ノンフィクション
「あかね、あんたんとこのクラスは学園祭、何やるの?」
とある日の、夕食後。
秋口にある学園祭の話をしていた、あたしとなびきおねえちゃん。
不意になびきお姉ちゃんがあたしにそう尋ねた。
「え?今年はね、喫茶店みたいなお店と余興で劇もやるらしいよ。盛りだくさんなの」
あたしがそう答えると、
「劇?演目は?」
「童話系みたい。赤ずきんちゃんとかじゃない?」
「…」
何故か、なびきお姉ちゃんはにやりと笑った。
「な、何よその笑いは」
あたしが少し後ずさると、
「いや、生々しいなあと思って」
お姉ちゃんはそんな事を言って、あたしの肩を叩いた。
「な、何よ。生々しいって」
あたしがお姉ちゃんにそう尋ねると、
「だーって。赤ずきんちゃんてさ、狼に襲われて食べられちゃうお話でしょ。適役なのは良いけれど、観客は見るに耐えられるかなあと」
お姉ちゃんはそう言って、あたし達のちかくでTVを見ている乱馬の背中を指差した。
「お、お姉ちゃん?赤ずきんちゃんて、別に狼に赤ずきんちゃんが食べられてお終いってお話じゃないんですけど…。だいたい、キャスティングだってまだ決まってないし」
「決まってるようなモンでしょ」
「そ、それに…そんな、観客がいるのに妙な劇なんてするわけないでしょッ。原作どおりにやるに決まってんじゃないッ」
あたしが真っ赤になりながら反論すると、
「あんたねえ。高校生の学園祭で、赤ずきんちゃんを童話どおりにやったってつまんないでしょ。もっとこう変化がないと。あ、いっそのことあたしが台本書いてあげようか?」
「け、結構ですッ」
「そう?残念ねえ」
お姉ちゃんはからから笑いながらそう言って、居間を出て行ってしまった。
「全くもう…」
あたしが、居間から出て行ったなびきお姉ちゃんの背中を見ながらため息をつくと、
「…ありだな」
そんなあたしの背後から、ボソッと低い声が突然聞こえてきた。
「?」
あたしが慌てて振り返ると、乱馬はそこで、何事もない表情でそれまで同様TVを見ていた。
(気のせいかしら…)
あたしが首をかしげていると、
「さーて。そろそろ寝るか」
乱馬がそんな事を言いながら、パチン、とTVを消して立ち上がった。
「あ、お休み…」
あたしがそんな乱馬に声をかけると、乱馬は無反応のまま居間を出るけれど、何故か、階段を上に上がっていってしまった。
あたしの部屋で寝る気、満々だ。
「…」
あたしが黙っていると、
「あ、あかね。言い忘れてたんだけど」
そんなあたしの元へ、先に二階へあがったはずのなびきお姉ちゃんが再びやって来た。
「何よ」
あたしがそんなお姉ちゃんに尋ねると、
「実はね…あかねとさっき学園祭の話をする前にね」
「うん」
「すっごく偶然なんだけど。乱馬君にねえ、あたしがふと思いついた、高校生の高校生らしい、大人っぽい”赤ずきんちゃん”ってお話を話して聞かせてあげたよ」
「なッ…何よその大人っぽい”赤ずきんちゃん”って」
「そしたらね、乱馬君いたくそれを気にいってくれたみたいでね。あかねに話してやんなくちゃ…なんて言ってたのよ。夕食前に」
なびきお姉ちゃんはそう言って、わなわなと震えているあたしの肩をぽんと叩いた。
そして、
「さっき階段のところで乱馬君とすれ違ったんだけど。すごく嬉しそうな顔してたわよ」
そう言って、居間からは出ずにそのまま座り込んで消えていたTVのスイッチをつけた。
「お姉ちゃん、寝ないの?」
あたしが首をかしげると、
「妹と将来の義弟思いのあたしは、小一時間ばかりここで過ごさせてもらうわ。感謝しなさいよ」
お姉ちゃんはそう言って、カラカラと笑っていた。
…こうして。
あたしはその日、なびきお姉ちゃんが乱馬に話したという「新・赤ずきんちゃん」を乱馬から聞かされる羽目になるわけで。
童話、というよりも、
「狼少年」が登場する妙にリアルなこの「ノンフィクション」のお話に、
(あたしは絶対、赤ずきん役なんて引き受けないわよッ)
と、あたしに熱心に話を聞かせる狼少年の攻撃を避けながら、心の中で固く誓いを立てたのだった。