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無人島に持っていくのは?

 

『船が遭難し、一家は大海原へ投げ出されました。ですが偶然流されたどり着いた島で生活を・・・』
ある日の、夜。
特にお目当ての番組があるわけでもなかったので、
あたしは何となく居間で、比較的教育番組を重視して流す局のドキュメンタリー番組を流し見していた。
一家で豪華客船に乗船している際に嵐に遭い、遭難。運よくどこかの島にたどり着いたけれど、そこは無人島だった。でも、人間、生きようと思えば何とか成るわけで、一家はその無人島で持っている限りの知恵を出し合って、たくましく生き抜いた。
・・・なんて。その一族の記録を、事細かに紹介している番組だった。いかにも、教育番組系列が好きそうな内容だ。
「あたしは、たとえ生きたとしても無人島なんてごめんだわ」
と。
ぼんやりとテレビを見ていたあたしの横で、なびきお姉ちゃんがそんな事をぼそっと呟いた。
現代の文明の利器に頼り切っているおねえちゃんは、キャンプだって極力避けたいタイプ。
テントやバンガローに泊まるなら、ぼろくても民宿の方がいい、ってところだろう。
「でも、魚とか果物とかとって食べれば生きていけるよ?」
「やーよ、原始人じゃあるまいし。それにあたしは肉食よ」
お姉ちゃんはそう言って、テーブルの上においてあったせんべえに手を伸ばし、ぼりぼりとかじった。
そして、
「たとえ、無人島に一つだけ自分の好きなものを持って行っていいって言われたって、絶対にお断りだわ」
かじっていたせんべえを飲み込むべく、やはりテーブルの上にあった湯飲みを手にすると、中に入っていたお茶を飲み干した。
「好きなものを一つだけ、か。いいじゃない、それなら思った以上にきっと、楽しく暮らせるかもよ?」
あたしはそんなおねえちゃんに笑顔でそう質問するも、
「ばかね、あんたは。無人島なのよ?お金を山ほど持っていたって、使う相手も使う手段も無いじゃないの」
「・・・お金なんだ、お姉ちゃんが持っていきたいの」
「それ以外何があるのよ。いい?あかね。愛と富は決してイコールではないのよ?」
現実的な上に夢が無い、更に可愛げもないお姉ちゃんは、ふう、とため息をつきながらそんな事を呟いた。
「無人島に何か一つ、好きなものか・・・あたしだったら何を持っていくかなあ」
そんなおねえちゃんのため息の横で、あたしはボソッとそう呟く。
お金を持っていくって言うお姉ちゃんはともかく、もしもあたしがその条件を出されたら、一体何を持っていくのか。
宝物のビーズ?お母さんの形見のネックレス?友達や家族の写真?
「んー・・・」
そう考えると、チョイスはかなり難しい。持っていったところで、無人島。機能的に使う事を考えたら、サバイバルナイフ、とかの方がいいのかなあ?
それとも、お守りー、みたいな精神的に落ち着くものの方がいいのかしら・・・
「・・・」
あたしは、あれこれと考えながら首を傾げてしまった。
と、その時だった。
「あら、あんたちょうど良いところに来たじゃないの」
首をかしげているあたしの横で、お姉ちゃんが楽しそうに声を上げた。
あたしが顔をふとあげると、居間に乱馬が入ってきたところだった。
「なんだよ、違法かつもうからないバイトはお断りだからな」
お風呂上りの乱馬は、お姉ちゃんに若干警戒気味にそんな事を言いながら、わざわざあたしの隣に座りぴったりとくっつく。
しかも、コタツ布団で見えないことをイイコトに、座るや否や布団の下に隠れているあたしの太ももを撫でてくるし。
・・・動物か!もうっ。
「・・・」
あたしは無言で乱馬の手をぴしゃりと叩くと、手の甲をつねってやった。
乱馬は、「いてて」と一瞬顔をしかめつつ、それでも手をどけるつもりは無いらしく、
相変わらず布団のしたではあたしの太ももに触れながらも、
「で?何がイイトコロなんだよ」
と、なびきお姉ちゃんに質問をした。
「今あかねと話していたんだけど、もしも無人島に行くのにたった一つだけ好きなものを持っていってもいいとしたら、あんたは何を持っていく?」
ちなみにあたしはお金よ。あかねは・・・まだ決まらないみたいだけど、と、なびきお姉ちゃんは早速乱馬にそう質問を返した。
すると乱馬は意外にも、
「無人島に一つだけ?そんなの決まってんじゃねーか」
あれこれと考えているあたしとは裏腹に、すっぱりとそんな事を言い放った。
「あら、優柔不断な乱馬くんにしては珍しいわね」
流石のお姉ちゃんもこれには驚いたようで、思わずそんなことを乱馬に言う。
「だって、一つしか持っていけないんだろ?しかも好きなものだろ?そしたら決まってるだろ」
「へー。で?何もって行くのよ。まさかあんた、道着とか、水着とか言わないでしょうね?男溺泉の元とか」
そして、一体その正体は何なのかと、乱馬にそう尋ねるが、
「俺か?俺はあかねを持ってくな」
「・・・はい?」
「だってよー、一つしか持っていけないんだろ?だったらあかねを持っていく、というか連れて行けばそれで全てが補われるんだぞ?そりゃー、料理は壊滅的に下手だけど」
「まー。ああ、そうか・・・最初は無人島だから乱馬くんとあかねだけだけど、その内家族が増えるものねー」
「だろー?で、集落が出来れば外から人も呼べるようになるはずだし、また人も増える、と。人が増えれば島が栄えて全て事足りるようになるってことだな」
「乱馬君、生命力と繁殖力強そうだもんねー。あかねは大変かもしれないけど」
「俺が責任を持ってその辺りもきちんと守るから、それは安心だ」
あはははは、と、何故か二人は納得して笑いあっていた。
そして、勝手に無人島を小さな集落にまで発展させた後の話を繰り広げているのだけれど、
「・・・」
・・・あたしの意思は?
ていうか、何で納得するのよ。モノ?あたしモノですか?
お姉ちゃん、さっきあたしに言ったじゃない!「愛と富はイコールではない」って!
これはそのいい例ではないの?
「・・・」
あたしが物言いたげな表情でお姉ちゃんをじっと見つめていると、
「あかね」
ぽん、と、お姉ちゃんがあたしの肩を叩いた。
「な、なによ・・・」
あたしがお姉ちゃんをじとっとした目でにらみ返すと、
「愛と富はイコールではないわ。でもね、一般的な人間はともかくとして、乱馬くんとあんたならきっと、愛が富を生むようになると思うのよね」
「な、なによそれ!」
「いいじゃないの。無人島で乱馬くんと二人きりなのよ。どこで何をどれぐらいしていようが、何の遮りもないんだから」
「なっ・・・」
「せめて、服だけは着せてもらえるようにしておいた方がイイコトだけは忠告しておくけどねー」
なびきお姉ちゃんはからからと笑いながらそういうと、「さて、時間つぶしにかすみおねえちゃんの部屋でもいくか」とか何とか、居間を出て行ってしまった。
「もう、お姉ちゃんたら!」
全くとんでもないわ!あたしがお姉ちゃんの背中に向かって腹を立てていると、
「何怒ってんだよ」
暢気な乱馬が、きょとんとした様子であたしを見つめる。
「何って、決まってるでしょ!」
皆好き放題言って・・・とあたしがぶつくさと呟くと、
「平気だって」
「何が!」
「服脱いで過ごすのは一応夜だけだから」
「・・・怒る観点が違うでしょ!」
ゴスッ
あたしはどこまでもマイペースで言いたい放題の乱馬の頭を拳で殴りつけると、大きなため息をついた。

・・・無人島に何か一つ、好きなものを持っていっていいって。
そりゃ、大好きな彼に、「お前」って言われるのは嬉しいわ。
嬉しいけど・・・
「・・・」
その後の、事を考えるとため息がついつい出てしまうのは何故かしら。

「まず、島に着くだろ?そしたらー、まずは二人きりの生活を思う存分満喫しねーとな。洞窟探してー、その奥に灯りを灯して食料と水運んでー、外から誰も入れないようにしておかないと。あ、葉っぱで寝転んでもあかねが痛くないようにベッドを作って・・・」
「あんたって人は・・・」
例えば、の話なのに妙にリアルに島での生活をシュミレーションしている乱馬に、あたしは再びため息をついてしまうのだった。

 

・・・ま、幸せに生きてはいけそうだけど、ねえ?

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