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→Promise with you 4

(…ん?)
なびきお姉ちゃんに手を握られたまま眠りについたはずのあたしだったけれど、
何となく自分の顔の上に異物感を感じ、そして近くに妙な人の気配を感じたので、あたしはそっと目を開けた。
「?…」
が、目を開けたにも関わらず、あたしの視界は何故か遮られていた。
どうやら、理由はわからないけれど、あたしの顔の上には何か布のようなものがかけられているようだ。
(お姉ちゃんかしら?何でわざわざこんなもんを…)
なびきお姉ちゃんの「あかねがよく寝れるように」という心遣いかもしれないが、どちらにしても、顔の上に布がかぶさっているのはちょっと邪魔。
「…」
あたしは体の上に組まれている手を伸ばして、その顔にかけられてた布をとろうした。
…ちょうど、その時だった。

「…あかね」

ふと、あたしの近くでそんな声がした。
(この声は、らんま?)
しかも、何で女の子に?
あたしは、そんな女らんまの声にギクリと反応し、動こうとするのを止めた。
いや、止めたというのは正しくない。
止めたのではなく、動けなくなったという表現が一番正しいのかも知れない。
(何でここに来たんだろう、らんま…)
あたしには、どうしてらんまがこの病院にやってきたのか不思議でしょうがなかったけれど、そんな風にごちゃごちゃと考えているあたしに、
「あかね…」
らんまは自分の手を重ねた。
そして、
「ごめんあかね、俺…俺、間に合わなくて…」
らんまはそう言って、あたしが聞いても分かるような震えた声でそう呟いた。
それと同時に、あたしの手の上に何かがポタッ…と落ちてきた。
少し生暖かく、そして液体状のそれ。
それは恐らく「涙」ではないか。あたしは直感的にそう思った。
(…え?何でらんま、泣いてる?)
あたしはらんまのその涙に少し驚いてしまった。
いきなりらんまにこんな風に泣かれてしまって、あたしは動くに動けなくなってしまった。
「ごめん…俺、ホントにごめん…」
そんなあたしの困惑とは全くお構いなしに、らんまは更にそう言って、あたしの手を痛いくらいにぎゅっと握ってきた。
「…」
…握られた手がちょっと痛いあたしだったけど、とりあえずそこはじっと我慢した。
しかし。
次にらんまがあたしに対して発した言葉には、さすがのあたしも驚いてしまい、思わず握られた手を振り払うようにして飛び起きてしまった。


「何で…何で死んじまったんだよ、あかねー!」
「…死んでないわよ!」


あたしは、思わずそう叫んでしまった。
とたんに、事故のせいで打ち付けた身体へとビリビリッとした痛みが走る。
「いたッ…」
あたしが思わず顔をしかめると、
「お、お前死んじまったんじゃねえのかよ…」
そんなあたしの身体を支えながら、あたしがビックリするくらいに目を真っ赤にさせたらんまがそう呟いた。
「死んでないわよ。勝手に殺さないでよ」
あたしがそんならんまに支えられるようにしながら再びゆっくりとベッドへ横たわると、
「だ、だってさっきなびきがッ」
らんまは、少し混乱したような表情でわたわたと言い訳をした。
「なびきお姉ちゃんが?」
「あかねは五百四号室にいるからって!まだ病室に寝かせておいてもいいって先生が言ってくれたってッ」
「その通りじゃない。だからあたし、寝てたでしょ?」
「それに、なびきの奴も妙に落ち着いてたし…かすみさんが泣いてるの慰めながら、あんまり泣いてるとあかねも嬉 しくないって……あ?」
…そこまで言った所で。
らんまは、ようやく、自分がなびきお姉ちゃんにいっぱい食わされたという事に気が付いたようだった。
「…」
自分がなびきお姉ちゃんに騙された事に気が付いたらんまは、何だかばつが悪そうな顔でひっしに目をこすったりしていた。
「トラックの運転手さんは複雑骨折ですって」
あたしは、そんならんまに取り合えず事故の状況を詳しく説明してやった。
「でも、あたしはこの通り。血の一滴だって流してないみたいよ。受身を取った時に体をアスファルトに叩きつけたくらいで済んだみたい」
ほんとに、格闘技やっててよかったわ。
あたしは続けてそう言おうとしたのだけれど、
「きゃッ…」
そう言おうとした矢先、突然強引に腕を掴まれたかと思うと、らんまの方へ引き寄せられてしまった。
「ちょ…痛いッ苦しいッ」
あたしが慌ててそんならんまの身体を押し返そうとすると、
おおよそ今は同じ「女」とは思えないほどの強い力であたしを引き寄せながら、
「良かった…事故現場でアスファルトに残った血の跡を見た時…寒気がして…」
「え?」
「あんなに血が流れた事故…被害者が無事なはずねえって…あかねが病院に運ばれたって聞いたとき、頭が真 っ白になって…でも…良かった。良かった…」
らんまはそう言って、ぎゅっとあたしに抱きついた。
あたしは、そんならんまに抱きつかれたまま、何だか動く事が出来なくなってしまた。

…ホントは。
右京との事もあるし、らんまにこんな風に抱きしめられるなんてすごく嫌だった。
言ってしまえば、今はらんまの顔も見たくないし、声も聞きたくない。
更に言えば、こんな風に身体に触れられるなんて絶対に嫌だと思った。
…でも。
こうやってあたしを抱きしめながら、あたしに顔を見せないようにまた泣き出したらんまを見てしまったら、
何だか今、この時間だけは、らんまがあたしに触れること許してやろうかな…そんな風に思ってしまった。
こんなふうに、何の格好もつけずにあたしの前で泣き出したらんまを見たのは、
あたしたちがちゃんと付き合う前、中国の呪泉洞で、いつまでたっても目を覚まさないあたしを抱きながら泣いた時以来かな。


「あたしは、死なないわよ」
あたしは、泣いているらんまに対してもう一度だけ、でもとてもはっきりとした口調でそう言いきった。
「…」
らんまは、そんなあたしの言葉に黙って一度、頷いていた。
あたしはそんならんまの頭をそっと撫でてやり、泣きだしたらんまがちょっと落ち着くまで、そのままらんまに抱かれていた。



…そして。
しばらくしてようやくらんまも泣きやみ、落ち着いたのを見計らうと、
「…らんま。あたし、ホントは今、あんたの顔を見たくないと思ってるの」
らんまの胸をそっと押し返しながらそう言った。
「…ごめん」
らんまは、そんなあたしにボソッと謝ると、
「俺、どうしても今日あかねに渡したいプレゼントがあって…それで」
あたしが聞きもしないのに、今日の出来事に付いて弁解し始めた。
本当はそんな言い訳やら弁解やらなんて聞きたくないのだけれど、
「聞いてほしいんだよ、あかねにはッ」
らんまが真剣な顔でそんな事を叫ぶので、顔をそむけながらもあたしは小さく頷いた。
「…で?」
「それで…今日の午前中にまずうっちゃんに逢って…」
「デートしてたんだ」
あたしがボソッと呟くと、
「デートなんかじゃねえよッ。その…うっちゃんと話をしなくちゃいけないことがあったからッ…」
「話?」
必死で説明するらんまに、あたしが顔を向けながら尋ねると、
「…こんな事を今更言っても、信じてもらえるか分からないけれど…」
らんまはそういって、自分の方を見ているあたしの瞳をぐっと強く見つめた。
そして、
「いくら親父の昔のいい加減な約束からそうなったとはいっても、その…あかねとちゃんと付き合い始めた以上、いつまでも中途半端にうっちゃんとも”許婚”の関係でいるのはおかしいって思ってた」
「…」
「俺にはそのつもりがないのに片方は違って・・・なんて、そんな中途半端なのは俺の為にもうっちゃんの為にもよくな いと思って…。ちゃんとうっちゃんに話をして、それでうっちゃんとの許婚の件はけりがついた、その状態で今日はあかねと逢いた かったんだけど…」
らんまはそう説明した後に、今日、自分の身に起こった出来事をあたしに全て話した。
右京と公園で待ち合わせした時の事、シャンプーと小太刀が現われて話どころではなくなって事、
ネコのシャンプーに追い掛け回された事、逃げてる最中に滑って転んで頭を打って気絶した事、
そして、右京の家に運ばれてついさっき目を覚ました事…全てをあたしに説明してくれた。

「…」
あたしは、そんならんまの話を聞いたまま、黙り込んでいた。

…たぶん。
らんまがこうして今、あたしに話してくれたことは全て事実。全てが本当に起こった事だろうし本当の彼の気持ちなん だと思う。
でも。
でも、あたしの中では何かが割り切れなかった。
「あかね…」
らんまが、全ての説明を聞き終えても尚、表情がうかないあたしの顔を不安げに覗き込む。
「…約束」
あたしは、そんならんまに対して、ボソッと一言呟いた。
「え?」
「…あたしとの約束、今日だけは守ってほしかったの」
「あかね…」
あたしのその言葉に、らんまは少し表情を曇らせた。
「初めて、らんまがあたしを誘ってくれたから…。だから、すごく嬉しくて…。楽しみにしてたから…だから絶対に守ってほしかったのに…」
あたしはそういってあたしはそういって、軽く目を閉じた。
「あたしには、特別なプレゼントとかはいらないから。いらないから、その代り…今日だけは…らんまから誘ってくれた今日の約束は守ってほしかったのよ…」
・・・閉じた瞳から、幾筋もの涙があふれた。
「…ごめん。ごめんな」
らんまは、そんなあたしの涙を拭おうと指をそっと差し出すけれど、
「触らないでッ」
あたしは、そんならんまからさっと身を引いて叫んだ。
…そのあたしの目から溢れた涙が、何だか今の裸のままのあたしの感情そのものに思えていた。
だから、そんな剥き出しの感情を、らんまには触れてほしくなかった。
だけど、
「あかね、ごめんな」
それでもらんまは、あたしの腕を掴んではその涙に触れようとする。
「触らないでって言ってるでしょ…」
「でも…」
そんならんまの手を払いながら、あたしは再び口を開いた。
「らんまが右京とデートだって聞いたとき…あたし…。他の人からそんな事聞かされて、混乱して…。事故に遭ったんじゃないかとか、本当はデートが嫌になっちゃったんじゃないかとか心配してたのに…」
「…」
「…」
らんまには、もっといろんな事を言ってやろうと思っていた。
なのに、言おうとすればするほどあたしの胸は大きく鼓動して、その鼓動があたしの言葉を全て覆い隠してしまう。
「何で来てくれなかったの…」
…色んな事情が運悪く重なって、あたしの元に来れなかったというのをさっきかららんまの口から何度も聞いてるの に、あたしの口からはその言葉しか出なかった。
「ごめん…」
らんまは。
そんなあたしを、今度は涙をすくう為に手を伸ばすのではなくて、あたしの身体へ手を伸ばし、自分の方へと抱き寄せた。
「らんま、痛い」
あたしは、抱き寄せられたその腕の中でボソッと呟いた。
「ご、ごめん。でも…」
らんまはそんなあたしの言葉に一瞬怯んだけれど、それでも、あたしの身体から離れようとはしなかった。


あたしの事を「強く抱きしめたい」という気持ちと、でも強く抱きしめるという行為に耐えられないあたしの怪我した体を知る、気持ち。
そんな二つの気持ちの調整の難しさが、あたしを強くもなく弱くもなく抱きしめているらんまの腕からヒシヒシと伝わってきた。


…らんまなんて、大嫌い。
らんまになんて触れられたくない。
声も聞きたくないし、顔も見たくない。
あたしには、らんまなんて必要ない。
あたしは、平気。
あたしは、強い。
自分の身も一人で守れるくらい、強い。
だから、らんまなんて必要ない。
そう、思ってた。
そう思っていたのに。



…どうしてこうやってらんまに抱きしめられるだけで、そんなあたしの気持ちや決意はすぐに揺らめいて、泡のように消えてしまうのだろう?
…どうしてあたしの心はこんなに弱いんだろう?
あたしは、そんな自分を改めて思い知った。
…どんなに格闘技が強くても。
事故の遭ってとっさに取った受身で無傷で済んだとしても。
「外面的」には強くたって、あたしの「内面」はこんなにも弱いんだ。
あたしは、そう思った。
あたしは、平気。
あたしは、強い。
自分の身も一人で守れるくらい、強い。
だから、らんまなんて必要ない。
…そう思ったのに。
そう思ったあたしが守れたのは、「外面的な強さ」だけだった。
あたしの心は…あたしの「内面」は、らんまの行動一つですぐにボロボロにもなるし暖かくもなる。
らんまのたった一言で、一喜一憂する。
どんなに傷つけられても、裏切られたと思っても、許せないと思っても…こうして抱きしめられて少し話をしただけで、
あたしはらんまを許してしまう。
触れられたくないはずなのに、心の奥では触れてほしいと願う。
そんな自分を、あたしはぼんやりと感じていた。




「あかね」
…らんまが、自分の腕の中で震えながら泣いているあたしにそっと声をかけた。
そして、
「俺、約束するからッ。絶対に約束破らないって約束するからッ。だからッ…」
そういって、らんまはあたしから離れた。
「俺の言う事を信じてくれるなら…あかねの体が治ったら…もう一度…」
もう一度、俺とデートしてくれませんか?
「…」
らんまは、あたしの顔をじっと見つめながら、はっきりとした声でそう言った。
あたしは、すぐにはそれに答えられなかった。
答えないまま、そんならんまから顔をそらす。
「あかね…」
らんまは、そんなあたしの様子に再び困ったような泣き出しそうな…そんな複雑な表情をした。
「…よ」
そんならんまに対して。
あたしは、ボソッと、呟いたあたし自身も聞き取れるか聞き取れないかぐらいかの小さな声で答えた。
「え?」
そんなあたしの声に、らんまがはっとした表情に切り替わる。
「だから…」
あたしは、そう言って今度はちゃんとらんまの方を向いた。
そして、
「…今度あたしとの約束破ったら、許婚解消よ」
そういって、らんまに向ってそっと、左手の小指を差し出した。
「あかね?」
驚くらんまに、
「…指きり」
あたしはそう言って、俯いた。
「…」
らんまはそんなあたしに少しホッとしたような表情を見せると、
「…指きり」
そういって、自分も左手をあたしに向って差し出した。
「…今度約束破ったら、ホントに許婚解消だからね」
「ああ」
「指切りしたこの指、切っちゃうからね」
あたしは、そんならんまの小指に自分の指を絡めようとしたけれど、
「…だったら、小指じゃなくてこの指にしよう」
らんまはそう言って、あたしが指を絡める寸前に一回手を引っ込めてから、
今度は自分から、あたしの左手の小指…ではなくて薬指に、自分の薬指を絡めた。
「…こんな指きり見たことないよ」
あたしがちょっとおかしくなってそう呟くと、
「…俺が約束を絶対に破らないって証」
らんまはそう言って、あたしに向って笑った。
「え?どういうこと?」
あたしがそんならんまに尋ねると、
「この左手の薬指は、切り落とされたら困るだろ。だから切り落とされないためにも、絶対に嘘つかない。約束は破らない」
「らんま」
「この指にかけても、約束する」
らんまはそう言って、あたしに絡めたその指にぎゅっと力を入れた。
「…約束よ」
あたしも、その絡められた指に力を入れた。
あたしたちは、その絡められた指の力をお互いに感じながら、今夜ようやく初めて…お互いの顔を見て笑う事が出来た。



「あかね…」
指切りをし、お互いの心のわだかまりも溶けて。
笑顔をかわしたあたしに、らんまがそう呟きながら、絡めたままの指ごと、あたしの身体を抱き寄せた。
そして、
「あかね…」
そんなあたしの唇を奪うべく顔をそっと近付けるけれど、
「…だめよ、今日は」
あたしは、そんならんまの胸を押し返した。
「な、なんで…?まだ怒ってんのか…?」
あたしにキスを拒絶され、らんまの表情が再びさっと不安げなものに代わった。
「違うわよ」
「じゃ、じゃあ、何で…」
「だって…」
あたしは、不安そうにあたしに尋ねるらんまの額を指で軽く突くと、
「…だって、あんた今、女の子になってるでしょ。乱馬はらんまでも、女の子のらんまとはキスは出来ないわよ」
そういって、ちょっと笑ってやった。
「あ…そっか、俺、女のままだったんだ」
らんまは、自分でもすっかり忘れていたようだ。
そんな事を言いながら、いつもよりも一回り小さくなってる自分の身体をペタペタと触っていた。
そして、
「ちょっと男に戻ってくるッ」
そんな事を言いながらあたしから離れて病室から出ていこうとしたけれど、
「だめよッ」
あたしは、そんならんまの袖をぎゅっと引っ張って自分の元へと引き止めた。
「え?何で…」
「今日の、罰。今日はそのまんまの姿でずっと、あたしと一緒にいて」
あたしがそう言うと、
「女のままで!?」
らんまは、何だか悲惨な表情であたしを見る。
あたしは、そんならんまにお構いなしに再びゆっくりと抱きつくと、
「そうよ。だって、らんまは今日は一晩中あたしと一緒にいるつもりだったんでしょ?だったら別に男だろうが女だろうがいいじゃない」
そういって、じっとらんまを見あげた。
「一緒にいるつもりだけど、だったら別に女でなくたって…」
「いいのッ。今日はそのままであたしの側にいる事」
「…」
…そう言って聞かないあたしの姿に、らんまは情けない表情のままため息をついていた。
そして、
「…すげえ堪えるな、この罰は」
ようやく諦めたのか観念したのか。
らんまは困ったように笑いながらため息をついていた。
「…ふふ。こんな罰を受けるくらいなら、もう約束なんて破らないでしょ?」
あたしがそんならんまの頭を撫でながらそう笑うと、
「破ろうなんて、そんな気も削がれるよ」
らんまはそういって、あたしに抱きついてはため息をつき、強く抱き寄せてはうなったり…と、そんな事をしばらく繰り 返していた。
あたしはそんならんまの頭をもう一度優しく撫でてやった。





…約束。
デートをしよう、と交わした「約束」に、待ち合わせ時間を決めた「約束」。
色んな約束が、あたし達の周りには渦巻いている。
でも、そうやって色んな約束を交わすことは簡単だけれど、守りつづける事は難しい。
けれど、それでもあたし達はまた一つ、また一つと新しい約束を交わす。
あたしたちが今日交わしたのは、
「約束を破らない」
そんな、約束。
これは、実は守りつづけるのが難しい約束。
それでも、あたし達はそんな約束を交わす。
…お互いの左手の薬指を賭けて。



この約束を守ろうとする事で、誰かは笑い、そして誰かは傷ついてしまうかもしれない。
そう、たとえば今夜のあたしと乱馬と、らんまと、右京のように。
…あたしの元へこうして今夜乱馬が来たと言う事は、きっと、それまで一緒にいた右京に「許婚解消」の話をちゃんとしてきたって事。
右京は絶対に「乱ちゃんがそう思うなら」と身を引くようなことを言ったに違いない。
そんな右京に、
乱馬の口からだけでなくて、あたしの口からもちゃんと話をしなくては。…あたしはそう思った。
決して、あたしが乱馬に右京に対してそういわせたわけではないけれど、でもあたしも、たった一人の乱馬の許婚でいたいって事を、右京にきちんと伝えなければ。
この体中の痛みが引いたら、乱馬と一緒に右京の元へと行こう。

「約束、破っちゃダメだからね」
「ああ」
「約束よ」
…あたしはもう一度声に出してそれを確認しながら、そんな事を考えていた。
そして。
それから数時間経ったその日の深夜。
あたしは病院でとりあえず検査を受けて、何の異常もない事が確認された。
本来ならそれでそのまま家へと帰っていいのだけれど、
「もう遅くなってしまったので今晩は泊まっていかれたらどうか?」
そんな病院側の行為に甘える事にして、
「全く!あかね君の非常事態にすぐに駆けつけないなんて何事だ!」
「らーんーまーくーんー!」
「乱馬!あなた一体何を考えてるのッ」
「らんま君、それじゃあ今日はあかねちゃんをお願いね」
そんな事を叫ばれながらみんなにやり込められているらんまに「付き添って」貰うべく、その日はそのまま病室にとどまる事になった。



「どうやら、仲直りしたみたいじゃない?」
「お姉ちゃん」
…そんな家族達の騒ぎを横目に、なびきお姉ちゃんがあたしに近寄ってきた。
「お姉ちゃん?お姉ちゃんでしょ?あたしの顔に布かけたり、わざとらんまが誤解するようなこと言ったりしたの」
あたしがなびきお姉ちゃんに尋ねると、
「あら、誤解するらんま君が悪いのよ」
なびきお姉ちゃんは、しらっとした口調でそう言った。
「もー…」
「それに…許婚の一大事にどこほっつき歩いてるかわかんないなんて、それはとんでもない事でしょ。あんたの代わりにあたしがちょっと懲らしめてやっただけよ」
「おねえちゃん…」
あたしは、何だかそんななびきお姉ちゃんの気持ちがちょっと嬉しかった。
やり方は少々荒くても、なびきお姉ちゃんの優しさが、あたしにはすごく嬉しかった。
「ありがとう、お姉ちゃん」
あたしは、そんななびきお姉ちゃんに素直に御礼を言った。
「…礼なんて別にいらないわよ。姉妹なんだし」
なびきお姉ちゃんはあたしに背を向けたまま手を振ると、
「さ、みんな帰りましょ」
そういって、らんまを取り囲んでいる家族を引き連れて病院から出て行った。



「…」
あたしとらんまはそんな家族を見送った後、手を繋ぎながらあたしの病室まで戻るべく歩きだした。
その間中、ずっとあたしたちは
「なー…」
「何?」
「男に戻っても…」
「ダメ」
そんなやり取りを繰り返していた。


「俺の事、好き?」
「好きよ」
「じゃあ…ッ」
「でも、今日はダメ」
「うー…」


駄々をこねるらんまと、それをむげに断りつづけるあたし。



「恋愛には、色んな形があると思うんだ。世界中には男同士、女同士でも愛し合ってる人たちがいるんだぞ。これからはそう言った進化した恋愛形式も取り入れるためにも、女同士と言うことでも…」
「別に進化しなくてもいいわよ」
「あかねーッ。こーゆーのをな、『生殺し』って言うんだぞ。いいか、そもそも『生殺し』の由来は…」
「あんた、何いきなり薀蓄を語りだしてんのよ」
「いや、思考回路を麻痺させようと思って…」
「もー、今日は諦めなさい。ダメなもんはだめ」


あたしはそう言って、繋いだらんまの手をぎゅっと握った。
そして、
「当初の予定通り、一晩中、ずーっと一緒にいてあげるからね」
そういって、繋いだ手をぶんっと揺さぶってやった。
「あああ…何て罰を思いついちまうんだ、お前は…」
らんまは、とても情けない表情でそう呟くと、何度も大きなため息をついていた。
「自業自得よ」
あたしは、そんな情けない表情をしてはため息をついているらんまの頬に軽くキスをしながら笑った。

 

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