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→ワガママ

ちょっと離れて、同じ道を同じ速度で少し距離をおいて歩いているあたし達。
少し前を歩いている乱馬の背中を見つめながら、あたしはじっと黙っている。

…余計な事しないで。
あたしに優しくしないで。
あたしに構わないで。

これは全部、あたしが乱馬に対してさっき言った言葉。
…あたしが東風先生に片思いをしてる事。
乱馬は、知っている。
だから、先生のところへ二人で寄ってもすぐに気を使って部屋を出たり。
落ち込んでたら、わざと元気になるようにとからかってきたり。
そんな乱馬に、さっきは無性に腹が立って仕方なかった。


男なんて、嫌い。
東風先生以外は、嫌い。
乱馬なんて大嫌い。
あんな、水をかぶったら変身するような男、大嫌い。
おせっかいで意地悪で、がさつで乱暴なあんな男、大ッ嫌い!
嫌い、なのに…
「…」
あたしは、前を歩く乱馬の背中を見つめながら、ぎゅっと…自分の手を胸の前で合わせた。



嫌いなの。
大嫌いなのに。
「余計な事しないで」
さっきはあんなにひどい言葉を吐いたのに…
…なのにあたしは今、乱馬に自分の方を「振り返って」もらいたかった。
乱馬に、どんな事でもいい、話し掛けてもらいたかった。



東風先生のところに遊びに行っていたあたし達のところへ、
「こんにちは」
突然やってきた、かすみお姉ちゃん。
その途端、
「やあッかすみさんッ…」
いつものようにテレテレモジモジと豹変してしまった先生を見るのが辛くて、
「あたし、先に帰ってるね」
そう言って、接骨院を飛び出したあたし。
「待てよッ何で急いで帰るんだよッ」
それを、追ってきた乱馬。
でも、
「いつ家に帰ろうと、あたしの勝手じゃない!」
そう言ってヒステリックに叫んだあたしに、乱馬は何も言わなかった。
そして、
「…」
今このようにこうして、あたしの前を…黙って歩いている。
振り向きもしないくせに、どうしてか分からないけれど…あたしと同じ速度で歩いている、乱馬。
・・・ 乱馬は、全然悪くない。
悪いのは、あたし。
一人で勝手に片思いして、一人で勝手に諦めて、一人で勝手に思い詰めている…あたし。
(…)
…なのに。
あたしは、ものすごく、勝手だ。
自分で乱馬を怒鳴っといて遠ざけといて、そのくせ…今は自分の方を「振り返って」ほしいと思うなんて。
話し掛けてきてほしい…なんて思うなんて。
自分でも、何でそう思うのかが分からない。
どうして、そんな想いが胸に生まれるのかが全然分からない。
分からないけれど、そんな想いが胸にうずいているのは…確か。
男なんて、嫌い。
東風先生以外の男の人なんて、大嫌い。
乱馬なんて、嫌い。
あんな意地悪でがさつで乱暴な男…大嫌い。
大嫌いなのに…「振り向いて」ほしい。
・・・
と、その時。
前を歩いていた乱馬が、突然立ち止まった。
「え…」
あたしもそれに合わせて立ち止まる。
乱馬は、ゆっくりと振り返った。
あたしは、乱馬が振り返ったので少し驚きつつ…そんな乱馬の方を見据え、
「な、何よ…」
本当はドキドキしているくせに、ついつい憎まれ口を叩く。
すると乱馬は、
「今、振り向けって言っただろ?」
あたしの方にゆっくりと歩み寄りながらそう言った。
「い、言ってないわよ。言うわけないじゃないッ」
あたしはそうやって乱馬に返しつつも、心の中の声が聞こえてしまったのか?と内心ドキドキしていた。
「そうか?じゃあ空耳かな…」
乱馬は、不思議そうな顔で首を傾げつつ、
「それより、お前さ」
「な、なによ」
「恋の悩みで暗くなってんのに、全ッ然色気を感じねえな」
「なんですってー!余計なお世話よッ」
ブンッ…
あたしはついついかっとなって、持っていたカバンを乱馬のほうへと振り下ろしてやった。
「よっ…と」
乱馬はそのカバンをヒラリと交わして、あたしのすぐ横に聳え立つフェンスの上に飛び乗ると、
「そーそー。そうやって鼻息荒いほうが似合ってるって」
そう言って、フェンスの上を走り出した。
「ま、待ちなさいよ!」
あたしも、そんな乱馬に負け字と、フェンスのしたの道を走り出す。



…届いちゃった。
聞こえちゃった。
不覚にも、乱馬の奴に、聞こえてしまった…あたしの声。
あたしは、道を走りながら少しビックリしていた。
「振り向いて」
そう届いた事も驚いたし、
改めて冷静になって考えてみて、あたしが乱馬に対してそんな風に願った事も…驚いた。


あんながさつで、乱暴で。無神経な変態男。


でも。
そんな奴に「振り向いて」もらって…あたしは驚くくらい元気になった自分に更に驚いていた。
どうして元気になったのか。
その気持ちの本当の正体なんて、全然分からない。
知りたくないし、知ろうとも想わない。
…だって、あたしは東風先生が好きなんだもん。
乱馬なんて、乱馬なんて…好きじゃない。

(好きになんて、なるはずがないんだからッ…)

心の中ではそうい言い聞かせようとしているのに、乱馬を追っていくあたしの顔は、何故か…明るい笑顔だった。
東風先生の前で笑う時の笑顔よりも、明るい笑顔だった。

 

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