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→世話がやけるわ

「なあ、あっちもみてみようぜ」
「うん」
ある日曜日。
あたしと乱馬は、デートがてら街へ買い物に出かけてきていた。
インテリアショップを見たり、雑貨屋さんを見たり。
何を買うかとか、そんな目的は何も明白ではなくて。
ただただぶらりと、街をお散歩しているようなものだった。


「あ!あれかわいい!」
「あ!あのペットショップ見に行こうっ」
…そうこうしているうちに、偶然入った大きなショッピングストア。
天井も高く、そしてハシからハシまで一度では見渡せ無い様な広い敷地。そして、あたし達の身長よりも高く、豪快 に積み上げられた商品。
両側には色々な店舗が入っていたりして、一歩歩くごとにあたしの目はそれらに奪われてしまう。
洋服や、雑貨。
そして、今はペットが売買されているフロアにやってきているのだが、
「かわいー!」
ガラス越しに、子犬が尻尾を振っている姿を目にしては立ち止まってしまう。
「抱きたいーっ」
まだ、生まれてから1ヶ月くらいの小さな子犬。
「きゃーっ良牙君の所のシロクロみたい!」
ふさふさして、ふわふわしていそうなその姿にあたしが思わずそう叫ぶも、
「…」
乱馬は、そんなあたしの後ろで「やれやれ」という顔でため息をついていた。
「かわいー…あんな犬、飼いたいー…」
ガラスに映っている、乱馬のそんな顔に向って、あたしが更にそう呟くと、
「あんな子犬、世話が大変なんだぞ。かまってやんなきゃ鳴くし。それにおめー、豚がいるだろ、豚が」
「Pちゃん、時々しか帰ってこないんだもん」
「ちょうどいいじゃねえか、邪魔者がいなくて」
「なっ…邪魔じゃないわよっ。Pちゃんはっ」
「それに、良牙の所のシロクロだって。初めは世話するの大変だったって言ってたぞ」
乱馬は、あたしの隣に並びながらガラスを指差し、言った。
「大丈夫だもん」
「どうだか」
「平気だもん。毎日一緒に寝てあげるし、ずっと膝の上に抱いてあげるもんっ」
あたしは、いかに飼いはじめたその犬をかわいがるか…と、乱馬に説明するも、
「それは無理だな」
「なんでよ」
「おめーの部屋のベッドには、犬っころが寝るスペースはねえ」
乱馬はそう言って、ツン、とそっぽを向いてしまった。
「あるわよ」
あたしがそんな乱馬に向って、ちょっとムキになって反抗すると、
「ないね」
乱馬も更に意地になってそう言うと、
ガラスにペタっとついていたあたしの片方の手を、きゅっと掴んで自分のポケットに入れてしまった。
「な、なによー」
もう片方の手を使って、あたしがその手をポケットから出そうとするも、
「いーの。この手はこのままなの」
乱馬は、ボソッとそういって尚も、不機嫌そうな顔をしている。
「…」
…そういえば、このショッピングストアに入ってから、
あたしはガラスにへばりついたままだったから、乱馬と手を繋いで歩いてなかったんだっけ。
「ペットに構う前に、ちゃんと俺に構え」
そんなことを言って、ポケットの中でぎゅっと手を握る乱馬に、
「…もー、これじゃ、子犬よりも厄介じゃないの」
あたしが、くすっと笑いながらそう言うと、
「うるせーな」
乱馬は、更にブスッとした顔でポケットの中の手に力をこめる。
「あーあ、しょうがないなー。子犬より世話が大変な許婚がいたんじゃ、ペットもろくに飼えないわ」
「だから、ペットなんていらねえって言ってんえだろ」
「時にはペットに癒される時だってあるのになー」
「俺が癒してやるよ」
「何それ」
あたしが笑いながらそう言うと、「うるせーな」とか何とか。
乱馬はそういって、あたしにぴったりと身体をくっつけてきた。
そして、あたしの頭の上に顎を乗せるようにして、身体を抱き寄せてくる。
…乱馬がこうしてくる時は、甘えたい時とか、くっついていたい時だ。
「もー…」
まあ、ぶらぶらし始めてからろくに乱馬に構ってなかったし、ちょっとぐらいはいいかな。
あたしはそんなことを思って、ふっとため息をついた。
「どっかいく?」
「うん」
「どっかお店、入る?」
「うん。あ、でも2時間じゃーなー、全然物足りねえし…」
「…。あんた、どこに入るつもりよ」
「決まってんだろ」
「お店って言ってるでしょっ」
ドス、とあたしは乱馬の胴をひじで突いて、
「ほら、向こうにカフェがある。あそこに入ろ」
「はいはい」
と、冗談だったとは言えども、なんだか妙に残念そうな乱馬の手を引いて、あたしは歩きだした。


…小さな子犬を飼うよりも。
大きな許婚の面倒を見るほうが、あたしにとっては大変だ。

 

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