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→予知能力

「…な、なによ。人の顔、じっと見て…」


とある日の、夕食前。
部屋で宿題をしていたあたしが、ふと視線を感じて振り返ると、何故かベッドの上でマンガを読んでたはずの乱馬があたしの方をジーっと見ていた。
「な、何かついてる?」
あたしが慌てて洋服やら腕やら背中やらを身体をひねってみていると、
「そーじゃなくて」
乱馬はそんな事いいながら、首を右に、左に交互に倒したりしている。
「…肩こり?」
あたしがそんな乱馬の背後に回りこんでちょこんと座り、
「どれどれ、お兄さん。肩、こってますなあ」
そんな事を言いながらその肩をもみ始めると。
「…いまさ。何か急に、あかねが振り返って、俺に声をかけてきて…肩をもみだす光景が頭に浮かんだんだよ」
…不意に乱馬が、そんな事を言い出した。
「え?何それ」
あたしが思わず手を止めて乱馬のほうを背中越しから覗き込むと、
「…ほら、またその仕草」
「え?」
「何だかさっきから、そうされるんじゃないかって…そんな予感がしてたんだ」
乱馬はそう言って、背中越しに覗き込んでるあたしの身体に手を回すと、
「こっち来て、あかね」
そう言って、あぐらをかいている自分の足の上に、あたしの身体をチョコっと乗せてしまった。
「な…何よぅ」
あたしが、何だかまだ座ることに慣れてない乱馬の膝の上で真っ赤になって小さく身体をすぼめていると、
「…」
乱馬は、何だか不思議そうな顔でそんなあたしの頭を撫でる。
あたしが今度は耳まで真っ赤になりながらそんな乱馬を見上げると、
「…そーやって俺を見るあかねの顔がさ、何だかやっぱり頭に浮かんでた」
乱馬はそう言って、頭を撫でる手を止めた。
「…止めちゃヤなの」
あたしは思わずそう言って乱馬にせがんで頭を撫でさせ続けつつ、
「これから起こる出来事が、乱馬の頭の中に先に浮かんで立って事?」
「そう」
「そーゆーのって、予知能力って言うんじゃない?」
「予知能力…」
前に、TVでやってたよ…とあたしは乱馬に説明をした。
すると乱馬は、
「…そしたらさ、俺、超能力者って事か!?」
「…はあ?」
「だってよ、”あかねがこうするだろうっ”って思ったことを実際にあかねがするって事、結構あるもん。そうか、俺は超能力者だったのかッ」
と、何だか妙に嬉しそうにそう言ってニコニコしていた。
「偶然じゃないの?」
いぶかしげに見るあたしに、
「そんなことはねえッ」
乱馬はやけに自信満々に言い張る。
「ねえ、浮かぶのはあたしのそんな行動だけ?他には頭に浮かぶ光景ってあるの?」
あたしがやれやれ・・といわんばかりの表情で乱馬に尋ねると、
「ある!」
乱馬は、妙に元気よく答えた。
「例えばどんな事?」
「聞いて驚くなよ?」
「別に驚かないわよ」
「未来だ!」
「は?」
「未来の事も、俺の頭には映像として浮かんできたんだッ」
乱馬はそう言って嬉しそうに笑うと、自信ありげにあたしに話し出した。
「俺とあかねが、子供を抱きながら話し合ってんだよ。両方の親に喜んでもらえるような、贈り物は何かな?とか」
「…」
「それにな、正月とかにあかねが止せばいいのに台所に篭って料理作って。そんで芸術的なその食べ物、結局俺しか食わなくてさ。だけど、まずい料理の中に一つだけ上手い料理がまじってて…俺がそれを誉めたら実はそれ、お袋が作ったヤツで。”それはお義母さんがつくったのよ”って。おめー、泣きそうな顔で言うんだよ。んで喧嘩して。でもすぐ仲直りして…」
「…」
「あとは…」
そのほかにも、いろんな事を自慢げに話す乱馬を、
「…乱馬」
あたしは、その唇にそっと指を当てて塞き止めると、
「…それってさ、予知能力って言うより…乱馬の未来予想図なんじゃないの?」
そう言って、くすっと笑ってやった。
「未来予想図?予知能力とは違うのか?」
「うーん…だって」
「未来予想図にしろ、予知能力にしろ。どっちみち近い未来に起こることが俺の頭の中に浮かんだって事は、だ。
 ほれみろ、やっぱ俺、超能力者じゃん!」
乱馬は、そんな事を言ってニコニコしていた。
「…あの、あのね?」
そんな乱馬に。
あたしは、ドキドキしながら声をかける。
「あのね?乱馬」


…俺は予知能力がある、超能力者だ!って。
言い張るのはいいけどね、乱馬。
今乱馬があたしに話してくれた「予知」して見えたものってさ。
さっき、あたしが「振り返え」ったり、「肩をもんだ」り。
そーゆーのとはまた違う物だと思うんだけど。
…だって。
だって、よ?
子供を抱いて話し合うのも、御節の料理で喧嘩して仲直りするのも。
それってさ?
必ずあたしが隣にいないと成り立たない事じゃない?
乱馬の「予知」する未来には、必ずあたしが隣にいる…あんた、そう言ってんのよ?しかも胸を張って。
それがどういうことか、分かってんのかな…。



「それにしても、おめーはほんとに未来になっても料理が苦手なんだなあ」
「なッ…いいでしょッ別に」
…その言葉でふと我に帰ったあたしは、
いきなり暴言を吐く乱馬に対して、思わず問いかけようとしていた言葉を飲み込み別の言葉を叫んだ。
すると。
「よくねーよ。おめー、一生俺に感謝するぐらいの勢いでいねーと」
「なんであたしが、あんたに感謝すんのよッ」
「あんな食ったら気絶するくらいまずい飯、文句言いながらも一生食ってやるのなんて俺ぐらいしかいねーだろーが」
「…」
「あー、絶対俺、早死にするよ。あ、でもそんな光景はまだ見えてねえなあ」
乱馬はそう言って、口を閉じてじっと自分を見つめているあたしの唇に、「スキアリ!」とか何とかかんとか言いながら軽くキスをすると、
「俺とあかねが死ぬ所はまだ見えないけど。でもさ、すっげえじいちゃんばあちゃんになってもさ、あのフェンス沿いの道を…手え繋いで歩いてる姿は見たぞ。なんだっけなあ、ほら、昔TVのCMでそんなんなかったっけ?」
と言って笑った。

「…」

…あたしはそんな乱馬の言葉を聞いて、

「…」
「わッ…おまえッ何で泣いてんだよッ」

…涙が出た。



「乱馬。あのね…」
…どうしても、乱馬に伝えたいことがあった。
あたしは、「自称・超能力者」といいはる乱馬とは違って、あんまり「ちょっと先のこと」が思い浮かんだり「未来」が見えることなんてないかもしれないけど。
でも…でもね。
その風景はね、乱馬。
あたしも、ふと頭に浮かんだ事はある。
何でだか分からないけど。
手を繋いで一緒に、あのフェンス沿いのいつもの道を歩いている時に。
すっごい歳をとって、何だかちょっとおじ様を思わせる乱馬と、やっぱりすっごく歳をとって、しわしわになったあたし。
そんなあたし達がその道を歩いているそんな姿が…何故だか分からないけど、あたしの頭に、心に駆け抜けていったことがある。

「あたしも同じ風景…何だか頭に浮かんだ事あるの」

だから、そう伝えたい。乱馬にそれを伝えたい。
…あたしは無性にそう思った。
でも、ビックリして、嬉しくて。
何が何だかわからなくて。
あたしはそのままその言葉を飲み込んだ。


「お、俺なんか変な事言ったのか?」
いきなり涙を流し始めたあたしの頬を両手で挟みながら心配そうに眉をひそめる乱馬に、
「あんたバカじゃないの」
思わず、そんな事を口走る。
「なッなんだよ、人がせっかく心配してやてるのにッ…」
そんなあたしの態度にむっとしたのか、頬を当ててるその手で頬を軽くつまみつつ乱馬が口をとがらせるので、
「…嬉しい時にだって、人は泣くのよ」
そんな乱馬の頬にあたしは手を伸ばし、左右に勢いよく引っ張りながら…あたしはそう言い捨ててやった。
「けッ」
「な、何よッ悪いのッ」
「悪い何て言ってね-だろッ。いーか?嬉しいときってのは?まず、泣く前に」
…すると。
乱馬はあたしの手を自分の頬からゆっくり外すと、その手を胸の前に抱き込むようにして、そのままあたしの身体をぎゅっと抱き寄せてしまった。
「な、何よ…」
その腕の中であたしが少し動くと、
「嬉しい時は、まず俺に伝えるの」
乱馬はそう言って、「よく覚えておくように」とでも言いたそうな顔であたしを軽く睨んだ。
「…」
あたしが赤くなったまま黙ってると、
「…おめーが嬉しい時はさ。俺だって嬉しいんだからさ。…たぶん」
乱馬はそう言って、赤くなっているあたしの頭を自分の胸へとぎゅっと抱え込んで、そう言った。


頭を抱え込まれてしまってるから、乱馬の表情は伺う事は出来ないけれど。
でもきっと、乱馬もあたしと同じような表情をしてるに決まってる。


「…何よー、にやけちゃって」
あたしがそう言うと、
「なッ…に、にやけてなんてねえよッ」
「うそだー。真っ赤な顔してるじゃない」
「なッ…なんでッ…おめーももしかしたら超能力者か?頭に目でもついてんのかよ?」
乱馬は、妙にドキドキと胸を高鳴らせながら抱き込んでいるあたしの頭をわしゃわしゃ、といじくる。
「やーッやめてよねッ」
叫ぶあたしに、
「検査検査。超能力者は、一家に一人で充分です」
乱馬はそんな事を言いながらあたしの頭をいじくっている。


「だーッ。あたしは天道あかねだもんッ。天道家の超能力者だもんッ。早乙女家とは違うもんッ」
「名前が変ると分かってるヤツは、今のうちから芽を摘んでやるッ」
「じゃー、乱馬がうちに婿養子にくればいいじゃないッ」
「オメーが嫁に来いッ」

…そんなやり取りを、いつまでもしているあたし達。
あたし達の頭には、どうやら共通の「未来」が映し出されているみたい。
そんな、複数の人間に描き出される「同じ未来」の予想図は、
きっといつかは「予想図」ではなく、まぎれもない、
「未来図」
そんな風に変る。
そう信じたいと思う。
お互いが描いた未来。
お互いが「予知」した未来に。
隣にいるのがあたしであり、乱馬であったことに幸せを感じながら、

「…ま、害のない超能力者ならもう一人くらい置いてやってもいいかな」
「よく言うわよ。それはこっちの台詞だわ」
「可愛くねー女」
「そんな女が好きなんでしょ」
「そこがホント、不思議なんだけどな」

あたし達はそんな事を言い合いながら、顔を合わせて笑った。
そして何だか無性に乱馬に触れたくなって、それは乱馬も同じだったのか、
「…」
どちらともなく手を重ね、指を絡め…そして、いつまでも寄り添っていた。

 

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