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大切なコト1

 

「ねー…あたしも修業に連れてってよ」
「だめ」

とある週末。
部屋で、玄馬とともに明日から三週間にも及ぶ山籠りに出掛ける為に荷造りをしている乱馬の横で、その手伝いをしがてら、あかねはだだをこねていた。
理由はいたって簡単。
玄馬も行くのなら、あかねもその修業に一緒に連れてって欲しい…それだけなのだが、
やれ「女は修業に連れてけない」
だの
「あかねは厳しい修業に耐えられない」
だの、
何だかんだ理由をつけては、乱馬はその申し出を断り続けていた。
「あたし…そんなに足でまとい?」
あまりにもにべもなく断わられるので、あかねがしゅん…と落ち込んでしまうと、
「あのなあ…」
乱馬は荷造りする手を一度止め、しゅん…と肩を落としているあかねの身体にゆっくりと腕を回して引き寄せた。
「だから…その、足手まといとかそんなんじゃなくてさ。あかねと一緒だと、俺が修行になんねえんだよ」
乱馬は抱き寄せたあかねの耳元でそう囁くと、そのまま耳にチュ…と唇をつけた。
「やッ…何で修行になんないのよ?」
あかねは、そんな乱馬から逃れようと身をよじりながらそう尋ねる。
乱馬はそんなあかねを逃すまいとして更に回した腕に力を込めると、
「…余計なコトで頭がいっぱいになっちゃうから」
そう言って、今度はあかねの首筋に唇を滑らせた。
「ちょッ…分かったわよッ。分かったからッ」
あかねはジタバタと暴れながら乱馬を見あげた。
「分かればよろしい」
乱馬は妙に偉そうにそう言いながら、あかねの身体を離した。
そして、ゴホンと咳払いをして、
「とにかく。修行に行くわけであってだな。旅行に行くわけじゃないんだぞ。一緒に行くのはまた今度。約束したろ?」
身体を離されて真っ赤な顔をしていたあかねの手をきゅっと握った。
「うん…」
あかねもようやく納得して、頷く。

実は。
早雲の古い知り合いが、近くの高原でペンションを始めたらしく、「オープンする前に遊びに来ないか…」と、天道家へ連絡をくれたのだ。
そこで、
「せっかくだから二人で行ってきたら?」
…と、早雲がこっそりあかねと乱馬に知人から贈られてきたチケットを渡してくれたのだ。
一般的な親と違ってやけに寛大、そして当の本人達が時には困るくらいそういうことに協力的な早雲。
しかし今回ばかりは、あかねも乱馬も感謝をしていたりは…する。

「たった、三週間だから」
「うん」
「俺だって寂しかったりするんだから…それでも我慢するんだから。な?」
「うん」
表情を曇らせてシュン…としているあかねの頬に手を触れながら、乱馬はまるで子供を説得するかのように話して聞かせる。
「電話、するから」
「…うん」
そんな乱馬に、不安そうな表情を見せながらもあかねは頷いて見せた。
「戦いに行くわけじゃないんだから、安心しろって。な?」
…そんな風にして。
翌朝の出発まで、乱馬は表情を曇らせたままのあかねにそんな事を話しつづけ、そしてあかねがようやく小さな声で、
「いってらっしゃい。気をつけてね」
…そう言ったのを確認して、修行へと出て行った。


修行自体は、電車で五駅ほど行った町の、山奥にある水場で行うことになっていた。
家からは、電車を使えば、約二時間半ほどの場所だった。
それでも一旦水場まで行ってしまえば、ふもとの町まで出る為には片道一時間ほど歩いて山道をくだらなければいけないような、不便な場所だった。
電車がふもとの駅まで通っていない頃は、山を幾つも超えて隣の町や村へと行く事しか出来なかったようなので、それに比べたら随分と便利にはなっているのだけれど。


…そんな場所で修行する予定の乱馬なので、少し考えればあかねに「電話をするから」と約束する事は、はっきり言って、無謀というか無茶としか言い様がないのだ。
が。
それでも乱馬は律儀にも、
「電話、するから」
修行に出る前の日に寂しそうな顔をするあかねにそう約束したように、毎日一時間近くかけて山道を下り、午後7時きっかりに、必ず天道家へ電話を入れていた。
そして、その時間の電話は必ずあかねが取り、きっちり三分間で電話を切っていた。
あかねと乱馬が正式に付き合いだす前には、例え修行に出ても、その期間中に家に電話を入れるか入れないかくらいの不精さだった。
にも関わらず、付き合いだした今となっては、他の家族が驚いてしまうくらいマメに、例えどんなに短くとも、乱馬はあかねへと毎日電話をした。
「乱馬君も、マメねえ」
…そんなあかね達の様子を端から見ているなびきが、
昨日、今日ときっちり夜7時になる電話を取り、三分間話してきった直後のあかねに向っていった。
「そ、そうかしら」
あかねが誤魔化そうとすると、
「全く。三週間たったら嫌でも家に帰ってくるんだから。ロミオとジュリエットじゃあるまいし…」
なびきはそんなことを言いながらあかねの肩を叩いた。
そして、
「これじゃ乱馬君、浮気なんて絶対出来ないわね」
「お姉ちゃん!」
「はいはい、乱馬君はそんなことしないって言うんでしょ。よーく分かってます。アイツにそんな甲斐性はない…おっと違った。二人はかたーい絆で結ばれてるんだもんね」
あかねを半分小ばかにしたような口調でそう言うと、からからと笑いながら自分の部屋へと行ってしまった。
(もうッ)
あかねは、そんななびきの態度にぶーっと頬を膨らませつつも、
(だって…乱馬が電話するからって…乱馬から言ってくれたんだもん)
修行に出る前の日の夜、眠ってしまう前にあかねにこっそりと乱馬がしたそんな提案を思い出して赤くなった。
…一緒の家に住んでいるから、一般的なカップルに比べては新鮮味がかけている乱馬とあかねの付き合い方かもしれないけれど、
こうして三週間も修行に出るって言う時に、普段は絶対に起こりえないシチュエーションを約束されると、あかねだって嬉しくて仕方が無かった。
それに、
「…俺だって、寂しかったりするんだよ」
ボソッとそう呟いた乱馬のその時の表情が何だか妙に可愛く思えて、
(ふふ…乱馬も寂しいって、思ってくれるんだ…)
その時の事を思い出しては、あかねは顔を赤らめたり緩めたり…していた。
なびきの言うとおり、「三週間たてば否が応でも帰ってくる」そんなことは百も承知だし、
それに、たった三分の電話の為だけに1時間近くも山道を毎日往復しなくてはいけない乱馬のことを考えると少し気後れはするが、
(でも、たまには…こんなことしてたっていいよね?
 離れていても相手を不安な気持ちにさせないって事は大切な事だよね?)
そうやって、自分の心の奥にある「寂しさ」を我慢できない…という気持ちを正当化させることによって、
あかねは自分達が毎日のように電話で話すというこの行為を、
「こんなことがあってもいいじゃないか」
そんな風に捉えていた。
毎晩七時きっかりに鳴る電話だけが、乱馬が修行に出てしまった今のあかねの唯一の楽しみになっていた。



…その、翌日。
週明け、月曜日。
「おはよー」
乱馬は修行に出ているので、久しぶりにあかねが一人学校へ登校すると、
「あかね、おはよー。あら?今日は旦那は?」
「な、何よ旦那ってッ。修行に出かけたからしばらくは学校、お休みするんだ」
「ふふ、旦那って言って分かってんじゃないの。あ、そう。乱馬君お休みなんだ」
「もう!」
さっそくクラスメートにそんな風にからかわれつつ、あかねはそそくさと席につく。
そして、自分の隣のぽっかりと空いている席を眺めてみた。
その席の主はいつも、大抵は突っ伏して寝ている姿しか見る事が出来ないのだが、それでも、授業が始まっても埋まる事の無いその席を見ているとやっぱり何だか寂しい。
(たった三週間なんだけどなあ…あたし、こんな寂しがりやだったっけ?)
あかねは、乱馬の席を眺めながらそんなことを思っている自分が何だかとってもおかしかった。
そして、
(今日の夜の電話で、乱馬に話してみようかな。…ふふ、また笑われちゃうかなあ…)
そんな事を思いながら思わず顔を緩ませてしまった。
…が。

「あかねちゃんッ」

その直後。
そんな風に乱馬の空いた席を見てにこやかにしていたあかねの所に、険しい表情をした右京が駆け寄ってきた。
「右京…どしたの?」
朝っぱらから異様な剣幕の右京に、あかねが少々戸惑っていると、
「どうしたもこうしたもないッ。あかねちゃん、何で平気なん!?」
右京は、そんなあかねの顔をぐっと見詰めながら叫ぶ。
「だ、だからどうしたのよ」
ちょっと落ち着いたら?とあかねが右京を制すと、
「その様子だと…あかねちゃん、もしかして知らへんちゃう?」
右京はそう言って、あかねの手を取り、
「ちょっと、こっち来て。話がある」
強引に教室の外へと連れ出した。
「ちょっとちょっと。どうしたのよ,急に…」
あかねが右京に連れて行かれるままに教室の外までやって来ると、
「どうしたのって…あかねちゃん、やっぱ知らへんのやね」
右京はそう言って、ため息をついた。
「知らないって?何を?」
あかねがそんな右京の態度が少し気になり表情を曇らすと、
「…」
右京はそんなあかねの顔を一瞬じっと見て、そして、
「乱ちゃんとおっちゃんの修行場所にな…シャンプーも一緒に寝泊りしてるってコト」
そう言って、はあ…とため息をついた。
「…え?何で…?」
あかねは始め、右京が言っている事が上手く理解できなかった。
ただ、自分の胸が異常にドキドキと鼓動し始めた事だけは感じる事が出来た。
「昨日、ムースに商店街でばったりあったんやけどな?シャンプーの奴、乱ちゃんが修行に行くのを知って、ご飯係をやるからって強引についてったらしい。始めはおばばも一緒にいたらしいんだけど、おばばはシャンプーに気を使って先に帰ってきたらしいで」
右京は、そんなあかねにかまわず一気にそうまくし立てると、
「シャンプーの奴、ちゃっかりと!うちかて乱ちゃんの許婚やで…このまま許婚が他の女と山にこもってるのを放ってなんかおけるかい!」
そう叫んで、廊下を走っていってしまった。
どうやら、右京はこのまま乱馬の元へと乗り込んでいこうとしているようだった。
「…」
あかねは、そんな右京の背中を見送りつつ、ドクン、ドクンと激しく鼓動する胸の前で、ぎゅっと手を握った。

…昨日の電話でも。
その前の日の電話でも。
乱馬は、あかねに一言も「シャンプーが一緒に寝泊りしている」と話してはいない。

「…」
玄馬だって一緒にいるし、あかねは乱馬を信じている。
だから、たとえシャンプーが乱馬の元へ押しかけていって一緒に寝泊りしているのを知ったところで何の心配をする事はないと、あかねは何度も自分にそうい言い聞かせた。
しかし、乱馬はともかくとして、シャンプーは乱馬のことが大好きなのだ。
「…」
それを考えると、どうしてもあかねの胸のなかにはわだかまりというか、急に不安とういか…何かモヤモヤした気持ちが大きく影を落とした。
(…乱馬に、聞いてみなくちゃ)
あかねは、握った手に更に力を込めながらそう呟いた。
…右京からでもなく、コロンからでもなく。
乱馬の口から、今シャンプーと一緒にいるのかどうかを聞きたい。
あかねは無性にそう感じた。


そして、その夜。
トぅルルルル…トぅルルルル…
前夜と同じように、夜7時きっかりに天道家の電話が鳴った。
「…」
昨夜までは、その電話が鳴るのを今か今かと心待ちしていたあかねだったけれど、
「…」
今夜だけは、受話器を取り上げるその仕草一つが、あかねにはとても勇気がいるものになっていた。
それでも、電話をとらないわけには行かない。
「…はい」
あかねは、意を決して受話器を取り上げた。
『…あ、俺だけど…。』
受話器の向こうからは、乱馬の声がした。
「うん…」
あかねは、静かに答える。
『どうした?何かあったのか?元気ねえぞ?』
電話の向こうからは、イマイチ切れの悪いあかねを心配した乱馬の低い声が聞こえる。
「何でもないよ。それより乱馬は、どう?その…何かあたしに伝えたい事とかない、の?」
あかねは、そんな乱馬の声を打ち消すように、そう切り返してみた。
が、
『伝えたい事、かあ。改めてはねえな。あえていうなら…今日の修行は結構はかどったってコトぐらいかなあ。』
乱馬はそんな事をぼやいた後、
『あっそろそろ電話が切れる…あかね、また明日電話する。何があったかわかんねえけど、元気だせよなッ』
慌しい口調でそうあかねに言った。
「ありがとう」
あかねはそんな乱馬の言葉を複雑な気持ちで聞きながらお礼を述べたが、丁度その時点で、「ブー…」とコインが切れる音がして、強制的に電話が切れてしまった。
「…」
ガチャン、と受話器を置いた後、あかねは大きなため息をついた。
『伝えたい事ないの?』
そう聞いたあかねに対して、乱馬の返した答えは、『改めてはない』…そんな答えだった。
(なんで?あたしに言うほどのことでもないって、思ってるのかな…)
きっと、余計な心配かけまいとしているというのは分かっているのだけれど、それでも、こうしてその事実を知ってしまった以上は…乱馬の口からちゃんとその経緯も、その様子も、聞きたい。
(…)
あかねは、はっきりと切り出せなかった自分に対しても後悔しつつ、ため息をついた。



…あけて翌日、火曜日。
「え?!右京、お休みなんですか?」 「そうよー。久遠寺さんはー、しばらくお休みするそうなのー」
朝のHRに姿を表さなかった右京を心配して、あかねが担任の二ノ宮ひな子に尋ねると、
「何でもねー、女として勝負せなあかんッとか言ってたわ」
ひな子はそう言って「久遠寺さんも大変ねえ」とため息をついていた。
(…というより、そんな理由で欠席を許していいのかしら、この学校は)
あかねはその部分は納得できなかったのだけれど、
でも、
(間違いない…右京の奴、乱馬とシャンプーのところへ行ったんだ)
あかねは、そう確信していた。
「…先生。あたし、今日は早退します」
「え?!て、天道さん?」
なので、あかねもすぐに学校から飛び出し…
右京のように突然乱馬の元へと向うのではなく、まずは猫飯店へと向った。
本当にシャンプーが乱馬の元に居るのか確かめようと思ったのだ。
「おや。こんな時間に珍しい客人じゃな」
…平日の、しかも午前中の早い時間のあかねの来店に、
店の厨房で仕込みをしていたコロンがカカカ…と笑いながら声をかけてきた。
「聞きたい事があるの」
あかねはそんなコロンの元へと駆け寄ると、
「おばあさん、シャンプー、今乱馬の修行先に居るって本当?」
回りくどい言葉を避け、あかねは率直にコロンにそう質問した。
「ほう?ムースのやつにでも聞いたのか?婿殿ならあかねにはそんなこと言わんだろうしな」
コロンはそンなことをぼやきながらも、
「本当じゃよ。もう三日、シャンプーは婿殿のところにおる」
あかねの質問に対して、はっきりとそう答えた。
「…そう」
あかねは、コロンの答えを予想はしていたものの、ズキ…と胸に感じるものがあった。
「シャンプーならば、婿殿の修行の間も美味しい料理を食べさせてやる事が出来るしな」
「…」
あかねは、笑うコロンに頭を下げると、猫飯店を後にした。
(…シャンプー、ホントに乱馬のところに居るんだ…)
…予め右京に聞いていたし、そうだと分かっていてコロンに聞きに行ったとしても、あかねの中にはやはり何か割り切れない思いがあった。
強引に、シャンプーが乱馬の修行に着いていってしまったことは、わかる。
そこは、あかねだって理解しているつもりだ。
でも。
修行が始まって、今日で四日目。
(…どうして、強引に追い返さないの?)
あかねには、その事が不思議だった。
もしも、右京に聞かなければ、あかねはシャンプーが乱馬と今一緒にいることをずっとしらないまま三週間過ごすこととなっていた。
知ってしまった今は、ちゃんとその事も聞きたいし、それに…
それに、「修行」で山に篭っているわけだから、そんな風に強引に追ってきたシャンプーはすぐに追い返すべきではないのか。
…あかねはそんな事を思った。
(料理が上手だと、修行の邪魔にはならないってことなのかな…)
「…」
胸の中に突っかかっている大きな不安を、あかねはどうしても取り除く事が出来なかった。
今日は、右京も乱馬の修行場へと向っているはずだ。
(…今日こそは,乱馬、あたしにも話してくれるかな)
…今日こそは、乱馬からの電話で詳しい事を聞いてみよう。
あかねは、猫飯店からの帰り道をとぼとぼと歩きながら、そんな事を考えていた。


そして、その夜。
トぅルルルル…トぅルルルル…
昨夜と同じように、夜7時きっかりに天道家の電話が鳴った。
その電話が鳴るのを、あかねは随分と前から電話の前で待っていたはずだった。
なのに、
「…」
前夜同様、受話器を取り上げるというその行為が、あかねにはとても勇気がいるものになっていた。
それでも、やはり電話をとらないわけには行かない。
「…はい」
あかねは、意を決して受話器を取り上げた。
『…あ、俺…。』
受話器の向こうからは、前夜同様、いつもの乱馬の声がした。
「乱馬…」
あかねは、静かに乱馬へと呼びかけた。
『あかね、どうした?今日も何か元気ねえぞ?』
電話の向こうからは、昨夜同様元気のないあかねを心配した乱馬の低い声が聞こえる。
「乱馬…あの、あのね…」
『うん。』
「あの…」
あかねは、なかなか自分の思っている事を切り出せずにいた。
『どうした?あかね。』
「あの…どうなの?」
『何が?』
「だから…修行」
あかねがそんな事を尋ねると、 『うん、まあまあ順調。それなりに楽しくやってる』
あかねが本当は何を聞きたいのかを理解していない乱馬は電話の向こう越しでそう答えた。

…楽しくやっている。

「そう…」
あかねには、その一言が堪えていた。
「乱馬、あのッ…」
そして、その一言に堪えきれずあかねが意を決して乱馬に尋ねようとした丁度その時、
『あかね、そろそろ電話が切れそうだッ。とにかく、元気出せよ、な?じゃあなッ…』
ブーっ…という機械音とともに、乱馬は早口でそう言って、電話を切ってしまった。
「あ…乱馬ッ…」
あかねは慌てて呼びかけたが、ツー…ッツーッ…と、受話器の向こう側からは無情にもそんな電話の不通音が聞こえるのみだった。
(…)
あかねは、静かに受話器を置いた。
そして、
「…おねえちゃん。あたし、ちょっと出かけてくる」
「こんな時間にどこに?」
「山ッ」
「はあ?」
唖然としているなびきをよそに、あかねはそう叫ぶや否や…財布だけを持って、天道家を飛び出した。
「ちょっとちょっと!あかね!山って何よ!?」
背後で叫ぶなびきを振り返ることなく、あかねはひたすら夜の道を走った。
とりあえずは、駅に向おう…そう思いながら、駅への道を走っていた。



あかねは、乱馬に直接事の確認をしに行こうという以外、考える事が出来なくなっていた。
…そう、この時のあかねは、些細な理由で、「修行」の場へ乗り込んでいく…それが、一体どういうことなのか。
そして、自分がその行動を取る、という事がどういうことを意味するのか。
あかねは、この時にはまだちゃんと理解をしていなかった。

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