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→1.ファイト一発!ガロリーメイト日和

「ねえ、乱馬。机の引き出しに入っている箱、とって」

ある日の夕方のこと。
飯の時間になっても居間へと降りてこないあかねを部屋まで呼びに来た俺に、あかねがそんな事を言った。
「箱って・・・その前に飯だっつーの」
タダでさえ、食事時のおかず争奪戦が激しい我が家。
食事スタート時にその場に居ない事のリスクの高さをあかねとて知らないとは言うまいが、一体この悠長さは何なのか?
それでも、可愛いあかねに頼まれれば邪険には扱えない。
あんまり手を焼かせるとお仕置きだぞ、とぶつぶつとぼやきながらも、俺はあかねの指示通りに机の引き出しを開けた。
几帳面な性格が出ているのか、きちんと整理されたあかねの机の引き出し。
ぱっと見ただけでどこに何が配置されているかは分かる。
ただ、
「箱・・・?」
あかねには「箱を取れ」といわれたけれど、引き出しの中には「箱」と表現されるべきものがちらほらと置かれている。
「えーと・・・」
「もー!何やってんのよ。箱だってば」
「わ、分かってるよ」
何故か俺に依頼しているはずのあかねにどやされつつ、俺は引き出しの中とにらめっこ。
・・・
箱。
箱って言うと、やっぱあれだよな?紙とかプラスチックとかで出来ている四角形の立体だ。
・・・
俺はそんな事を思いながら、引き出しの中の「箱」を見つめる。
引き出しの中には、数えて5つほどの「箱」があった。
でもその内、
「これは・・・違うよなあ」
机の一番手前に位置していた手のひらサイズの小さなタイプのものを、俺は指でピン、とはじく。
箱の表面に、大きなスペードのマークがあしらわれたもの。そう、それはトランプの箱だった。
いくら能天気なあかねでも、飯だと呼びに来た俺にトランプを取れ、とはいうまいに。
・・・となると、残りの候補はあと4つ。
俺は再び残りの候補へと目をやるが、
小物を入れるのに使っているらしい、昔懐かしい黄色い鳩サブレの箱とバンドエイドの箱。
そのまま、その奥にあった「箱」へと目をやった時、思わず「はうっ」と声を上げてしまう。
「そっ・・・そっ・・・」
勿論、いきなり発生障害でも引き起こしたかのように妙な声を上げる俺に対し、
「何よ、変な声出して」
「あっ、いや別にねっそんなことないよっ」
「はー?もー、変な乱馬」
あかねは怪訝そうな表情をしている。
俺はそんなあかねに薄笑いを浮かべつつも、目は引き出しの中の箱に釘付けだった。
机の中にある、俺が思わず目を奪われてしまった箱。
それは・・・
「・・・」
・・・これ、いわゆる「アレ」だよな。
俺、これと同じような色合いの箱、見たことあるもん、薬・局・で。
「・・・」
そう。あかねの引き出しの中にひっそりとあったその箱は、いわゆるひとつの「そーいう」関係の箱、ではないかと思われた。
子供が出来ないように仕方なく、仕方なく用意しておかなければならない「アレ」だ。
でもたいていそれって、野郎友達同士の間で流通して無料で入手できるか、普段住んでいる街ではない場所のドラッグストアとかで買ってくるか、とか生活圏内で妙な仕草を見せないようにしつつ入手するものなんだよな。
そう、それは白鳥が水面下ではもがいている足を見せないのと同じように。
だから、あかねにそんな思いをさせないためにも、優しくて用意周到な俺は責任を持って途切れることなくふんだんに、用意をしていたわけだ。
ところが。
その箱が、あかねの机の引き出しの中にあった。
しかもあかねは、俺にそれを取れという。部屋にやってきた俺に、俺にそれを取れと・・・
「・・・」
・・・誘っているのか?
「・・・」
数々の疑問が、そう結論づけることで俺の中でクリアな形にと変化した。
机の中の箱を取れと頼む→机の中を俺に見せる→目に付くところに「アレ」の箱→早く取れとせかす→箱を取ったら・・・
・・・することは一つじゃないのか?
「・・・」
でも、大丈夫だぞ、あかね。俺、ポケットに今一つ持ってるから。
お前の用意したの、ストックで保管しておこうな?でもそんなに古くなる前に使ってやるからな?
「・・・」
ガタン
俺は、あかねの心遣いにそっと、心の涙をぬぐいつつ、静かに引き出しを閉じた。
「乱馬、何で引き出ししめるの?あたしがお願いした箱、どうしたのよ」
そんな俺に対し、あかねが怪訝そうに尋ねる。
あかねにしてみれば、「もう、乱馬ったら。女に恥をかかせる気?」とでも言いたいのか。
痺れをきらしたのかもどかしいのか、座っていたベッドから降りて自分で引き出しを開けようとするが、
「分かってる・・・あかね、俺、分かっているから」
「は?」
「据え膳だろ」
「据え膳?」
「お前の心遣い、俺、全身で感じた」
「何の話?」
「俺、一応ポケットに一つ入れてあるから!そっち使えばいいからっ」
「だから何が?」
「お前の気持ち、俺、受け止めないと・・・飯どころじゃねえ!」
「ちょっ・・・きゃー!?」
俺はそんなあかねの身体を「すくい投げ」の要領で素早く抱き上げると、ベッドの方へと押し戻した。そして、満面の笑みであかねの上にのしかかる。
「何っ何なのっ何で机の引き出しあけるだけで発情するのよ!」
動物か!と組み敷かれた俺の下で抵抗をするあかねだけれど、あっと言う間に身包みをはがされて俺の腕の中にすっぽりと収められてしまう。
「だって、あんなものを発見してしまったらお前・・・俺も困っちまうよ」
全く困っては居ないけれど、上機嫌であかねを腕に収めながら、すりすりと擦り寄る俺。
「あんなものって何よ」
「箱」
「何の箱よ。机の中に入ってた箱なんて・・・」
「ほらー、微妙な色合いのー・・・バンドエイドの横にあった箱。あれってさー」
アレだよな?と、俺があかねの耳元にこっそりと囁いた。
すると、
「なっ・・・ち、違うわよ!あ、あの箱は百円均一で買った小物入れよっ」
あかねは見る見るうちに顔を真っ赤にして、首を振った。
「嘘だね。俺、薬局でおんなじデザインの箱、見たことあるもん」
「し、知らないわよそんなのっ。ちょっと色合いが綺麗だし珍しいデザインだから買っただけなのにっ・・・」
中には、友達から貰ったキーホルダーとか油とり紙とか入ってるだけよ。あかねは真っ赤な顔のまま俺にそう答えた。
「なーんだ。俺はてっきり」
どうやら、俺の勘違いだったらしい。薬局で見た箱と同じようなデザインなだけだったのか。
紛らわしいなあ・・・と俺はぼやきつつ、
「俺はてっきり、誘われているのかと思ったぜ」
「あんたってヒトは・・・」
「んで?お前が取って欲しかった箱って結局なんだったんだよ?」
机の引き出しにあった箱、って一体何だったんだ?
うっかり当初の目的を忘れそうになっていた俺が、真っ赤になっているあかねの頭を撫でながら尋ねると、
「あ、そうだった。あのね・・・」
あかねもふっとそれを思い出しのか、ベッドの掛け布団を器用に身体に巻いて、のそのそと起き上がった。
そして自分の足で机の所まで歩き引き出しを開け、ある箱を取り出す。
あかねが取り出した箱は、オレンジが鮮やかな薄っぺらい箱だった。
中に入っていた五つの箱のうち、俺がまだきちんと見ていなかった箱だ。
オレンジに、薄ミドリ色で英語が書かれている。どこかで見たことがあるようなデザインなんだけど・・・どこだっけ?
「何だよそれ」
あかねに掛け布団を取られてしまったので、仕方なく枕元にかけてあったタオルを自分の身体にふんわりと乗せながら俺が尋ねると、
「何って、ガロリーメイトじゃない」
「ガロリーメイト?」
「ダイエット補助食品よ」
「ダイエットって。それ、菓子じゃねえのか?」
どこかで見たことがあるな、と思ったのは当然か。
良くCMでも流れているし、コンビにや、それこそドラッグストアなんかでも山積みされている商品だからだ。
確か昔と違って今って、味も何種類も出ているとか、やっていたっけ。
チョコレート、とかチーズ、とか。おおよそダイエットとは無縁そうな味付けのものもあったな。
あかねが持っていたのは、フルーツフレバータイプのもののようだ。
オレンジの箱に印字されている英語の文字の色で、味のタイプは見分けられるらしい。
でも、
ダイエットしたいくせに菓子を食うのか?・・・というより、だから痩せないんじゃないのかと、俺が尤もな質問をあかねにしたところ、
「ダイエット補助食品はお菓子とは違うわよっ」
何故かあかねに怒られた。非常に理不尽だ。
あげく、
「楽しく美味しく痩せる為には、食事の代りにこーゆーのを摂取した方がいいのよ!」
どう考えても、雑誌の受け売り。
語調が強い割には説得力にかける主張をしながら、手にしたガロリーメイトの箱を開けていた。
どうやら夕食に居間に降りてこなかったのも、このガロリーメイトを夕飯代わりに食べるつもりだったから、らしい。
・・・
「・・・おまえなあ」
でも。
素直で単純なあかねらしい、短絡的な発想。
昨日まではそんなことを一言も言っていなかった、ということは思い立ったのは今日ってことだ。
思い立ったその日にいきなりガロリーメイトを買い込んでくるという、こういう事には異常に行動的なあかねに思わずため息をつきつつ、
「そんなに痩せたいのか?」
「痩せたいわよ。女の子は誰でもそう思うのよっ」
「なーにが女の子は誰でも、だよ。それにおめー、痩せる必要、ねーだろーが。だいたいそれ以上貧弱な身体にしてどーす・・・」
「余計なお世話よ!」
ゴスっ
あかねが俺のミゾオチを思い切り拳で突いた。
いてて、と俺はその部分をさすりながら、俺は空いている方の手で、ミゾオチを突いたあかねのその拳を掴んだ。
そして、ガロリーメイトの箱を持っていたあかねの身体を再びベッドの方へと引き戻すと、
「これは没収します」
「なんでよっ」
「こんなの食うより、普通に飯食っていたほうが絶対にいいって」
「そんなことないもんっ」
「極端にダイエットなんてすると、おめー、絶対に倒れたりするじゃねーか。それにストレスたまって、発散に付き合わされる俺が可哀想で仕方がねえ」
そう、あかねのストレスがたまった場合は、あたられて手合わせさせられて、挙句の果てに夜もお預けを食う俺の身が堪らない。
なので没収します、と、俺はあかねの手からガロリーメイトを取り上げて、ぽいっと部屋の隅に投げた。
その代わり、
「その代わり、いいダイエット方法教えてやるよ」
「いい方法?」
「そ。汗もかけて、お腹もすいて、スッキリできるぞ」
そう言って、満面の笑みを浮かべながらあかねを再び組み敷くような形で上から見下ろした。
「・・・痩せるかどうかわからないじゃない」
俺のその笑みで何かを察知したのだろうか。
あかねが最後の抵抗で、覆いかぶさってくる俺の胸を押し返そうとしながらそうぼやくけれど、
「痩せるよ、確実に」
「何で分かるのよ」
「だって動き、激しいもん」
「はげっ・・・あ、あんた何言ってんのよっ」
「どうしても痩せたいんだろ?じゃあそれに比例して動きも変わるのが自然の法則だろ」
「このケダモノー!」
「痩せられるスッキリ出来るし楽しいしー・・・俺って何ていい提案するんだろうか。付き合ってやるよ」
俺は笑顔でそう答えると、抵抗していたあかねを軽く押さえ込んでそのまま覆いかぶさった。
あかねはそんな俺の下で初めは必死に抵抗していたけれど、
身体の大きさも力の強さも結局は叶わない事が分かっているのか、やがて大人しくなり、ため息をつきつつも覆いかぶさってきた俺の身体に腕を回した。

 

無論この二時間後、
「お姉ちゃん、お腹すいた」
「あかねちゃんも、乱馬君も来るのが遅いからおかず冷えちゃったわよ」
・・・お腹をすかせたあかねが、上機嫌の俺と共に居間で少し遅い夕食をめいっぱい食べた事は言うまでもない。

 

 

 

ほーらな?
あかねには、ガロリーメイトとか妙なエクササイズとかでダイエットをしていくよりも、俺が精一杯協力してやるのが一番だ。

 

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