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勝利の女神
「乱馬が助っ人に来ると絶対に試合勝てるんだよなーッ」
「そうそう!また、頼むぜ!」
…俺に「試合」の助っ人を頼みに来る奴らは、「試合」が終わるたびに絶対に俺にそう感謝の意を述べていく。
無論、出場した「試合」では、必ずといっていいほど、うちの高校を勝利へと導いていく俺。
お陰で、他校の選手からはかなり疎まれたりもしてるけれど。
でも。
「早乙女乱馬は、歩くスポーツサイボーグ」
うちの高校の奴らからは、どうもそんな風に見られているようで、
「近未来のネコ型ロボット顔負け」
「超人的身体能力だよなー…」
俺の友達であるひろしや大介であっても、そんな事を言う始末だ。
「あのなあ。人をバケモンみたいに言うなよな」
…今日も、バスケ部の助っ人を頼まれて「試合」に出る羽目になった俺は、コートに入る前に軽く準備体操をしながら、応援にきてくれたひろしと大介に愚痴を言っていた。
「いやいや、充分バケモンだって。だって、今週入って三回目だろ?助っ人」
「今日、水曜日だからー…ほとんど毎日じゃねえか。しかも、毎日違う部活で」
ひろしと大介は、顔を見合わせて頷いている。
「あのなあ。俺だって好きで助っ人を頼まれてるわけじゃねえんだぞ?なびきの野郎が、勝手に俺を一日三千円で運動部にレンタルしやがってなあ…」
俺が、ため息をつきながらそう弁明すると、
「なびき姉ちゃんが?何で?弱みでも握られてんのか?」
ひろしが、そんな俺グサッと鋭い質問を切り返してきた。
「に、に、握られてるわけねえだろッ」
俺は即座にひろし達に否定をするけど、ここ数日、俺がこうして色んな部の助っ人をしている理由は、まさに、ソレ。
…実は、あかねの隠し撮り写真を他の奴に売りつけようとしてたなびきからその写真を買い取ったはいいけれど、ネガごと買い取る為には金額が少し足りなくて、
「じゃあ、この一週間あたしの言うとおりに働いてくれたら無償でこのネガ、譲ってあげる」
そういったなびきの言葉に感動し、
「一生懸命働く!」
俺は意気揚揚となびきのその提案を快諾した。
が、相手は「あの」なびき。そんなに美味しい話なんてあるはずもなく、
俺はまるで「激安レンタル用品」のように、各部の助っ人として働くはめになった。
そして、よくよく考えて見ると、
…どー考えても、ネガを買い取る金額よりも、こうして俺が各部の助っ人をして発生する度になびきの元に集まる「レンタル料」の方が高い、という事実に俺は気が付いた。
が、気が付いた時には、後の祭。
今更「やっぱり金で買い取る」とも言えず、俺は今日もこうして時間いくらでレンタルをされてるわけだ。
・・・
「…とにかく。助っ人に来た理由はどうであれ、勝負は勝負。やるからには、俺は負けねえ」
俺は、バッシュのヒモをきゅっと締めながらひろし達にそう宣言した。
「乱馬は、負けねえっていったらホントに負けねえからなあ」
「当たり前だ。どんなものでも、勝負は勝負だからな」
「乱馬のその強気なら、神頼みとか願掛けとか…他の奴らみたいなもんは、いらねえよな」
ひろしはそう言って、俺の背後を指差した。
俺がちらっと振り返ると、うちの高校のバスケ部の連中が、マネージャーにもらったお守りかなんかを握り締めたり神頼みしたり。
十字をきってる奴の横で九字をきっている奴もいたり…と、端からみると妖しい集団のようだが、
「普通はさー。勝負前とかってあんな風に…かどうかは分からないけれど、神頼みとかするもんだぜ?」
「いーの。俺はそんな事しなくても、全然いーの」
「おーおー。すげえ自信だな」
それじゃ、頑張れよ…と、ひろしと大介は、そんな自信満々の俺にそう言い残してコートの外、体育館二階の観覧席へとあがっていった。
(俺は、あんな風に神頼みなんてしねーっつーの)
俺は、ひろし達の後ろ姿を見送りながらもう一度そう呟いた。
そして、
(それに俺には今更、神頼みなんて必要ねえんだよな。だって…)
ひろし達が席についた、その観覧席のもう少し横側へとチラッと目線を動かした。
…そこには。
「…」
試合が始まるのを、今か今かと待ちながら、大きな瞳をキラキラとさせたあかねが座っていた。
バスケなんて、そんなに興味が無いくせに。
いや、バスケだけじゃなくて。
昨日の野球の試合だって、その前のラグビーの試合だって。
そんなの全然興味ないくせに、いつだって、観覧席の端っこにこっそりと座っているあかね。
端っこの方に座ってるから、大人しく試合を見てるのかなー…と思いきや、
一度俺が何かミスをしようものなら、
「こらー!何やってんのよ、ばかーッ」
「しゃきっとしなさい!」
運動部員も真っ青の大きな声で叫ぶ。
でも、俺が一度ゴールを決めたりしようものなら、思わず、プレー中のほかの奴らまで見とれちまうような笑顔で、ニコニコしてやがる。
(これ、てめーら!勝手にあかねをみるんじゃねえッ)
俺はあかねの方をチラチラと見ているほかの奴らを「くわッ」と威嚇しつつも、
(…あんな笑顔を見せられたら、俺じゃなくたって、頑張っちまうよ。試合)
心の中では、そんな事を考えてしまう。
そう、
「あんな笑顔で喜ばれるんだったら」
とか、
「あかねの前では、カッコ悪いところなんて見せらんねえ。怒鳴られてたまるか」
とか。
…こんな思いが、俺にいつでも「完全無欠」の助っ人魂を植え付ける。
そして、勝利を運べ、とたき付ける。
(…さーて。今日もいっちょ、頑張ってくるか)
俺は、観覧席に座っているあかねに小さく一度、手を振ってみた。
「ばーか。早く行きなさいよ」
そんな俺に、あかねはそんな事を言ってるような口の動き。
「…ったく、可愛げのねえ女」
俺は、そんな事を口走りつつも、やっぱり笑顔であかねをみる。
そんな俺に、最後はいつも、
「…がんばって」
あかねは、絶対にそう返してくれる。
…やっぱり俺と同じように小さく手を振り返しながら。
あかねのその言葉は、俺に幾千もの力を与えてくれる。
だから、俺には今更「神頼み」なんて必要ない。
俺には、あかねのその言葉だけで充分。
そして…そこにいて俺に向って笑ってくれるだけで、俺に勝利を運ぶ力を与えてくれるあかね。
たった一言、「頑張って」。
そう言ってくれるだけで俺に幾千の力を与えるあかねは、
俺にとって…さしずめ、「勝利の女神」ってトコロ?かもしれねえな。
女神様が俺にはついてるんだ、だから俺は絶対負けねえ。
「神頼み」なんて、わざわざ頼んで神様にきてもらわなくたって、俺には元々「勝利の女神」がついてるんだ。
これほど、心強いものはねえ。
「さ、やるか!」
女神様にはカッコ悪いトコ、見せらんねえからな。
俺は、心の中でもう一度自分にそう言い聞かせると、意気揚揚と皆の待つコートの中へと駆けて行った。
…こうして今日も、俺は「勝利の女神」に見守られ、皆を勝利へ導いていく。
