Novels Search :

→Outh to you

「この分だと、明日の昼には日本につくな」
…呪泉洞での大決戦が終わり、日本への船旅についた俺達。
呪泉郷のガイドからもらった地図を見ながら船の操作をしていた親父が、晩飯を食 べながらふとそう言った。
「何!?もう日本なのか!?俺の計算ではこのままではこの船は南に向ってオー ストラリア方面へといっていたはずなのに…」
…と、方向感覚がまるでない良牙がそんなことを呟いている。
「おめーに舵取り任せねえでホント良かったよ」
俺は、心からそう呟く。
「なんだか長いようで短かった船旅じゃったのう」
…と、途中の港から(シャンプーと里帰りをしていたために)合流したムースが呟い た。
「せっかく一日中乱馬と一緒に入れてたのに、残念ね」
シャンプーも、そんなことを呟きながら俺にぴったりとくっついてくる。
「は、離れろって!」
俺はそんなシャンプーを引き剥がして、ふと、視線を別の方向に持っていく。

俺の視線の先には、あかねが、一人。
あかねは、俺達のそんな会話には参加せずに、なにやらボーっと、夕暮れの闇に 包まれた海を見ているようだった。
特に体調が悪いというわけでもなさそうだったけれど、
ただじっと、真暗な海を眺めているようだった。
「……」
俺は、何だかそんなあかねの様子が気にかかって、
「…よお。何でさっきから海ばっかり見てんだよ?」
…皆が寝静まった、深夜。
やっぱり依然として海を眺めているあかねの隣に座り、俺は思い切って聞いてみ た。
「…特に、意味は無いんだけど…」
あかねはそういって、ふと俺の顔を見た。
そして、
「…明日、日本につくのねえ…」
そんなことを良いながら、また、ゆっくりと視線を海に戻す。
「…そうだな」
俺はそんなあかねの横顔をじっと見詰めた。
…確かに、特に何かを悩んでいるというわけではなさそうな、あかね。
でも…何故だかわからないが、俺はそんなあかねの横から離れられなかった。
「あんま波風に当たってると風邪ひくぞ」
俺はあかねにそういってやろうとちょっと、床についた自分の手を動かした弾みに、
フワ…と、あかねが既に床に付いていた指と自分の指が触れてしまった。
「あ…ご、ごめんッ…」
俺が慌ててあかねと接触してしまった自分の指を引っ込めると、
「何で謝るのよ」
あかねは、ちょっと小さな声だけど強い口調でそう呟いた。
「いや…何となく」
「……」
あかねは、俺の方を見た。
その顔は、何だか困ったような…そんな表情をして、笑っていた。
「そんな風に謝られると…まるであたしと手が触れた事が、悪い事したみたいに思 えちゃうでしょ?」
「ごめん…」
「ほら、また謝る」
あかねはそういって、ちょっと笑った。
そして、
「お父さんやおねえちゃんや早乙女のおば様にようやく会えるのね」
再びまた視線を海に戻してしまった。
「……」
俺は、(何で謝るのよ?)といったあかねの言葉が、あかねの瞳が何だかとても心 に残ってしまっていた。
なので、
だからというわけではないのだけど。
「…」
…俺は、床に置いているあかねの手に、再び自分の指を、フワリ、と重ねた。
「え?」
あかねはそんな俺の行動にちょっと驚いたように声をあげる。
俺はそのままゆっくりとあかねの手の上で自分の指を滑らせ、やがてそのあかね の小さな手を、自分の手ですっぽりと包んでしまった。
「乱馬?」
あかねは、そんな俺を不思議そうに見ている。
「…何だよ。いいだろ、俺だって手ぐらいその…握ったって」
俺がちょっと照れながらそう言うと、
「…うん」
あかねは照れたような表情だったが、でも嬉しそうに返事をした。
俺達は、しばらくそのままの状態で、月明かりに照らされた夜の海を、眺めていた。


「ねえ、乱馬」
「ん?」
「乱馬は…どうだった?」
…絶えず聞こえてくる、打ち寄せる波の音を瀬に、あかねが突然そう呟いた。
「どうって?」
俺があかねに尋ねると、
「…あたしと会うまでの間、中国で、あたしの事…ちょっとは思い出してくれてい た?」
あかねはそういって、俺の顔を見た。
「な、何だよ、突然」
俺がそんなあかねの視線から逃げるように慌てて目をそらすと、
「…あたしは…」
あかねは、そんな俺の顔をまだじっと見ながら、
「あたしは…あたしは、ずっと考えてたよ」
そういって…口をつぐんだ。
「…」
俺は、そんなあかねの方にゆっくりと視線を移す。
「乱馬が出発するとき、ちゃんと挨拶できなかったし…それに…それに、そうじゃ なくたって…」
あかねはそこまで言って、フッ…とため息をついた。
そして、俺から視線をそらし、下を俯いて、
「…だからね、キーマのヤツがあたしを呪泉郷に連れて行ったとき、『乱馬があた しの写真を持っていた』なんて言い出したときは、すっごく驚いたの。
 でも、今考えると…たまたま荷物に入り込んでたのを乱馬が落としちゃっただけ なのかもしれないしなあって・
 …ばかでしょ?あたし」
そういって、恥ずかしそうに笑っていた。
「そ、そんなこと…」
俺は思わずそういって、掴んでいるあかねの手にぎゅっと力を入れてしまった。
「痛ッ…」
あかねは、ちょっと痛そうに顔をしかめたが、
「そんなことねえよ!確かにその写真を手に入れたのは偶然だったけど、でも…」
(でも、ずっと懐に入れて持ってたんだよ…それが知らないうちにあいつらの手に 渡って…)
俺は、その最後の一言が言えずに、黙り込んでしまった。
…そう。
あかねの写真を手に入れたのは、本当に偶然だった。
元はといえば、良牙の野郎があかりちゃんとあかねの写真を持って歩いていて、
ちょっとしたときに、俺はその写真を手にする事になったんだけど。
でもその写真は、俺に…「小さな光」をもたらしてくれた。
岩壁が崩れて、押しつぶされそうになった俺を、光あるほうへと導いてくれたんだ。
「乱馬?」
…急に黙ってしまった俺を、あかねが不思議そうに、見る。
「あ…と、とにかくそんなことねえんだよッ」
俺はそういって、ふう、とため息をついた。
「…俺は…今度の事にどうしても、あかねは巻き込みたくなかったんだよ。
 だからはじめ、親父と二人で猫飯店に泊り込みしようと思ってたし…」
(でも、結局、巻き込んでしまったんだよな…)
挙句の果てに、あかねは命を落としそうな危険な目に合う羽目になってさ。
「俺といると、お前、いっつも危険な目にあうんだよなあ」
俺はそういって、あかねの顔を見た。
するとあかねは、
「違うよ、乱馬」
そういって、ちょっと怒ったような顔をして俺を見た。
「違うって?」
「俺といると、じゃなくて…俺といないと、だよ」
「え?」
「乱馬と一緒じゃないから、気持ちがすれ違ったり…危ない目にあうのよ」
そして、あかねはそう言って俺の腕にちょっと寄りかかった。
「…」
俺は少し照れてしまいながらも、そんなあかねの身体をしっかりと腕で支えた。
「確かにあたしは、皆みたいに強くないし、足手まといになるかもしれないけど…
 でも、今度こうやって乱馬が皆とどこかに旅立たなくてはいけないときは…」
あかねはそう言って、俺の腕に顔を埋めた。
「…あたしの『心』だけでもいいから、一緒に連れてって欲しい」
「…あかね」
「ちゃんと話も出来ないまま離れて、それであんな出会い方しか出来なくてなん て…。
 今回はこうやってまた一緒に帰れるから、良かったけど。
 でも、今度は…どんなに離れていても大丈夫なように、あたしの『心』だけは一 緒に連れてって欲しいな」
「…」
…俺は。
そういったあかねの身体を、思わずぎゅっと抱きしめてしまった。


そうだな、あかね。
俺もさ、ちゃんと挨拶できないまま中国に旅立って、
何度もそのことを後悔したんだよ。
偶然向こうでお前と会えたけど、あんな出会い方で。
それに、もしもあのままお前が死んでしまっていたら…そんなことを考えただけ で、今でも心が震えてしまう。
あんな想いをするくらいなら、いっそこの俺の心ごと壊してほしいって。何度思った か分からないよ。


だからこれからは、約束するよ。
どんなに遠くへ、どんなに厳しい戦いへ向おうとしているときでも、
「側にいるよ」というお前のその「心」だけは、
俺は絶対に連れて行く。
何があっても離れてしまわないように、
絶対に連れて行くよ。


「約束する」
俺はそう言って、腕の中のあかねを、見た。
「うん」
あかねは、嬉しそうに、俺の顔を見上げた。
「約束するから…」
俺はそう言って、もう一度あかねを抱きしめた。
…と、その時。
「乱馬!貴様!あかねさんに何をしているー!?」
話し声のせいで起きてきてしまったのか、良牙がそんなことを言いながら突然俺達 の前に現われた。
「な!良牙!?」
「良牙君!?」
俺達は突然の良牙の登場で慌てて離れる。
「あかねさん、すみません…俺が目を離したばっかりに君を危険な目に…」
良牙は、人の話を全く聞く素振もなく、涙を流しながらそんなことを呟いている。
「りょ、良牙君、あたしは別に…」
あかねは必死にそんな良牙をなだめようとしているが、
「乱馬!問答無用!」
良牙はそんなことを言いながら俺に襲い掛かって来た。
「わ!ちょ、ちょっと待てって!」
「やかましい!」
俺と良牙が船の上でそんなことを言い合いながら飛び回っていると、
「あかね!抜け駆けは卑怯ね!正々堂々と勝負するよろし!」
更にそんな様子を聞きつけてシャンプーも起きてきてしまった。
「しょ、勝負って…」
「とぼけても無駄ね!」
シャンプーはそんなことを言いながら、あかねに向って攻撃を仕掛けていた。
「こらこら、お前ら。いい加減に…ぐは!」
ムースがそんな俺達やシャンプーたちを止めようと間に入るが、
哀れ、良牙とシャンプーに思いっきり踏み潰されて、床に倒れてしまった。
やがてそこに最後まで寝ていた親父がやってきて、
バシャ!!
…俺達全員に、勢いよくバケツの水をかけた。
(やべ!良牙を隠さないと…)
俺は親父が水をかけた瞬間に、
「あかね、こっちだ!」
「え!?ちょ、ちょっと何よ!?」
あかねの腕を引っ張って、皆から見えない場所へと移動する。
「な、何よお、急に。もう」
あかねはそんなことを言いながら、ブルブルっと身体を震わせている。
どうやら、良牙の変身シーンを見なくて済んだようだ。
「ま、深いことは気にすんなよ。それよりほら、見てみろよ、空」
俺は、身体を震わせているあかねに近くに置いてあったタオルを渡すと、空を指差 した。
空には、銀色の三日月が一つ、浮かんでいた。
白く鈍く光るその三日月は、柔らかい光をあたり一面に降り注いでいる。
「わあ…きれい」
あかねは、そう言って俺が言ったとおりに空を見上げていた。
(ちぇッ…女になっちまったからなあ。さっきの続きって訳にはいかねえ、か)
俺はそんなことを考えながら、思わずちょと、笑ってしまった。
でも、
(でも、コレくらいは女の姿だって、いいよな?)
そんなことを思いつつ、俺は空を見上げているあかねの手を、取った。
そして、手を繋いだまま、自分の洋服のポケットにその手を入れる。
「…」
あかねは一瞬驚いたような表情をしたけれど、
「月、綺麗ねえ…」
と、すぐに元通りの表情に戻り、やがて笑った。
そう言ったあかねは、ポケットの中の俺に捕まれた手をちょっと動かす。
「そうだな」
俺は、そんなあかねの手をその動きに合わせてやっぱり動かす。
ポケットの中で俺達の手は、徐々に徐々にしっかりと重なって、そしてやがて…お互いの指が絡み合うように、しっかりと握り合っていた。


なあ、あかね。
どんなに遠くへ、どんなに厳しい戦いへ向おうとしているときでも、
「側にいるよ」というお前のその「心」だけは、俺は絶対に連れて行くって約束するよ。
何があっても離れてしまわないように、今度こそ絶対に連れて行くと約束をするから、
だから今は、こうしてこのまま俺の隣で笑っていて欲しい。
ずっとこうして、笑っていて欲しいんだ。

「今日こんだけ月がきれいだと、明日はもしかしたら晴れるのかな?明日、晴れると 良いねえ」
「そうだな」

俺は、あかねと何のことない会話を交わしながら、ただただ、そう願っていた。

 

TOPへ戻る