とある日曜の、昼下がり。
家族は出かけてしまって、留守。
「それじゃ久しぶりに…」と、あたしと乱馬は道場で手合わせをしたりしながら汗を流した。
そのあと、それぞれでお風呂で汗を流したりし、火照った身体をクーラーの効いた居間で冷やしているうちに、
「…」
あたしも乱馬も、いつの間にか眠りこんでしまった。
あたしは、テレビのよく見える位置にねころび、乱馬は、入り口近くのクーラーの風の吹き出しグチの下で眠り込んだ。
あたし達は、離れた場所でそれぞれが眠り込んでいた…はずだった。
…なのに。
「ん?」
どれくらい時間がたったのか分からないけど、ふと目を覚ましたあたしが何気なしに横を向くと、
「あれ?」
…何故か、あたしのすぐ隣に乱馬が寝ていた。
しかも、ちゃっかりとあたしの身体に腕なんて回しているし。
(あれ?寝る前はもっと向こうのほうで寝てたはずなのに…)
寝る前は、あからさまに別々の位置で寝ていたはずなのに…とあたしがそんな事を思っていると、
「ん…」
乱馬は、少しだけ寝返りを打った。
でも、相変わらずあたしの身体を離そうとしないので、
「あわわ…や、ちょっと…」
…あたしの身体も、そんな乱馬と一緒に持ってかれてしまった。
「ヤッやだッ…離しなさいよッ」
何故か乱馬の身体の上に仰向けのまま乗っかってしまったあたしは、まるで捉えられた獲物のようにジタバタと暴れる。
「離してってばッ」
あたしが更に暴れると、乱馬は無言のまま再びまた寝返りを打ち、あたしを床に寝せるような位置に戻す。
が、
「…あのねえ…」
結局は乱馬があたしの身体を離そうとしないので、あたしは未だその腕に捕らえられたままだ。
「…」
あたしはしばらくは観念してそのまま乱馬の腕に抱かれていたけれど、
思いっきりギュッ…と抱かれていると、徐々に、なんだか暑く…感じてきてしまった。
しかも、クーラーは効いているとは言えども、風呂上り。
なお更だ。
「暑い…」
乱馬と密着しているあたしの背中に、せっかっく風呂上りなのにも関わらずうっすらと汗がにじんできた。
「乱馬…暑い。暑いから…」
あたしがそんな乱馬を引き剥がそうと必死に身体を回転させたり向きを変えたりしてみようとも、
「…」
乱馬は一向にあたしから離れるような素振はみせない。
「もー…これじゃ、クーラーかけてても全然涼しくないよー…」
あたしがそんな乱馬にわざとぼやいてやると、
「…」
そんなあたしを見るように、、乱馬がふと目を開いた。
あ、ようやく乱馬も納得して離れてくれるかな…あたしはそんな事を思いながら期待の眼差しで乱馬を見つめると、
「暑いの?じゃあ、脱げば?服」
寝起きの乱馬は、ねぼけているせいか、いつもよりもストレートに大胆な事を言ってのける。
「なに言ってんのあんたはッ」
あたしがそんな乱馬を戒めるようにピン…と額を跳ねると、
「だーってよ…。寝心地いーんだよ、こーしてると」
乱馬はまるで子供のように駄々をこねながらそう言って、再び目を閉じてしまった。
「あのねえッ。あたしは抱き枕じゃないんだから」
「枕じゃねえよ、抱き人形。いや、人形でもねえな…そのまんま、抱きあかね」
「もーッ意味わかんないわよッそれに、皆が帰ってきてこんな所見られたらなんて言われるか…」
あたしは何とかしてそんな乱馬を引き剥がそうと、ジタバタと暴れながらそんな事を叫んだ。
すると。
「しょうがねえなあ…」
乱馬が、不意にそんな事を言いながら、あたしから離れ起き上がった。
「やっと分かってくれた?」
あたしはそんな乱馬に、ようやくホッと胸をなでおろしたけれど…
「しょーがねーなあ。じゃ、あかねの部屋に行くか。いーよなー、あかねの部屋はクーラーあって」
「…は?」
起き上がった乱馬は、今まで寝ぼけていたのを感じさせないような素早い動きであたしの身体を抱き上げると、いそいそと階段を上がって、あたしを2階の部屋へと運んでしまった。
「ちょっと!こらッ…何で勝手にッ…」
あたしがようやく部屋の中で乱馬から離れる事が出来たのでさっそく文句を言うも、
「えーと、スイッチスイッチ」
乱馬は人の話を全く聞かないまま、クーラーのスイッチを入れた。
「…ちょっと」
が。
とたんにヒュッ…とヒンヤリした風があたしの肌を通り抜けていく。
その瞬間室内の設定温度、いつもよりも全然低く設定しようとしている乱馬に気がついたあたしは、慌ててそんな乱馬からリモコンを取り上げた。
リモコンを見ると、21度。いつもよりも、6度も低い。
「あんたッ。こんなに温度を低くしてどうすんのよッ風邪引くでしょうがッ」
あたしが乱馬の方をむっとしながら見ると、
「このぐらい低くしないと、暑いぞ?」
乱馬は訳の分からない事を言いながら勝手にベッドに入っていく。
「何で暑いのよ?」
あたしが「やれやれ」といった表情で隣に寝転ぶと、
「何でかな?」
乱馬はそう言って、ぎゅっとあたしに抱きついてくる。
…しかも妙に嬉しそうに、抱きしめたあたしの背中を、ゆっくりゆっくりと撫でている。
乱馬がこうしてくるときは…決まってる。
「…稽古後で、疲れてるんですけど?」
あたしが真っ赤になりながら乱馬を見あげると、
「疲れるついでに」
乱馬は更に笑顔でそんな事を呟く。
「ねえ、やっぱり温度もうちょっと上げない?絶対に寒いと思うし…」
あたしが笑顔でぐっ…と顔を近付けてきた乱馬を寸前で塞き止めてそう提案するも、
「あかねが、布団を剥がないように気をつけてれば平気」
乱馬はまるで聞き分けのない子供のような顔でそう言って、にっと笑った。
…こうなると、もう何を言っても乱馬は引いてはくれない。
「もー…風邪引いたら、乱馬のせいだからね」
あたしはため息をつきながらそうぼやくと、乱馬の首に腕を回した。
「そしたらさ、俺が看病してやるよッ」
「どうやって?」
「そりゃ、人肌で温め…」
「却下ッ。もーッ…」
「あかねの体温調節は、俺に任せとって。それで全てが円満解決」
乱馬は、ため息をついているあたしに妙に嬉しそうにそう言うと、そのままグッ…と顔を近付け、唇を重ねてきた。
まるで、人間カメレオン。
あたしの身体の体温は、どうやら乱馬が勝手に管理をしているらしい。