「あー!何であたしの分の唐揚げまで取るのよ!」
「しょうがねえだろ。育ち盛りは、腹がすくんだよ」
「何よそれー!」
・・・夕食時は、いつだって戦争だ。
横に座る乱馬は、あたしの隙を突いてはお皿のおかずをひょいっと一つ、盗み食い。
一人頭五つの唐揚げは四つに、四つのはずの揚げだし豆腐は三つに、二本の予定のエビフライは一本に。
乱馬のお皿には、必ずあたしよりも一品多くおかずが乗っている。
他の家族は、
「あらあら、仲がいいわねえ」
・・・なんて。あたしの食糧事情なんて全く考えていない発言をしながら、おかずを防御しようとしているあたしと、奪おうとしている乱馬を笑顔で見守ってい
る。
「乱馬、ずるい!」
「ずるくねえよ。言っただろ?育ち盛りは腹がすくんだよ」
乱馬は、すばやい箸裁きであたしのお皿からおかずを奪うと、そんな事を言いながらしっかりと、味わっていた。
おかず争奪戦は、乱馬の圧倒的全戦全勝。悔しいけれど、箸捌きのスピードでは乱馬に勝つことが出来ない。
あたしはいつも、苦渋を飲む羽目になっていた。
「もー!乱馬の奴、ホントにずるいんだから!」
その日の夕食後も。
あたしは、乱馬におかずを一品取られた怒りを口にしながら一人、部屋で宿題をしていた。
毎日毎日必死におかずを攻防しようも、どうしたって乱馬の箸捌きのスピードには負けてしまう。
全く、おじ様の教育の賜物というか、「おかず争奪実践」が長い分だけ、乱馬のほうが一枚上手なのは否めない。
「・・・」
でも、それにしてもねえ・・・あたしは、ため息を一つ、つく。
あたしだって、おかずが少ないとお腹が空くんだから。
これで間食をして太ったら、全部乱馬のせいにしてやるんだからね。
「そうよ、あたしが太ったら乱馬のせいなんだから」
とりあえず、怒りの矛先をダイエットの失敗の言い訳にすりかえようと、あたしはそんなことをブツブツと呟いていた。
と、そこに。
「よー」
今日も今日とて、呼びもしないのに乱馬が部屋へとやって来た。
「どなたですか?」
夕食のことがあるので、あたしが不機嫌そうな声でそう聞きながらそっぽを向くと、
「機嫌直せよなー。いつもの事だろ」
乱馬は、そんなあたしにお構いなしに近づいてきて、ベッドにドサリと腰を下ろす。
あたしが更にそんな乱馬を無視して机に向かって勉強していると、
「あかねー」
フワリ。
不意に背後から、乱馬があたしの身体に抱き付いてきた。
「・・・宿題してるんですけど」
あたしがブスッとした声のままそう乱馬に言ってやると、
「後でもできるだろ」
グイっ・・・乱馬はそのままあたしの身体を自分のほうへと引き寄せ、
まるで柔道の「裏投げ」。あたしを抱きしめたまま仰向けにベッドへとひっくり返った。
まるであたしと乱馬は、親子のカンガルー。もちろんあたしが子どものほうだけれど。
「ちょっと!何すんのよっ」
「だーって。こうでもしなきゃ、俺のほうなんて向かないだろ」
乱馬はひっくり返ったあたしの身体を、自分の横へと降ろしてベッドへと並べた。
「こうされたって向かないもん」
あたしがそっぽを向くと、
「それはどうかなー・・・」
乱馬はそんな事を言いながら、そっぽを向いたあたしの頬を両手で挟むようにして、固定した。
そして、あたしの真正面へ顔を回り込むように持ってくると、そのまますっと唇を奪う。
「・・・んん!」
あたしが慌ててそんな乱馬を引き剥がそうとするも、
「じゃあ、俺の方向くか?」
乱馬は、唇を押さえつけては離れ、押さえつけては離れの動作を繰り返しながら、あたしにそう言った。
「・・・」
もちろんこんな事をされては、いよいよあたしも抵抗力を殺がれるわけで。
「・・・」
その内、抱き付いてきた乱馬としっかり抱き合うような形で、ベッドの上に横になった。
・・・何だか、いつも乱馬のペース。
夕食もおかず争奪戦になるし、部屋にいてもいつだってこうやって、乱馬に抱き寄せられてしまう。
あたしにはあたしの生活ペースがあって、
あたしの「マイペース」があるはずなのに、
こんな風にいつでも乱馬のペースに巻き込まれちゃうなんて、
「あたしのペースは、乱馬ペース?」
「はあ?」
キスが離れた唇を小さく動かしあたしがそう呟くと、乱馬は怪訝そうな顔をした。
「だからー・・・いつでもあたしが乱馬のペースに巻きこまれちゃうってこと」
あたしがボソッとそう付け加えると、
「マイペースが、俺のペースってことか。じゃあ、マイペースじゃなくて・・・ヒズペース?」
「名前なんてどうでもいいのよ」
乱馬は、訳の分からない事を言って、にっと笑った。
・・・全く、何が「ヒズペース」なんだか。
でも、きっとあたしの生活ペースは、乱馬が言うとおり、「マイペース」じゃなくて「ヒズペース」なんだろうな。
「もー迷惑だわ」
あたしが口を尖らせると、
「でも無くなると物足りねえよ?きっと」
乱馬は、あたしのその尖らせた口をきゅっとつまみ、ニコニコとしている。
反省の色、ゼロだ。
一体いつから、「マイペース」が「ヒズペース」になったのだろう。
付き合い始めてから?
ううん、いやもっと前・・・きっとそれは、出会ったときからかも。
あたしの穏かだった生活が壊れ始めたのと一緒に、徐々にあたしのペースが崩されて・・・いつの間にやら、ヒズペース。
そう考えると、あたしのペースは随分と前から侵食されていたわけだ。
・・・
「迷惑極まりないわね」
「そうか?でもこれからずっとそのペースなんだし、ぼちぼち慣れろよ」
「ずっと、ってどの位ずっとなのよ」
「ずっとって言ったらずっとだよ。一生」
乱馬はそう言って、嬉しそうな顔であたしの身体を引き寄せる。
「うー・・・」
・・・もう、こんな自分勝手な乱馬のペースに付き合わされるのはゴメンだし迷惑だけど、
でも、「ずっと一生付き合わされる」って事は、裏を返せばずっとずっと、一緒にいるというわけで。
「・・・」
それはそれで、嬉しいんだけどなあ。
でも、これはこれで困るのよねえ。
「・・・」
あたしは嬉しそうな乱馬の顔をチラチラと見上げつつ、何度もため息をついたのだった。