夕食前に、なんだかちょっと口さびしくて。
ごそごそと居間の茶ダンスを漁っていたら、飴の袋を偶然発見。
早速袋を開けて、あたしがニコニコと飴を舐めていると、
「あー、腹減った」
丁度道場から稽古を終えて戻ってきた乱馬が、そんなことを言いながら居間へと入ってきた。
「食べる?」
あたしがそんな乱馬に飴の袋を差し出すと、「サンキュ」
乱馬は袋に手を突っ込み、掴んだ飴を口の中へほおり込む。
でもすぐに、
「あ、この飴ミルク味じゃん」
…ちょっと、複雑そうな顔をした。
「何よ、ミルク味の飴、嫌いなの?」
あたしが「乱馬にも食べれないものがあるのね」とちょっと意外に思って尋ねてみると、
「いや、嫌いって訳じゃないんだけど、なんか今日はもっと違う味が食べたかったというか」
乱馬はそう言って飴を口の中でモゴモゴと転がしながら、
「もっとフルーツ系の甘さの飴、ねえの?」
「あとは、メロン…バナナ、イチゴ」
そんな乱馬に、あたしがパッケージに書いてある飴の種類を読み上げてやると、
「あ、イチゴがいい」
乱馬はぱっと表情を明るくさせてあたしが持っている袋に勢い良くてを突っ込みごそごそとやっていたが、
「ない」
飴を出しては袋に戻し、出しては戻し…とやっていた乱馬は、しばらくそれをやっていて諦めたのか、ため息をついた。
どうやら、あたしが今口に入れているイチゴ味の飴が最後の「イチゴ」だったようで、後はミルク味とメロン味しか残っていないようだった。
「ごめんね」
別にあたしが謝る事でもないんだけど、それでも何となく落ち込んでいる乱馬を見ると気が引けてしまう。
なので軽く手を合わせると、
「しょーがねえなあ」
乱馬は諦めたようにそう言って、ゆっくりとあたしが持っている袋から手を離した。
「ほら、メロン味も美味しそうよ?ね?」
あたしはそんな乱馬に慰めるわけでもなく別の味を勧めようと乱馬の顔を覗き込んだが…
「…しょうがねえから、新しい味作って食べるか」
「ん?」
「イチゴミルク」
あたしが顔を覗き込んだ瞬間。
乱馬はそんなことをぼやいたかと思うと、素早くあたしにキスをした。
「んんッ…んッ…」
ボコボコと乱馬の胸を叩いて身体を押し返そうとするも、がっしりと捕まえられていてあたしはそう簡単には動く事が出来なくて。
乱馬は、そんなあたしの髪を優しく撫でながら、まんまと自分の腕の中で小さく真っ赤になっているあたしの口からイチゴ味を奪い取ってしまった。
そして、ゆっくりと唇を離すと、
「へへ。やっぱ新しい味はこのぐらいの甘さがなくちゃ」
そういって、ニヤッと笑った。
「…」
あたしが更に真っ赤になると、
「あかねも食べてみたくなってきたろ?イチゴミルク味の飴」
そんなあたしを更にからかうかのように乱馬はそんな事を言い出した。
「た、食べたくないわよッ」
あたしは慌てて、ブンブンと首を左右に振るが、
当然のことながらそんな理屈がすんなりと乱馬に通るはずもなく。
「いいからいいから。遠慮すんなって」
「やっ…」
…あたしも結局、乱馬の作った新しい「イチゴミルク」味の飴を嫌って程味わう羽目になった。
「疲れたときには、甘いモンが一番だな」
充分に「イチゴミルク」な飴を堪能した乱馬が、嬉しそうに笑う。
「…もっと疲れたわよ」
あたしは、そんな調子のいい乱馬の額をピシッと指で弾いてやりながらため息をついてやった。
…でも。
実は意外に美味しかったし、癖になりそうな甘さもあった。
こんな即席の「イチゴミルク」じゃなくて、ちゃんとした製品でこんな味があったら売れるんじゃないかな…なんて考えつつも、
(…乱馬には絶対に内緒にしておこう)
だって、絶対に「製品開発に協力してやろーぜ」とか何とかかんとか理由をつけては…ね?
(まったくもー。こーゆー事だけはすぐに思いつくんだからなあ)
嬉しそうにニコニコとしている乱馬を見ながら、あたしは心の中でこっそりとそんなことを誓った。