…なんで自分はこんな体質なのだろう。
アスファルトを激しく打ち付ける水滴を睨みながら、俺はそんな事を思っていた。
…水を被れば女になるという体質、
食い物を買うときとか、ずるがしこい事を考える時とか、そりゃそれなりに便利な時はある。
でも、「ここぞ」という時にはいつだって…こうやって俺を悩ませる。
…目の前に、肩を震わせて泣いている女がいる。
傘を持つ手をガタガタと震わせて、歯を食いしばったって分かるのに、泣くのを堪えようとしている女がいる。
華奢な身体を包む白いワンピースが、傘を差しても吹き込んでくる雨によってぐっしょりと濡れていた。
「…泣くなよ」
俺がそう声をかけても、
「泣いてないわよっ」
…ボロボロと涙を流しながら、そんな事を叫んだりもする。
「泣いてんじゃねえか」
そう言って俺が泣きっ面に手を伸ばそうとすると、
「泣いてないっ」
さらに向きになって、傘で自分の顔を隠してしまう。
そんなことをすれば、雨は傘で隠れない身体を容赦なく打ち付けて、
「…」
…結局は、傘があってもなくても変らないくらい、身体は濡れてしまう。
やがて手にしていた傘は、ふらり、ふらりと地面へと落ち、誰を雨から守る事もなく、アスファルトの上へと転がった。
ボツっ…ボツっ…と少し低くて鈍い音を発しながら、ただただアスファルトの上で転がっていた。
…喧嘩の原因は、本当に些細な事だった。
でも、その些細な事だってこじれると、大きな問題になる。
そうやってこじれた問題。
謝って、それで許してもらえるかどうかだって、分からない。
でも、目の前で傷ついて、身体を震わせて泣いているのを見つめているだけなんて嫌だ。
ちゃんと謝って、その傷を癒したい。
自分がつけてしまった傷を、癒したい。
今すぐ、力強く抱き締めたい。
この腕に強く、抱き締めたい。
…・そう思うのに、何故この身体は今、その相手と同じくらいの大きさなのだろう。
気持ちだけが男でも、どうにもならない。
こんな時は、大きな腕で、大きな身体で抱き締めなければダメなのに。
何で俺の身体は今、「女」なのだろう。
降り止まぬこの雨が、お湯であったらいいのに…そんな贅沢な事は望まない。
ただ、今この空間だけででも、自分を男の姿に戻して欲しい。
どうか、どうか…
アスファルトに転がった傘が、まるで水溜りのように大量の雨を受け水を溜めているその姿を見つめながら、俺は一心にそう願っていた。