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Posession-証-

 

秋。
世間では、学園祭シーズンである。
ここ、風林館高校も例外ではなく、ちょうど天気も良かった今日は、学園祭の目玉のひとつ、体育祭が執り行われていた。
…その、体育祭真っ只中の風林館高校グランドの一角で。
やけににぎやかなクラスの集まりが有る。
一年F組である。
全学年あわせると二十クラスくらいあるにもかかわらず、この一年F組はダントツの成績の良さをを誇っていた。
クラス対抗成績は、どのクラスをも寄せ付けない勢いで、トップ。
今年の体育祭の、最優秀クラスに選ばれるのではないか、と呼び声も高い。

「すっげーな、乱馬。お前、出場した全種目一番じゃねーか!」
一年F組組の面々が、たった今「二百メートル走」を走り終えて帰ってきた乱馬の背中を叩き、叫ぶ。
「あったりめーだろ!俺の辞書には『敗北』という文字はない!」
乱馬も、クラスメート達の洗礼に誇らしげに胸を張って答える。
そんな彼の胸には、所狭しと「赤」一色のリボンが取り付けられている。
「赤」は、男子で1位を取ったものの印。
女子は「青」。
乱馬は出場した全部の種目で一位を取っているので、恐ろしいくらいに「赤」リボンで色が統一されているのであった。
「でも、それにしたってすごいよねー」
「そうそう。ほら、他のクラスの子も皆注目してるよ」
クラスメート達が口々に乱馬をほめる。
「今年の体育祭はさあ、男子は乱馬君、女子はあかねの二人で持ってるようなもんだもんね」
皆がそういってうなずきあっている。
「あたし、赤の方が好きなんだけどなー…」
乱馬の胸についてる赤いリボンを、あかねが羨ましそうに見ている。
女子の一位は「青」。あかねは「青」リボンで色を統一している。
女子の順位を決める色は「青」「黄色」「白」なので、どんなに頑張っても「赤」は貰えないのだ。
「ねえ、それ一つ欲しい」
「はあ?何で?」
「え?そ、そりゃあ赤が好きだし…それに、何となく…」
あかねはそんな事を言ってちょっと口を濁す。
乱馬はそんなあかねにベーっと舌を出して、
「終わるまではダメ」
「終わってからじゃ意味ないもん」
「こんなリボンに何の意味があるんだよ?」
「…もう、いいわよ!何よ、乱馬のバカ!」
気の短いあかねは、そういって怒りながら行ってしまった。
(何でアイツ、こんなもん欲しがるんだ?)
いくら「赤」が好きだからって。
そんなに欲しけりゃ、配ってる奴のとこでも行ってきて、もらってくりゃいいじゃねえか。
乱馬は、あかねの意図がよく分からなかった。

一方。
体育祭の成績は、というと。
男子種目は、ほぼ乱馬の圧勝。女子はもちろんあかねの独走状態だった。
そして、
そんな目立つ二人だから、もちろんの事、ファンというべき男子や女子が、必要以上にキャーキャーと騒いでいる。
あかね、という存在を知っているにもかかわらず、乱馬の事を見ては騒ぐ女の子もいれば、男子にいたっては、あかねの姉・なびきの手伝い(?)もあり、隠し撮りされた生写真やらなにやらが異常に出回っていて、あかねの人気を上げるのを手助けしてしまっていた。
「いやー、あかねと乱馬君のおかげで今日は儲かる儲かる。一週間分の利益だわ、こりゃ」
お昼時。
クラスでクラスメート達と昼食をとっていた乱馬の元に、なびきがやってきて言った。
そんななびきの手には、今も商売してきたのか、乱馬やあかねの写真が抱えられている。
「てめえはまた性懲りもなく…」
なびきの手からあかねの写真だけをすばやく取り上げて呆れ顔をする乱馬に、
「いいじゃないの。世間では、乱馬君の写真を、お金を出してでも欲しがる女の子がいるんだから。あかね以外にね」
なびきはそういって、辺りを見回す。
「あれ?あかねは?」
「ん?あれ、今までそこにいたんだけど…」
乱馬も周りを見回したが、あかねの姿はない。
「あー…あかねなら、さっき、別のクラスの男の子に呼ばれて教室へ行ったけど…」
「なんか、怪しい感じだったよねー」
「そうそう」
いままであかねと一緒に居た女の子達が、そんな心配をしている。
「ははあ、あれね、アレ」
「何だよ、あれって?」
「鈍いわね、乱馬君は。
ほら、イベントになると急に勇気が沸いてきちゃって、好きな子に告白しちゃったりするやつ居るじゃない!」
なびきはそういって、「さて、じゃあ、見物にいくか」と、そそくさと校舎の方へと向かっていく。
「乱馬、いいのか?お前行かなくて」
なびきの後ろ姿を唖然として見送る乱馬に、クラスメート達が囁く。
「な、何がだよ」
「あかね、今日はいつも以上に目立っているからなあ。これを機会にあかねと友達になりたいとか、近づきたいとか思ってる奴って、結構いるんじゃねえか?お前に近寄ってきた女の子達みたいに」
「へえ。物好きな男もいるもんだぜ。あんなかわいくねー女によ」
クラスメート達の噂話に、乱馬は冷静さを装って、弁当を食べるフリ。
「なあ、悪い事言わねえから、見に行ってきたらどうだ?」
「そうよ、乱馬君」
クラスメート達は、そんな乱馬の心をたきつけるように言う。
「俺は別に、あかねが誰と仲良くなろうと関係ねーよ」
乱馬はそういいながら立ち上がる。
「乱馬君。あかねはたぶんうちのクラスにいるはずよ」
「ふーん。俺には関係ないけど」
乱馬は、弁当のゴミをかたずけながらそう言うと、「ちょっとゴミ捨て行ってくる」と、クラスが集まっている席から離れて歩き出した。
乱馬は、校舎に向かって、歩き出した。
てくてく…と校舎に向かってゆっくり歩き、みんながいる席から、自分の姿が見えなくなる死角に着くや否や…驚くくらいのスピードで、あかねのいる校舎に向って走り出した。


「ねえ、乱馬君どうしたの?今、校舎に向かってすごい勢いで走っていったんだけど?」
ちょうど、そんな乱馬とすれ違うようにクラスの席へ戻ってきたクラスメートの一人が、そこに居た皆にそう尋ねる。
「あいつ、ホントに素直じゃねーよなー」
「ねー。ホントに!」
クラスメート達は、乱馬が必死に走っていった様子を思い浮かべると、おかしくて仕方なかった。
…乱馬が全速力で一年F組の前に着くと。
教室の入り口で、なびきがシャッターを構えて中を伺っていた。
「くおら!てめえ、何をコソコソと…」
乱馬がなびきの方へつめ寄ると、
「静かに!今イイトコなんだから静かにしなさい!」
なびきは乱馬の口を手で押さえると、声を潜めるように指示。そして、教室の中を指差した。
「?」
乱馬は、なびきの言う通りこっそりと中を覗く。
とたんに、ビシッ…と額に筋が入る。
「天道さん、ちゃんと考えて欲しいんだ」
乱馬が見た事がない、生徒だった。
その男子生徒が、あかねの腕を掴んで必死に懇願している。
「…でも、あたし本当に困るの。ごめんなさい」
あかねは、その生徒の手を離そうと必死だが、その手が外れないようで、困った顔をしている。
(な、な、何だよあかねの奴。俺をぶっ飛ばす時みたいに、あんなヤツ思いっきりぶん殴ってやりゃあいいじゃねえか!)
乱馬が、ムカムカしながらその様子をみていると、
「あらー、安っぽい昼メロでも見てる気分だわ」
なびきは、のんきにそんな事を言っている。
「てめえ!何をのんきにそんな…」
「静かにしてないと、気づかれるでしょ!あ!」
なびきはシャッターチャンスを狙うがごとく、カメラを構えていたが、突然小さく叫んだ。
ちょうどその時、嫌がるあかねの腕を、その男子生徒は強引に引き寄せようとしてひっぱった所だった。
「きゃ…」
あかねの体が、グラリ、と傾きかけている。
(あ、あのやろう!)
乱馬が思わず、教室の中に入ろうとすると、そんな乱馬の体をなびきが手で制した。
「何しやがる!」
「何言ってんのよ。あんたが今ここで出て行ったら、話がややこしくなるだけでしょうが。
…もう、仕方ないわね」
なびきはそういって、ポケットの中から、どこからくすねてきたのかわからない、玉入れの玉を一つ取り出した。
そして、乱馬にそっと渡す。
「…乱馬君。この玉の値段は高いわよ」
「…分割で頼む」
乱馬はそういうが早いか、その玉を、教室の中に向って力いっぱい投げ込んだ。
ドカ!
…乱馬が投げた玉は、勢い良く、あかねに迫ってた男子生徒の頭に当たる。
「イテ!」
男子生徒は不意をつかれて、あかねから離れる。
「と、とにかくごめんなさい!」
あかねは、あわてて男子生徒から離れると、教室の入り口の方へと向かって走ってきた。
(やば!隠れるわよ!)
なびきにひっぱられ、乱馬は近くの掃除用具置きの影へ身を潜める。
あかねは乱馬達には気が付かず、そのまま階段を降りて走っていってしまった。
「天道さん!」
男子生徒はあかねを追って教室入り口まで出てきたが、既にあかねが去っていた事に気が付くと、ガックリと肩をおとしていた。

「あれ?乱馬、どこ行ってたの?」
…乱馬がクラスの応援席に戻ると。
一足先に戻ってきていたあかねが、のんきにそういって乱馬の元へきた。
「…別に」
乱馬が機嫌悪げに、自分の席にどかっと座る。
「何よ、変な奴」
あかねは、そんな乱馬の横に、ぶつくさ言いながら座る。
乱馬がちらっとあかねの方をみると、体操着からのぞくあかねの上腕部が少し赤い。
さっきの男子生徒に強く掴まれたからだろうか?
「アイツ…こんなになるまで掴みやがって」
思わず乱馬はそう呟いてしまった。
すると、
「…やっぱりさっきの“玉”は乱馬の仕業だったのね!」
あかねはそれを聞き逃さず、乱馬に詰め寄った。
「な、何のことだ!」
乱馬は今更とぼけてみたが、
「とぼけたってだめ!見てたんでしょ!」
あかねはそんな乱馬をギロリとにらむ。
「し,仕方ねえだろ!そ、それにな…」
乱馬は観念して、ぐっとつまったが、
「人気がない場所に、ノコノコ付いていくからあんな目に会うんだろーが!ちょっとは警戒しろよ!」
負けず劣らず、言い返す。
「見てたんだったら、もっと早くに助けなさいよ!」
「何を!お前なあ、あの“玉”を俺がなびきから買うのに、いくらかかったと思ってんだ!
分割払いだぞ、分割!」
「ぶ、分割…?」
あかねが、ほぇ?という表情になる。
「…ったく。…俺じゃなかったら、あんなにコントロール良く、ぶつけられなかったんだぞ」
乱馬はそういって、そっぽを向いた。
「…」
あかねはそんな乱馬をみてちょっと考えていたが、
「ありがと…」
そっぽを向いた乱馬の服をちょっと掴み、小さな声で、そう呟いた。
「…ちょっとは気をつけろよな」
「うん」
乱馬は、そんな俯くあかねに、あるものを差し出した。
それは、乱馬の胸にいっぱいついている「赤い」リボン。そのうちの、ひとつだった。
「これ…」
「仕方ねえから、やるよ。その代わり、俺も一つ貰う」
乱馬はそういって、あかねの服についている「青」いリボンを一つ取ると、自分の胸に付けた。
あかねには、「赤い」リボンをわざわざ目立つ真中につける。
「ちょっと。何でこんな目立つ所につけるわけ?」
「いいんだよ、目立って」
そう言う乱馬も、わざわざ目立つ位置にあかねの「青」リボンをつけている。
「目立つトコロにつけてねえと、俺から貰ったってわかんね-だろ!」
そして、恥ずかしいのかまたもやそっぽを向いてしまった。
「…ばーか」
口ではそんな事を口走ってるあかねだが、その表情はとても嬉しそうで、幸せそうだった。


そんな乱馬とあかねが、人目もはばからず二人の世界へと入り込んでいる横で。
「…全く、何をいちゃついてんだか」
「あーあ、結局これかよ」
「良くやるよねー、ホント」
「お互いの事が気になって仕方なかっただけじゃない、ね!」
誰がどう見たって、両思いだよ、お前ら。
…クラスメート達が口々にそう言い合っていた事は言うまでもない。

そして。
この日の体育祭の結果は…というと、
圧倒的な成績を収め、一年F組が最優秀クラスに選ばれた。
そして、その記念にクラス写真を撮影したのだが、
そこに映った乱馬とあかねのお互いの服には、正反対の色のリボンが一つづつ、その存在を強く強調するかのようにしっかりと付けられていた。

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