「だからさー、そんなに心配だったら首に縄でもつけておけばいいじゃない」
「俺だって出来ることなら、そうしたいくらいだ」
・・・ある日の夜。
お風呂から上がったあたしが居間に行くと、テレビを見ながらなびきお姉ちゃんと乱馬がそんな会話をしていた。
二人が見ているのは、ペット特集。
飼い主がちっちゃい犬を散歩させている映像が流れていた。
その飼い主は、
「この子はおりこうさんだから、リードを離してもどこへもいかない。心配は心配だけど・・・」
とか言っているけれど、
スタジオにいるタレント達は、小さい犬だからこそ車に引かれてしまう可能性がある、とかなんとか、コメントをしていた。
お姉ちゃんと乱馬も、ちょっと聞いた感じだと同じようなことを言っているし、恐らくそこから発展して「もしも犬を散歩させるなら・・・」みたいなことを話しているのかもしれない。
ま、現実的には、うちにはパンダと豚しかいないから、リードをつけて飼うようなものはないんだけど。
・・・
「・・・」
あたしはそんな事を思いながら、乱馬の隣にちょこんと座り込んだ。
すると、あたしが隣に座った途端、なびきおねえちゃんから見えないように何故か、乱馬の手があたしへとスルスルと伸びてきた。
かなり、素早い反応だった。
しかも、
「・・・」
乱馬の手は、ただあたしに触れるだけでなくちゃっかりと、膝や太ももを撫で始める。
「・・・」
・・・あのねえ、痴漢じゃないんだから!
あたしはそんな乱馬の手をぎゅっとつねってやると、乱馬はすごすごと手を引っ込め・・・たように見せかけ、今度は作戦を変え素早くあたしのその手を、ぎゅっと握る。
どうやら乱馬のヤツ、どうしてもあたしに触れていたいようだ。
「・・・」
・・・まあ、手ならしょうがないかなあ。
あたしはやれやれ、とため息をつきながら、握ってきた乱馬の手をきゅ、っと握り返してやった。
と、
「・・・じゃあ乱馬くんは、せいぜいその縄が取れないようにきつーく、縛って管理してあげなさいよ」
「取れない縛り方を研究しないといけねえな」
「一緒に手も縛っておけば?取れないでしょ」
「あー、そうか」
再び目線はテレビに向かいつつ、あたしのすぐ傍でなびきお姉ちゃんと乱馬が話の続きを始めた。
でも、二人は何だか妙な事を言っているような?
「・・・首はともかく手まで縛ったら、散歩できないじゃない」
そう。テレビに映ってる犬の散歩の話をしているはずなのに、妙な事を二人は言う。
基本的に犬は四足歩行。後ろ足だけで歩く犬なんて、雑技団だって探すのが難しいでしょうに。
だいたい、手を縛ったら歩けないでしょう?・・・あたしがそんな事を思っていると、
「歩けるわよ、手ぐらい縛ったって」
「えー、二本足で?そんなの世界びっくりニュースとかじゃないんだから見たことないよ。そういうのって動物虐待になるんじゃないの?犬だって疲れるだろうし・・・」
「犬じゃないわよ、あんたの話よ」
「・・・は?」
「手ぐらい縛られたって平気でしょ」
「あの、お姉ちゃん?一体何の・・・」
「それよりあんた、首に縄つけられたら四足歩行になるの?まー、乱馬君は大喜びね。散歩なんて連れて行けないわね、室内専用よ、室内」
なびきお姉ちゃんは怪訝な表情をするあたしに対しそう言って、にやりと笑った。
・・・どうやらお姉ちゃんと乱馬は、あたしの話をしていたらしい。
「・・・」
でも、ちょっと待って?
『だからさー、そんなに心配だったら首に縄でもつけておけばいいじゃない』
『俺だって出来ることなら、そうしたいくらいだ』
・・・ってどういう意味なの?
『じゃあ乱馬くんは、せいぜいその縄が取れないようにきつーく、縛って管理してあげなさいよ』
『取れない縛り方を研究しないといけねえな』
『一緒に手も縛っておけば?取れないでしょ』
『あー、そうか』
・・・って何なの!?
何であたしが首に縄をつけられ、あまつさえ手まで縛られて乱馬に管理されていなくちゃいけないのよ!
しかも何で二人で、勝手に納得しているわけ!?しかも、TVのペット特集を見ながら!?
あた、あたしのこと、一体どんな認識でっ・・・
「・・・」
あたしがそんな事を思う横では、
「いいわねえ、あかねは。それぐらい深く愛されちゃって」
お姉ちゃんが妙に笑顔でそんな事を呟いている。
乱馬は乱馬で、
「あ、併用でさるぐつわ・・・」
・・・一体彼の頭の中では、あたしはどんな姿になっているのだろうか。
何が「併用」なのか良く分からないけれど、
聞くのが怖いようなことを彼は口走っていた。
「・・・」
どうしておねえちゃんも乱馬も、あたしを動物のような認識でいるわけ?
乱馬に至っては、何であたしを「管理」しようとしているわけ!?
何だかもう、突っ込んでやりたくて抗議をしてやりたいことが次から次へと出てきて、何から言っていいのか分からない。
「・・・」
でも、あたしが今更そんな事を思ったところで・・・この二人の認識が変わることなんて、ないんだろうなあ。
「・・・」
あたしは、妙にそわそわとしている乱馬に依然として手を握られつつ、大きなため息をついたのだった。