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PRIDE

 

「それ、売りなさいよ。高く売れるわよ」
「いーやーだっ。冗談じゃねえよっ」


ある夜。
お風呂上りのあたしが、お茶でも飲もうかと居間へと行くと、
いつもは仲良く並んでTVを見ているはずの乱馬となびきお姉ちゃんが、そんな会話をしながらいがみ合っていた。
「どうしたの?」
喧嘩なんて珍しいわね。
あたしが二人の間に入って喧嘩の原因を尋ねてみると、
「乱馬君にさー、売ったら絶対に元手より高くなるものを売ればいいのにっ…てアドバイスしてあげてただけよ。それなのにこの男は」
そういって、「喧嘩なんかじゃないわ。頑固ねえ」にっと笑うなびきお姉ちゃんと、
「べ、別に金なんてどうでもいいんだよっ。俺が気にいってる物を、何で売らなきゃいけねんだよっ」
と、そのお姉ちゃんの意見にはまるで折れようと思っていない様子の、乱馬。
「…」
…二人の話を整理すると、
どうやら乱馬が気にいっているという「もの」は、なびきお姉ちゃんの目利きによると結構な高値で売れるらしく、
「それ、あたしが二千円で引き取ってあげるわ。でもきっと、売値はもっと高いわよ。さらにキャッシュバックは一割。どう?」
デート代のお小遣い稼ぎには最適じゃない?
なびきお姉ちゃんが乱馬にそう提案するも、
「金なんて問題じゃねえよ。これは俺のお気に入りなのっ。価値なんて、金でつけられるもんじゃねえよ」
「二千五円」
「おい」
「二千十円でも?」
さりげなく、値段をあげるなびきお姉ちゃんに、
「あのなあ、とにかくこれは、売るつもりはねえのっ。だいたい、そんな値段で価値を決められるもんじゃなくて、その…もっともっと、大切なもんなのっ」
「奇特と言うか、あんた変な所で頑固ねえ」
「うるせーっ」
乱馬は最後まで折れることなく、お姉ちゃんからの更なるプッシュから逃げるように、居間から出て行ってしまった。


「あの乱馬が、お小遣い稼ぎの誘惑に負けないとは。それ、よっぽど気にいっていたんだねえ」
何だかんだいって、毎月ピンチだって騒いでいるくせに。
そんな乱馬の姿を、「意外ねえ…」という表情であたしが居間から見送っていると、
「そうみたいねえ。まったく、奇特な男」
なびきお姉ちゃんもそういって、机の上にあった湯飲みの、お茶をゴクリと飲み干しながらため息をつく。
「ところで、何だったの?乱馬が気にいっている物って」
あたしがお姉ちゃんに何気なく尋ねると、
「ああ、あれ?」
なびきお姉ちゃんは、ふっ…と小さく笑いながらあたしを見て、
「あんたの写真よ」
と、サラリと答えた。
「はあ?」
あたしの、写真?…あたしが思わず首をかしげると、
「2ヶ月くらい前に家族旅行に行った時、乱馬君が自分で撮ったんだって。風呂上りに海岸散歩している写真」
「え…」
「私もさっき、初めて見せてもらったんだけどね、一目見て気にいったわ。これがね、良く撮れてるのよ」
「そんな写真、撮られた覚えないんだけど…」
「カメラ目線じゃなかったら、乱馬君がこっそり撮ったんじゃないの?」
お姉ちゃんはそう言って、パチン、と指を鳴らした。
そして、
「被写体に対する愛情っていうの?それがさあ、溢れんばかりに伝わってくるのよねえ。絶対にあれ、高く売れるわよ。九能ちゃんだったら、5000円は出 してくれそうなのにさ」
「お姉ちゃんたら」
「だから高値で引き取ってやろうというのに、折れないんだもん。あの様子じゃ、あいつ、こっそりいつも持ち歩いてそうだわね。写真、よれてたし」
仕方ないから、ネガのほうを何とかして手に入れるように考えるわ。
なびきお姉ちゃんはそんなことを言いながら、居間を出て自分の部屋へと戻っていってしまった。
「…」
一人居間に残されたあたしは、何だか自然と、頬が紅潮してくるのを感じながら一人、その場に座り込んでいた。

な、何よ、乱馬の奴。
あたしには、そんな写真持ってること、一言も話さないくせに。
それどころか、そんな写真を撮った事だって教えてくれなかったのに。
それなのに、
『そんな値段で価値を決められるもんじゃなくて、その…もっともっと、大切なもんなのっ。』
…こんな事、言って。
何よ。
何よ。
何なのよ。
そんなこと言われちゃったらさ、
そんなこと言われたら、

ちょっと、嬉しいじゃない…。

「…」
…一体どんな写真なんだろう。
でも、あのお姉ちゃんも誉めてたぐらいだから、きっと可愛く取れてる写真なんだよね?
「被写体への、愛情かあ」
そんなに、溢れて見えたのかな。
バカな乱馬、そんなにあたしの事、好きなのかなあ。

嬉しいけどさ。
あ、そうだ。じゃあ、あたしが乱馬を撮ってあげたら、やっぱりなびきお姉ちゃんが誉めてくれるような素敵な写真が撮れるのかも知れないなあ。
だって、きっとあたしも乱馬のそれと同じくらい、乱馬の事好きだもん。
…そうよね。
だったら今度、あたしもこっそり撮ってみよう。

「…しょうがないなあ。今日だけは、あたしから『一緒に寝よう』って誘ってやるか」
それに、写真も見たいしね。
写真のお礼もいいたいし、それに…何だか今夜は一緒にいたい。無性にそう思った。
「乱馬、あたしから誘いにいったら、びっくりするだろうなあ」
あたしはそんな事を呟きながら、ゆっくりと立ち上がり居間を出て、乱馬の部屋へと歩いていった。

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