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→呼びたいキモチ

「乱馬」


…くだらない口喧嘩をして、お互いがそっぽを向きながら少し離れて歩いている時。
はじめはそれでも全然構わないって思っていても、時間が経つに連れてどんどん焦って。辛くなって、嫌んなって…寂しくなって。
そんな時は必ずあたしから、少し前を歩いている乱馬の背中に、声をかけてみる。
「…」
そうすると、決まって乱馬は少し不機嫌そうな顔をして…振り返る。
「乱馬」
そんな乱馬に、あたしはもう一回、呼びかけてみた。
「…何だよ」
そうすると乱馬は必ず、
あたしの方へ1歩、また一歩と近寄ってきながら不機嫌に答える。
そんな乱馬の姿を見ながらも、
「乱馬」
更にあたしは、もう一度…彼の名前を呼ぶ。
「…だから、何だよ」
乱馬は、そんな文句と共にあたしの元へとたどり着いた。
そして。
「乱馬」
もう一回その名を呼んだあたしに、
「ほら。行くぞ」
不機嫌そうな表情一転、今度はちょっと照れた顔をしながら乱馬はあたしの手を取り…歩きだした。


「ごめんね、乱馬」
何度も名前を呼んで呼び寄せといて、そしてそんな乱馬に謝るあたしと、
「もういいよ」
あたしに謝る代わりに、ぎゅっ…と繋いだ手に力をこめる、乱馬。


…何故だかは、分からない。
でも、
ちょっとした喧嘩の後に、少し離れて歩く乱馬の背中を見ると、あたしはなんだか、無性に乱馬の名前を呼びたくなる。
必要以上に、何度も。
何を伝えるって訳じゃないけど、何度も。
そして、そうやて乱馬があたしのところに来てくれれば、
そっぽを向いて離れて歩くほど怒っていたはずなのにそれさえ忘れて、もしかしたらあたしはそんなに悪くないのかもしれないけど…
「ごめんね」
…自然にそう口に出してしまう。



「乱馬」
…あたしにとっては、何よりも不思議な魔法の言葉。
いつでも、自然に口にしてしまう…名前。
でもそれと同じように、

「あかね」
「なあに?」
「別に」
「何それ」
「何となく呼んでみたかったんだよ」

…ちょっと照れくさそうにしながら、その後すぐに、乱馬もあたしと同じことをした。


そう、理由なんて分からない。
難しい理屈なんて、いらない。


「乱馬」
「あかね」

…ちょっとした喧嘩の後に出来た、ちょっとした間の距離を。
それを口に出せばすぐに埋めてしまう…不思議な言葉。


一回呼べば距離が縮まり、
二回呼べば二人の心の距離が縮まる。
三回呼べば、お互いが笑いあって、
四回呼んだ時には…仲直り。


どんな魔法の呪文よりも強力な力を持つ、あたしと乱馬、二人の名前。
世界で一番、愛しい名前。

 

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