「あ、この飴おいしー…」
…たまたま友だちのさゆりから貰った飴を口入れたあたしは、その予想以上の甘さというかフルーティな味わいに思わずそんな声を洩らした。
「俺にもくれよ」
そんなあたしの声を聞いて、夕飯前でお腹を空かせた乱馬があたしに手を伸ばしてくるも、
「もう食べちゃったわよ」
「ちぇえッじゃあしょうがねーなあ」
飴は元々一個しかなかったし、あたしがそれを口に含んでいる以上、もう乱馬はその飴を食べる事は出来ない。
「ごめんねー」
あたしが手を合わせると、
「あーあ、喰いたかったなあ」
乱馬が妙に残念そうに呟く。
「…」
その顔があんまりにもしょげて見えたので、
「しょうがないわねー、じゃあ、ほらッ。おひとついかが?香りだけでも」
あたしはそんな乱馬に、はあッ…と飴を舐めているその息を吹きかけてやった。
すると乱馬は、
「香りだけじゃ、物足りねえよ」
そうやって息を吹きかけるために自分に近づいたあたしの身体を素早く掴まえると、
「どれどれ」
…そんな事を言いながら、あっという間にあたしに唇を重ねてしまった。
「んッ…」
突然の事に驚いて、あたしがビクン、と身を竦めると、
「…」
乱馬はそんなあたしの身体をゆっくりと抱きしめながら、片手では優しくあたしの頭を撫でていた。
そしてしばらくしてそっと唇を離すと、
「…ホントだ。すげー甘い飴」
そんな事を言って、あたしの額にゴチン、と自分の額を当てた。
「…ばーか」
…キスされたことに驚いて、あたしはいつの間にか口に入れて舐めていた飴を飲み込んでしまっていたようだった。
「…もう。こんなことするから飴、飲み込んじゃったよ。もうちょっと味わいたかったのに」
あたしが真っ赤になりながら乱馬にそうぼやくと、
「俺、まださっきの飴の味覚えてるぜ?じゃあ教えてやるよ」
乱馬はそう言って、あたしの頬に軽く一度キスをしてから、また再びあたしに唇を重ねた。
そしてしばらくしてからまた離れると、
「…な?」
そう言って、いたずらっ子のような笑顔で笑った。
「うん」
あたしは照れて真っ赤になった顔を隠すようにしながら頷くと、
「今の飴、美味かったな」
「うん。今度あたしも買ってみる」
「そしたら、また俺に飴の味、教えてくれんだろ?」
「もー。そしたら自分で食べなさいよ」
「教えたいくせに」
「…ばーか」
…そんな会話を乱馬と交わしながら、あたし達は手を繋いで再び歩きだした。
夕暮れ時の、学校からの帰り道。
あたしと乱馬は、そんなやり取りをしながら家への道を、歩いていった。