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同音異義語12
「えー!?そ、そんなことすんの、あんたの彼!」
「ちょっ・・・声が大きいってばー」
「だーって、ねえ?そ、それでどうなのよっ」
「えー?そ、そりゃあその・・・まあ・・・」
「きゃー!」
・・・高校の昼休みなんて、食事が終れば単なる賑やかな交流場だ。
そこかしこから笑い声や、楽しそうな笑顔がちらほらと垣間見ることが出来る。
とりわけ今日に至っては、教室の片隅で何やら集まっては騒いでいる女子軍団の姿が目に付いていた。
「なあ、あれ何話しているんだ?あいつら」
声が大きい、とか言いながらいかにも「聞いてください」とばかりの大きさの声で話す「内緒話ではない内緒話」の光景に、弁当も食べ終わり席で漫画を読んでいた俺が傍にいた親友でもあり悪友のひろしに尋ねると、
「あー、何でもな、山田の彼氏がどうもその、かなり女の『身体』の扱いに慣れているらしいぞ。技が豊富なんだと」
山田、というのは『声が大きい』と他の女性徒達をけん制していたあの彼女のこと。
「わ、技っ!?」
「そ。技って言ってもおめーが極めようとしている格闘技じゃねえぞ。いわゆる・・・」
「そ、それくらい判るっての!・・・ていうか、そんなこと、こんな公共の場で話すか普通・・・」
「自慢したいんじゃねえの?多分、スゲエんだろうなあ・・・思わず話したくなるほど」
ひろしは、そんな事を言いながらため息をついている。
とそこに、もう一人の俺の悪友・大介もやってきて、
「まあ事細かに説明されると恥ずかしいけど、でも自分の彼女が自慢したくなるほどってなるとなあ。男としては羨ましいような・・・」
「そ、そんなもんか?」
「いい仕事してるんだぜ、山田の彼氏は。きっと」
「俺達なんてまだまだ初心者だから余裕がねえよ」
「そ、そうだよな!お前もそうだよな、大介!」
「そうだぞ、ひろし!やっぱりそうだよな!?」
と、何故かひろしと大介は情け無い表情でお互いを慰めあっている。
「・・・」
俺はそんな二人を半ば呆れた様子で見つつも、でも内心では二人の気持ちには同意していた。
・・・そりゃ、俺だって。
あかねが、誰か人に自慢したくなるくらいまで俺のこと満足してくれてることがあれば、嬉しい。
嬉しいというよりは、むしろもうそれは名誉だ。
でも、なあ。
「・・・」
ひろしと大介同様、俺もまだまだコッチ関係には「初心者」だ。
一般的な高校生諸君に比べればそりゃ、頻度は高いかもしれないけど。
なんて、ちょっと上目目線でつぶやくものの、
それでもいつも、余裕なんて無いわけで。
ちょっと強く抱きしめて、無理やり唇を奪う。
零れ落ちる吐息全て、手に入れたいと思い始めたら最後、もう自分の理性なんて止めることはできない。だから、余裕なんてなくなるんだよな。
ただでさえ、あかねは可愛いのに。
可愛さに色っぽさが加わった表情に、悩ましげな乱れた呼吸。
一生懸命俺に抱きついてきて何かに耐えるように頑張る、でも身体はどうにもならなくて・・・とあの時がもう、最高に可愛くて仕方が無い。
だから俺は、そんなあかねの白くて柔らかい肌を貪るように味わんだよな。
絹のように美しく、そして柔らかくてしなやかなあかねが、全て俺のものだと言う紅い痕跡を・・・
・・・
「・・・」
・・・いけね、思い出したら何か顔がにやけてきた。
俺が慌てて正気に戻るも、
「おい、ケダモノ」
「なっ、何だよケダモノって」
「貴様また、可愛いあかねを襲っている時のことを考えてやがったな!?」
「お、襲うとは人聞きが悪い!俺達は双方同意の下・・・」
「なーにが俺達は、だ。あのあかねの許婚ってだけでも羨ましいのに、毎晩毎晩!」
「ま、毎晩じゃねえ!一応はあかねの体力も考えて日にちを・・・」
「似たものだろうがっ」
「似てねえっ。それに俺だってなあ、まだまだ慣れないから色々大変なんだぞっ」
俺は、ひろしと大介に首を絞められたりお下げで首を巻かれたりしながら、そんな話をしてその場をやり過ごしていた。
と。
「あー、もう何で昼休みは購買があんなに混んでいるのかしら」
「昼休みだからこそ、混んでいるのよあかね」
「あ、そうか」
昼を食べた後、購買に文房具を買いに行っていたらしいあかねが、新しいノートを手に友人達と教室へ戻ってきた。
そこに、
「あかねー!」
先ほどから教室の隅で、男子顔負けの過激な話をしていた女子の一人が、あかねに声を掛けた。
「なあに?」
素直なあかねは、ノートを自分の席において、トコトコと彼女達に近寄っていく。
「お、あかねが呼ばれたぞ?乱馬」
「な、何だよ」
「もしかしたら、お前の『技』の腕前が聞けるかも知れねえぞ?」
「な、何がだよっ!あかねがそんなこと言うわけねえだろっ」
「いーや。あかねは素直だから聞かれたらきっと答えるぞ。さあ、毎日のように夜這いをしている男のお手並み拝見といこうか」
あかねが彼女達に呼ばれた様子を見ながら、ひろしと大介が、ニヤニヤして俺を見つめる。
そ、そりゃ、頻繁にあかねとソウイウコトをしていて「乱馬ってちょっと・・・」とか言われたらはっきり言って俺は立ち直れない。
いやむしろ、もう再起不能といっても過言では無いだろう。
男としてのプライドの問題だ。
俺は慌ててあかねの元へと駆け寄ろうとしたが、
「まあまあ、落ち着けよ」
「は、離せお前らっ」
「急がば回れって言うだろ」
「関係ねーだろそれっ」
俺は悪友達に押さえ込まれて身動きが取れない状態になった。
勿論動けなくて気持ちがあせる俺をよそに、
「ねえねえ、あかね。乱馬君はどうなの?」
「どうって?」
・・・あかねには、クラスの女子達による尋問が開始されようとしていた。
「乱馬君、ああ見えて実はスゴイことするんじゃないの?」
「スゴイこと?」
「だからー・・・テクよ、テク」
「テク?ああ、技ってこと?」
「そ、そうよ。その話よ」
それが聞きたいのよー、と、山田を始めその場に居た面々がきゃあきゃあと言いながらあかねを見ていると、そんなクラスメート達にあかねはにっこりと微笑みながら一言言った。
「乱馬はねー、すっごく多彩な技持ってるんだよー」
「えっそうなの?!」
「それにね、必殺技があってね、凄いときなんてそのせいで意識が飛んじゃうんだよね」
「きゃー!」
・・・あかねの答えに、異常な盛り上がりを見せる女子軍団。
もちろん、
「おいケダモノっ。何だその必殺技って!」
「知るか!お、俺にはそんなっ・・・俺はただ必死にいつもっ」
「必死か!必死になるとあかねの意識が飛ぶほどって・・・貴様あの可愛いあかねっ・・・くわーっ!」
「ぐ、ぐるし・・・」
そんな盛り上がっている集団の側では、一つの尊い命のともし火が消えかかっていたのも忘れてはいけない。
格闘技の達人であるはずの俺は今、殺人事件の被害者になろうとしている。
そんな俺達の後ろでは、
「くそっー、早乙女っあかねさんに、あかねさんにっ・・・」
カーン、カーン、と藁人形が壁に打ちつけられる音が響いている。若干、胸に痛みが走る。
更に、
「あかね、大人になって・・・」
何故か涙を拭うようなそぶりを見せながらも、あかねの話に耳を大きくして聞いている女子や、
「やだー、乱馬くんてクラスじゃそんなそぶり見せないのに結構・・・」
やら、
「うらやましいよなあ。その技、教えてもらいたいうくらいだぜ」
やら、
ちらほらとそんな声も聞こえ、俺の身体にはみんなの視線が突き刺さっている。
中には、何故か俺の全身をじろじろと見て「きゃあっ」とか言いながら何かをコソコソと話している奴らも居るわけで、
あかねの言うその「必殺技」とやらに全く心当たりのない俺にとっては非常に居心地の悪い空間だ。
そんな俺のことなどお構いなしに、
「で、あ、あかね。乱馬君はどうやってそれ、するの?!」
「どうやってって?」
「だ、だから例えばその、な、何か使うとか・・・」
「あ、道具を使うってこと?乱馬は道具じゃなくて素手派なんだよね。身体一つで勝負ってタイプ」
「きゃー!」
「色々考えて、いろいろな技を繰り出すのよね・・・あれは才能よね」
更にあかねは話を進め、にこやかにしている。
「身体一つって・・・貴様ーっ」
「や、やめ・・・し、死ぬーっ」
「色々な技って、貴様!あかねに一体何と何とどれを試したー!」
「ばっ・・・俺は大体いつもっ・・・」
「うるせー、このケダモノっ健全な男子高校生の敵っ」
みんなの刺さるような視線、そして消えかかる命のともし火。
俺はにこやかなあかねとは別に危機的状況に陥っていた。
と、
「そ、それであかねはどんなのが好きなのっ!?」
「どんなの?」
「だ、だから乱馬くんの技よっ。どんなのされるのが好きなのよ!?」
女子の一人が、やたらと目をきらきらとさせながらあかねにそんな質問をした。
が、
「そうねえ・・・あたしは技を受けたことはないけど・・・」
「は?」
「見ていてあたしもやってみたいなあ、って思ったのは、あれかな。空中戦での回し蹴りかなあ」
「・・・」
「無差別格闘流は、空中戦がオハコなの。でもあたしは空中戦で誰かと戦うなんてことないでしょう?乱馬みたいに色々な人と戦うことができるなら、やってみたいなあ。だって回し蹴りで相手をKOなんてすごいじゃない?」
この物騒な時代に素手で勝てるのよ、と、あかねは周りの女子達にニコニコと答える。
無論、
「・・・何か、自分がものすごーく・・・・穢れているような気がしてきた」
「いや、気だけじゃなく穢れてるんだよね」
「想像とかしていた自分が恥ずかしいよな・・・」
「まぶしくてあかねが直視できねえよ・・・」
それまで盛り上がっていた一同の雰囲気が、まるで海辺の引き潮のように一瞬でさっと引いていったこと、
俺の命のともし火が再び盛り返したことは言うまでもない。
「え、どうしたの?」
そんな中、当のあかねだけは皆の様子を理解することができずに一人きょろきょろとしている。
「・・・ちょっと」
「え?どうしたの乱馬」
「いいからちょっと」
「えっな、何よーっ」
俺は、「自称穢れている」ひろしと大介の手を振り切り、
状況を理解できずにキョトンとしているあかねを引っ張り、教室を出て廊下の隅へと連れて行った。そして、
「いいか、あかね。あのな・・・?」
俺は一人だけ状況を理解できずにいるあかねに、それはもう丁寧に事細かに、皆が何の話をしていたかを話して聞かせてやった。
すると、
「なっ・・・あ、あたしは別にそういうつもりでっ・・・」
ようやく状況を理解したあかねは、みるみるうちに耳まで真っ赤にして俺に反論するも、
「お前がそういうつもりじゃなくても、皆はそういうつもりだったの」
「だ、だって、わ、技っていうからあたしっ・・・そ、それにそういうことならそんな技なんて知らないもんっ」
「まー、全く知らないってわけでもないよな。例えば座ったままの・・・」
「いやー!このケダモノー!!」
ゴリュッ・・・
あかねは俺が全て言葉を発する前に、かなりの速度で回転していたアッパーを繰り出して俺のあごに命中させる。
ゴフ、と床に叩きつけられながらも更に俺が、
「でも意識を失うっていうか、時々さー、ぼーっとしちゃってる状態のときのあかねは・・・」
「まだ言うかー!」
トストストストスッ・・・と、あかねは目にも止まらぬ動きで床に転がった俺の急所に拳をたたきつけると、
「乱馬なんて大っ嫌い!バカー!!」
ドスッ・・・
とどめの一撃で、俺をわざわざ踏みつけて走り去ってしまった。
もちろん走り去ったあかねが、真っ赤な顔で一人席で小さくなって座っていたのは言うまでもないが、
「・・・」
・・・年頃の奴らが教室で、健全に格闘技の話なんかすると思うか?
ていうか、俺の戦法、素手がメインでよかったな。
・・・
「技」と「テク」。これからはそうやって言い分けた方が良いんだろうか?いや、でもね?
「・・・」
俺は、よろよろと立ち上がりながら、大きなため息をついたのだった。
同音異義語、言葉が織り成す哀しいマジック。
