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→俺次第

「あっ…」
「ご、ごめん…」

学校からの、帰り道。
ふとした事がきっかけで、隣を歩いていたあかねの手に、俺の手が触れた。
触れたといっても、お互いの小指がちょっと、触れた程度だ。
「わ、悪かったな」
「う、ううん…」
…お互い、許婚という関係は長くても、
「手を繋いで歩く」なんて事はめったにした事がない。
真之介のところからあかねを連れて帰る時と、心霊スポットの中でお化けに脅えて怖がるあかねの、手を引いて歩いたぐらいだ。
そう、手を繋ぐというよりも、手を引くの方が正しいのかもしれない。
手を繋ぐって言うのはやっぱり、隣に並んで、同じ速度で歩きながら相手の手を取る事ではないか。

中国呪泉洞から帰ってきて以来、何となくだけれど、あかねとの距離が近くなったような、そんな気がする俺。
物理的な距離ではなく、心の距離。
目には見えないものだから、本当にそうかといわれれば分からないけれど、でも完全に違う、とも否定は出来ない。
「お、おめーがぼんやり歩いてるからぶつかっちまったんだからな」
「な、何よあんただってボーっとしてたからでしょっ」
…でも。
何でかな。どうしてもこう、素直になれなくて。
わざと、あかねを怒らせる事ばっかり言っちまう。…不思議だけれど。
偶然手が触れたんだから、別にこんな頑なになって怒る必要なんて全然ないのに。
せっかくだから、言ってみればいいのに、とも思う。
「手、繋ごうか」
って。もちろん、そんなことが簡単にいえれば初めからこんなモヤモヤしたりはしないけれど。

「と、とにかく気をつけろよな」
「あ、あんたもね」
俺は、再びあかねにそう呟いた。
するとあかねは、べーっと俺に向かって舌を出しながら、それまで片手でもっていたカバンの柄を、今度は両手でぎゅっと握ってしまった。
…そうされると、もう偶然に手が触れる事もなくなるし、もちろん、
「手、繋ごうか」
とか。そんな事だって言い出しにくくなる。


「…」
…あーあ。また、チャンスを逃しちまったなあ。

俺は、ムッとした表情で俺の一歩前を歩いているあかねの背中を見つめながらそっと、ため息をついた。
いつかは、俺の前をむくれた顔して歩いているあの女…ああやって歩いているあいつにさっと駆け寄って、
「ごめんな」
とか何とか言いながら、あいつの手を自然に握ってやったりとか。
…そんな日が来るのかな。
でも、それはきっと…
「俺次第なんだよなあ」
…分かっちゃいるけど、どうにもこうにも勇気がでねえ。
俺は、自分の不甲斐無さにもう一度大きなため息をついた。

 

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