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→鬼ごっこ

「えいっ」
そんな事を言いながら、あかねが俺に抱きついてきた。
さっきまでは、やれ
「シャンプーに抱きつかれるなんて隙がありすぎるのよ」
だの、
「あんたが優柔不断だからいけないのよ」
とか。
さんざ文句を言われていたはずなのに、それとは打って変わったようなこの行為に、俺はいささか戸惑ってしまった。

今日も今日とて、シャンプーに、放課後いつものように追いかけられて逃げていた俺。
ようやく家に帰ってくることが出来たら、帰ってくるなり、あかねが不機嫌そうに俺を出迎えた。
あかねにしてみれば、自分をほおって一人、シャンプーとおっかけっこに行ってしまった俺の事が気に食わなかった のだろう。
「乱馬なんて、もう知らないっ」
…なんて。
文句を言うだけ言って、一人で不機嫌そうに本を読んでいたくせに。
その不機嫌な様子を何とかして直そうとして、部屋にやってきた俺が、
「しょうがねーだろ、俺だって好きで追いかけられてたわけじゃ…」
「どうだか。あんた、追いかけられるのが実は楽しいんじゃないの?」
「そんなわけねえだろ!シャンプーに追っかけられたって、別に楽しくねえよっ」
人によるんだよ、と俺がぼそっと呟くと、あかねは一瞬、真面目な顔で俺を見つめた。
そして、そのあと突然、俺に抱きついてきたのだった。

「な、何だよっ…」
いきなりあかねに抱きつかれて、
嬉しい反面驚いてしまった俺が、真赤になりながらそんなあかねから離れようとすると、
「だめよ、逃がさない。だって、掴まえたんだもん」
あかねはそんな事を言いながら、俺の顔を見た。
「え?」
「人にもよるんでしょ。じゃあ、あたしが乱馬を追いかける立場になって、こうやって捕まえたら…どうかなーと思っ て」
そして、こんなことを言いながら俺の顔を見上げる。
「おめーが、俺を捕まえようとしてんのか?」
俺が真赤になったままの顔であかねにそう尋ねると、
「そうよ。ね、ね、楽しい?あたしに捕まえられて」
あかねはそういって、嬉しそうに笑った。
その笑顔が、あまりにも無邪気で、そしてあまりにも可愛い。
「…あーあ、俺、捕まっちまったのか」
俺は、そんなあかねの身体にゆっくりと腕を回した。
そして、そっと額に唇で触れるふりをして、わざとあかねの耳に息を吹きかけてやった。
「きゃっ…くすぐったい」
唇から洩れる吐息が耳に掛かり、あかねがビクンと身体を竦めた。そしてそのまま俺から離れようとしたので、
「離れると、逃げちまうかも知れねえぞ?そしたら、追いかけてくれんのか?」
俺は、わざとそんな事を言ってみる。
「やーよ。あんた、一度逃げるとすばしこくて捕まらなさそうだもんっ。だから、そう簡単に逃がすもんですか」
するとあかねが、今度は躍起になって俺に抱きついてくるので、俺はまたそんなあかねの耳やら首やらに息を吹きかけてやる。
「ちょ、ちょっと!くすぐったいでしょっ…」
「それぐらい我慢しないと、逃げちまうぞ?」
「意地悪!…きゃっ」
何度も何度も必死になって抱きついてくるあかねと、
そんなあかねがわざと俺の身体を離すようなことをしておいて、それでも離れさせまいと意地の悪い事を言う俺。

なので。
ようやく、あかねの機嫌が治った頃には、あかねは俺の、腕の中。
捕まえられていたはずが、いつのまにか捕まえる側になっているが…それはこの際目をつぶり、
「あーあ、完全に捕まっちまったなあ。これじゃ逃げられねえ」
逃げる気など全く無いまま、俺はあかねに囁いた。
そんな俺に対し、
「掴まえた!」
あかねは再び笑顔で、俺にそう言った。そして、そのまま体を預けるようにくっついている。


毎日毎日、放課後に。
シャンプーやうっちゃん、小太刀に追いかけられるのは疲れてしまうけれど、
…そう、
こんな可愛い鬼が俺を捕まえようとしてくれるのなら、鬼ごっこだって、悪くない。

 

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