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It begin for the rain

 

「あーあ…全然止みそうにねえな…」
ファミリーレストランの窓際の席に座り、ガラス窓の向こうの、透明な水のカーテンのように降り続く雨をぼんやりと眺めながら、らんまは思わずため息をついた。
あかねとの、久しぶりのデート。
二人で照れながら「てるてる坊主」まで作ったのにも関わらず、今日は無常にも朝から雨。
しかも、傘なんて全く役にたたない強さ。
これでは、もちろん男の姿を保ってられるはずもない。
「あーあ…」
家を出てから約十秒。
らんまはそんな短時間だけが、今日のあかねとの「デート」時間のような気がした。


あかねと二人でいるときは、極力男でありたい。
らんまはいつもそう願っていた。
どんなに可愛らしい外見をしていても、らんまの内面は「男」だ。
道を歩いていてらんま達に声をかけてくる男に、「俺は男だ」そう叫んだ所で、
笑い飛ばされるのが関の山。
それに、
「あかねは俺の許婚だっ」そう主張した所で、「そうなんだー、すごいねー」懲りない奴はそんなこと言いながらあかねの肩を抱こうとした奴がいた。
もちろんそういう奴は、かたっぱしからたたきのめしてきたけれど、そう言うことがあるたびに、らんまはいつだって自分のこの忌まわしい体質を恨んだ。
それに…

雨はいつだって、らんまからあかねを奪っていくような…そんな気がしていた。


あの「パンスト太郎」にあかねがさらわれた時も。
そしてあの呪泉洞での大決戦の始まりも。
雨に振られ女になったらんまと、呪泉郷のガイドの娘が出会ったことから始まった。
中国へ舞台が移り、そこへ日本からさらわれてきたあかねが巻き込まれて人形になって……

今思うと、本当にろくなことがない。

「あーあ…」
らんまは窓の外の雨を眺めながら知らずにため息をついていた。
と。
「らんま、傘買ってきたよ」
ファミレスに入る直前に突風にあおられ傘が壊れてしまったので、あかねがファミレスで席を確保するやいなや、隣のコンビニにビニール傘を買いにいってくれていたのだ。
「傘なんて買ってもすぐ壊れちまうぞ」
「でも差さないよりはましでしょ」
…そういってらんまの向かい側の席に座ったあかねの服は、折からの雨でぴったりと彼女の身体に張りついていた。
向かいの席のらんまにも、濡れたブラウスの、その下の下着の色までくっきりとわかる。
自分にこれだけはっきりと透けて見えるということは、他の人からだってそう見えるに決まっている。
…そう考えるとらんまは益々不機嫌になった。
「らんま?どうしたの」
…あかねがそんならんまを見ながらくびをかしげるので、
「おめーに青は似合わねえっ」
…本当は「透けてるぞ。俺の上着貸してやるから、ちょっと気をつけろよ」こう言いたかったはずなのに、なぜか口から出たのは、わけのわからないそんな台詞だった。
「なっ…」
勿論、らんまのそんな呟きに、
「見たわね、変態ッ」
あかねはらんまの頭をめりっ…とテーブルに頭を叩きつけた。
「い、いやそうじゃなくて…」
らんまがよろよろと起き上がりながら弁明をしようとも、
「えっち!スケベッ何考えてんのよッ」
あかねは頬を膨らませて怒っている。
「だからッ違うっていってんだろッそれに俺だって見たくて見てんじゃねーやッ」
「何ですってッ」
めりっ…さらにあかねの怒りをかったらんまはテーブルに頭を叩きつけられた。
「…」
よろよろとテーブルから顔をあげながらも、
「…」
謝りもせずにそっぽを向くらんまに、
「ねー…らんま、どうしたの?」
あかねが不思議そうな顔をした。
「…」
らんまはちらっと、そんなあかねの方を見る。
そして、
「…服!そんなに透けてたら、他の奴にも見えちまうだろッ」
「え?」
「そんなカッコでいたら…また変な奴がよってくんだろ!俺が…たとえ俺が隣にいても」
こんな姿じゃ。らんまは最後に小さな声でそう呟いた。
「らんま…」
あかねは、再びそっぽを向いたらんまを呼び掛けたが、らんまはそんなあかねの方を何だか振り替える事ができなかった。
「…」
あかねはしばらくそんならんまをじっと見ていたようだったが、
「…出よう、らんま」
「え…おい…」
あかねは戸惑っているらんまの手を引いて立ち上がり、
「ごめんなさい、注文はキャンセルで」
レジの人にそういって、らんまの手を引いてファミレスから飛び出した。
「おいッあかねッ」
…せっかく買った傘も差さず、らんまの手を引いて走るあかねに、らんまは背後から叫ぶ。
しかしあかねは立ち止まることなく、走りつづけた。
そして、びしょ濡れになったまま、とうとう天道家まで戻ってきてしまった。
「あかね、何で…」
門の下に入り、
あかねの髪から次から次へと滴り落ちる雨の雫を手でぬぐってやりながら、らんまがあかねに改めて問うと、
「…らんまは、雨、嫌い?」
あかねは、そんならんまの顔をじっと見つめながら尋ねてきた。
「…あ、当たり前だろ。こんな風に女になっちまって…」
らんまがすぐにそう返すと、
「…あたしは、嫌いじゃないよ。雨」
「え?」
「むしろ、感謝してるくらい」
あかねはそう言って、らんまの髪から滴り落ちる雫を拭い、そして両手でらんまの頬を挟み笑った。
「何でだよ。おめえ、俺が女になっちまっててもいいのかよ…」
らんまには、そんなあかねの真意がまだ良く分からなかった。
なので少しむっとした表情をしたが、
「もー、別にそんな事言ってないじゃない」
あかねは、そんならんまを軽くなだめると、
「…だって。雨が降る日は、いつも思い出すの…らんまが家に来た日のこと」
と、言った。
「え?」
「雨は、あの日の記憶も一緒に運んできてくれるのよ」
「あかね」
あかねのその言葉に、らんまは口をつぐんだ。
「らんまと初めて出あった日も、雨だった。そりゃあね、最悪な出会いだったわよ?いきなり裸見られちゃうし。でも…あの日にあたし達は出会ったわけだし」
「…」
「らんまはどんなカッコしてても、あたしにとっては”乱馬”なの。男の子なの。そりゃ、らんまは不満かもしれないけど…」
「あかね…」
「でも。あたしとらんまの”はじまり”は…いつも”雨”からなのかなって…思う」
…あかねはそこまで言うと、らんまの頬から手をそった離した。
そして、自分の髪に触れているらんまの指をきゅっと掴むと、
「…ね?そう思えば、雨だって嫌いになんてならないでしょ?」
ちょっと照れくさそうに…笑った。
らんまは、そんなあかねに何も答えずしばらく見ていたが、
「…そっか」
笑っているあかねの頭を、空いている反対側の手で優しく撫でた。
「…あかねが雨を嫌いじゃないって言ってくれるなら、俺も嫌いじゃないって思うようにする。そうだよな…あの日、俺、途中で雨に降られて女の姿でここに来たんだよなあ。パンダ親父と一緒に」
「らんま…」
「あかねと出会ったのは、女の姿のときだったもんな。女のときはめっちゃ優しくてさ。でも風呂で裸見られたときは男だったから…そっから、手のひら返したように俺の事嫌いになってさ。今思えば、もっとしっかり見とくんだったと…」
「もー。調子いいんだから」
「へへ…」
二人は、そんなことを言い合いながら目を合わせ、ちょっとだけ笑いあった。
そして、
「俺さ…俺もさ。女のカッコしてても、俺、”男”だから」
「分かってるわよ」
「忘れんなよな」
「うん」
らんまの再び呟くその言葉に、あかねが笑顔で答えた。
「…じゃ、風呂にでも先に入ってくるかな。続き、しなきゃいけないし」
「何よ、続きって」
「何って。デートの続きに決まってんだろ。家出てからまだ1時間もしないうちに戻ってきちまったんだぞ?せめて、なびきの部屋からDVDでもデッキごと借りてきて何か見なくちゃ気がすまねえよ。いや、気がすまないのは別にそれだけじゃないんだけど…家に戻ってきたって事は男に戻れるって事だし。な?」
「もー…ほんとしょうがないんだから。でも言っとくけど、DVD見てる間はあたしにキスするの禁止だからね」
「なんでッ」
「何でって…あ、やっぱりそーゆー事考えてたんだッ」
「考えるなって言うのかよ」
「何を正当化の理由をつけてえばってんのよ、もう」
二人は、そんな会話を交わしながらゆっくりと家の中へと歩いていった。


…雨は、出会いの記憶も連れて来る。
(今までは、嫌な記憶しか頭の中にはなかったけれど…)
そう思えば、少しだけ、雨が降るのも悪くないな。
らんまは降りしきる雨をそっと振り返りながら、ふとそんなことを思った。

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