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ウサギ・うさぎ?
「えー?着ぐるみ?」
「そう。ウサギの着ぐるみをつけて踊れる子を探しているのよ」
「それが何であたしなのよ?」
「あかね、前に一度くらいならやってもいいって、言ってたじゃない」
「そ、それは・・・」
「平気だって。町内会で行われるバザーの余興だから。全身着ぐるみだから中身があかねってばれることもないし。それに虎と狸も一緒だから」
「いや、別に虎と狸はいいんだけど・・・」
とある週末の放課後。
あたしは、教室でクラスメートにそんなお願いをされて頭を下げられている。
何でも、町内会のバザーの余興でぬいぐるみダンスをやることになっているそうで、
本来ならば彼女の妹がその役を引き受けていたのだけれど、急遽部活動が入って参加できなくなってしまった。
着ぐるみを着るだけならばまだしも、ダンスを短時間で覚えなくてはいけない・・・ということもあり、クラスでもスポーツ万能と名高いあたしに白羽の矢が立ったんだけど、
「えー、でもあたしに出来るのかなあ・・・」
「あかねなら大丈夫だよー。それに、着ぐるみ着てくれたら時給2000円なんだよ?」
「えー!・・・でも、せいぜい1時間が限度なんじゃないの?着ぐるみなんて」
「まあね。ほらー、でもいいじゃない。1時間着ぐるみ着ただけで2000円だよ?ね、お願い!友達を助けると思って!」
友達があまりにも必死、且つ何度も頭を下げるので、その根気に負けてあたしはその話を引き受けることにした。
そしてその日はそのまま彼女の家に行き、着ぐるみを着てみたりダンスを練習をしてみたりしたけれど、
ダンス自体は彼女が言ったとおり簡単だったけれど、着ぐるみを着用して踊るのは難しい。
しかも、小さな動きでは見ている人は分からない、ということで、足を上げるにも横を向くにも、お尻を振るにも大きな動きをしなくてはいけないのはかなりの重労働だ。
「うーん・・・こう、こう、かなあ?」
練習を終えて家に帰ってきた後も、
あたしは一人部屋の中で、覚えてきた着ぐるみダンスの振りを鏡を見ながら練習していた。
と、そこに。
「お、何してるんだ?求愛ダンスか?」
妙に調子のいいこと、そしていつものように呼びもしないのに、乱馬が部屋にやってきた。
「何よ、求愛ダンスって」
「何だ、知らねえのか?動物の中には、異性に求愛をするときダンスを踊るという・・・」
「求愛ダンス自体の事を聞いてるんじゃなくて、何であたしがそんなことしなくちゃいけないのかって意味よ」
「求愛するからじゃねーか?」
俺に・・・と、乱馬はニコニコしながらあたしに擦り寄ってくる。
求愛しなくても自分からくっついてくるくせに・・・とあたしは心の中で思いつつも、とりあえずそのまま少しの間乱馬とくっついていた。そして少ししてから離れた後、
「人に頼まれて、アルバイトをすることになったの。一日だけだけど」
あたしは、どうして自分が部屋でダンスを踊っていたかを乱馬に説明をした。
「アルバイトって?」
乱馬はベッドに腰掛けつつ、一度離したあたしを再び自分の膝の上に乗っけながら尋ねる。
「あのね、ウサギなの」
「・・・ウサギ?」
「ウサギの格好でね、みんなの前で踊るの。1時間2000円なんだって」
あたしは乱馬にそう答えると、小さなため息をつきつつ、
「でもねー・・・思った以上に大きな動きをしないと、見てくれる人が分からないし喜んでくれないみたいなんだよね」
と、ぼやいた。
もしかしたら乱馬なら、何かいいアドバイスをくれるんじゃないかな?ぼやきながらあたしはそんな事を思い、あたしの話を聞いていた乱馬をちらりと見るも、
「・・・」
何故か乱馬は、あたしの顔を妙に真剣な顔でじっと見ている。
いや真剣、というか何だか・・・怒ってる?
「え、な、何?」
ウサギの格好であたしが踊ることが、もしかして彼氏として恥ずかしいのかなあ?
自分なんて、女装して売り子とかチアリーダーとか平気でしていたくせに・・・なんてこっそり思いつつも、あたしは恐る恐る乱馬にそんな事を尋ねた。
すると、
「・・・ウサギは、全身ウサギなのか」
「え?うん、勿論だけど・・・」
「耳もつけるのか」
「つけるというか、ついてるんだけど・・・」
「尻尾は」
「は?」
「ウサギの尻尾までつけて、まさかお前・・・みんなの前でさっきみたいに尻振ったりして踊るつもりじゃねえだろうな・・・?」
「お、踊るけど・・・」
「くっ・・・」
何故か妙な質問を散々した挙句、乱馬はうめき声を上げて顔を伏せてしまった。
しかも、若干震えているような気がしているのは気のせいか?
「乱馬、何かおかしいの?」
一体どうしたんだろう。
クーラーが効きすぎて部屋が寒いって訳ではなさそうなんだけど・・・と、不思議に思ったあたしが乱馬の顔を思わず覗き込むと、
「許さねーぞ!」
「え?」
「そんなバイト、俺は許さねー!」
乱馬は何思ったのかいきなり大声でそう叫び、膝の上に抱いていたあたしの身体を、ベッドの上にゴロン、と転がした。
「ひゃっ・・・」
ベッドのスプリングの反動で、あたしの身体が軽くバウンドをする。
乱馬はそんなあたしの身体の上に素早く自分の身体で回りこむと、
「バニーか!」
「・・・は?」
「1時間2000円で、バニーの格好か!」
「え、あのちょっと・・・乱馬?」
「そんなにこのいやらしい身体を惜しげもなくっ・・・全身でバニーの格好、網タイツで、客を喜ばせる踊りなんて俺が許さねー!」
あかねは俺のあかねなのにっ・・・とか何とか。乱馬は訳の分からないことを叫びながら、急に下に組み敷いているあたしの服を脱がしにかかった。
「ちょ、ちょっと待って!あ、あたしはバニーなんてやらないわよ!」
「今更罪の意識か!」
「つ、罪ってなによっあ、あたしは本当に・・・」
「そんなにこのいやらしい身体を人に見せたいなら、俺が!俺が全力を持ってその役をっ・・・」
「きゃー!!」
・・・訳の分からないことを叫んでいる割には、乱馬の力は強い。
あっという間にあたしは着ていた服を剥ぎ取られ、乱馬の腕の中にすっぽりと収められてしまう。しかも手際よく、ベッドの掛け布団をあたし達の身体にかけることも忘れないところが憎たらしい。
「ウサギー・・・あかねウサギか。男を誘惑する悪いウサギだから、捕まえておかないと」
布団の中でべったりとあたしにくっつきながら、乱馬がそんな事をぼやいていた。
「誘惑なんてしないもん」
「嘘だね。バニーであんなダンス踊るなんて、絶対に許せねーな。お仕置きだね」
「だから、バニーじゃないもん。ウサギの着ぐるみだもん」
「はあ?」
「だからっ・・・ウサギの着ぐるみ着て踊るだけなのにっ・・・」
人の話を勝手に解釈して!・・・と、あたしはぼやいた乱馬の口を指でひねってやりながらそう叫んだ。
「何だ、バニーじゃねえのか」
「最初からそう言ってるじゃない!」
「ウサギって言うから俺はてっきりバニーかと」
ようやく真実・・・というか自分の勘違いに気が付いた乱馬は、勝手にほっと胸を撫で下ろすような素振りをしつつ、
「着ぐるみだから、顔も体形も分からないのはいいけど、着ぐるみって大変そうだよな」
「そうよ。暑くて動きも鈍くなるから、大変なんだから!それをねぎらってくれるのかと思いきや、いきなり襲い掛かってくるなんて」
「人聞き悪いなあ。それもこれも、俺のあかねを思う気持ち故の・・・」
「はー・・・何か着る前に疲れた」
「どうせ疲れるなら、疲れるついでに色々と・・・」
とか何とか言いながら、呆れた表情でため息をついていたあたしに再度擦り寄ってきた。
「・・・」
ダンスの振りも練習したいし、きっと二時間とはいえ明日は体力を消耗するだろうに。
だからこそ、今日は練習してさっさと寝ようと思っていたのに、これじゃあ疲労感二倍に倍増間違いない。
ウサギはウサギでも、説明する時には気をつけないと偉いことになるんだわ。
「しょうがねーなー、じゃあ俺は最前列で飼いウサギをしっかり監視してないと・・・」
「・・・」
いつの間にか勝手に飼い主になっている狼少年にため息をつきつつ、あたしは布団の中で擦り寄られている身体を何とか捩りつつ、体力消耗を回避する攻防を繰り返したのだった。
