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Power Word

 

「あんたも懲りないわねえ。いい加減にしときなさいよ?たった三日で変るわけないじゃないの」
「いいの!皆変るって言ってるもん!」
「だいたい、そんなにスタイル気にするほどじゃないでしょ?」
「そんなことないもん!もっとウエストだって細くしたいしメリハリだって…!」


とある週末、夕食後。
…とはいっても、用意された夕食に殆ど手をつけなかったあたしは、自分の部屋で雑誌片手にストレッチに勤しんでいた。
このストレッチは、なんと「三日間行うだけで身が引き締まる」と噂されているもので、
「あたしもね、三日間続けたらウエストがニセンチも縮んだの!」
「あたしなんて、ふくらはぎがきゅっと引き締まったのよ!」
…クラスの中でも、人気上々。いまや、クラスの女子の半分は、このストレッチを知っているほどの知名度だ。
もちろん、そんなに人気のあるストレッチをあたしも知らないわけがない。
ましてや、ダイエットとかプロポーション維持に興味があるあたしが、これをやらない手立ては無い。
そんなこんなで、あたしは食事もそこそこ、こうして部屋にこもり噂のストレッチを行っているわけだけれど、
雑誌を片手に夢中になってストレッチをしているあたしの傍らでは、呆れ顔のなびきお姉ちゃんが立っている。
夕食をたらふく食べたはずなのに、右手にアイスを握り舌で舐めながらあたしを見ているお姉ちゃん。
あたしよりも確実にたくさんご飯を食べるのに、あたしよりもスタイルが良いお姉ちゃんには、こんなストレッチなんて無縁なのかもしれない。
それはそれで悔しいけど、今はそんなことをぼやいている暇は無いわけで。
「あんた、痩せるよりもどちらかといえば太らなくちゃいけないくらいじゃないの?」
「そんなことないもん!」
「ストレッチだけならともかく、ご飯まで抜いてどうするのよ。無茶なダイエットしてると、倒れるわよ?人間、食事が基本なんだから」
「いいの!誰がなんと言っても、続けるもん!これをやれば身体が引き締まって理想のボディになるって、みんな言ってるんだから!ご飯を抜いてやれ ば、もっと効果的だってみんな言ってるもん」
あたしは、止めさせようとしているなびきお姉ちゃんの言葉には耳も貸さずに、一人ストレッチに勤しんでいた。
と。
「おい、あかね。お袋とかすみさんが、ご飯をちゃんと食べろって心配してるぞ?」
コンコン、とドアをノックする音が聞こえて、すぐに乱馬が部屋の中に入ってきた。
「…何してんだ?お前」
雑誌片手に奇妙なポーズをしているあたしを見て怪訝そうな顔をする乱馬に、
「無茶なダイエットとストレッチしてるのよ」
なびきお姉ちゃんが、あたしの代わりに乱馬に答えた。
「はあ?おめえも懲りねえなあ」
乱馬はそれを受けて、ポーズをとっているあたしにため息をつく。
「ダイエットって…ただでさえ貧弱な身体してるのに、それ以上貧弱にするつもりか?」
その上失礼な事をずけずけという乱馬に、
「ほっといてよ!これをやれば、出るトコは出て引っ込むトコはキュって引き締まる理想のボディになれるんだから!」
ゴスっ
手にもっていた雑誌を思い切り投げつけ、あたしはストレッチに没頭をする。
「言ってもダメなのよね、ぜーんぜん。どうしてもウエストをくびれさせたいんですって。別に必要ないのにねえ」
お姉ちゃんは、雑誌を顔面に直撃させて蹲っている乱馬の肩をぽんぽんと叩きながら、部屋を出て行ってしまった。
ふーんだ、お姉ちゃんみたいに苦労しなくてもいい人には、あたしの気持ちなんてわからないわよ。
あたしは心の中でそんな事を思いながら、ストレッチを続けていた。
「…」
お姉ちゃんが出て行った後、部屋に残されたのはあたしと乱馬のみ。
勿論あたしはストレッチ中。乱馬は、ぶつけられた雑誌を、顔を抑えながら眺めている。
「なあ」
と、そんな中。乱馬が再び、あたしに話し掛けてきた。
「なによ!今忙しいんだから!」
あたしが『ボディにくびれを出させるポーズ』とやらを実行するべく、足を天井に向かって伸ばしたりしていると、
「それ、ボディにくびれを出させるポーズって、このページに書いてあるんだけど。このストレッチ、ダイエットだけに有効ってわけじゃないのか?やると、痩 せるだけじゃなくて身体がくびれるのか?」
乱馬は、顔面にぶつけられた雑誌のストレッチが掲載されているページを読んだのか、そんなことをぼそっと呟いた。
「そうよ。だから一生懸命やってるんじゃない!」
あたしは、足をグッと伸ばしながらそんな乱馬に叫んだ。
すると。
「ふーん」
あたしのその叫びを受けた乱馬は、何だか曖昧な声を出す。
一体どうしたのかしら。また、「くだらねえな」とか思ったのかしら。
あたしがそんな事を思いながらストレッチを続けていると、そんなあたしに対し、乱馬は妙なことをぼそっと…呟いた。
「なあ」
「だから何よっ。あたしは今忙し…」
「これ以上、ヤラシイ身体になってどうすんの?」
「…」
…乱馬の言葉に、あたしはぴたっと動作を止める。
天井に向かって伸ばしていた足をゆっくりと降ろし、そんな事を呟いた乱馬のほうをじっと見ると、
「ふーん、『腰にくびれを出させ胸をぐっとアップ』か。お、こっちは『身体の中まで引き締めるストレッチ』。へー…」
乱馬は、そこに書かれている文句と、あたしの身体を交互に見てはなにやら頷いたりニヤッと笑ったりしている。
「…」
そんな乱馬に、あたしの中の何かが「危険」を告げていた。
「…」
あたしはすぐさまストレッチを止めると、雑誌を乱馬の手から引ったくって、慌てて自分の部屋から出て行く。
そして、


「あら?あかね。ダイエットとストレッチはやめたわけ?」
「まあね。…」


あたしはそのまま居間へと行き、おねえちゃんやおば様が用意してくれていた夕食を食べ始めた。
「あれだけあたしが忠告してもやめなかったのに。乱馬君が言うと違うのねえ」
愛がある忠告は、やっぱり力があるのねえ。さっきとは一転してごはんを食べ始めたあたしに、なびきお姉ちゃんがにやりと笑いながらそう言うも、
「…」
愛のこもった忠告だって、必要以上に愛がこもり過ぎていると困るんだけど…。あたしは思わずため息をつく。
そんなあたしの横では、
「なんでだよっ。何でやめるんだよっ」
あたしとは逆に、さっきとは一転してストレッチを進めようと、あたしが持って出てきた雑誌のストレッチ掲載ページをわざわざ広げ、「これ、これ」と例の ストレッチやら別のやら…「自分好み」のものをあれこれと提示してあたしにアピールする乱馬がいた。
そんな様子を見たお姉ちゃんは、
「…あんた達、一体どういう会話を交わしたらこういう展開になるわけ?何で乱馬君があんたにあのストレッチを進めてるのよ」
と、不思議そうだ。
もちろんあたしは、
「実はねー、乱馬が色々と妙な想像を始めてねー…」
などとはお姉ちゃんに言う事はできず、「別に」と曖昧に誤魔化すのみ。
とりあえずは、乱馬の目の届かない所にあの雑誌は隠しておこう。ご飯を食べながら、あたしはそんなことを心に誓ったのだった。

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