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→幸せな時間(茜さんの小説で遊ばせて頂きました)

(やだ…おしゃべるしているうちに、もう二十分も経っちゃったのね)


ある日の、放課後。
もう大分人気の少なくなった校舎の廊下を、腕時計とにらめっこをしながら、あたしは一人、歩いていた。
一人で歩いているわけだから、もちろん隣には乱馬はいない。
いつもように、
「あかね、帰るぞ」
授業が終わった後、乱馬はそうやってあたしに声をかけてくれたのだけれど、
「ごめん、ちょっと用事があるから」
「え?」
「先に帰ってていいわ」
あたしは、そんな乱馬にそういい残して一人、教室を後にした。
そう。
別に乱馬に隠すほどの事じゃないんだけれど、あたしには放課後に「ちょっとした」用があった。
…探している本があった。
昼休みに図書室を覗いた時、図書室のカウンターの人に、
「その本なら放課後に入荷されますよ」
そう声をかけられた。
「ホントですか!?じゃあ、放課後に取りにきます!」
「そう。じゃあ、とりおきしてあげるわね」
「ありがとうございますっ」
…と、その言葉どおりにあたしは、放課後さっそく、図書室に向ったのだった。
もちろんそこで、すぐに本は渡してもらえたわけだけれど、
だからと言ってそこですぐ、
「はい、さよなら」
そんな風に図書室を後にするわけもいかず、
「今話題の本は…」
とか、
「他にも欲しい本があって…」
とか。
ちょっとした雑談を、そのカウンターの人としていた。
ただ、「図書室」という場所柄、そう表立って長い時間、入り口で話しこんでいるのもどうかと思うので、
「それじゃ、あたしはこれで…」
「ええ。いつもありがとうね」
…きりがいいところで上手い事会話を切り上げて、図書室から出てきたのだった。
ただ、夏の二十分と冬の二十分は、同じ「二十分」でも訳が違う。
「やだー、もう。空、真っ暗じゃない」
…まだ、四時前だというのにも関わらず、朝から曇り空だったせいか既に窓の外はどんよりと暗い。
今にも雨や、もしくは雪でも降りこぼしてきそうな、鉛色の空。
ハア…と、あたしが廊下を歩きながら吐く息も、その目ではっきりと確認する事が出来るほど、白い。
試しに一度立ち止まってからも手に息を吐きかけてみたけれど、やっぱり同じように白い。
「あー、もう。早く帰ろうっ。雨とか降ったらたまんないわ」
あたしはブルっと一度身体を震わせた後、再び廊下を歩き出すその前に、何の気なしに窓の外へと目線を移した。

…と。


「ん?」
そんなあたしの目に、「あるもの」が映った。
あたしが、何の気なしに目線を投げかけた、窓の外。
運動部が縦横無尽に走り回っているグランドの、その先。
校門の鉄の柵の直ぐ横に、あたしは「あるもの」を見た。
「乱馬?」
…そう、乱馬だ。
放課後教室を出る時に、「先に帰っていていいわ」と、あたしは乱馬に伝えたはずだった。
乱馬だって、
「ふーん」
とか、何とか。
明確な返事はしていなかったけど、それを納得したような素振をしてたのに。
「…」
どうやら、先には帰らずにずっと校門のところで待っていたようだ。
「…」
あたしは歩き出すのをやめて、閉じられたままの廊下の窓にそっと手をついた。
そして、そのまま校門の所にいる乱馬を、観察してみた。

…まさか、あたしが校舎の窓から覗いているなんて思ってもいない乱馬。
校門の鉄柵の横で、ウロウロウロウロ。
まるで、壊れたオモチャの人形のようだ。
ウロウロしているくせに、時折突然立ち止まり…急に考え込む。
首をひねって、かと思えばその首を、いきなり左右に振ったりして。
そうこうしているうちに…あ、転んだ。
で、また再び何事もなかったかのように立ち上がって…柵に寄りかかって何か考え込んでいる。

「何やってんのかしら」
…あんた、それじゃ不審者よ。
あたしは、そんな乱馬の姿を眺めながら思わず吹き出してしまった。
なにやら考え込んでいる所を見ると、
もしかしたら…あたしの言う「用事」の内容とかを勝手に考えたりしているのかしら。
「…」
…ったく、バカなんだから。
図書室に本を借りに行くなんて、たいした用事じゃないし。
それに、図書室に連れてったりしたら、本なんて興味がない乱馬には悪いかなって思ったから、
「先に帰っていていいわ」
そう、言ってあげたのに。
何も、あんな風にウロウロソワソワ、妙な素振を見せながら待っていなくたっていいのに。
もしかしたら、
『あかねの奴、誰と会ってんだよっ』
とか何とか。
あらぬ想像をしてたりして?
乱馬の奴、あたしの事はよくこういうけど、自分だって意外にヤキモチ焼きだからなあ。

「…」
…でも。
この寒い中、理由はどうであれ待っていてくれたって事は…あたしと一緒に帰りたいって、そう思ってくれているって 事よね。
「…」
それを考えると、こうやって遠くから乱馬の姿を見て笑っているのが何だか、あたしには急に悪く、思えた。
「…もー」
あたしは、乱馬の姿が見える窓からゆっくりと、身体を離した。
そして、再び人気のない廊下を、さっきよりも急ぎ足…今度は全速力で走り始めた。


しょうがないわね。
ホントにしょうがないんだから。
そんな風に待たれてたら、あたしだって早く、そこに行きたくなっちゃうじゃない。
寒いのにさ。
息が白く目で見えるほど寒いのに、全速力よ?
あんた、感謝しなさいよね。
「…」
…ふふ、そうだ。
ただ乱馬の所に走っていくだけじゃつまんないから、こっそり忍び寄って、驚かしてやろうかな。
あたしが、乱馬が待っているその姿を校舎から除いていた事も、秘密。
それは、あたしだけの秘密。
そうね、あとは…

「待っててくれたの?ありがとう」


…それだけは、素直に伝えてやろうかな。


「…」
乱馬の奴、そしたらどんな顔、するかな。
「別におめーなんて待ってねえよ」
とか、口答えするかしら。
「遅せーよ」
とか、勝手に待ってたくせにそんなことを言うのかな。

いや、違うな。
きっと乱馬は…
「…」
あたしは、再び顔を合わせたあとの乱馬の表情を想像し一人小さく笑いながら、全速力で校門へと走っていった。

 

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