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この頭の中にいるモノと、どうやら向き合わないとダメかもしれない。
そのままにしていたら、俺がダメになりそうな気がする・・・

受け入れがたい現実でも。



仮眠を取っていたみたいだ。
誰が運んでくれたのか分らないけど、俺は小さな仮設ベッドで寝ていた。

柔らかな午後の風が頬に当たるのを感じて、目が覚めた。


まるで緑の中にいるかのような錯覚を覚える。そんな清々しさをこの空間で感じた。
何もない、地下の闇医者の仮設ベッドの上で。
そこで、気付く。
その感覚は、この環境がもたらしてるのではないと。
それは、この分らない思考が呼んでいる気がした。



少し痛む頭を軽く抑え、腰を起す。
白いシーツに白いカーテン。
差し込むはずのない光を瞼が感じて眩しく思う。

そんな清々しさは俺には不似合いで、少しうめくような声を出すと、次第にノイズを増やし俺の視界からさっきまでの清々しさが消えていった。


次に見えたのは、白い服を着た彼女と、あの先生だった。

なんか、さっきも同じような光景を見たような気がした。
もっと、オーラが違うけど、とても似てる。
何がどう似てるのかと聞かれたら困るけど・・・何かが似てる。
その光景が見覚えある。


「やぁ、もう大丈夫かい?」

先生は俺に向かってそう聞いてきた。
俺は、普通にハイと答えると、それはよかったとニッコリを笑った。

そして、確かめるようにして隣の彼女を見た。

だけど、その先生と彼女の距離になぜかドキっとした。その近さに。
だから、思わず「あっ」と止めるような仕草で先生と彼女の方を見た。


「ん? どうしたんだい?」
柔らかく聞かれても、答えようも無かった。
わからないけど、動いた。

「あ、なんでもないです・・・」
だから、そう答えるしかなかった。

手もちぶさで思わずキョロキョロすると、いつもだと煩いくらいの仲間がいないことに気がついた。
「あのー」
キョロキョロしながら言ったら、「あ、彼らなら調達に行くと言って出て行ってしまったよ。」と先生が教えてくれた。


「キミはえーっと・・・」
さて、本題という調子で俺を見てくる先生。
だが、“えーっと”の後がなかなか続かないので、きっと名前だろうと思い、付け足す形で「乱馬」といった。
「そう、乱馬くん。 キミは寝てしまったから、彼女の容態について知らないから言っておくね。」
先生はそういって、俺に彼女の容態を話し始めた。


彼女はやはり仲間が言った通り、記憶喪失だそうだ。
それも重度のモノ。
何もかもの記憶を無くしてしまっていて、生まれたところ、自分の名前など全てを忘れているそうだ。

「でも、僕から見て、ただ忘れてるとはちょっと思えないんだよ。なんというか・・・記憶だけゴッソリないような印象を感じる。」今まで色々見てきたが、こんなに何もかも忘れてるケースは珍しいと先生は言っていた。


「それと、キミのことだけど。」
続いて、いきなり俺の診断を言ってきた。
という前にあまり診断を受けた覚えはない。だた急に胸が苦しくなっただけで・・・

「・・・キミのその刺青はいつからあるのもだい?」
でも先生は到底、病気とかには関係のないことを俺に聞き始めた。

「刺青?」
「そう、左の腕にあるものと、鎖骨の左の下にあるもの・・・」
先生のその言葉に一部ピンと来なかった。

確かに俺には左腕の付け根あたりに青黒い刺青が彫られている。
だけど、いつ付けられたのかなんて知らない。
きっと小さい頃になんかして付けられたものだろう。だから今まで対して気にも止めてなかったものだった。

でも、鎖骨の下?
そんなものは知らない。

「は? 鎖骨の下?」

だからそう答えると、先生はなぜか1人で納得したような顔をした。


「ふふーん。キミ、厄介なことに巻き込まれたね。」
そういって、慰めるように俺の肩を叩いた。

「な、なんっすか?」
「ま、それも僕が紹介する八卦さんに見てもらえばハッキリするよ。」
「ハッケ??」

先生はまーまーと言って、小さな紙に地図のようなものを書いて、「ココに八卦見さんがいるから。医者の東風の紹介だと言ってもらえば大丈夫だよ。」
そう言ってから、「このお嬢さんも一緒の方がいい」と意味のわからないことを言われた。
「一挙解決できるかも」
そういって、俺らは追い出されるようにしてその部屋から出たのだった。


突然、彼女と2人きりにされてしまって、些か困った。
思わず、出された戸を叩いてしまったくらい。
でも、先生からは「大丈夫だよー獲って食われたりしないからー」と俺の思ってるのとは見当違いなことを言われてしまって、俺は渋々地上に続く階段の登ることにした。

彼女は、そんな俺を下から見てる感じでとても着いて来る気配がしない。

「・・・とりあえず、行こうか・・・」
だから振り向いて、そう言うしかなかった。




会話は無く、ただ黙々と道を歩いた。
何人かに肩がぶつかり、ケンカを売られそうになったがシカトした。
彼女の方は見ることはなかったが、気配だけは感じていた。だから、あえて見て確認しようとは思わなかった。

路地を抜けて、角を曲がる。
肉屋の隣に時計屋があって、その向かいに例の八卦見があると小さな紙には書かれていた。
そして、俺が今いるのは、その肉屋の隣の時計屋。

振り向いたら、その八卦見とかいう所があるらしい。

なのに、なぜか振り向くか、振り向かないか迷った、そうしてると後ろから声をかけられた。
「ここ?」
彼女の声だった。
「あ、あぁ・・・」
そう返事したけど、正しくはない。 正式には、彼女の後ろだろう場所が目的地なのだから。

「八卦見さんって、なんなのかな・・・」
まるで独り言みたいに呟く彼女。
「さぁ・・・」
思わずそう答えるように言ったら、彼女は少し驚いたように俺を見たけど、すぐにそっぽ向かれてしまった。

“なんだ、俺に聞いたんじゃなかったのか・・・” なんてちょっと思いながら、回れ右して彼女の見る形になる。
突然クルリと転回した俺を見て、彼女は益々驚いた様子だった。
その驚き方がカワイイなどと心の片隅で思ったりもした。

「こっち」
坦々と言ったら、少し背けていた顔に、あっと気付いたような表情が見てとれた。

彼女の横をすり抜けて、時計屋の完全に対向にある建物に向かう。
ほとんどが日干し煉瓦で出来た街並みなのに、その対向の1軒だけ、木製だった。

こんな砂漠のど真ん中。

1軒建てるのも困難だ。
ちょっと行けば別のオアシスに糸杉が生えてる場所があるけど、木をこんなに使ってたら、分解されて薪木にされるのが関の山だ。
なのに、その1軒は異様な威圧を放ちながら、そこに建っている。
余程の権力か、力を持った人物でもいんだろう・・・ そう思った。

確認がてらにもう1度手の中の紙を目を通す。

“八卦見の目印は、木製の看板に赤い斧の絵。”
その下にある地下へ続く階段の突き当たりにある。

そうあの先生は言っていた。


確かめるように目の前を見る。


木製の建物の隣。
道に突き出すように取り付けられてる、同じく木製の看板。

俺の位置からは木の側面しか見えない場所だったから、少し左の方にズレながら看板から目を離さず動いた。
徐々に側面を現す看板。
薄くなって、半分木と同化してるその絵。
でも、わかった。

「ここだ」

掌にあった紙を小さくクシャっと握り潰し、後ろにいた彼女の方を振り向く。
彼女は突然移動した俺に慌てて着いてきたといった感じで俺を見上げていた。

「見つかった」
そういうと、彼女は「え?」と少し考えたが、どうやらわかったみたいで、俺がスタスタ歩き出した後ろを慌てて付いてきていた。


看板の真下に、その階段はあった。
さっきと同じ・・・いや、それより暗い感じの階段。

「こっち」

振り向きもせず、そういうだけ。
彼女に聞こえてるか否かなんて確認もしてない。

なんだか、あまり直視できないんだ。
なぜか、胸がざわめく。
昨日、出会ったばかりなのに・・・俺は可笑しい。


薄暗い階段を下りると、一層暗くなってる廊下が続いていた。
木製の階段だったから、後ろから降りてくる音がする。
別に確認しようと思ったわけじゃないけど、なんとなしに彼女の方に顔を向けると、ありえないくらいの逆光が俺の目を窄ませた。

「どこに、あるんですか?」

それは俺に向けられた言葉だと、用意に理解できた。
でも改まりすぎた敬語に違和感を覚え、驚いたように振り向く。

「あ、あの?」

少し、怒ったような顔をしたかもしれない。
彼女は少し困惑した顔をして俺を見ていた。
右頬には、階段の上から漏れる光を受けて白く輝くように写った。


「敬語とか、別に使わなくていいから」
そういうと、彼女は少し不思議そうな顔をした。
「だ、だから、別に改まんなくてって構わねーよ。」
それを聞くと、なんだか理解したみたいで、なぜか小さく笑って「はい」と答えた。

ドキンと胸が鳴ったのと同時に、あの不思議な映像も共に現れる。
この脈拍はなんの為に打たれてるのか、もう、頭はすっかりごちゃごちゃだった。

「こ、こっちの奥・・・らしい」
さっきの質問をなんとか思い出し、そう言ってゴチャゴチャを紛らわせた。



結構長い廊下だった。
たまに、気付いたようにランプが置いてあったが、照明にはあまり気を配ってないらしい。

“突当り” 言われた通りの場所には、1枚の扉があるだけ。
きっと、ここがソレなのだろう・・・

「・・・たぶん、ココ」
そういった声は自信なさげで疑いまくってる。
だって、怪しすぎ。
「と、とりあえず、行ってみよう・・・」
彼女に言ってるというより、自分に言い聞かせてる。ココだよな、そうだよなってみたいに。


ギィ

嫌な音を立てて開いた扉は、見た目以上に重たく感じた。
扉の向うは、なんかの香でも焚いてるのか、俺には鼻に付いた。
薄暗さは廊下以上で、足元もおちおち確認できないほど。ただ、奥にほんのりとした淡い色のあかりが見える。

彼女が入ったことを確認すると、「こっちだ」といって、恐る恐るあかりのする方向に進んだ。


衝立を経た先に、1人の女が俺たちを出迎えるようにして立っていた。
そのあまりの突然の出現に驚いたが、女はクスリと微笑んだあと、「用があったのでしょう」と言って、こちらへと更に奥にあるソファーに案内した。


「・・・あの、あなたは“ハッケミ”ですか?」
2人とも通され、柔らかなソファーに腰掛ける。
感触のいいソファーに一瞬気が緩まったが、気を取り直して改めて座りなおし、そう問い掛けた。

「ご存知でおいでになったのでは?」
なにやら紅茶を用意してもらい、2人の目の前に置かれる。
そして、丁度対面になる1人掛け用のソファーにその女が座ってそう言った。

「あ、その、東風っていう医者にここへ行けと言われたんだ」
「まぁ、東風さんのお知り合い?」
「え、いや、患者?」
「そうなの・・・」

そう言って女は寛ぐかのようにして、足を組みなおした。

「東風さんからの紹介なら、私のことも知らないであろう。しょうがない・・・“八卦見”。聞きなれないかもしれないけど、占い師。ちょっと違うものだけど」

占い師? 一体何のために?

「じゃ、私からの質問。そなたたち、東風さんからのご診断は?」
ニッコリと微笑んで俺たちを見てきた。
その笑顔に緊迫感を覚え、思わず隣の彼女を見た。すると彼女も同じだったようで、ばっちり視線が重なった。

「か、彼女は、昨日砂漠に倒れててそれであの先生の所に。重度の記憶喪失だって先生が・・・。」
そこで一端切ると、占い師は「そなた、裏家業?」と聞いてきた。
「家業じゃねぇけど、そんな感じ」とそそくさと答え、自分の診断?を言った。
「で。お、俺は・・・別に診断は受けた覚えはねーんだけど、知らぬ間に刺青が増えてたことだけ、かな・・・」

結局、彼女のことも自分のことも俺の口から言っていた。
でも、詳しい事情を知ってるのはたぶん俺だし、助け出したのも俺だし・・・
そう1人で悶々と考えてると、占い師が「刺青?」とやけに強く聞いてきた。

「あ、えーっと、この鎖骨の左側の下に・・・」
そう言って首に巻いてたターバンを外し、シャツの上ボタンを2・3コ外した。
少しだけ露になった鎖骨の下には、俺さえも見たこともない深緑色した小さなタトゥーがあった。
模様は・・・よくわからない。だた、幾何学的な図形の重なったモノのように見えた。
そして、知らぬ間に出来てることに、我ながら改めて驚いていた。

「そなたの知らぬ間に?」
食い入るようにそのタトゥーを見ながら言われた。だから そうです と答えると、ちょっと待っていなさいと言って、占い師は奥の更に暗い部屋に姿を消した。


やっぱりその間、彼女との会話は無かった。
ただ、さっきと違って今は隣同士。見ようと思わなくても、視界に入ってくる。
わけのわからん感情と葛藤をしてることしばし、占い師が、何かを持って戻ってきた。


「そなた、青の大きく美しいダイヤを手にしなかったか?」

さっきまでとは違う質問。でもそれは恐ろしく核心を射抜くものだった。
俺は驚きながらも首を縦に振った。

「そして、その後この少女に出会ってるな?」

占い師だから? 尽くあってる。
半分恐ろしくなりながらも、俺はなんとか頷き返した。

「ダイヤの覚醒だ。あなたは彼女の記憶の受け皿となり、この者を異世界より助けたんだ。」

突然、そンなこと言われてもわけがわかんねぇ。
ただただキョトンとして、2人して占い師を見るしか術がなかった・・・
だって、お、俺が彼女の記憶の受け皿? 異世界ってなんだぁ???

「彼女は時空を越えし者。今より一千年も昔に生きていた者」


・・・なんだか、現実離れしてる?
占い師の言ってることの多半数がわけわかんなくなってきた。
彼女も同じ様子で、立ち上がって威勢のついた占い師を2人してポカーンと見ていた。

「何、他人事な顔をしているの。そなたたちの身に降りかかったことだぞ」
そんな俺たちを見て、占い師は呆れたように呟いた。

「だ、だって信じられるかよ?」
「信じるも信じないもお前の中にある、別のキヲクが何よりの証拠だ」

そう言って、俺の心中を打ち抜く。
あの、あの映像は・・・彼女のキヲク・・・・?


「古い書に記されている。“忌み無き者の命狙われし時、宝珠の持ち主、是を助けん。時空の歪旅しキヲク、助けし者の眼に宿るらむ。” そなたの目を見ればわかる。それと東風さんのご診断も。」

そう言って、ググイと近寄り、俺の目を凝視してきた。
「そ、そんなに見るなっ」
だから、慌てて座って顔を背けた。

「そなたの手にしたダイヤの名を『ホープ』。呪いのかかった宝石だ。 きっと、彼女が元の持ち主だったんだろう。ダイヤが呼び寄せたものだ。 そしてそなたはキヲクを受けるだけの器があったということ。そして彼女を使命通り助け
た。」

ベラベラと語られる。
お、俺が彼女を助けるほどの器があった? つうかなんでキヲクが俺に入ってくるんだよ。
あの宝石のせいかと思いながらも悶々と話を聞くことにした。

「じゃぁ、あたしは・・・何者なのですかっ」

突然、今まで黙っていた彼女が叫ぶように訴えた。
その応答に占い師は坦々と、「そんなのは私は知らない」と言い放つ。
情のない奴だ。
などと思っていたら、「そんなことは、アヤツを通せはわかること」と言って、無造作に俺を指差した。

「はぁ?」
だから、そう言うと。
「だから、そなたは彼女のキヲクの受け皿。眼に宿っているのだから、お前からは見えるはずだ彼女の記憶が。」

そう言ってから「方法がいつだけある。」と言ってから、両手を前に出せと言われた。
訳もわからず、2人揃って前に両手を突き出した。
「私に向けても仕方がない。彼女の手を取れ」
突然の無理難題。

「え!?」
思わず驚いて占い師を見ると「繋ぐだけだ、ボケ」と坦々と言われてしまった。
し、仕方がなく、隣の彼女を見る。

少しだけ、照れたような顔に見えて、俺の血流量がドっと上がった気がした。
「し、失礼します・・・」
意味もなくそう言ってから、恐る恐る彼女の掌を自分のそれと重ねた。


「なんだ、お前女の手も握ったことがないのか?」
突如占い師に言われ、カァっと血が上るのを感じた。

「っるせー!!いーからとっととヤレ!!」
そう怒鳴ると、占い師は呆れた顔して小さく笑いながら、両手を真正面で繋いだ形の俺らの手の上に自分の掌を乗せた。


「名をなんと言う」
それは俺に言われた言葉だった。
「乱馬」
「姓は?」
「姓は知らない」
「御意。では始めるぞ、乱馬。」

パァっと繋がれた手の部分が光線を帯びる。

「乱馬、その記憶の中の者の名をなんと言う」


そう言われ、静かに目を閉じ思い出す。
彼女に会った時、初めて見えたあの映像・・・


     「天道・・・あかね・・・」


ゆっくり瞳を開け小さく息を吐く。
答えたのか答えてないのか、分らない曖昧な思考の中、どうやら俺はちゃんと答えを言っていたらしい。


「・・・あかね。天道あかねがそなたの名だ。」
そう言うと占い師は彼女を見た。

「あたしが、あかね・・・・?」

まだ思い出せないようで、自分の名前だというのに、ピンと来ない顔をして占い師を見ていた。

「しょうがない。これで記憶が戻るわけではないが、乱馬の中から少しだけ記憶を見れる方法がある。試してみる
か?」
優しく微笑みながら彼女を見てそう言った。


「ちょっと手荒になるが、乱馬、耐えれるか?」
そう言った占い師の顔はどこか挑戦的で、そんな顔をされては、負けず嫌いの俺の本能を掻き立てる。
「臨むところだっ」

「では瞳を閉じろ」

そういうや否や、青白い光線は更に強くなり、ただの光に強さすら感じた。
言われた通りに眼を閉じ、繋がれた手に集中する。

「あかね。そなたの声で自分の名前を呼び起こせ。 乱馬。そなたはその声を便りに記憶を引き出せ」

熱さえ感じるほどに繋がれた手が痛くなった。
でも、言われた通りに強く想う。あの映像を呼び起こす。
力を入れた瞬間、清らかな声で「あかね」と聞こえた。

すると何かのストッパーがスーっと外れる。
でも、それだけじゃ足りない。入り口を入れただけの状態では・・・

「天道 あかね」

そう聞こえた次の瞬間。
俺はその記憶に、全身浸かった様な感覚を覚えた。


  『あたしは、ウィルラム国 第3王女 あかね。』


彼女に出会ったとき、見えた風景。
緑と潤いのある風が吹くあの風景。
俺が見たこともない、美しい風景。


今、俺が見えるものが、彼女・・・いや、あかね・・・にも見えてるのだろうか・・・



そう思ってると、激しい衝撃を喰らったみたいにその光景から引きずり出される。
頭を砕いたように痛くなり、思わず倒れ込む。

「あっ しっかり!!」

そう聞こえた声は彼女のモノだった。
女々しく、繋がれた掌を握り返す力しかなかった。




フィルターが外れたように目の前が拓けた。
「目が覚めたか」
一発目に聞こえたのは、彼女の声じゃなく、占い師のものだった。

「私は初めに言っておいからな。」と言って、新しい紅茶を差し出した。


ぼーっとする思考の中、彼女がいないことに気付き、「あの子は?」と聞くと「あんな汚い格好では王女の名が廃るか
ら、着替えを用意した」と言って、自分の分の紅茶を飲んだ。
「ふーん」と言いながら俺も出された紅茶を飲みながら、ソファーに座りなおした。

でも、いざ俺の中に彼女のキヲクがあるって言ったって、どうすれば彼女にキヲクが戻るのかもわからない。
いつまでも俺の中にあっても困るし・・・
そんなことを考えてると、「それは後で話てやる」といきなり言われてビビった。

心が読めるのか!? などと思いながら、彼女の着替えを待った。


数分後、小さな物音が聞こえたので、音がした方を見ていると、彼女が突如現れた。
思わず、飲みかけだった紅茶で咽てしまった。


単刀直入にいうと・・・正直キレイだ。
正直に想った。
でも、その言葉が表に出ることは一切ない。


「・・・着替えも終わったことだし、今後のこと、教えてくれるんだろ?」
彼女が俺の隣に腰掛けた瞬間、占い師に問い掛ける。

「この子にキヲク、この子に返す方法があるんだろ?」
「ある。 だが大変だぞ。」


挑戦的な瞳。
どうやら当分、彼女から離れることは出来ないみたいだ。

このキヲクが俺の中にある限り。
一千年も昔に彼女を帰さない限り。




胸騒ぎだけが、俺の中で静かに響いた。


とても静かに。
 でも、わかるほどに強く。

 

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