Novels Search :

→MonopolisticEyes

「お姉ちゃん、乱馬くんは?」
「ああ、道場にいると思うわよ。夕食前に稽古するって言っていたから」
「そ。ありがと」


ある日の夕方。
学校から帰ってきたあたしは、台所で夕食の支度をしていたお姉ちゃんにそう尋ねた後、道場へと向かっていた。
乱馬君に用と言うか、頼み事があるから、だ。
まあ、頼みごと…とは言っても、いつもと一緒で半ば脅迫的に運動部の助っ人を頼まれてもらおうという所なんだけれど。
「ねー、乱馬君。ちょっとお願い事があるんだけど」
とりあえず、いつものように、乱馬君があたしのお願いを受けざる得ないような強力な「ネタ」を懐に用意しつつ、
ガラっ…
あたしは、何の躊躇もなく、たどり着いた道場の、その入り口の扉を開けた。
が、

「…あら」
「あっ」

…間が悪かった。

「…」
もちろん、何の準備もノックもなしに扉を開けたあたしが悪いんだけど。
間が悪い事に道場の中では、
「あっ…」
あたしが急に扉を開けて姿を現した事に慌てた乱馬君と、
「…」
そしてお姉ちゃんは何も言ってはいなかったけれど、まだ制服姿のままのあかねが…ぎゅっと、抱き合っていた。
あらら、これはこれは…。
慌てる乱馬君と、何も言わずにじっと、乱馬君に抱きついているあかねと。
何だか妙な空間がそこにはあった。
「お邪魔しちゃったわね」
…もちろん。
一応は、ほんの少しの罪悪感だって持ち合わせる、あたし。
とりあえずそんな言葉をぼそっと呟く。そして、
「…お楽しみのところ悪いんだけど」
と、思いつつもそのまま続けて、二人に声をかけようとしたけれど、
「…・」
ぎゅっと乱馬君に抱きついて、あたしに背を向けている乱馬君の、その背中の向うから瞳だけあたしに向けているあかねの、その瞳を見た瞬間、
「…」
あたしは、思わず口を閉ざす。
「…」
目は、口ほどに物を言う…昔の人は本当に上手い事を言ったものだけれど。
まさにそれを実践するかのような、力のある瞳をあかねはあたしに向けていた。
別にあかねは、あたしの事を恨んでいるとか睨んでいるとか、そういうわけではない。
でも…あかねの瞳は、乱馬君の背中越しにあたしに対して訴えている。
『…離れたくない。』
と。

「…あの、悪いけど…後にして」
そんな瞳が語っているあかねの本心を、乱馬君だって抱き締めているその身体全体から感じるのだろう。
乱馬君は、あかねの身体を離すことなく、あたしの方を完全に向く事もなく、あたしに対してそう言った。
「あ、ああ、そうね。じゃあまた後で。急ぎじゃないから」
そんな風にされれば、あたしだってそのままそこに居坐るつもりなんて到底ない。
あたしは慌てて道場から出て扉を閉めると、思わずその扉の前で大きく深呼吸をした。


…ちょっと前までは、今みたいにあたしが邪魔しちゃったり、他に邪魔が入ったときなんて、慌ててお互い離れたくせに。
それを考えると、随分とあの二人も代わったものだ。
しかも、だ。
「…」
あかねの、あの時のあの「瞳」。
あれは、間違いなく「女」の瞳。
離れたくない、絶対に渡さない。
瞳がそうやって、訴えている。
「…」
ああ、あの子もあんな瞳で他の女の子を見るようになったんだなあ。


「…」
何だか、子供に巣立たれた親鳥の気持ち?
妹の成長が嬉しいような、でも何だか寂しいような。
「…」
あたしはそんなことを考え小さく笑いながら、その場を後にした。

 

TOPへ戻る