『瞳を閉じれば・・・』
でもそう簡単には浮かんでこない。
キミのキヲクは、どこか頑固だ。
「7つの宝珠を集めろ」
占い師の話をどこからどこまで信じればいいのか、もはや分らなかった。
彼女のキヲクを手に入れるためには、7つの宝珠を集めろと言われたが、それがどういう宝珠なのかは分らないと来た。
それでは到底探せないと思ったら、こんな脅しを掛けられる。
「見つけぬと、彼女の存在が消えてなくなる。もちろん、元の世界に返る訳も無く消滅する」
お前はそれでも見つけないのか?ってな軽い脅しだ。
でも、なんで俺が・・・
人ごみの中、そんなことばかり考えていた。
そう。もうあの変な香の匂いのする薄暗くて閉所恐怖症にでもなってしまいそうなあの部屋から出て、仲間がいるであろう所に向かう途中だった。
俺はさっき起こったことと、言われたことで頭がいっぱいで考え込むようにして歩いていた。
彼女は、そんな俺の後ろを何も言わずに着いて来ていた。
ガヤガヤとする道をひたすらに歩く。
そんな時、不意に後ろから声をかけられた。
「あ、あの・・・」
彼女だった。
「ずっと、言いそびれちゃったんですけど・・・」
そう言ってから、口篭もる彼女。
俺はすっかり振り返って、なんだ?と思いながら彼女を見ていた。
「・・・助けてくれて・・・ありがとう。」
モジモジと、手を前でクロスして、俯いたままそう言われた。
そんな仕草に、なぜかスゲェー面食らって、何も言えなくなってしまっい固まるようにして、ただただ小さな彼女を眺めてることしか出来ない自分。
「みんなから・・・聞いたんです。あなたが倒れてるあたしに気付いて助けてくれたって。それに・・・あたしのキヲク・・・。」
キヲクというフレーズで固まっていた体がほぐれたと同時に、爆発的な照れがやって来た。
「あ、あの・・・その・・・ お、俺にさ、キ、キミのキヲクがって・・・ その、なんかゴメン・・・」
自分でも何を言ってるかわからなかった。
そして、なぜか震えだす躯を抑えつつ、ゴメンと言って、深く頭を下げた。
だって、なんで俺に彼女のキヲクがいるのか?
彼女の知られたくないことが全部この俺の中にあるかと思ったら、気持ち悪いだろ?
俺だって、俺の記憶が誰かの中に入っちまったら、恥ずかしいは気分悪いはでいいことなんてありやしねぇ。
でも、そんなハッキリと見えるわけじゃないキヲク。
断片的でキッカケがない限りは現れない。まるで夢のように見える。
俺の俺自身の記憶とは明らかに違うモノ。
そして、このキヲクは俺のものではないから、断片的にしか見えないのか・・・
何が正解で、何が間違えかもよくわからない。
「え、それは・・・あたしの方こそ・・・」
そう言って彼女は悲しそうな顔をして、また俯いてしまった。
「あ、ゴメ。俺変なこと言った?」
いきなり元気がなくなってしまった彼女を見て、思いっきり焦る。
だって、今までは感情が無い感じだったり、笑っていたりしたのに、悲しみの表情は見せてなかったから・・・
「あ、違うんです。だって・・・あたしのせいで、あたしのキヲクが・・・」
『貴方を巻き込みたくないの。お願い、逃げて』
悲しみの表情、彼女の声。
引き出されるキヲク。
その重なる言葉に、胸が締め付けられる。
一体、誰を巻き込みたくないのか?
――俺? それともキヲクの中の誰か?
それは、今の彼女ではわからない。 でも、キヲクを持つ俺でも・・・わからない。
2人で、何も言えずに道端で向き合ったまま沈黙が続いた。
何か、この大きすぎる使命に似た予言を捕えきれないかのような心境だった。
「あたし1人で見つけます。だから、貴方にはこれ以上迷惑はかけません」
そんな沈黙を破ったのは彼女のヤケに凛とした言葉だった。
「・・・え?」
「助けてもらって、お医者さんにも連れてっていただいて、ましてキヲクのことまで。もうこれ以上迷惑は掛けたくないんです。」
そう言ってから、俯いていた顔をゆっくり上げて、ニッコリと微笑んだ。
「で、でも、このキヲクは・・・?」
「・・・八卦さんも言ってたじゃないですか、宝珠が集めれば戻るって」
そう、そう言っていた。
「だから、見つけるまでは貴方の中にソレがいて、迷惑かけるかもしれないけど・・・これはあたしのことだし、貴方に手伝ってもらおうなんて思ってないですから」
どこまでも、強くいう彼女。
「見つけるまで、あたしのキヲク。よろしくお願いします。」
確かに、彼女のいうことは正しい。
それに、こんな俺がわざわざ引き止めて一緒に探すと言うのも間違ってる気がする。
でも、占い師に言われて思ってしまった。
彼女のキヲクを受け止めて、彼女に返していくということ。守るとまではいかなくても、協力しないといけないと。
「・・・宛、あるの?」
「え?」
「だから・・・その宝珠ってのの宛て」
「それは・・・」
俺のその問いに、彼女は困惑した顔して、目線を反らす。
その仕草がどこまでも強がりに見えて、思わず微笑んでしまった。
「俺、別に迷惑とか思ってねーし。占い師からは脅されたし。 キヲクも・・・断片的でよくわかんねぇし俺じゃ。それも元々旅ばかりしてるから、探すの手伝うのには持って来いだし・・・」
そこまで言って、その先が詰る。
なんて言うべきなのか・・・なんて言ったらいいのか・・・
上手い言葉が見つからなかった。
「・・・えっと・・・協力、するよ。」
必死に探して、出てきた言葉はそれだった。
なんていうか・・・そうするのが当り前だと思っていた。
「でも・・・」
「それに、ここらは女一人じゃ危険だぞ」
そう言ったら、彼女はキョトンとした顔をして「そうなんですか?」と聞いてきた。
だから「そうなんです。」と言って、この話に区切りみたいのをつけて歩き出した。
「ただ、野郎ばかりだけど・・・いいか?」
それだけが彼女にとってのネックな部分だと思って控えめに聞く。
すると彼女はニッコリと笑って「ええ。」と頷いた。
「・・・じゃ、とりあえずよろしく。」
「あ、あたしの方こそ。」
そういってから、つられて笑っていた。
「そうだ、キヲクのことは仲間に言わない方がいい」
不意にそう思ったら、もう口に出てた。
「え?」
案の定、彼女は不思議そうにして俺を見上げた。
「なんていうか・・・変に思うだろ? それに、そういうの知られたくないだろ?」
こういう場合は全て『俺だったら?』に変換される。
俺だったら、こんなこと数人にも知られたくない。
まるで弱みを握られてるみたいになっちまう。
どこまで信頼できるかなんて出来ない。
だから、予め楔を打っておくんだ。
曖昧にそう伝えると、彼女はまだピンと来ないみたいだったけど、俺が「とりあえず言わないから。言ったら殴っていいから」と意味不明なことを言った。
その言葉に彼女は反応して、「じゃ、約束ね」と言って微笑んだ。
彼女の笑顔が妙に胸に迫って、言葉をなくす。
この話題をいつまでも長引かせるのは酷に感じて、紛らわすように「・・・仲間が待ってるから、急ごう」と行って前を向いて歩き出した。
彼女はそんな俺に対し、なんの不信感もない感じで「うん」と答えて、さっきみたいに後ろを付いてきた。
そんな光景がなぜかくすぐったくって、駆け出す彼女を横目で見ていた。
そういえば、いつかこんな昔話を聞いたことがあった。
記憶を失くした少女が荒涼とした大地のど真ん中に降り立った。
そこにたまたま通りかかった宮廷の皇子に救われる。
その救った皇子は記憶を無くした少女を不憫に思い、一緒に記憶が戻るようにと旅に出る。
途中、彼女の力に呼び寄せられた者たちが集って彼女の記憶を探し当てる。
ところが、記憶が全て戻ると、今度は関わった人間全てから彼女の記憶だけがなくなる。
皇子の手に残った青い宝石だけを残して。
この地方に伝わる昔話だ。
俺も小さいころに聞いたことがあった。
面倒見のいいばあさんで、おとぎばなしが大好きな人が俺にこんな話をしてくれたんだ。
まだ小さくて、世間に警戒することしか知らない俺が唯一と言っていいほど懐いた人だった。
よく思い出してみていた。
・・・その話の中には案内役が必ずいて、行く先を教えてくれた。
でも、どうやら現実にはないみたいだ。
あるとすれば・・・あの占い師くらいか? でも宛てになりそうもない。
そんなことを思い出していたら、もしかして彼女もその昔話みたいに消えてしまうのだろうか?
・・・まさかな。
あれはお伽話。 これは実際に起きてること。
一緒くたにするなんて、馬鹿だな俺・・・
でも、実際でも案内くらい欲しいなー。
そう思いながら歩いてると、ようやく仲間との待ち合わせ場所に到着した。
「よぉ、大丈夫だったかー乱馬。」
ケラケラ笑いながら、あまり心配なんてしてない顔でそういわれた。
「まぁーなー。」
そう言って、仲間が持っていた食べ物を横取り、空いてた椅子に腰掛けた。
「なぁー、あの子は?」
そう言って仲間が聞いてきた。
だから、そこにいるだろ?と言って来た道の方を指差す。
「あれ?」
でも、その姿がなくて焦る。
「・・・ドコ?」
仲間がそういったのは少し聞こえたけど、それより早く俺は椅子から立ち上がって必死で彼女を探した。
そしたら、すぐそこの雑貨屋に捕まっていただけだった。
ふー、焦らせるなよ。
彼女もようやくコチラに気づいたみたいで、走ってこっちに来る。
その光景に、ニヤニヤする仲間の視線・・・ 嫌な予感を感じた。
仲間にはそれから、一通りのことを話した・・・。
ただ、キヲクが俺の中にいるということは抜きにして。それと、彼女の身分も隠そうと思った。
いきなり“王女様でした。”なんて言ったら腰抜かすに決まってる。黙ってるが1番だ。
――そんな風にして、彼女は仲間に溶け込み始めた。
仲間の方も名前がわかったことで親近感でも芽生えたのだろうか、やれこのお菓子は美味いだの、やれその服似合ってるだの、すっかり彼女を取り巻いていた。
そして、彼女も打ち解け始めた様子だった。
それを見て、少し安心みたいなものを覚えた。
彼女の提案で闇医者のところに行こう提案された。
何で?と聞いたら、紹介してくれたのは先生だから と返ってきた。
確かに。
と思ったのに、胸のどこかにそれを拒むものがあった。
理由なんて思いつかないのに、なぜかストップを掛けてる。
得体の知れないモヤモヤ。
彼女の「先生」という響き。
キヲクを探っても、キミは怒らない・・・?
ゆっくり、瞳を閉じてみる。
静かに呼び起こす。
思い出せ、彼女のキヲク・・・
「東風せんせぇ」
その言葉が強く胸を突く。
なぜか一発で分かった気がする。
――恋を、していた・・・?
目の前には、ニッコリと微笑んで返答を待ってる現実の彼女。
そんな彼女にこんなことを告げたら、なんて思うだろう。
なんで、俺の胸が痛くなる?
彼女とは初対面だ。
人の恋路がどうした。首を突っ込むだけ、とばっちりが来るぞ。
それなのに、どこまでの胸が痛む。
でも、言わないでおこう。
言っては・・・いけない・・・。
「・・・そうだな」
キミは何も知らない。
キミのものなのに。
キミは何もわからない。
でも、どこかで繋がってしまってる気がする。
だから、先生が居るんだろ?
彼女は俺の返答に軽く頷いてから笑顔を残して歩き出す。
それに続いて仲間もなんら不信も覚えずに闇医者の場所に行くことを承諾する。
俺は、そんな輪から外れ最後尾を歩いていた。
空は、ほんのりと茜色に染まっていた。
「アレ?」
前方からそんな声が聞こえる。
それに伴って、ワラワラと歩いていた仲間の足が止まったので俺も一緒になって止まる。
すると「そ、それはっ」と仲間の焦りにも似た声が聞こえる。
「どうしたんだ?」
まぁ、一応リーダー役である以上、トラブルが起こったら前に出るのが勤め。
重い足取りで先頭まで行くと、彼女の瞳がじーっとこちらを見てることに気づいた。
「・・・コレ」
そう言われて「何?」と言うと、仲間がさえぎるように「やぁ、人違いだってば。あかねちゃん」となぜか笑って誤魔化す風。
やり取りを聞いても一向に想像がつかない。
「どうしたんだ?」と改めて聞くと「ヤバいよ、彼女手配写真見つけちったよ」と近くにいた仲間が耳打ちでそう言った。
はっきり言って、声にならない声で驚いて、慌てて彼女の方に行く。
すると、彼女の視線の先には、間違いなく俺の顔写真というか、似顔絵が・・・
げげっ 仕舞いにゃ、賞金首になんざなってる。
「コレ・・・」
そう言ってマジマジと俺の顔を見る。
お、思わず、苦笑するように笑う。
そ、そういえば、盗賊だとは言ってない・・・
しかも賞金首・・・
「なんか似てますね。」
冷や汗を流してると、すっとんきょんな声でそう言われる。
・・・もしや、気づいてない?
「あ、あはは、ホントだ、誰だろーねー あはははは」
もはや苦しい言い訳のように笑って誤魔化そうとしてる。
あぁ、やっぱ一緒に探すなんて無理かも・・・
つうか、王女がこんな賞金首の盗賊と一緒に旅なんぞしたなんて聞いたら、彼女のお父さん・・・というか王様だろ?
あぁ、マジありえねぇかも・・・
そんな風にして苦笑をしてると、仲間も隠すために必死の形相。
一緒になって俺の言ったことに口を合わせていた。
「ホ、ホントだなぁ、迷惑だよなー似てるなんて」
「ホント、世の中3人は自分に似てるのいるっていうけどなー」
「あ、ありえねぇよなー 乱馬が賞金首なんて」
仲間の言い訳も見苦しいほど苦しい言い訳だ。
あぁ、ホント連帯責任だからそりゃ必死だよな。
なんてやってたら
「・・・乱馬・・・?」
彼女の声が突如澄んだ。
「へ?」
突然呼ばれたので驚きながらも返す
「乱馬って・・・」
より一層澄んだ声に若干の違和感。
「俺・・・だけど・・・」
そう言うと、驚愕した顔で俺の方を見る。
「これ、あなた?」
突如、確信めいた発言に心臓を貫かれる。
「乱馬って・・・書いてある。」
そう言って手配写真の上の方を指す。
するとご丁寧に「RANMA」と書かれている。
ザワザワと騒がしくなる周囲。
誰が呼んだか憲兵のやつまで来てしまっていた。
「賞金首・・・?」
彼女の言葉に、声は出なかった。
気づいたら、捕まっていた。
まるで、スローモーションのような現実に軽い眩暈さえ覚えた。
今まで、ばれたって気にしなかったのに。
何を今更・・・
今に始まったことじゃ、ないのに・・・。
手首を後ろ手に縛られて初めて気づいた。あっさりと捕まったことに。
そして、なぜか彼女まで取り押さえられそうになってるのを見て、慌ててそっちの方に駆け出す。
ガタイのいい憲兵をドンと彼女から跳ねよけようと俺は紐で手を縛られながらも走った。
「彼女は関係ない!!」
そう叫んで、憲兵にぶつかった瞬間、彼女の腕を掴んだ憲兵の腕が淡い緑色に光りだす。
「何だ!?」
誰が叫んだかわからない。
でも、そんな声がすごく遠くに感じた。
知らぬ間にあのキヲクの世界に引き釣り込まれた感覚がした。
そして、俺の意識は白くなった。
変わりに、あまり見たくない映像を見ることになった。
それは、正真正銘、彼女が東風先生ってヤツに恋をしてるという確証めいたキヲクだった。