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「明日!?明日って・・・どういうことだよ!?」
乱馬が晶ババにくってかかると、
「そんなの紫苑坊ちゃんに聞きなさいよ。お姫様、坊ちゃんに変な魔法をかけられたんでしょ?その魔法が効いてきて、お姫さんが紫苑坊ちゃんと式を挙げることを承諾したんじゃない?」
晶ババはそういって、ため息をついた。
「・・・ま、正直言って、私もこの結婚には賛成はしてないんだけどね」
「・・・」
「だって・・・。今の紫苑坊ちゃん・・・まるで、魔物よ」
「魔物?」
「そうよ。赤き月に魅入られた坊ちゃんは、自分の意に背くものは平気で切り捨てるようになったわ。そこにいる翠麗が切り捨てられずに投獄だけで済んだのが奇跡としか思えないわ」
晶ババがそういうと、
「わしが投獄された時には、紫苑様はまだ、完全にあの刀に魅入られてなかったんじゃよ。わしは運が良かったのだ」
翠麗は付け加えるようにそう言って、ぶるっと身を震わせた。
「どうにか何ねえのか?!何か手はねえのかよ!?」
乱馬は、浮かない表情をする二人に今にも飛び掛らんばかりの勢いで叫んだ。
「少しでもいい、あかねに会うことは出来ねえか!?あいつが今どんな状況なのか・・・ホントに紫苑との結婚を承諾したのか、確かめてえんだよッ」
「・・・」
乱馬の叫びに、二人も、それを聞いていたムースも何も言葉を発しなかったけれど、
「・・・今日の前夜祭の間ならば・・・騒ぎに紛れて、姫君に近づく事は可能かもしれん・・・」
やがて翠麗が、小難しい表情で乱馬にそう言った。
「ホントか!?」
乱馬は翠麗のその言葉に、とっさに表情を明るくさせたが、
「・・・でも、あくまでそれは近づくだけよ」
「え?」
そんな乱馬を、晶ババは戒めた。
「な、何で・・・」
「いい?まだ紫苑坊ちゃんを元通りに戻す『銀色の月』が見つかってないの。そんな状態で捕らえられたお姫さんだけ取り戻しても仕方ないでしょ?」
「それは・・・」
「それに・・・。そんなことをした所で、魔法がかけられているお姫様は、すぐに自ら貴方の元を飛び出して、紫苑坊ちゃんの元へと戻ろうとするんじゃないの?惚れているんだから。そんなことをになったら・・・傷つくのは貴方だけよ」
「・・・」
冷静さを失っていた乱馬の胸に、晶ババの言葉一つヒトツが、乱馬の胸を貫いていった。


・・・そう。
紫苑の強い魔法がかかってる今の状態では、たとえ強引にあかねを攫ったとしても、
紫苑に心を奪われるような魔法をかけられている以上、あかねは自らの意思で乱馬の元から逃げ出し、紫苑の元へと戻ろうとするはずだ。
「・・・」
・・・それでは、だめなのだ。
あかねの「身体」だだけではなく、「心」を。乱馬は取り戻さなくてはいけないのだ。


「・・・分かったよ、ばあさん」
「ばあさんて呼ぶな。晶お姉さんとお呼び」
「・・・じゃあ、お姉さん」
乱馬は少しだけため息をついてから、
「それじゃあ、たった一言だけでもいいから・・・あかねと話を出来るような計画を練るのを手伝ってくれ」
もどかしい気持ちを抑え、唇をぎりっとかみ締めながらそう言った。
「つらいかも知れないけど、今出来るのはそれが限界よ。だから今日はそれだけで我慢して、本当の式が執り行われようとしている明日の夜までに、『銀色の月』を見つけ ましょうね」
晶ババはそういって、俯いている乱馬の肩を叩いた。
「出来るかぎりの強力はしよう、青年よ」
「そうじゃぞ、乱馬」
翠麗もムースもそういって、乱馬に声をかけた。
乱馬は、なんとも割り切れない思いを胸に抱きながら、ただ頷くしか出来なかった。
・・・と、その時だった。
「晶様ーッ捕まえてー!」
そんな声が、乱馬たちのいる晶ババの部屋へと響いた。
「!?」
乱馬たちがその声に慌ててテーブルの下へと身を隠すと、乱馬達が身を隠したのと同時に、部屋の中にメイドの一人が飛び込んできた。
そして、
「ほらッ捕まえた!今日のパーティーのメインディッシュにしてやろうと思ってまな板の上に乗せたら突然逃げ出したんです、この豚」
部屋に飛び込んできたメイドはそう言って、自分の足元で無惨にも転がった「豚」を拾い上げた。
(ブタ・・・?)
乱馬がそのメイドの言葉を不審に思って、テーブルの下からこっそりとメイドの方を見上げてみると・・・
「!」
(りょ、良牙ッ)
・・・今夜の「メインディッシュ」としてメイドの手に抱かれていたのは、 紛れもなく、トレードマークのバンダナを首に巻いた良牙だった。
現実の世界だけでなく、こんな亜空の世界でもお前は食われそうになってるのか・・・とそんな良牙が乱馬は少し哀 れになった。
(おい、ムース。お前の得意な手品で、目くらましかなんかできねえか?)
(やってみるだ)
乱馬とムースは机の下でひそひそと打合せをし、
「それッ」
ムースが、机の下からそのメイドに向かって「煙球」のようなものを投げつけた。
「きゃあッか、火事!?」
当然のことながら、自分の身体を正体不明の煙が覆うのに驚いたメイドは、慌てて胸に抱いていた良牙を放り投げた。
「良牙ッこっちだ!」
乱馬はその瞬間にこそっと小さな声で良牙に叫んだ。
「ぶきー!」
が、方向音痴の上に視界がはっきりしないせいか、良牙はいつまでたっても煙の中でウロウロとしている。
「だから、こっちだって!」
乱馬はそんな良牙の首に巻かれたバンダナをぐいっとひっぱると、自分とムースが隠れているテーブルの下へと引きずり込んだ。
「ムース、もう良いぞ」
「わかっただ」
乱馬の合図を得て、ムースがその煙球からでていた煙を一瞬で吹き払った。
「あ!子豚ちゃんに逃げられちゃったわ!」
・・・ようやく煙が晴れ、再び子豚を逃がした事に気がついたメイドは慌てているようだったが、
「・・・さっき、煙に紛れて入り口から出て行ったわよ」
晶ババがわざとメイドにそう伝えると、
「そうですかッありがとうございます。今晩のメインディッシュ、逃がすものか!」
メイドはそんな晶ババにペコリと頭をさげると、慌てて晶ババの部屋から出て行った。
「・・・なんと、まあ。その子豚もおぬしらの仲間だったか」
・・・メイドが立ち去り、部屋に内側から鍵をかけた後、翠麗がそんなことを言いながら、乱馬たちが隠れたテーブルの下を覗き込んだ。
乱馬はホッとしたような顔で頷くと、翠麗に「お湯」と「男性モノの服」を用意してもらい、
「それじゃ、さっそく今晩の作戦を立てようぜ」
そう言って、翠麗の顔をぎっと見つめた。



「・・・乱馬よ」
・・・そして。
晶ババの部屋での作戦会議もすぎ、再び翠麗の隠し部屋へと戻った乱馬達は、行動を起こす「夜」まで、その部屋の中でそれぞれが休んでいた。
翠麗は体力温存のために・・・と仮眠を取り、ムースは自慢の武器を部屋の隅で手入れしていた。
そして、良牙は。
乱馬をムースがいる隅とは反対側へと誘い、あるものを手渡した。
「これは?」
首を傾げる乱馬に、
「見れば分かる」
良牙はそう言って、乱馬にすぐにそれを見るように促した。
それは、白い紙のだった。
乱馬は、首をかしげながらその紙を開封したが、
「!」
中身を見た瞬間、はっと表情を強張らせた。
「これ!あかねの字じゃねえかッ」
「そうだ。俺は少しだけあかねさんに逢うことが出来た。
 その時、お前に渡してほしいと頼まれたんだ」
豚の姿だったけど・・・と良牙は続けた。
「・・・」
乱馬は、慌ててその中身を読んだ。
・・・それには、自分が紫苑に噛み付かれてしまったこと、それによって紫苑に心を奪われる魔法をかけられているこ と、そして、普通の人よりも強力な魔法をかけられている事・・・今のあかねの身におきていることが簡単に書きなぐられていた。
「あかね・・・」
乱馬は、そのあかねによって託されたメモを必死で読みつづける。
「紫苑の魔法の源は、『胸元の鏡』・・・」
そのメモには、紫苑の弱点、というべきかあかねが知りえる全ての情報がつまっていた。
「・・・あの野郎、『ゲーム』って言ったんだ」
「ゲーム?」
「そうだ。あかねさんの心が自分の物になるのが先か、俺たちが奪還するのが先か・・・」
良牙はそう言って、ため息をついた。
「・・・あんな悲しそうな顔をしたあかねさん、見たことねえよ」
「・・・」
「早く、銀色の月・・・見つけてやらないと」
そして、
「あかねさんとの約束どおり、確かに渡したからな、乱馬」
そう言って乱馬のところからふと離れた。



「・・・」
乱馬は、良牙から受け取ったあかねのからのメモをぐしゃっと握りつぶした。
・・・メモには、あかねが今置かれている状況がありありとかかれていた。
でも、乱馬にはそれよりもメモの最後・・・最後の一行に書かれていた言葉が胸に残っていた。


『私、頑張るから・・・だから、乱馬達はそれまで『銀色の月』を探して。事が片付くまでは、たとえ私の姿をどこかで見かけても・・・傍に来ないで。今の私は、乱馬に逢えない』


・・・メモの最後には、そう綴られていた。


(逢えないって何だよ・・・それ)
乱馬は、メモを握り締める手の力をさらに強くした。
・・・あかねの言わんとしている事は想像できる。
恐らく、紫苑にたとえ魔法がかけられているとはいえ心を奪われつつある自分の姿を見られたくない、というところだ ろう。
でも・・・。
たとえどんな状態でも、あかねはあかねなのだ。
(・・・)
乱馬は、メモを握り締めながらギリ・・・と唇をかんだ。
・・・あかねの口から、態度から、
「紫苑様が好き」
そんな気持ちを感じてしまったら。
たしかに乱馬は、晶ババが言っていたように非常に傷つくかもしれない。
でも。
それでもいいから、こんなメモではなく、自分の目であかねの無事を確認したい。
一言でもいいから言葉を交わしたいのだ。



明日の結婚式までに『銀色の月』を探さなくてはいけないけれど、でもその前に・・・どうしてもあかねに逢いたい。


「逢えねえなんて・・・そんなの認めねえぞ、あかね」
乱馬は、握りつぶしたメモを睨みつけながら、ボソッとそう呟いた。







・・・・そして。
ようやく宮殿の外が薄暗くなり始めた時刻。
音楽隊やら人々のざわめきやらが聞こえるようになってきた頃。
乱馬達は晶ババが調達してきた衣服に身を包み、「前夜祭」が執り行われる広間の中へと身を潜めていた。
ゴーン・・・ゴーン・・・
この城の中央に位置する例の小さな古い教会の鐘が、夕闇の中に鳴り響いている。
城の外、中庭にある池に、空にかかる月がぼんやりと反射をして映っていた。
フワリ・・・と時折駆け抜ける夜風が、その月を映し出す水面をゆるやかに揺らす。
「・・・行くぞ」
そんな緩やかな風が外に面した廊下を駆け抜ける中、人々の中に紛れ込んだ乱馬達は、「一目だけでもあかねに逢う」作戦を開始した。

 

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