「じゃ、ちょっと付き合って」
「お、おう…」
・・・風林館高校の女子柔道部に頼まれて、急遽他校との練習試合に助っ人として出る事になったあたし。
格闘技自体は経験済みでも、柔道を単体で行うのは殆ど久しぶりだ。
「柔道って、絞め技もあるのよね」
「そうそう。上手く絞め技を決められると落ちる(気絶する)事もあるからな。気をつけろよ」
「うん」
「やばい、と思ったらすぐにギブアップしろよな」
「うん」
学校帰りに、そんなことを話しながら帰ってきたあたしと乱馬は、
「…ねえ、だったら、絞め技をされないようにする練習、付き合ってよ。ついでにあたしが相手に絞める練習もしたいし」
「え…お、俺が!?な、なんでっ」
「何でって…あんたしかいないでしょ?それとも何?かすみお姉ちゃんやなびきお姉ちゃんを絞めろっていうの?」
「そ、そんなこと言ってねえだろ」
「じゃあいいじゃない。ね?」
と、柔道の練習相手を乱馬にお願いし、お互い道着に着替えて道場で向き合ってみるも、
「…」
せっかく了解してもらえて練習をすることになったにも関わらず、乱馬は何故か先ほどからそわそわ、モジモジとしている。
「ちょっと。何でそんな落ち着きないのよ」
「べ、べべべべ別に…」
「じゃあいいじゃない。変な乱馬」
あたしはそんな乱馬に首を傾げつつも、
「じゃ、乱馬。まずはあたしが乱馬を絞める練習からね。乱馬を絞めようと技を仕掛けるから、乱馬はそれから逃げるように動いてね」
と、さっそく練習に移るべくそう叫んだ。
「お、おうっ。いつでも来い!」
乱馬は、そんなあたしにやけに裏返った声でそう答えた。
「…」
何、その声…あたしは思わずそう突っ込んでやりたくなるが、そこはぐっと堪えて、
「それじゃ…行くわよ!」
…と、さっそく絞め技を仕掛けるべく、まずはその前段階の「寝技」を乱馬にかけようと、
「てやーっ」
パシっ…
まずは乱馬を転ばせるべく、足技をかける。
ペタン。
…乱馬はやけに素直に足技をかけられると、素直に床にしりもちをついた。そして、
「さー!」
あたしがそう気合を発しながら乱馬に覆い被さるように彼を押し倒すと、
「…」
乱馬は妙に素直にあたしに押し倒されて、じっとしている。
「さ、乱馬!あたし今から絞めるからね!絞めが始まったら暴れてよ!」
「お、おう…」
と、なんだか応答する声も弱弱しく感じるのは気のせいだろうか。
「やー!」
あたしは、そんな乱馬にお構いなしに、いよいよ絞め技をするべく身体を反転させて、自分の足を乱馬の身体へと絡めた。
そして、自分の身体に乱馬の身体を乗っけて、後ろから首に腕を回す。
そして、胸と腕の力を上手く利用してギューっ…と乱馬を絞めようとするも、
「やあっ…」
「たあっ…」
…一生懸命気合を発し、あたしが乱馬を絞めるべく腕と胸を駆使して技をかけようとするも、
なぜか乱馬は動きもせず、抵抗もせず…じっと技をかけられつづけている。
「ちょっと乱馬!暴れてくれなきゃ練習にならない!」
このままでは、練習になる前に乱馬が「落ちて」しまう。
あたしはそれでは困る、と少し腕の力を緩めながら乱馬にそう叫ぶと、
「お、おうっ…」
乱馬は慌ててあたしから逃げ、そして逆に床に腰をついているあたしに寝技をかけようと強い力であたしの仰向けにする。
「あっ…」
不意を付かれたあたしは、乱馬に上から覆い被さられ、ぎゅっと身体を固定されてしまった。
「くっ…」
…そうだわ。きっと試合中もこうなるのねっ。
だとしたら、頑張ってこの技を外して、逆に寝技に持ち込んで、逃げようとした所を上手く絞めて…
「たあ!」
そんな風に考えたあたしは、
「んっ…んっ…」
あたしの身体をしっかりと押さえつけている乱馬の身体を、うまいことして外してやった。
そして、
「さあ!」
…逆に、乱馬の身体を仰向けにひっくり返して、その上からがバッ…と覆い被さる。
「くっ…」
これで、乱馬がじたばたと暴れてくれたら、あたしは色々な技をかける事が出来る…・はずなのだけれど、
「はっ…たあっ…」
気合を発して、一生懸命乱馬を押さえつけて寝技を決めようと、乱馬の身体の上に覆い被さっているあたしに対し、
「…」
…何故か乱馬は、大の字になったままピクリとも動かない。
抵抗どころか、少しも動こうとはせず、
「…」
何故か少し、赤い顔をしたままあたしに素直に技をかけられている。
首の辺りを押さえ込むような寝技から絞め技への連携をしようと、
「それっ…」
乱馬の顔に逆側から覆い被さるようにあたしが身体を動かすと、
「…」
…先ほどまで大の字になっていたはずなのに、乱馬は直立不動の状態であたしに素直に押さえ込まれている。
「ちょっとー…これじゃ練習にならないじゃないの」
たまりかねたあたしがため息をついて、
「じゃ…乱馬が先に、あたしに絞め技かける?」
仕方がないので、そう言って乱馬に「はい」…と後ろから絞め技をかけさせるべく背を向けて座って見せると、
「…中止だ」
「え?」
「練習、中止ー!」
「えっ…ちょ、ちょっと!?」
「中止だ!だめだー!」
…と、乱馬は訳の分からない事を叫びながら、あたしの身体をパッと引き剥がし、道場から走り去ってしまった。
「ちょ…もー、なんなのよあの男はっ」
いきなり走り去ってしまった乱馬のせいで、一人ぽつんと取り残されてしまったあたしは、
「…しょうがないなー…」
…と、仕方がないので、道場の隅のダンボールに常に入れてある「等身大」の練習人形を引っ張り出してきて一人、絞め技の練習をするも、
「あーあ、人形相手じゃ、全然力が入らないよ…」
生身の人間を絞めるのとでは、全然その感覚は違う。
「もー!後でとっちめてやるんだから乱馬の奴っ」
と、胸にぎゅーっと、本来は乱馬であったはずのその人形の顔を引き寄せると、思いっきり力を込めてその首を締め上げてやった。
…もちろんそんなあたしは、
「あららー。乱馬君も大変ねえ。鈍い許婚を持つと。ま、あんな風に絞められる…って名目でもないと?思いっきりあかねの胸に顔を埋められるなんて
機会、まだ無いでしょうしね」
おかげで、随分と愛がある練習風景が写真に取れたわあ。
と、道場の入り口でなびきお姉ちゃんがそんな事をぼやきながらカメラを構えてニヤリとしていた事など、全く気がつかなかった。