「・・・」
それから、一時間後。
俺とあかねは、学校へ向かうべくいつもの通学路を歩いていた。
もちろん、毎朝のように隣に並ぶこともなくましてや手なんて繋ぐこともない。
昨日までの生活が嘘のようだった。
しかも、今朝の事件ゆえに何となく話し掛けづらい。
だいたい、
話しかけてまた今朝みたいに怯えられたりしたら、こちらがそれこそ傷ついてしまう。
言葉よりも、あかねのあの冷たくて怯えた瞳が怖い・・・俺は知らず知らずとため息をついていた。
・・・と。
「・・・間違えたって・・・お姉ちゃんが言ってた」
ため息をついている俺に、あかねが不意にそう話しかけてきた。
「ま、間違えたって?」
あかねから話しかけてくれるなんて・・・。
自分からはどう話しかけていいのか分からなかった俺は、
たとえそれが嫌な内容であろうとも、そのたった一言が嬉しくて、フェンスからから飛び降りあかねの隣に降り立つ。
あかねは、隣に降り立った俺を困ったような顔で見つめながら、再び口を開いた。
「なびきお姉ちゃんが・・・言っていた。あなたは、よく寝ぼけて夜中、家中を徘徊してどこかしこでも眠ってしまうことがあるって」
「は?」
「だから・・・あたしの部屋に勝手に入り込んで寝ていたのも、そのせいだから許してやれって・・・そう言っていた」
あかねはそういって、小さくため息をついていた。
・・・どうやらなびきが、
今の「男嫌い」の頃に戻っている状態のあかねが、「実は俺と一緒に毎晩のように寝ている」(寝ているだけではすまないんだけれど)という事実を受け入れられないだろう・・・と気を使い、あかねが受け入れやすいようにと、どうやら嘘をついて説明したようだ。
しかし、俺にとっては非常に不本意で名誉毀損で納得のいかない内容なわけで。
一歩間違えれば単なる変質者にしかならないその説明に、俺は頭が痛い。
もっとましな嘘はなかったのか・・・と、俺は内心思うが、それでもあかねのこの状態を思えばいたしかたがない。
本当はそんな嘘、認めたくなんかないけれど、
「・・・そ、そ、そうなんだよ。お、俺、徘徊癖があって・・・悪いな」
とりあえずあかねの不安を解消させる為だけに、俺は「徘徊癖のある居候」になりきりあかねに謝った。
この素直に頭を下げた態度が功を奏したのか、
「ほ、本当にそうなんだ・・・。き、気をつけてよねッ。あたしも一応年頃のオンナノコなんだからッ」
あかねは、俺のそんな答えに少しだけほっとした表情をしてみせた。
でも、
「でも、女の子の部屋に寝ぼけて入ってくるなんて今日限りでやめてよね。迷惑だわ」
あかねは、俺を戒めるようにジロリと睨みつけると、クルリと身を翻した。
「す、すまねえな」
迷惑だわという言葉に傷つき、そしてやっぱり不本意のまま、俺は、もう一度あかねに頭を下げる。
あかねはそんな俺に対して、それ以上自分の可愛い顔を見せてくれる事は無かった。
ただ、顔は見せずとも俺に背を向けたままのその状態で話は続ける。
「・・・お姉ちゃんが、あたしとあなたが・・・その、お父さん達が勝手に決めた許婚なんだって、教えてくれたの」
「え…」
許婚。その言葉に、俺はドキッと胸を鼓動させる。
そう、俺とあかねは許婚なんだ。そしてそれ以上に…もしや暗示の効力を超えた愛の奇跡でも起こったか?と期待した俺があかねの次の言葉を待っていたが、
「あたしは・・・男の子なんて嫌い。許婚なんて要らないから」
「…」
「親同士の勝手な約束なんて、あたしには関係ないから。だから貴方も自由にすればいいわ」
あかねの口から出た言葉は、俺にとってはトドメの一言。最終通告のようなものだ。
「それじゃ、あたし先に行くから」
何も言い返すことができない俺を置いて、あかねは先に学校へと走っていってしまった。
「あ・・・待てよッ」
俺もそんなあかねの背中を追いながら後を走ろうとするが、『許婚なんて必要ない』の言葉が胸に木霊し気になって動く事が出来ない。
まるで、見えない言葉の鎖が俺の足を雁字搦めに固定してしまったかのようだ。
…喧嘩しても何だかんだいって仲直りをしたのに。
眠る前に何度もキスをしてお互いの温度を感じていたのに。
俺が黙っていたって、自分から何度も「好きだ」って…俺に言ってくれていたのに。
それが、今朝になったとたんに「大嫌い」「必要ない」「迷惑」って、何だよ。
…
「・・・間違えてなんか、ねえよ」
走り去ってしまったからもうあかねの姿は見えないけれど、俺は思い切り叫んでやりたかった。
・・・間違いなんかじゃねえよ、あかね。
俺がお前の部屋にいたのは、寝ぼけて間違えて入り込んだからなんかじゃねえんだよ。
一緒に寝ていたから・・・そこにいたんだ。
お前と一緒に眠っていたからそこにいたんだろ?
「今日は手、繋いで寝ようよ」
そういって、ちょっと照れていたお前の手を一晩握って眠っていたのは、
俺と、お前が「そうしたい」って昨日の夜決めたからじゃないのかよ?
手を繋ぐ前は、ぎゅって俺に抱きついていたじゃねえか。
俺の名前を何度も呼んでさ、
可愛い声で何でも呼んでくれてさ、
さっきみたいに、「貴方は」なんて他人行儀じゃなくて、
「乱馬ッ・・・」
って。
何度も何度も俺の名前、ちゃんと呼んでいたじゃねえかよ・・・
「・・・」
声に出して、叫んでしまいたい。
でも、叫んだところできっとあかねには届かない…届かなければ、意味が無い。
…俺の胸には、
『あたしには許婚なんかいらない。』
それは、どんな鋭利な刃物で傷つけるよりも深く鋭い傷を胸に刺す。
あかねのそんな一言が、
どんなに鋭い針よりも、そしてどんなに磨がれた剣よりも鋭く深く…俺の胸を貫いていた。
「へー?あかねちゃん、えらい大変な目に遭ってしもうたんやね」
・・・その日の昼休み。
あかねの身に起ったことをオジャベリななびきから聞いたのか、うっちゃんが俺の所へとやってきてそう言った。
「あかねちゃん、うちのこともわからへんかってんよ」
「ああ、そうか…うっちゃんも俺と出会った後にあかねと出会ったんだもんな…」
そう言えば、うっちゃんもあかねの記憶からは無くなるんだな…自分の事で精一杯ですっかり忘れていたよ、と俺がうっちゃんに答えると、
「まあね。まあ、うちの事はともかくとして…乱ちゃんの事は、恋の記憶ごと消えてしまったんやろ?」
「…ああ」
「切ないなあ、乱ちゃん。でもいい機会やし、これを機会にあかねちゃんは諦めて、うちだけを許婚にせえへん?」
あかねの事は一応気に掛けているし気になってはいるみたいだけれど、うっちゃんの関心はそちらの方が強いらしい。
一応しおらしい態度は見せるが、そんな提案を俺に投げかけてきた。
俺が落ち込んでいるのを励まそうとわざとそんなことを言っているのか、それとも本気でそう思っているのか微妙な所だ。
「ごめん・・・俺、そんな気分じゃないんだ」
俺はうっちゃんの心遣いには感謝しつつも、そっけなく一言そう答えてそのまま大きなため息をついた。
「乱ちゃん・・・」
うっちゃんはそんな俺に掛ける言葉を必死で探していたみたいだったけれど、見つけられなかったのかそのまま何も言わずに俺の側で立っている。
…俺の頭の中は今、あることで一杯だった。
そのあることというのは勿論、あれ。
あかねの暗示を説く「キーワード」のことだ。
「言って欲しい言葉があるんだけどな・・・」
あの時のあかねの言葉が、俺の頭の中を響き渡る。
言って欲しい言葉。わざわざ俺を起こして言って欲しかった言葉って何だ?
俺は、もう一度昨晩あかねとした会話を一つ一つ振り返ってみる。
…喧嘩していて、お香の件でやり取りをしてその後仲直りをして。
「仲直りの意味を込めて、今日は手を繋いで寝よう」
「うん!」
そう提案して了承して、俺はその後すぐにパジャマに着替えるべく一旦部屋から出て。
あかねはその間にパジャマに着替えて、やってくる俺を待っていて。
俺が部屋に戻ってきたら、約束どおり手を繋いでベッドで眠って。
「乱馬」
あかねが俺の名前を呼ぶたびに俺は、あかねにベッドの中でキスをした。
手を繋いで身体も寄り添って、お互いの名前を呼び合ってくっ付いている事だけでもう幸せだった。
そうこうしている内にウトウトして…
「…」
…俺の昨晩の記憶は、そこで途切れている。
これのどこに、「言って欲しい言葉」のキーワードが隠れているのか全く分らない。
もっとよく考えれば分るのか?もしかしたら俺が鈍感で、気がつかないだけなのか?
それとも、一般的に女が恋人に言われて嬉しい言葉をあかねも言って欲しかったのか。だから俺が必死に考えても記憶の中からは遡れないのか。
だったら、誰でも女に聞けばその言葉はわかるのか?
…
一人で考えてもラチがあかない俺は、外部に協力を求めてみる事にした。
そこで、
「なあ、うっちゃん」
まずは、あかねと同性であるうっちゃんに聞いてみることにする。
うっちゃんは、それまで暗かった俺に突然話し掛けられて少し戸惑っていた様子だったけれど、
「うっちゃんならさ、恋人に何て言われたら嬉しい?もし言ってもらえるとしたら何て、言ってもらいたい?」
「い、いきなりどうしたん?乱ちゃん!」
「いいから…大事な事なんだ、うっちゃん!答えてくれ」
俺がうっちゃんの顔をジーっと見つめながら真剣に質問すると、うっちゃんは急に耳まで真っ赤になりながら小さく頷いた。
そして、
「うちが乱ちゃんにやろ?せやな、せやな・・・そんなら、『ずっと傍にいるよ』とか、『うちがいてくれるだけでもう、他に何もいらない』とか・・・やろか?
いやー!いややわー!うち、そないなこと乱ちゃんに言われたら、どないしよー!」
うっちゃんは、いくつか台詞を俺に教えてくれた後妙にもじもじしながらそう叫ぶと、
「こっぱずかしー!」
…照れ隠しなのか、俺をその場に叩きのめして走り去っていってしまった。
「いててて…」
叩きのめされたのはどうにもこうにも解せないが、それでも情報を得た事は大きい。
「うっちゃんは、『ずっと側にいるよ』がキーワードなんだな」
俺はよろよろと床から立ち上がり、とりあえずうっちゃんから聞いた言葉をメモに取った。
よし、この調子で他の女にも聞いてみよう。
俺は他にも情報を得るべく、そこから校内を駆け回った。
「ニイハオ、乱馬!」
「乱馬さまーッ」
・・・それは、昼休みだというのにも関わらず学校へ乗り込んで来たシャンプーや小太刀も勿論の事、
「えーッ?好きな人に言われたい言葉?」
「やだー、乱馬君、代わりに言ってくれるの?!」
自分のクラスや隣のクラスの女子にも、及んだ。
以外に皆、照れてはいたみたいだけれど嬉しそうに俺の質問に答えてくれて、俺としてはかなり満足に豊富な情報を得ることができた。
その結果、
「俺にはお前だけだぜ」
「他の奴なんて見えねえ」
「君は薔薇より美しい」
「俺じゃダメか?」
・・・などなど、トレンディドラマ宜しくな、こっちが歯が浮いてしまうような恥かしい言葉が、俺のメモ帳には列挙された。
俺が思った以上に、「好きな人に言ってほしい言葉」はいろんな種類があるんだな。俺は妙に感心してしまう。
「どれだろうな・・・あかねの言って欲しそうな言葉」
俺は、メモに取った言葉を見つめながらボソボソと呟く。
とりあえず、片っ端から言ってみた方がいいのか?でも、素直にあかねが聞いてくれるか。
まずはシチュエーションを作らない事には始まらないしなあ…
ああ、いっそのことどんなシチュエーションを作れば女が喜ぶかも聞いてみれば良かったかな。
「なあ、女ってどんなシチュエーションで告白されたら嬉しいんだ?」
「えっ…」
俺は今度は質問を変えて、クラスの女子を捕まえてはまたそんな質問を繰り返していた。
・・・と。
「乱馬君、最低ー!」
クラスメートであり、あかねの親友でもあるさゆりとゆかが、妙に怖い顔をして調査中の俺の元へやってきた。
「え・・・な、何だよ急に」
一体何が最低なのか全く分らない俺が、二人の異様な迫力にオドオドしていると、
「あかねが乱馬君の事を忘れちゃったのを良い事に、手当たり次第女の子達を口説き始めるってどういうことよ!」
「最低!あかねが可哀相だよ!」
二人はそう叫びながら、俺に鬼のような形相で詰寄ってくる。
「はあ!?」
・・・もちろん、そんなつもりが全く無かった俺は、ポカンと口を開いてしまった。
「おい、何だよそれ」
俺が今度は二人にそう聞き返すと、
「あかねが可哀想だよ…乱馬くん、そんなにあかねの事をどうでもいいって思ってたの?」
「あかねが乱馬君の事忘れちゃったら、あかねの事なんてどうでもいいって事?そんなの酷すぎるよ…」
さゆりとゆかは、自分の席でボーっと窓の外を見ながら座っているあかねをちらりと振り返りながら、俺に対して口々に叫ぶ。
「ちょ、ちょっとまってくれよ。俺は別にそんな・・・」
何でそうなるんだよ?一体俺が何をしたって言うんだよ?
何だかまだ事情が把握できない俺が二人に弁解しようとするも、
「・・・乱馬君が、あかねが暗示にかかって記憶を失っている間に浮気をするつもりだってことは分ったわ」
「な、何だよそれ!何で俺がそんな…
「でもね…浮気するのは勝手だけど、もしもあかねが元に戻った時に、あかねがそのことを知って傷つくような事があったら・・・あたし達、乱馬君を絶対に許さないからね!」
さゆりとゆかは、何が何だか分からない様子の俺に容赦なくそう言い放つと、
「行こッ」
俺に鋭い視線を投げかけた後、窓の外を眺めているあかねの元へと行ってしまった。
「な、何だよそれ・・・」
俺が浮気するって、何のことだよ?
あかねを傷つけたら許さないって、一体何のことだ!?
二人が去った後も、一体何故自分が責められているのかわからない俺がボーっとしていると、
「よーやるよなあ、乱馬は」
「ホントほんと。その器用さがうらやましいぜ」
・・・今度はそんな俺の元に、ひろしと大介がやってきてそう言った。
「何だよ、器用って」
また訳の分からない事を言ってくる奴がいる…俺が半分いらついた口調で二人に返すと、
「だってよー、さゆり達も言ってたけど、おまえ、あかねが何も言わないのををいい事に、手当たり次第女を口説いてるんだろ?」
ひろしはさらりと俺にそう言ってのけた。
「な、何だよそれ!」
「だって、なびきねえちゃんが言ってたぜ?乱馬が女の子に声かけまくって、何て口説かれたいのか迫ってるって」
「なッ・・・」
俺はひろしの話を聞いて、思わず言葉を失う。
…何だそれ。
俺が手当たり次第女を口説いているって、何のことだそれは!
俺が言われも無い噂に怒りブルブルと身体を震わせていると、
「あら違うの?少なくとも他の人からはそう見えているのにねえ」
ひろしと大介、それにさゆり達にも妙なことを触れ回ったとされているなびきが、突如俺の前に姿を現した。
「なびき、てめぇッ」
俺がギロリとなびきを睨むと、
「あら、怖い。それとも図星だったのかしら?」
「うるせえ!言われも無いことを触れ回りやがって!俺の味方じゃねえのかよッ」
「残念、あたしはお金の味方よ」
なびきは俺の問い詰めなどもろともしない様子でそう言い、ふっと笑った。そして、
「だって仕方がないじゃない」
「何がだよ!」
「あたしはあかねに尋ねられた事を客観的に答えただけよ。そしたらあかねが、あたしに乱馬君がそう見えるって言うから・・・ああ、そういわれればそうねって、思ったことをみんなに教えてあげただけよ」
と、全く悪びれもしない様子でそう言った。
「あかねが?な、何をだよ…」
あかねが一体何を尋ねたというか。俺が改めてなびきに尋ねると、
「いやね、どうして乱馬くんはさっきからとっかえひっかえ色々な女の子に話かけてるのかって聞いてくるからさ。だからあたしは乱馬君について答えてあげたのよ」
「な、何をだよ」
「乱馬くんはとってもナルシストでー、カッコつけマンだから、女の子に話し掛けたり色々行動を起こすのはいつもの事よって」
「な、何をー!?」
「許婚のあんたの他に、だいたい三人は回りにいつもはべらせているんだけどねって。モテテたいへんなのよ、って教えてあげたのよ。客観的に」
「てめえ!どこが客観的だ!」
「あら、客観的じゃないの。…そしたらね、あかねがその事実を受け止めてえ、『じゃああの人は許婚を持たなくてもよくなった途端自由を手に入れたってことだから、ああやって軟派を始めたのね』って言うからさー、ああそうなのかもしれないなあって思って」
「納得してんじゃね-よ!ていうか否定をしろ、否定を!」
「出来ないわよ」
「何でだよ!」
「だって、そうにしか見えないもの」
あかねは的確な観察力を持っているわ…なびきは暢気にそんなことを言っては頷いている。
「ヒトの噂って、怖いわねえ」
「俺はお前のほうが怖い」
俺がため息をつきながらなびきにそう言い放つと、
「でもねえ、乱馬君。一応男は嫌いだしあんたの事は認めないって言ってはいたけれどさ。親同士が決めた許婚を解消してもいいって言った途端に他の女の子を手当たり次第くどき出したらさあ、誰だって気分悪くなるんじゃない?」
「お、俺は別に…」
「あんたはそのつもりが無くても、あかねにはそう見えちゃったみたいよ?あたしも実際そう見えなくも無かったし…?」
「…」
「ま、気をつけないさいよ?自称・イロオトコくん」
・・・なびきは最後に俺にそう忠告をすると、「くわばらくわばら」とかなんとか呟きながら教室を出て行った。
ことの経緯を知らされた俺は、一気に不安に苛まれてサーっと顔から血の気が引いた。
何だか頭が、くらくらとする。格闘家の癖に貧血かよ、と思わず錯覚してしまいそうなほど、だ。
寝ぼけて夜中徘徊して布団に潜り込んでくる、男。
許婚解消したとたん、まるでサカリがついたかのように手当たり次第女を口説きまじめた、男。
これじゃ、まるで「あかねがお荷物だった」みたいに取られても無理は無い。
(・・・俺って、もしかして最低の男に映ってるんじゃ?)
更に不安に苛まれた俺が、恐る恐る窓の外を眺めていたあかねの方を見ると、
「・・・」
・・・俺の予想通り、
いや、予想以上の鋭い目つきで、あかねは俺を睨んでいた。
その瞳は、あからさまに俺を軽蔑している光を放ち、
その顔は、「最低!」とでもいいたげな表情をしていた。
誰が見ても、一目瞭然。
あかねは、俺を嫌っている。
あかねは、俺を拒絶している。
あかねは俺に対して「好意」なんて持っているはずが無い。いや、持ってくれようと思わないだろう。
「ああ…」
…誰よりも大切で、誰よりも守りたい人。
そして、今すぐにでもこの腕に抱いていたい大事な人に・・・その人を再び俺の元に手に入れるために頑張っているのに、逆に遠ざけるような事をしてしまった。
「…」
何やってんだ、俺。
俺はがっくりと肩を落としながら、大きなため息をついた。