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→Promise with you 1

「よし!…完璧」
…午後、三時。
駅に設置されている小さな鏡で、自分の姿をさりげなくチェックしながら、あたしはそう呟いた。
改札の横では、臨時の出店が立てられていて、キャンディーやらチョコレートやら、綺麗に包装されたお菓子がたくさん山積みにされていた。
駅に向う人々も、今日はどことなくカップルが多い。
そんな今日は、三月十三日。
そう、明日はホワイトデー、という土曜の昼下がり。
そんな日に、どうしてあたしがこうやって駅にいるかというと …話は昨日にさかのぼる。


「十三日さ…どっか、でかけねえか?」
昨日。
学校からの帰り道、もうすぐ家に着いてしまう…そんな場所に差し掛かったとき、繋いでいる手にちょっと力を込めながら、乱馬が突然そうあたしに切り出した。
「え…。な、何、急に…」
いきなりそんなことを切り出されて驚いたあたしがそう答えると、
「だ、だからッ…その…つまり…明日、ひ、暇なのかよ暇じゃねえのかよ?」
乱馬は何だか真っ赤になって、やけに早口にそういってはそっぽを向いていた。
…どうやらそれは、照れ屋な彼なりのデートの誘い方のようだ。
「…いいわよ、別に。一応暇だし」
本当は。
今すぐにでも腕にシャカッと抱きついて喜びたい気分なんだけど、それはちょっとおさえて、あたしは笑いながらその誘いを受けた。
…意外だった。
まさか、乱馬からあたしを誘ってくれるなんて、思わなかった。
大抵いつもは、
「買い物行きたい」
「映画みたい」
「遊びに行こうよ」
…あたしから、何時も乱馬を誘っていたから。
だけど、ホワイトデーは男の子が女の子にお返しをする日だし、今回はあたしから誘うのは一体どうよ?…あたしはそんな風に思っていたのでなかなか乱馬に切り出せないでいた んだけど、
「…」
(…でも…嬉しいな)
あたしは、思わず顔が緩んでいた。
照れ屋な乱馬が、あたしとデートしよう、だなんて。
こうしてあたしを誘ってくれたこと。
あたしは、心からそれが嬉しかった。


「昼間だと結構込んでるからさ。ちょっと時間をずらして夕方から出かけたい」
そんな事を考えているあたしに、乱馬が不意にそう言いだした。
「夕方?」
「ああ。夕方から」
「うん。あ、でもそれだと夜、遅くなるね」
「…日曜日、予定入ってるのか?」
「ううん」
何だかちょっと表情を曇らせた乱馬に、あたしは即座にそう答えてやる。
「俺、十三日の昼間ちょっと用事があるから一緒には家を出れないけど、三時に直接駅で待ち合わせでもいいか?」
「うん。でも、用事って?」
あたしが尋ねると、
「ちょっと、な」
乱馬間は何だか歯切れが悪そうにしていたけれど、
「楽しみだな、十三日」
そういって、不思議そうに自分を見ているあたしの頭をポン、と軽くたたいた。
「…そだね」
あたしは。
そうやって言った乱馬の顔がとても柔らかかったので、思わず抱いていた疑問も吹っ飛ぶくらいの笑顔を、いつの間にか返していた。
なのでその時はそれ以上、乱馬に対して何の疑いも持たなかった。




…そんなこんなで、今日。
「行って来ます」
乱馬は当初の予告どおりに午前中から出かけてしまった。
「あれ?あかね、あんた午後から出かけるって言ってたけど…いいの?」
そんな乱馬を平然と見送ってたあかねを、なびきは意外そうに見ていたけれど、
「別に」
あたしは、そんななびきおねえちゃんの攻撃を上手に交わす。
「ふーん。なーんか怪しいなあ。だってあんた達もうちゃんと付き合ってるんでしょ?なのに今日、デートしないのかしら?」
「別に。良いでしょ」
あたしが余裕で攻撃をかわすので、
「…あ、そー。まいいけどね」
なびきお姉ちゃんは何だかニヤニヤしながら、あたしにそういった。
(やばい。このまま質問され続けるとぼろがでそうだわ)
「あ、い、今のうちに学校の宿題しておこうかなー」
あたしはなびきお姉ちゃんの目を逃れるようにそそくさと部屋へと戻った。
そして、午後になってようやく出かけるときもこっそりと、かすみお姉ちゃんにだけは「今日は遅くなる」と伝えた。
が。
「そう。あかねちゃんは、遅くなるッ…てことは帰ってくるってことよね」
「え?」
かすみお姉ちゃんは、玄関から出るあたしの背後でそんな事をボソッと呟いていた。
(…?)
あたしはお姉ちゃんのその一言が気になったけれど、
待ち合わせ時間までそろそろ余裕もなくなってきたので、待ち合わせに遅れてはいけない…と、慌てて家を出てきたのだ。
・・・
しかし。
おかしい。
十分たっても、二十分たっても。
乱馬が現れる気配がない。
(おかしいなあ…三時って確か言ってたはずなのに)
あたしがちらっと腕時計を見ると、時刻は既に三時半。
「待ち合わせ」した時間から三十分も過ぎている。
(乱馬…どうしたんだろう。その昼間の”用事”が長びいてるのかあ…)
…こういう時、携帯電話をお互い持ってないというのは不便だなと感じる。
(いい機会だから、携帯買うのも考えてみよ)
あたしはそんなことを思いながらも、ひたすらそこに立ち続けた。
…ところが。
一時間待っても、二時間待っても、乱馬は一向に現れない。
あたりも日が暮れて、オレンジ色の夕焼け空が、徐々にダークブルーへと溶け込み始めていた。
(…)
あたしがふと腕時計に目を落とすと、時刻は既に六時半を指していた。
待ち合わせ時刻から、既に三時間半も経過している。
駅も、夕方のラッシュを迎える時間なので人も多くなってきた。
(どうしたんだろう…何か、あったのかな?)
本当は、三時間半も外に立ちつづけたので身体が寒さで震えだしてきたのだけれど、
それよりもあたしには、姿をあらわさない乱馬のほうが心配だった。

一時間くらいまでなら「前の用事が長引いてるのかな」と思えるけれど、二時間、三時間となると話は別だ。

(もしかしたら、事故か何かに巻き込まれて…?)
あたしは急に不安になって、とりあえず近くの公衆電話から家へと電話を入れてみた。
『はい、天道です。』
…出たのは、早乙女のおばさまだった。
「あ…おばさま、あかねです」
『あら、あかねちゃん。どうしたの?』
「あの、おば様…乱馬は」
あたしがちょっと小さな声でそう尋ねると、
『あら?乱馬は昼間でかけたきりだけど…。え?おばさんてっきりあかねちゃんと一緒にいるもんだと思ってたのに。あの子ったら、それじゃどこに行っちゃったのかしら?』
あたしのその質問に、おば様はちょっと意外そうに答えた。
「そうですか…」
あたしがそういって電話を切ろうとすると、
『あ、待って、あかねちゃん。今かすみちゃんがね・・・』
おば様はそういって電話の向こうで何かをごにょごにょとはなし、
そして、
『乱馬、今日はお友達の家にとまるからって…昼間家をでる時かすみちゃんに言ってったみたいよ。』
「え?」
あたしはおば様の答えに驚きつつも、御礼を言ってとりあえず電話を切った。


…友達?誰だろう。
もしかして、昼間の用事に何か関係あるのかな。
夕方から出かけて、遅くなったらあたしは家に返して自分はお友達の所に泊まるつもりで…?

「…」
(分からない…乱馬、どこ行っちゃったんだろう)
連絡もなく、乱馬がこんなにあたしを待たせるのは初めての事だった。
(どうしたのかな?乱馬…嫌になっちゃったのかな…)
あたしは、言い知れぬ不安で胸がぎゅ…と痛んだ。
…と。
「あれ?あかね様ではありませんか」
そこに、背中に荷物を背負い、両手には中身がはみ出すほど中身を詰め込んだ買い物袋を提げた小夏さんがやってきた。
「小夏さん…買い物?」
あたしは不安げな顔を見せまいと、慌てて笑顔をつくろって小夏さんに答える。
「はい。今日は右京様が昼間からお出かけになってるので、夕食は私が」
「右京、でかけてるんだ?」
週末土曜に、お店を閉めてあの右京が出掛けるとは。
…あたしがそんな事に妙に感心していると、
「ええ。早乙女様と一緒に、楽しそうに出掛けられましたよ」
「…え?」
「今日は、お二人は午前中からデートされてるんですよ」
右京に惚れている小夏さんが、少し困ったような顔で笑いながら…でも、はっきりとした口調であたしにそう言った。



…小夏さんのその言葉に、あたしの中の全ての時間が止まった。

 

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