「あたしよ!」
「俺だ!」
「あたしだってば!」
「俺だって言ってんだろ!」
ある日の夜のこと。
あたしがお風呂から上がって廊下を歩いていると、居間からそんな言い争いの声が聞こえてきた。
もちろん、この天道家でこんな風に派手な喧嘩をする人物なんて限られている。
「なあに?あんた達。夜も遅いんだから、痴話げんかはもっと遠慮してしなさいよ」
あたしがお風呂に入るまでは、必要以上にべたべたとくっついて仲良く座っていたはずのバカップル・・・いえ、あかねと乱馬君なのに、たった数十分の間
に一体何があったのかしら。
まだしっとりと濡れている髪の毛をタオルで拭きながら、あたしは二人に尋ねてみた。
すると。
「どっちの方が、相手を好きかって話をしてたのよ」
「・・・は?」
「ぜーったいあたしの方が、乱馬の事を考えてるって言ってるのに、乱馬ってば、自分のほうが考えているって、譲らないのよ!」
あかねが鼻息荒くそう言うと、乱馬君も横でウンウン、と頷いていた。
「・・・」
あたしはそんな二人に、ばれないように心の中でそっとため息をつく。
・・・ばかばかしい。
お互いで、どちらの方が「好き」の気持ちが強いかを喧嘩しているなんて。
そんなのどっちだって良いじゃないの。ていうかあんた達、どっちもどっちよ。
・・・第三者のあたしからしてみれば、そう言ってやりたい気持ちが山々だけれど、
今あたしがそんな事を言おうものなら、
「お姉ちゃんは、あたしの味方じゃないの!?」
「はっきりしろよ!」
何だか、とばっちりを食ってあたしが怒られそうな予感がしなくも、ない。
「あたしよ!」
「俺だ!」
「あたしの方が絶対に強いもん!絶対にあたしの方が、乱馬のプラス一上だもん!」
「じゃあ俺は、それプラス一な」
「ず、ずるいわよ!じゃああたしは、それプラス二!」
「じゃあ俺は、それプラス一だ」
「な、何よそれー!」
・・・あたしは、そんな事を言い合っては騒いでいる二人に小さなため息をつくと、一人さっさと自分の部屋へと戻った。
「好き」な気持ちがプラス一、さらにそれプラス一ってさ。
ねえあんた達?
もしも、お互いの気持ちが客観的に見る事が出来るメーターがあろうものならば、
間違いなくあんた達・・・メーター、振り切れること間違いなしよ?
地球滅亡説より確実に言える事柄ね。
「ったく、バカップルなんだから」
あたしからすれば、全世界のバカップルが繰り広げるバカップル度、
その全てのプラス一の度合いが、今のあんた達だわよ。
・・・日本もまだまだ、平和だわ。
あたしは、未だいがみ合っているだろう二人の姿を思い浮かべながらぼそっとそう呟いた。