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「あー!ジジイてめえ!それは俺のおかずだろーがッ」
「お師匠様ッそれは私のッ」
「おのれ八宝菜ッ」

…とある日の、天道家の朝。
朝っぱらにもかかわらず、食卓では朝食のおかずの取り合いで乱馬達がばたばたとやっている。

「もー、朝っぱらから良くやるわねえ」
…そんなみんなの様子を見ながらも、
自分のおかずだけはしっかりと抱え込んで、死守しながら朝ご飯を食べているなびきお姉ちゃん。
「あらあら、もうお代わりのご飯がないわ。みんな朝から良く食べるわね」
…そういっては、お茶を飲みながらにっこりと笑うかすみお姉ちゃん。
「あらまあ、本当。やっぱり男の人ってすごく食べるって言うのは本当なのねえ…」
…そんなかすみお姉ちゃんと、おっとりした口調で会話を交わす、早乙女のおば様。
「もー!いい加減にしなさいよッ朝っぱらから!ほら、乱馬、早くしないと学校に遅れるわよ!」
そして。
ドタバタやってる乱馬やお父さん達を一喝して、乱馬のおさげをぎゅっと引っ張りながら玄関へと走り出すあたし。

一見ドタバタと慌しくて、「何で今日はこんなに騒がしいの?そんなに豪勢なおかずでもあるわけ?」
…と、端から見たらそんな風に感じられそうだけど、
あたし達からしたら、こんなのごくごく普通の風景。
日常茶飯事、いつもの事。
…乱馬達が天道家に来る前は、うちの「朝」はとても静かだった。
あたしが小さい頃にお母さんが亡くなっちゃって、かすみお姉ちゃんが台所に立っていつもご飯を作ってくれていた。
そんな風に作られた食卓に並ぶかすみお姉ちゃんの手作りのご飯を、あたしやお父さん、なびきお姉ちゃんは「いただきます」って、感謝して食べる。
「かすみ、お母さんの味に似てきたねえ」
作られたお料理が美味しかったら、お父さんはいつだってそう言って泣いてたし。
なびきお姉ちゃんはお姉ちゃんで、クールだけど文句一つ言わないでいつも美味しそうに食べていた。
…もちろん、あたしも。
食卓で、「今日はこれがあってあれがあって…」と、普通に家族団欒はしていた気もするけれど、
でも何だか「静か」だった。
ううん、「朝」や食卓だけではなくて…うち全体がもっと「静か」だった気がする。


それが。
乱馬達が居候を始めたら…どうだろう?
毎朝毎晩、おかずの取り合いでドタバタしているし、気を抜いてたらシャンプーとか壁を突き破って家に上がりこんでくるし。
八宝菜のおじいさんは盗んだ下着を背中に背負って家の廊下を走り抜けていくし。
屋根はしょっちゅう壊れるし道場は破壊されるし…
そう考えると、何だか迷惑千万な事ばかりまずはいろいろと思い出されるけれど、
でも…

…でも、何だか居心地がいい。

もちろん、
お父さんがいて、お姉ちゃん達がいたあの頃の静かで落ち着いた「朝」も好き。
でも、こうやって朝からドタバタしたり走り回ったり…
絶えず色んな声が飛び交っている今のこんな感じの「朝」も、あたしは実は、大好きだった。

「…まったくもう!毎朝毎朝みっともない!いい近所迷惑だわッ」
「うるせえな!仕方ね-だろ、ジジイが俺達の朝飯盗み食いしてくんだからよ」

…こうやって、
毎朝毎朝のドタバタしてるお家から抜け出して、文句を言いながら学校への道を乱馬と二人、歩くのも。
「乱馬だって、あたしのご飯半分食べちゃうでしょ!おじいさんと似たようなもんじゃない!あーあ、もう、こんな事が一体いつまで続くのかしら…」
「多分、一生だな」
そう言って、文句を言うあたしの手をさりげなく取りながら、
「さ、急ごうぜ。学校、遅れちまうぞ」
と、乱馬が走り出すその後ろを、
「え…うん」
と、ちょっと照れながらあたしが転ばないようしつつも追いかけて走っていく、そんな何だか心が温かくなるこんな瞬間も。

全部ぜんぶ、あたしは好きだ。

目が覚めた時、隣で寝てる乱馬に気づかれないように起き上がろうとして、でも結局気づかれて、何だか照れ笑いしちゃう朝も。
「あらあら、朝も夜も仲いいのねえ」
…と、なびきお姉ちゃんに突っ込まれて、
「余計な事言うんじゃねえ!」
と真っ赤になりながら怒ってる乱馬を
「せっかく記念写真とったのになあ…仕方ない、乱馬君以外の人に売りつけようか…」
全く怯まず脅しつづけるなびきお姉ちゃんに、
「何撮ったのよ!」
「なびき、てめーッ」
…と、オロオロしながら玄関先で詰め寄っているそんな朝のひと時も。
あたしは全部…大好きだ。


「なあ、さっきから何ニヤニヤしてんだ?」
その内。
…そんなことを考えて、思わず笑顔になっているあたしに、手を引きながら不思議そうに乱馬が尋ねてきた。
「ん?別に!」
あたしは、不思議そうな乱馬に、笑顔でそう言って返した。
…乱馬には、教えてあげない。
あたしが、
普段のこの生活を、この朝の忙しくて慌しいひと時を、文句を言いながらも実はすごく楽しんでるってこと。
絶対に乱馬には教えてあげない。
意地悪でそう言ってるんじゃなくて、
たぶん…
たぶん乱馬も、あたしが思ってるように、この普段どおりの生活を楽しんでいると、そう思ってるから。
…それに。
「変な奴」
「どーせ変な奴だもん」
そう言いながら、ちょっとだけあたしの手を握るその力を強くして、
「…俺もそう思ってるよ」
そっぽを向きながらも、たった一言だけそう呟く、そんな乱馬の言葉を何だか聞けるような気がしていたから。
だからあえて、あたしは自分からはそれを言わない。
「…やっぱりそう思うよね?」
そして、
そう呟く乱馬にそうやって答えたいから、
だからこう答えられるこの瞬間まで、自分からは「楽しんでるの」とは、あたしは言い出さない。
「いつまでもこんな風に、楽しく過ごせる時が続くといい」
声には出さずに、お互い見つめあって笑うその笑顔と、
そして交しあう瞳の視線の光の中に、あたし達の声にならない「言葉」がしっかりとくみかわされていくような気がして。
「…さ、本当に急ごう。遅刻しちゃうわ」
「そうだな」
…そうやって改めて走り出す、そんなあたし達の胸の中も自然といつでも温かくなる。

どんなに慌しくても、どんなに騒がしくても。
あたしは「今」の天道家の朝のひと時が大好きだ。
お父さんがいて、お姉ちゃんがいて。
早乙女のおじ様とおば様がいて。
そして…あたしの隣に必ず乱馬がいる。
そんな空間が、大好き。

繋がれた手のその向こう側で、
乱馬もそう願っていてくれるように、
あたしも、
許される限り長く、こんな毎日が続けばいいと、心からそう願っていた。

 

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