「明日、雨降らないかなぁ」
縁側で夕涼みをしていたあかねが突然、そんなことを言い出した。
「…何でだよ」
明日は、あかねが前から行きたがっていたオープンテラスの「カフェ」とやらに行くことになっていた。
せっかくのデートに雨乞いかよ、と俺がぶすっとした表情をすると、
「違うわよー。あんた、明日が何の日だかもしかして覚えてないの?」
あかねがそんなことを言いながら俺の顔をぐっと覗き込んだ。
長いまつげと、ぱっちりとした瞳が何だか妙に可愛くて、
「…」
俺が覗き込んでいるあかねへ思わず素早くキスすると、
「…もー。誰かに見られたらどうすんの」
あかねはぶつぶつ言いながら頬を赤くし、
そして改めて、
「明日はね…あたしが乱馬のことを意識しはじめた日なのッ。つまり、好きなのかなって…思い始めた日なのッ」
「…そうなのか?」
俺が初耳だぜ…と言わんばかりの顔をすると、
「前に話したことなかったっけ?」
「初耳だ」
「じゃあ、今言います。実はそうなんです」
あかねがそういって、照れ臭そうに笑った。
俺はそんなあかねの頭を優しく撫でてやった。
あかねは何だか妙に嬉しそうに俺に寄り添ってきた。
「で?何でそんな記念日に雨乞いすんだよ」
俺がそんなあかねの身体に腕をまわしながら質問すると、
「だってその日、確か窓の外では雨がふってたんだもん」
「は?」
「だからよ。あの時と同じ状況のほうが忘れないでしょ?」
あかねはさらりとそういい退けた。
「あのよー…。せめてさ、そういう記念日は雨乞いするんじゃなくてさ、そう言う記念日にはいつも一緒にいられるようにとか祈ってくれよ」
「えー…」
「えー、じゃねえよ」
俺がそんなあかねにため息をつくと、
「じゃあ、雨に濡れても乱馬が女の子にならないように祈ってあげる」
「物理的に無理だろーが」
「無理じゃないわよー。たとえば…」
あかねはそう言って、抱きついてる俺の頬に、額に…鼻に…とキスをした。
「な、何だよ」
いつもは自分があかねにそうしているくせに、
いざじぶんがそうされると、何故か照れてしまう俺。
反射的にあかねへ回している腕の力を強くすると、
「ほら、ね?」
あかねは腕の中から俺を見上げて笑った。
「ほらって?」
俺がそんなあかねの顔をドキドキしながらみつめると、あかねは俺にキスした頬にふれながら、
「もー。鈍いんだからー。あたしにキスされたトコ、しっとり潤ってるでしょ?
…キスの雨に濡れても、女の子にはならないでしょ」
あかねはそう言って…笑った。
「うん」
俺はそんなあかねの言葉が嬉しくて。
嬉しくて…
「きゃっ…ちょっと、苦しいじゃないッ」
思わずあかねを強く抱き締めてしまった。
「いーの」
俺は腕の中でもがいてるあかねの耳元に口を付けて、
「あしたもこーゆー事したいって祈っててくれるんだろ?」
わざと意地悪く笑いながらあかねを見た。
「えっべ、別にそーゆー意味で言ったんじゃ…」
あかねは案の定おろおろとしだした。
「あのな、あかね」
俺はそんなあかねに更に畳み掛けるように、
「日本てさ、お祈りとか雨乞いする時、まるで祭りみたいに豪勢にやるだろ?俺たちも豪勢にしようぜ。もちろん、前夜祭から」
といってあかねの手を引いて立ち上がった。
行き先はもちろん、前夜祭会場。
あかねの、部屋。
「…」
あかねは、まっかになりながらも「やれやれ…」と俺に手を引かれて歩きだす。
「前夜祭にはみんなも招待する?」
部屋に入りぎわあかねが俺にこっそり尋ねた。
「残念ですが、当事者以外立入禁止」
俺はにっと笑いながらそう言うと、バタンッとしっかりと閉めた。
明日は雨が降らないかな…
そんなあかねの言葉に、はじめは耳を疑った俺だったけれど、こーいう雨なら話は別だ。
「あかねに変わって俺が雨乞いしてやるよ」
気が付けば俺はあかねに抱きつきながら、何度も何度もその耳元でささやいていた。
あかねが俺を好きになってくれたというそんな嬉しい記念日、
そんな日に女になっちまうような無常な雨ならご遠慮願うが、今こうして、俺があかねに降らせているような、こんな雨にならいくらだって濡れたって構わない。
…自ら望んで濡れてやるぜ。
俺は心からそう思った。