、乱馬?」
突然自由になった手であたしは自分の胸を隠しながら、あたしの身体を抱きかかえた乱馬に問うと、
「・・・あっち」
「え?」
「あそこ、行こう」
乱馬は、あたしを抱きかかえたままそう言って、歩きだした。
乱馬が歩きだした方向の先には、冬場は使われていない「夏季のみ営業」の飲食店・・・そう、現在は無人の建物が建っていた。
・・・
