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恐怖の××

 

『彼に言われて、すごく怖かった事があるんです』
『ほう、それはどんな?』
『彼、実は眠る時に目をつぶる事ができないそうなんです。だから、気を許した人じゃないと一緒に眠る事が出来ないって。私も初めは驚きました・・・』


ある日の夜。
テレビをつけると、ありがちなトークバラエティが放映されていた。
今夜のテーマは、『恋人に言われて怖かった事』。
どうやら今ピックアップされている女優さんは、恋人が眠る時に目を開けたまま眠る・・・ということを告白され怖かったと、言っているようだ。
「こんなの、怖いうちに入らないじゃない。怖いって言うより面白い部類よね」
と。
あたしの横でお菓子を食べながらテレビを見ていたなびきお姉ちゃんが、ボソッとそう呟いた。
「えー、怖いよう。だって、目を開けたまま眠るんだよ?」
「そんなの、アイマスクでもさせときゃ良いのよ」
なびきお姉ちゃんは、ぼりぼりとスナック菓子をかじりながらそう呟くと、
「怖いって言うのは、たとえば『多重人格者』だとか、『暴力をふるってしまうんだ』とかじゃないの?一般的には」
「一般的って・・・一般じゃない人は?」
「あたしなら・・・そうね、『僕、預金ゼロなんだ。』かしらね。金持ちだと思って付き合ってたのに、預金ゼロってことはあたしがそのツケ払うってことでしょ?
それに、そんな計画性の無い男はだめね。将来が期待できないわ。
まあ、そんな男とは付き合うつもりも無いけど、付き合ってから気がついたら嫌じゃない。怖いって言うよりお断り、って感じかしら」
世の中、金よ金。
お姉ちゃんはきっぱりとそう言いきった。
理由と言い、理論と言い本当にお姉ちゃんらしい。あたしはそんなことを思った。
「あんたはどうなの?」
と、その時。
テレビがCMになったのもあり、お姉ちゃんがあたしに今度は質問を返してきた。
「どうって?」
「乱馬君に言われて怖かった事、ないの?」
「怖かった事・・・」
お姉ちゃんの質問に、あたしは少し、考え込む。
乱馬は基本的に隠し事はしない方だし、あたしが脅えるような事は普段から言わない。
「・・・今までそう言う事はいわれたことない」
あたしがお姉ちゃんに答えると、
「じゃあ、言われたら怖いなあって思う事は?」
「そうだな・・・」
あたしは、再度考えてみる。
・・・怖い、というか嫌だなという言葉は、ある。
「他に好きな人が出来た」とか、言われたらショックだと、思う。
可愛くねえとか、色気がねえとか、そういったいつもの暴言じゃなくて、
真剣な気持ちでその言葉を言われたら嫌だなあ。
「・・・」
あたしは、そんなことをお姉ちゃんに伝えた。
すると、
「それは大丈夫でしょ」
「そんなの分らないじゃない」
「分るわよ。あの男、あんたが思う以上にあんたにベタぼれだから」
お姉ちゃんはそう言って、カラカラと笑った。
そして、
「あたしはてっきり、もっと別の事だと思ってたわ」
「別の事?」
「そうよ。絶対にこれを言われたらあんた、乱馬君から怖くて逃げるわよ」
「?なんだろう・・・」
「教えてあげようか?」
なびきお姉ちゃんはそう言って、あたしの耳元へそっと囁いた。
それを聞いたあたしは、
「!」
思わず息を飲む。そして、
「あー、いい風呂だった」
その直後、お風呂に入ってさっぱりした様子で居間にやって来た乱馬を、
「きゃー!」
ボコっ
・・・理不尽にも殴り倒し、あたしは自分の部屋へと駆け込んでいく。
「な、なにすんだよっ」
もちろん、あたしにわけもわからず殴られた乱馬は不服そうな顔で叫んでいた。
「さー?乱馬君が急に怖くなちゃったのかしらねえ」
「はー?何でだよ」
「さあ。・・・まあ、あえて言うならば春だから?ありえなくはないことだし」
「なんだそれ」
「あ、でも乱馬君は一年中なのかしら」
「?」
なびきお姉ちゃんの不十分な説明にも、もちろん納得でいないようで、
「おいこら、あかね!入るぞ!」
「いやー!来ないでケダモノー!」
「は、はあ!?何だよそれっ」
「何でも!」
「なんなんだよっ。俺が一体何をした!」
結局乱馬は、あたしを追って部屋に来て、
「俺が何をしたー!」
「こ、来ないでってば!」
「わけわからんことばっかり言うと、襲うぞ!」
「きゃー!
「さあ、話せ!話さないと大変だぞっ」
あたしが理由を話すまで、部屋に居坐ってはそんなことを叫んでいた。


お姉ちゃんがあたしに言った、「乱馬が言ったら怖い事」。
それは、
『俺、今発情期なんだ』
・・・
確かにこんなこと言われたら、恐ろしくて仕方がない。
ただでさえ尋常じゃない体力をしていると言うのに、よりにもよって、発情期!
一体あたしは、どうなってしまうのか。
春先に犬や猫がサカリを迎えるように、乱馬も春先、大変なのかしら。
・・・最も、一年じゅう似たような物なんだけど、あえてそれを宣言されると、


やっぱりなんだか、恐ろしい。

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