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→違いは××?

「ね、お姉ちゃん。コレとコレはどう違うの?」
「はあ?あんた、何なのよ急に。何、その雑誌」
「いいじゃない、気になっちゃったんだもん。教えてよ」
「しょうがないわねー、コレは・・・」

 

ある日の、夕食後。
食べ過ぎて急激な睡魔に襲われた俺が、居間でウトウトと居眠りをしながら食後のひと時を過ごしていると、そんな会話が耳に入ってきた。
なびきはいつものように居間のテレビを陣取っていて、あかねはその近くで雑誌を読んでいたようだ。
その雑誌の中に分からない言葉でもあったのか、それをなびきに尋ねているらしい。
「・・・というわけよ。分かった?」
「うん!ありがとう、お姉ちゃん」
「ったく、妙な所で勉強熱心なのねえ・・・」
なびきは、あかねが質問した事に対しブツブツと言いながらもきちんと答えていた。
・・・俺は思うんだけど、なびきの奴はあかねに対しては何だかんだ言っても優しい「姉」として接しているように思われる。
俺や九能先輩なんかに対する守銭奴のような姿に比べると、ぶっきらぼうではあるけれど随分と柔らかいような気がする。
だからあかねも、時々はとんでもない事を吹っかけられたり酷い目に合わされたりするけれど、なびきの事を慕っているんだろうな。
だいたい、俺が今のあかねと同じ質問をなびきにしたら、アイツは確実に俺から金を取るだろう。「情報提供料」とか言って。
まあ、俺だってあかねと接するのとなびきと接するのとでは気持ちも態度も違うから、誰かが誰かに対する態度って言うのが違って見えるのは仕方がないことだとは思うけど。
・・・
「・・・」
俺がそんな事を思いながら二人のやり取りを聞いていると、
「お姉ちゃん・・・じゃあ、コレは?」
あかねが再び、なびきに質問をした。どうやら、まだ先ほどの雑誌の中に意味の分からない箇所があるらしい。
「あんたねえ、そんなに読んでいて分からないような雑誌なら、読むの止めれば?」
「でも、勉強になるからって・・・友達がくれたんだもの」
「勉強?ったく、しょうがないわねえ。・・・で、今度は何なの?」
「えーとね、『獣』と『ケダモノ』はどう違うの?」
「・・・は?」
「だから、『獣』と『ケダモノ』はどう違うのか教えてよ」
あかねはそれまでと変わらない口調でそう言うと、なびきの答えをじっと待っているようだ。
「・・・」
・・・一体、何の雑誌を読んでいるんだ?あかねの奴。
どんな雑誌を読んだら、そんな事が並列して書いてあるんだ・・・?
「・・・」
俺がそんなことを思っていると、
「ちょっと・・・」
「な、なあに?お姉ちゃん」
「・・・」
なびきは、答えを言う前にあかねが読んでいた雑誌を一度取り上げて、パラパラと中身を見たようだ。
多分俺が思った事を、なびきも思ったのかもしれない。まあ、当然の成り行きだ。
すると、
「・・・ったく、『勉強』の意味をはき違えると大変よ?あんた」
「?何それ」
「別にー・・・」
あかねが読んでいた雑誌を見たなびきは、ため息交じりの口調でそう呟いた。
そして、
「『獣』は、例えばライオンとかトラとか、あとは野生の動物とかをイメージすれば良いわ。分かるわね?」
「うん」
「で。『ケダモノ』は、乱馬君のことを言うのよ。わかりやすいでしょ?」
「乱馬・・・?」
「ほら、夜な夜な夜這いの為に部屋に忍び込んでくる乱馬君の姿を想像してみなさい?大体、『ケダモノ』ってどんなものなのかイメージが掴めるでしょ?」
・・・と、
なびきは一応あかねの質問には答えるも、答え方としては失礼極まりないというかとんでもない事をあかねに言ってのけた。
勿論、眠っているフリをしている俺はあかねたちに悟られないようにしながらもピクピクと、表情を動かしてしまう。
「・・・」
お、俺が『ケダモノ』とは一体どういうことだ?
大体、ほぼ毎晩お互いの合意の上でソウイウコトは成り立つのであってだなあ・・・と、俺はとりあえずほぼ毎晩の夜這いを正当化しつつ、
そんな例えでイメージがつかめるわけがないだろ、と心の中でなびきにぼやいてみる。
ところが、
「ああ・・・分かったわ」
何故かあかねは、そんななびきの適当且つ妙な例えにきちんと納得をしたようで、ため息交じりの声でそう答えていた。
「・・・」
・・・おい、あかね。お前は何故、今の説明で納得をする?
しかも、
「『獣』よりも『ケダモノ』の方が扱いに苦労するのよ」
と更に説明をするなびきに対して、
「そうだね・・・」
はあ・・・と最後にため息までついて同意している始末だ。
「・・・」
違う、それは違うぞ?あかね。『獣』と『ケダモノ』は違うんだぞ、あかね。
というよりむしろ、俺イコールケダモノでは決してないんだぞ?
ていうかお前は何故、今の説明で納得をしているんだ。
「・・・」
・・・起きて怒るべきか、それともココは聞き流しておくべきか?
内容が内容だけに俺の名誉と、その他色々なものが絡む複雑な問題ゆえ、判断に迷う。
そうこうしている内に、
「はあ・・・ありがと、お姉ちゃん」
あかねはそんな俺の気持ちなど全く気にしない様子で、読んでいた雑誌を小脇に抱えて居間から出て行ってしまった。
「・・・」
俺が複雑な気持ちでそのままその場所で身体を横たえていると、
「ねーえ、ケダモノの乱馬君」
そんな俺に対し、なびきが楽しそうな口調で声をかけてきた。
「・・・」
寝ているフリをしている俺は、一瞬身体を竦めつつもじっとしていたが、
「聞いてたんでしょ?あたしって、説明上手だったでしょー?」
どうやらなびきは、俺が実は起きていて二人の話を聞いていたのを感づいていたらしい。
なびきは、動かない俺に向かってそう言うとクックッ、と笑っていた。
「・・・うるせーな」
俺が起きているのを知っていたくせに、俺のことを『ケダモノ』だとあかねに吹き込む、この性格の悪さ。
やっぱりコイツ、あかねに対して接するのと随分と違う。
俺がムクリ、と寝転んでいた畳から身体を起こしなびきを睨み付けると、
「あたし、説明上手でしょ?」
「どこが!余計な事をあかねに吹き込むんじゃねえ!」
「あら、あんなに的確な説明他にはないわよ」
なびきは、全く懲りた様子がなく笑顔で俺にそう言ってのける。
しかも、
「それよりあんた、あかねが読んでいた雑誌見た?」
「見ねえよ」
「あかね、その雑誌を『勉強』の為に友達から貰ったって言ってたけど。居間で堂々と読むような内容じゃないと思うわよ?」
「はあ?」
「あんた達カップルの場合は、彼女がケダモノ彼氏をコントロールするんじゃなくて、ケダモノ彼氏が彼女を教育するんだもんねえ・・・色々と弊害もあるわよねえ」
「な、何だそれは」
「とにかく、居間であの雑誌を読むのはやめるようにあんたが教えてあげなさいよ」
なびきはそう言って、とある月刊誌の名前を俺に告げた。
「・・・」
俺は、思わずその雑誌名に眉をひそめる。
その雑誌は、俺を初めとした男子高校生がコソコソと、コンビニとか小さな本屋で購入しては仲間内でまわし読みをするような、割と過激な成人雑誌。
雑誌の表紙はあくまで「爽やか」に、そしてタイトルも明るめに付けられているけれど、読み進めていくとかなりのアダルトな内容が書かれているものだった。
グラビアはなく、いわゆる官能小説を取り扱ったその雑誌。中には投稿コーナーや小さな企画コーナーもあり、あかねはたまたまその部分から雑誌を読み始めたので、そこに書かれていたわりと過激度が少ない部分の事柄に関して質問をしたらしい。
ちなみに。
何故俺がその雑誌について詳しいかというと、時々昼休みに、俺の悪友達がどこからか調達してきたものをまわし読みをした事があって・・・
・・・
と、それは置いておいて、
「・・・おい。あの雑誌を読むのの何が『勉強』なんだ?」
「さあ?あかね、身体は大人でも知識が子供なのを友達が心配してくれたんじゃないの?ケダモノの彼氏を持つあかねの身を、きっと案じてくれているのよ。優しいのねえ、あかねの友達は」
「どこが!そんな友情、あってたまるか」
「とにかくー、早く何とかした方がいいんじゃない?あの子、今頃部屋で一人であの雑誌読んでいるかもしれないし」
「・・・」
「いいのー?乱馬君」
なびきは俺にニヤリと笑いながらそう言うと、
「さ、あたしは仕方がないからお風呂にでも入ってこようかしら・・・小一時間ばかし暇つぶしをしないといけないかもしれないしねえ」
とか何とか、居間から出て行った。
「・・・」
俺は、若干頭痛を覚えつつもその場から立ち上がり、そしてあかねの部屋にゆっくりと向かう。
・・・何で彼女が妙な本を読んでいる部屋に、俺が注意をするために向かわなければならんのだ?普通は逆なんじゃねえのか?
年頃で、部屋でコソコソとしている男の部屋に母親が注意をしに行く気持ちというのは、もしかしたらこんなものなのか。
ココだけ見ると、あかねの方がケダモノみてだなあ。
まあ、あかねがケダモノ的に俺を襲ってくれるというのなら喜んで身を差し出すけどさ。
・・・
ったく、どっちに転んでも世話の焼ける奴。
「こら、あかね!」
・・・あかねの部屋までたどりついた俺は、ノックもそこそこ叫びながら部屋のドアを開けた。
そして、
「あれ?乱馬、どうしたの?」
「どうしたの?じゃねえ!お前、何て本を読んでんだっ」
「何てって・・・友達が『勉強』になるからって・・・」
「・・・」
俺はツカツカと部屋に入りあかねから本を取り上げると、
「そういう『勉強』は、本に頼らず全て俺が教えるからいーの」
「でも、この本読むとすごく良く分かるよって友達が・・・」
「俺の方が事細かに教えられるはずだから、いいの」
「ケダモノだから・・・?」
「ち、違うー!あのなあ、この本は・・・」
と、あかねが読んでいる本のことを一応は説明した。
そして、
「とにかく、こういうことは本に頼らず実践あるのみってこと。格闘技と一緒だな」
「・・・どこが。単なるエッチなだけじゃない」
「こんな本を一人で部屋で、真剣に読んでいるほうがエッチだろうが」
「そ、そんなことないもんっ。あ、あたしは知らなくてたまたま・・・」
「じゃ、音読して読んでみるか?一緒に読むんだったら、別に読んでも・・・」
「け、結構よっ・・・」
ようやく本の内容を理解し、自分がしていたことにようやく気づいて真っ赤になっているあかねと並んで寝転びながら、俺はそんな会話を交わす。
そして「せっかくなので実践を・・・」と、俺が寝転んでいるあかねに手を伸ばすと、
「ああ、先が思いやられるわ」
「何が」
「だって・・・あたしはケダモノに実践指導を受けているわけでしょ?」
「だーかーらっ。俺はケダモノじゃねえっての。それに、俺よりもお前の方がよっぽどケダモノだぞ?」
「な、何でよ」
「だーって。一人で、部屋で真剣にアダルト雑誌とか読んでるわけだしー・・・あ、もしかして」
「もしかして、何よ」
「満たされない欲望を、口実をつけて雑誌を読む事で満たそうと・・・」
「違うわよっ」
あかねは力いっぱい、真っ赤な顔で否定しながらも、大きなため息をついていた。
俺はそんなあかねに構わず抱きつき腕を身体へと回しつつ、表情をさっと改めると、
「なあ、あかね。俺・・・お前に一つだけ忠告をしておくぞ」
「な、何よ急に・・・」
「・・・コウイウ本は、隠し場所には注意しろよ?ベッドの下はすぐに見つかるぞ。本棚の後ろとかドレッサーの中とかがいいんじゃないか?この部屋、押入れがないからなあ」
さりげなくあかねに、本の隠し場所まで実践指導をしてやった。
そんな俺は、自分的にはどこまでも優しく出来た彼氏だと思っていたけれど、
「な、何の忠告だー!・・・ていうより、あんたもしかして押入れにそういうものを隠してるわけ?」

やっぱりケダモノだわ。

・・・何故かそれ以来、事あるごとにあかねに「ケダモノ」といわれ続けるようになった。
どうやら、彼女に対して惜しみない優しさを注ぐ男と、ケダモノ彼氏はどうやら紙一重のようだ。
違いは・・・あまりない?

 

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