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→似合わない場所のお似合いな二人

「じゃあ、乱馬。ここで待ってて」
「おう」


ある日曜日の昼下がり。
あたしと乱馬は、近くの市立図書館に来ていた。
あたしが借りていた本を返しに来ただけなんだけど、なぜか乱馬が来たがったので、連れてきてしまった。
あたしはともかくとして、乱馬に「図書館」というイメージが全く結びつかない。
結びつかないというより、かけ離れていて、想像が出来ない。
悪いけど、笑っちゃう。
だから、 別についてこなくていいよ、って言ったのに。
何だかんだ言って、乱馬はあたしにくっついてきた。
あたしはカウンターで本を返し、乱馬を待たせているロビーへと向ったけど…乱馬の姿はそこになかった。
「もう、落ち着きないんだから!」
あたしがきょろきょろと辺りを見回すと…ガラス張りの図書館の、2階の端っこの方に、乱馬の姿があった。
珍しい事に、何かの本を読みふけっている。
「乱馬…何読んでるの?」
あたしは、二階の端っこまで歩いていき、本を読んでいる乱馬の背中越しにその本を見てみる。
が、
『サルでもわかる、格闘入---これであなたもブルース・リー』
今時の小学生でも手にとらないようなその本のタイトルに、思わずがっくりと肩を落とす。
「…あんた、わざわざそんな本読まなくても」
あたしがそういって乱馬を見ると、
「いや、本当にサルでもわかるのかなと思って…」
乱馬はそんな事を言って本を閉じる。
「こんだけ本があるんだから、もっと他の本でもたまには読んでみたら?」
「うーん…」
「例えば、ホラ」
あたしは、難しい顔をしている乱馬の手をひいて、二階フロアの棚の間を練り歩いた。
「ここが”物語”系、ここは”伝記”系…」
「俺には皆同じに見えるぜ」
が、乱馬は全く興味なさそうに、しかも下のフロアまで聞こえそうな声でそんな事を言っている。
「シ!大きな声だしちゃダメよ。図書館は、静かにしないといけないんだからね」
あたしは口に指を当てて、「静かにしろ」と促す。
「へーい」 乱馬は、やる気なさそうに返事をする。
「もう…何の為についてきたんだか…」
あたしは半ばあきれながら、”物語”の棚にあった本を手に取る。
それは、あたしが前から読みたかった冒険小説だった。
ずっと借りられてて、いつも読むことが出来なかった本。
「あ!これ借りて帰ろうかな…」
あたしは、ちょっと嬉しくなって、その本をぎゅっと抱きしめた。
「どんな本?」


すると。
乱馬は、そういって、あたしの体にぴったりとくっついてその本を見ようとする。
「え?ただの冒険小説だけど…」
あたしはそういって乱馬から離れようとしたけど、背中が本棚にくっついてしまっている上にフロアの隅っこに追いやられてるので、逃げる事が出来ない。
しかもここ、下の階からガラス越しに見える場所とは正反対の位置にあるので、どこからも死角になっている。
…あたしの中に、ある直感が働いた。
「乱馬。こ、ここは、図書館だからね」
「そーだな」
「ほ、本を読むところなんだから、それ以外のことは…!」
声が思わず大きくなりそうなあたしに、
「図書館は、静かにしないといけないんだろー?大声は出しちゃいけないんだぞ」
乱馬は、あたしがさっき言った事をオウムのように繰り返す。
「だ、誰かに見られたらどうするのよ!」
「確認済み」
そして、言うが早いか、すばやくあたしにキスをした。
「…もう、初めっからこうするつもりで図書館についてきたんでしょ?」
あたしが、真っ赤になった顔を胸に抱いてる本で隠しながらそう言うと、
「ばれたか」
乱馬はにっと笑うと、もう一回あたしにキスして離れた。
(もー!ホントにしょうがないんだから!)
…その後あたしは。
赤くなった顔が元通りの色に戻るまで、カウンターには行く事が出来なかった。


そして、図書館からの帰り道。
手を繋いで、ゆっくり歩いているあたしたち。
「その本、どのくらい借りれるんだ?」
乱馬が、突然そんな事を聞く。
「そうねえ。一週間、かな。来週の日曜日まで」
あたしがそう答えると、
「しょうがねえな。仕方ないから、また図書館まで本を返しに行くの付き合ってやるよ」
乱馬はそういって、あたしの手をぎゅっと強く握った。
「もー、図書館に行く目的が違うんじゃないの?」
あたしはそんな乱馬にちょっと意地悪くそういってやったが、その後すぐに、
「…来週は、推理小説でも借りて帰ろうかな」
と、ちょっと小さな声で呟いた。
そして、乱馬の手を強く握り返す。
「推理小説の次は?」
「そうねえ…歴史小説でも借りてみようかしら」
そんな事を離しながら家路に付く、あたしたち。



ここしばらくは、こんな風な図書館通いが続きそうだ。

 

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