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→Promise with you 2

小夏さんと話をしているはずなのに、あたしのに耳に、そんな小夏さんの言葉が流れ込んでこなくなってしまった。
あたしの耳に流れ込んでくるのは、駅前のロータリーに行き交う車のクラクションや、雑踏の音。
改札のチャイムがなる音や、通り過ぎる人々の話し声。
「…あかねさま?」
そんなあたしの様子に気がついた小夏さんが声をかけてくる。
「あ…うん。ごめん」
あたしは慌てて我に帰ると、
「そう。右京は乱馬と出掛けてるのね」
あたしは、声が震えてるのを小夏さんに悟られないようにしながら尋ねた。
「はい。今日の朝早乙女様が迎えに上がられて、出掛けられましたよ。 右京様は何日も前から楽しみにされてて・・・って、あかねさま?」
小夏さんはあたしに詳細を説明してくれたが、
「あ、うん。それで?」
頭を何かで殴られたような衝撃を受けた感じで、くらくらと目眩を感じていた。
小夏さんに相づちを打つのがやっとだった。
「…で、先程電話がありまして、夕食は家で食べるからたくさん用意しておくようにと。なので私がこうして買い出しに出たのですが…あかねさま、本当に大丈夫なのですか?先ほどからお顔…真っ青ですが…」
小夏さんがそういって話を聞いているあたしを覗きこむが、
あたしは、
「うん…大丈夫。 」
そう答えたきり、言葉を発する事は出来なかった。

えっと…これはどういう事何だろう。
乱馬はあたしを昨日、誘った。
でもその何日か前に右京と約束してた。
乱馬がいってた昼間の用事って、右京とのデートだったんだ。
しかも、あたしとの約束の時間には現われず。
(今まで右京と一緒にいたんだ…)
「乱馬は、右京と家に戻ってくるって?」
あたしは震える声を必死に取り繕って小夏さんに尋ねると、
「右京様はそう申しておりましたが…」
「そう」
「あかねさま、本当に大丈夫ですか?
よかっら、うちへいらっしゃいませんか?
これから右京様も早乙女さまもいらっしゃいますし…」
小夏さんが顔色の悪いあたしを気遣ってそんな事を言い出したが、
「ううん、平気。ありがとう」
あたしは無理に笑顔を作って小夏さんに見せた。
「でも…」
それでも心配そうな小夏さんに、
「私、人と待ち合わせしてるの。これから出かける約束しててッ…もうすぐその人、ここに来ちゃうから…」

…あたしは大きな嘘を、ついた。

「あ、そうだったんですか?も、申し訳ありません余計な事を…」
「ううん…」
あたしは謝る小夏さんを見てすこしだけ胸が痛んだ。
でも。あたしは、このまま小夏さんと一緒に右京の店へと行く事は絶対に出来ないと…思った。


「それでは、あかねさま。私はこれで」
小夏さんは、最後まであたしに頭を下げながら右京の店へと戻っていった。
「…」
あたしは、そんな小夏さんの背中に手を振りながら…震えていた。
約束をすっぽかされた事とか、待たされた事とかが頭に来て震えてるんじゃなくて。
右京と乱馬が、いつの間にあたしの知らぬ間にそんな約束をしていたのかに気がつかない自分の不甲斐無さに、震えていた。
…情けなかった。
昨日乱馬があたしを誘う前に、二人は今日の昼間約束をしてたなんて。
しかも、そっちの方優先で…あたしのところには来ないなんて。

「…最低」

あたしは、ぼそっと呟いた。
…初めて、乱馬がちゃんとあたしを誘ってくれたと思ったのに。
「…何やってんだろ、あたし」
こんな風にオシャレして、壁に架けられた鏡を見ながら髪型とか何度も何度もチェックしたりしては喜んでいた自分が、何だか無性に情けなく て仕方なかった。
そんな風に自分の持っているカバンを見つめて俯いているあたしの横を、
「今日、どこ行く?」
「何食べる?」
…これからデートに出掛けるのか、わき目も振らずにいちゃいちゃと並んで歩くカップルが通り過ぎた。
(…)
あたしは、思わず情けなくて歪んでしまいそうな顔を必死で食いしばりながら顔をそむける。

…本来なら、自分たちもああやって今日、どこかに出掛けるはずだったのに。

……
あたしは、しばらくそんなカップル達の姿を見送っていた。


もう、ここにいても意味がない。
乱馬は、来ない。
だけど、このまま素直に家に帰る気にもならなかった。
(…)
あたしは、大きなため息を一つ、ついた。
そして、ゆっくりと歩きだした。


…家には、このまま帰りたくなかった。
でも、このまますっきりしない気持ちのまま何処か別の場所へ行こうとも思えなかった。
確かめなければ。そう思った。
本当に乱馬は今、右京と一緒にいるのか?
それを確かめなければと、思った。
小夏さんには「今から人と会う」なんて大見栄をきってしまった手前、どうどうと右京の店を訪ねていくことは出来ない けれど。
「…」
あたしは、自分でも驚くぐらい足早に…右京の店へと足を走らせた。





「あれ?あかね様?」
…が。
こういう時に限って悪いタイミングとは重なるもので。
あたしが右京のお店に付いたちょうどその時に、裏口からゴミ箱を抱えて出てきた小夏さんと鉢合わせてしまった。
「あ…」
「あかね様、これからお出かけなのでは…」
怪訝そうな顔をする小夏さんに、
「あッ…その、と、友達が1時間くらい待ち合わせに遅れそうだって連絡くれてッ…で…」
あたしはしどろもどろに言い訳をした。
すると素直な小夏さんはそんなあかねの言い訳をすぐに信じてくれて、
「ああ!そうなんですか。だったら寄って行きませんか?ちょうど右京様も戻られてて…」
そう言って、あたしの腕を引いて店の中へとはいろうとする。
「こ、小夏さん、あたし…」
が。
もちろんホイホイと一緒に中には入ることなんて出来ない。
あたしは小夏さんの手をそっと離し、その場にとどまる。
「あかね様?」
「あの…」
「さ、お体も冷えますから」
小夏さんは、そんなあかねに笑いかけながら、ガラッ…と店のドアを開いた。
そして、
「右京様ー?お客様ですよー」
そう言いながら店の中に入っていった。
あたしは、そんな開かれた店のドアのところに立ち止まり、じっと身体を強張らせていた。

…願わくば。
右京と一緒に、乱馬が出て来ませんように。
願わくば、右京と出かけてたのが、本当は乱馬ではありませんように。

あたしは、店の入り口から一歩も中に入らず、そうひたすら祈っていた。

…足が、動かなかった。
確認するのが、怖い。
店の中に入って、その事実を確認するのが怖かった。
でも、心の隅では「この場所では乱馬と会いたくない」。ひたすらそう思っていた。


…だけど。
あたしのそんな思いは、すぐに粉々に砕け散った。

「お客ー?…あれ?あかねちゃん?どうしたん?」
…しばらくすると、右京が小夏に呼ばれて店の入り口へとやって来た。
そんな右京は珍しく、和服ではなく女の子らしいピンク色のカーディガンを羽織っていた。
髪の毛も真っ直ぐに下ろしていたし、あからさまに「どこかへ出かけていた」ような装いだった。
「ちょっと…近くまできたもんだから…」
あたしが右京から顔をそむけるようにしてそう言うと、
「どっかでかけてたん?何や、もしかしてデート?」
右京はニヤッと笑いながらあたしに尋ねる。
「…」
あたしが答えないでいると、
「うちは今日、デート!ゴメンなあ、乱ちゃんと出かけちゃって。ま、許婚なんだからそこは分かってもらわな。な?」
右京はそう言って、嬉しそうな顔で笑っていた。

…あたしの中で、何かが壊れた音がした。

「…乱馬とデートだったんだ」
「そうや。あれ?あかねちゃん、もしかして知らなかったん?もう一週間も前から約束してたんやで?乱ちゃん、今奥の部屋で寝てるけど…」
「そう…」
「今日はな、ほら、この間新しく出来た公園!あそこに行って、その近くにあるショッピングモールに行こうと…って、あれ?ちょっと、あかねちゃん!?」


…あたしは。
今日の話の途中で、その場から逃げ出してしまった。


耳が、拒絶した。
あたしの耳が、「そんな話は聞きたくない」と、拒絶しているのが分かった。
…あたしとは、昨日約束したのに。
右京とは一週間も前から約束してたんだ。
右京とのデートに夢中になってて、あたしとの約束、すっぽかしたんだ。
『乱ちゃん、今奥の部屋で寝てるけど…』
…寝てる?
寝てるって何?
何で寝てるのよ?何してたの?何してたのよ、今までッ。

「…」

…あたしは、無我夢中で走らせていたその足を、止めた。



涙さえも、出てこなかった。
モヤモヤするこの気持ちを叫んでやろうと思うのに、その声さえも出てこなかった。
「…」
試しに、顔をつねってみた。
手もつねってみた。
近くの塀も殴ってみた。
…でも、涙なんて出てこなかった。
あたしの「感情」は今、どうやら麻痺してしまっているようだった。
「…」
あたしは、ボーっとするままただ、道を再び歩きだした。
分からなかった。
もう、どうしていいのか分からなかった。
何をどう考えてもいいか分からなくて、それでもあたしはただ…道を歩いていた。




…その時だった。





「危ない!」
そんな声が、あたしの耳に不意に飛び込んできた。
「え?」
あたしがハッとなって顔を上げると、
「!」
そこには、猛スピードの大きなトラックが突っ込んでくるところだった。
「あッ…」
…気が付けば、あたしが立っていた場所は、横断歩道の上。
しかも歩行者用の信号は、赤になったばかりだったようだ。
派手に鳴り響くクラクション。
キキーッ…という、アスファルトをこすりつける車のブレーキ音。
そして、
ドサッ…という、カバンが地面にたたきつけられる音。
「…」
しばらくして、遠のく意識の向こう側に、あたしは救急車のサイレンを聞いた。


…自分が今、どんな状況になっているか全く分からなかった。
目を閉じている。
それだけは分かった。
だって、何も見えなかったから。
あたしの目には今、何も映っていなかった。


何も、見えない。
何も、聞きたくない。
感情さえも、麻痺している。


体の痛みすらも感じないその状況で、到着した救急車へと運ばれながらあたしはぼんやりとそんな事を考えていた。

 

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