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あ?
付き合っているとはいえ、学校の中や学校の周りでは、イチャイチャベタベタする事はない、あたし達。
もちろんいつも、校舎から校門へ向って歩いていく時だってそれは一緒だ。
隣に並んでは歩くけれど、手を繋いで歩く事はない。
それは、学校の皆にあたしと乱馬が付き合っているという事を隠しているかとか、そういう理由ではなくて。
単に、「ここは学校だから」とか…それぐらいだ。
それに、お姉ちゃんや友達もいるし、先生だって見ているかもしれない。
そんな事を思うと、何となく気が引けてしまうのも、ある。
休日にデートをしたり、いっしょに買い物に行ったりする時にはもちろん普通に手を繋ぐ。
「繋ごう」として繋ぐのではなく、気がついたらいつのまにか、どちらともなく繋いでいる。
…そんな感じだろうか。
それは乱馬も同じみたいで、
学校から少し離れた場所に歩いてきた時には、自然に手を出してくるけれど、学校の中とか、友達と一緒の時だとか。
そういう時は、あたしと手を繋いだりはしない。
でも。
お互いがそう思っていたはずなのに…それをすっかり忘れてしまう事があった。
無意識というか、普段のクセというか何というか。
それは、今日の学校帰りのこと。
…
創立記念日やら、国民の休日やら、土日やら。
上手い具合に休日が重なって、今日、こうして学校に登校したのは五日ぶりだった。
そんな、休み明けの、何となく物憂いHRも終わって、ようやく学校から開放される時間、午後3時。
「ねえ、買い物に付き合ってよ」
「いいけど、何かおごれよ」
「高くつくなー」
…いつものように教室を出たあたしと乱馬は、そんな会話をしながら昇降口へとやって来た。
そして、
「じゃあね、あかね。また明日ねー!」
「うん、バイバーイ!」
「乱馬、じゃあな」
「おー」
あたし達の横を次々と通り過ぎていくクラスメイト達に挨拶を交わしながら、あたし達も昇降口から校門へと続くグラン
ドへと出る。
「何買うんだよ?」
「ハンドクリーム」
「買ったばっかりじゃなかったか?」
「この間買ったのは、顔に塗るクリームでしょ」
「そうだっけ」
…
あたしと乱馬は、いつもと同じようにたわいも無い会話を交わしながら校門へと歩いていく。
いつもと同じように、二人で並んで歩く。
いつもと同じように、あたしが少し背の高い乱馬のほうを見あげながら、喋る。
いつもと同じように、乱馬が少し背の低いあたしの為に身を屈めながら、話を聞いてくれる。
そう、それは本当にいつもと同じ。
あたしも乱馬も、いつもと同じようにそうやって、道を歩いている…・つもりだった。
けれど。
「…」
「…」
…不思議な事に、いつもと同じように話をしながら歩いているあたし達の姿を、何故だかは分からないけれど、今日は見ている人が多いような気がした。
じいっと見るのではなく、チラッと見ては目をそらし、そしてまた見る。
何だか、「気になってしょうがない」とでもいいたげだ。
「ねー、何か視線を感じない?」
あたしだけの気のせいか。そんな事を思ってあたしが隣を歩いている乱馬に声をかけるも、
「俺もそう思う」
乱馬もどうやらそう思うのか、首をかしげている。
「乱馬、何か変な事したの?」
「しねーよ。おめーこそなんかしたんじゃねーのか」
「失礼ねっ」
あたし達は、そんな事を言いながらお互いの姿をチェックするべく、目線をそれぞれの体へと移した。
そして、頭の方から順番に目線を落としていったところ…
「あ?」
「あ!」
…それぞれの、隣り合っている「手」の部分で目線はストップした。
左側を歩いているあたしの「右手」と、右側を歩いている乱馬の「左手」。
そう。
いつもは拳ひとつ分くらいの距離を開けて離れているはずのその手が、しっかりと、繋がれている。
「乱馬、手…」
「お、おう…」
休みの間出かけるときは、もちろん意識しなくても手を繋いで歩く。
だから、五日間の休みの後も…どうやら意識せずに手を繋いでしまっていたらしい。
休みボケならぬ、意識ボケだ。
それも、二人そろって。
…あたしも乱馬も、そうすることがごく当たり前のようにいつも思っているという証拠だ。
「…」
あたし達は、思わず顔を見合わせてしまった。
乱馬の顔は、何だか照れたような困ったような…笑顔。
でももしかすると、あたしも同じ顔をしているのかもしれない。
「…」
どうしようか?
…乱馬は何も言わないけれど、目でそうあたしに訴えているような気がした。
どうしようね?
…そんな乱馬に、あたしも瞳でそう返す。
デフォルトは「手を繋ぐ」が当たり前なあたし達。
休日前までは、それをわざと意識して…学校の中では手を繋がないようにしていた。
だから、こうやって手を繋いでしまうのは当たり前といっちゃあ当たり前なんだけど、
…皆の前では、少し気恥ずかしい気もする。
でも。
だからといって、せっかく繋いで歩いていた手を振り解いて歩くのは何だか…イヤだ。
そしたら…どうする?
…
「…」
と、その内。
乱馬があたしの手を引いたまま、ゆっくりと再び歩きだした。
「あ…」
あたしが思わず声を洩らすと、
「ほら、買い物行くんだろ。のんびりしていると遅くなるぞ」
乱馬はそんなあたしの声を掻き消すようにそういい被せる。
そして、やっぱりあたしの手を引いたまま歩き出す。
…それが、乱馬の出した答えだった。
…
お姉ちゃんに見られちゃったらちょっと気恥ずかしいけど、友達に見られたら、何となく照れちゃうけど、
…でも、それでもいいや。
だって、これがいつものあたし達なんだもん。
「うん。早く行こう」
…あたしの出した答えも、同じだった。
せっかく手を繋いで歩いちゃったんだもん。
それが、いつものあたし達の姿なんだもん。
それを、今までは意識していたからって…無理に振り払う事はないよね。
…
「最初はどこ行くんだ?」
「えっとね、駅近くの…」
あたし達は、さっきよりもしっかりと手を繋いだまま、ゆっくりと校門までの道を歩いていた。
そう、それは。
何でだろう。
なんでかは分からないけれど。
いつもの学校帰り、並んで歩いていく時よりも、何だか今日は、とても楽。
あたしだけではなく、乱馬もそう思っているからかもしれない。
そんなあたし達にはもう、周りの好奇心に満ちた瞳なんて全く、気になる事はなかった。
たとえ、こうして歩くのが今日だけだって。
明日からはまた、学校の中では意識をして手を繋いで歩かないようにしようと、そうやってお互い思っていたって。
今日の、今この瞬間は、何だかこうやって歩くことがとても自然、そして当たり前のように…思えたあたし達だった。
