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はい、当たり

 

「もー。諦めなさいってば」
「嫌だっ」


ある日の昼下がり。
かすみお姉ちゃんのお使いで夕飯の買い物にやってきたあたし達は、買物はさっさとすませて公園のベンチで休憩をしていた。
でも、暑い中ただベンチに座っているだけだと、休憩にはならない。
時刻は、午後二時。太陽がもっとも暑い日ざしを地上に降り注いでいる時間だ。
「乱馬、アイスでも食べない?」
「おっ。やっぱそう来なくっちゃ!」
あたしは乱馬にそう提案をして、休憩がてら二人でアイスを食べる事にした。
そして、公園の前にある小さな駄菓子屋で、「あたりくじ付き棒アイス」…二本買っても六十円、とお手ごろな懐かしいタイプのアイスを購入。
再び公園のベンチへと戻った。
クーラーのガンガン効いた部屋で食べるアイスも美味しいけれど、
こうしてお日様の下で、アイスが溶けてしまわないように…と慌てて食べるのもまた、美味しいアイスの食べ方のような気がする。
「さ、食おうぜ!溶けちまうしな」
「うん」
駄菓子屋から公園のベンチまではホンの数十メートルなのにも関わらず、アイスを包んでいる紙の上から触れる中身はもう、ふにゃり、と柔らかい。
あたしと乱馬は、慌てて包み紙を開いて中のアイスへとかぶりついた。
…と、ここまでは良かった。
でも、
「あ、当たった」
「…」
…不思議な事に昔から、「くじびき」とか「福引き」とか、そういうものに関して運があるあたし。
買ったアイスが見事に「あたり」、すぐに引き換えにいって交換したアイスがまたまた「あたり」。
さすがに三本は食べれないので、アイスは乱馬にあげることにして、あたしは別の駄菓子を購入した。
でも、不思議な事にそちらの駄菓子についていたくじにも当たってしまった、あたし。
しかもその当たりくじは、「好きな駄菓子を三百円分」ゲットできるものだったらしく、
あたしは一瞬にして、駄菓子やジュースなどを大量に手に入れることが出来たのだった。
元手は、一本目のアイスの三十円と、たまたま買った駄菓子の四十円…で、計七十円。
それなのに、両手に余るほどの駄菓子を手に入れることに成功してしまったあたし。
それに引き換え、
「…」
格闘に関する勝負運はあるのに、こういう簡単なくじ運はあまりないのだろうか。
買ったアイスも、あたしにつられて買った駄菓子も、見事に「はずれ」だった乱馬は、ブスッとした表情をしていた。
しかも乱馬は、
「これ!」
「それも!」
「そっちの菓子も!」
どうやらあたしばかりがくじに当たるのが悔しいらしく、次から次へと駄菓子屋へとくじ付き菓子を購入に走っては、
「はー…」
「これ、当たりはいってんのか?」
とかなんとか。
購入したはいいけれど、悉くくじに外れ、その度にその購入した駄菓子を無理して食べる羽目になっていたのだった。



でも、駄菓子は美味しいしお手ごろに食べられるけれど、いかんせん限度と言う物がある。
アイスを二本食べた後に、駄菓子をもう七袋も食べつづけているのだ。そろそろ身体に悪い。
「もー。いい加減に諦めなさいよ」
「嫌だ!」
「お腹壊しちゃうでしょっ」
見かねたあたしが、乱馬から駄菓子の袋を取り上げるも、
「当たるまで食べる!」
…まるで、おもちゃをねだる子供と一緒。
あたしが取り上げた袋は諦め、また新しい菓子を購入しては、わくわくそわそわしながらパッケージを開ける。
でも…結果はやはり、「はずれ」。乱馬はがっくりと肩を落としてため息をついていた。
そのくせ、また購入しようとするのだからどうしようもない。
このままでは所持金がなくなるまで駄菓子を購入しそうな勢いだ。
「もー。お金が勿体無いよ乱馬。それに、太るよ?」
あんた、ただでさえいつも金欠でしょうが。あたしが乱馬にそう呟くと、
「ここまで買って、当たらないまま中途半端には終われねえっ」
乱馬は真剣な表情でそうあたしに言い切ると、また新しい駄菓子を購入しては、がっくりと肩を落としている。
「…」
…要は、引くに引けなくなっているだけなのでは?
あたしは、「ばかばかしい…」と心の中でこっそりとため息をつくも、
「ねー、もうそろそろ帰ろうよー」
「まだダメっ」
「お菓子も食べたし、休憩もしたじゃない。あんまり遅いと、かすみお姉ちゃんが心配するよ」
そう、本来あたし達がこうして外に出た目的は「お使い」なのだ。いい加減家に帰らないと、家族が心配する。
買物の間に休憩をして駄菓子を食べているのであって、駄菓子を食べている合間に買物に出たわけではない。
それに、買い物に行ったきり帰ってこない…では、鉄砲玉と一緒だ。
「乱馬ー」
「まだっ」
乱馬に再び声をかけるも、乱馬は即答であたしの問いかけを却下した。
「…」
こりゃだめだ。
あたしは、大きなため息をついた。
でも、このまま乱馬のくじが当たるまでここにいるわけにも行かない。それこそ、日が暮れるどころか夜が明けそうな勢いだ。
「…」
あたしは、ちらっと公園の大きな時計へと目をやった。
時刻は午後四時半。
この公園にやってきたから、実に二時間半も経過していた。
「…」
…もー。しょうがないな、こうなったら最後の手段だ。
聞き分けのない、大きな身体をした子供のような許婚を従わせるには、これしかない。
あたしは覚悟を決めて、乱馬を見た。
そして、
「次こそはっ…!」
そういって駄菓子のパッケージ開けては「はずれ」の文字を目にし、がっくりと肩を落としている乱馬の腕を、ちょいちょいと指で突っついた。
「なんだよ…」
「ね、どうだった?」
…乱馬はがっくりと肩を落としているのだから、そのくじが「はずれ」だという事は分かっているのだけれど、あたしはわざと乱馬にそう聞いてやった。
「…みりゃわかんだろ」
もちろん、くじに外れて不機嫌な乱馬はふくれっつらであたしに「はずれ」のくじを見せてきた。
「…」
あたしは、乱馬が見せた「はずれ」くじをきゅっと指で握リ潰してしまうと、
「…」
ちゅっ…とわざと音を立てるようにして、不機嫌な乱馬の頬に軽くキスをしてやった。
「えっ…な、なに…」
もちろん、くじは握りつぶされるわ、キスをされるわ…で、乱馬はきょとん、とした表情をしたけれど、
あたしはそんな乱馬に向かってクスリ、と小さく笑うと、
「はい、これがそのお菓子の本当の『当たり』です。よかったねー、乱馬。やっとくじに当たったみたいだよ」
と、言ってやった。
「っ…」
乱馬は、キスされた頬を抑えてしばらくは真っ赤になりながらボーっとしていたけれど、
「し、し、仕方ねえなっ。まあ、これが本当の『当たり』ならそれもよしとするか…」
とか何とか。
その内、なにやらぼそぼそとそんな事を呟きながら、あたしの顔をみる。
「よかったね、乱馬。さ、くじにも当たったし、そろそろ帰ろう?」
やれやれ、これでようやく家に帰れるわ。
あたしは真っ赤になっている乱馬の手を引いて、ようやくベンチから立ち上がることに成功したのだった。


負けず嫌いのくせに、くじ運が悪い乱馬。
駄菓子の「あたり」一つを出すのにも大騒ぎだけど、

「なあなあっ…さっきの『あたり』は、何くれるんだ?」
「何って、さっきチューしてあげたでしょ。あれで終わりよ」
「なんでっ」
「なんでって…あんたこそ何でそんなに駄々こねてんの?一応『あたった』んだからいいじゃないの」
「よくねえよっ。普通『あたり』っていったら、さっきのあかねみたいに駄菓子たくさんもらったり、アイスもう一本貰ったりするだろっ」
「そりゃそうだけど…」
「じゃあさっじゃあさっ…家に帰ったらもう一回なっ?なっ?」

…当たったら当たったで、またその後も大騒ぎなのか。
「…」
じゃあこれ、なんて言って適当に駄菓子を与えて済む…乱馬じゃないことぐらい、あたしにだって良く分かる。
…やれやれ、駄菓子の「あたり」から、とんでもない事に発展しちゃったわ。
ま、あのままお腹を壊すまで駄菓子を食べつづけられるよりはましだけれど、さ。
「…」
あたしは、ニコニコと嬉しそうにあたしの手を引きながら家への道を急ぐ乱馬の、その後ろ姿にこっそりと一人、ため息をついたのだった。

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