・・・そんな俺が次に目を覚ましたのは、それから数日後の事だった。
「・・・」
まず目を開いた俺の目に飛び込んできたのは、
見慣れた家具に、天井。
そして、薄暗い部屋。
窓はあるのに、光なんて差し込んでは来ない。
ベッドと暖炉以外は何もおいてない、殺風景な部屋。
温度なんて感じることのない、その部屋は・・・
「・・・俺の部屋?」
俺は、ゆっくりと体を起こしながら呟いた。
そして改めて、辺りを見回した。
・・・何故だかわからないが、俺は衣服を纏ってはいなかった。
そんな俺を包むのは、見慣れた漆黒の布。
そしてやはり見慣れた、殺風景な空間。
そこは紛れもなく、俺にあてがわれている部屋だった。
「・・・」
俺は、ゆっくりと自分の肩先へと目線を落とした。
・・・「天上界」で、あの大天使に魔力を直に直接注ぎ込まれたはずのその傷口は、すでに手当てをされた後のようだった。
「天上界」を統べる大天使ほどの力の持ち主に、直接力を力を注ぎ込まれて苦しめられたはずなのに。
まるで、そうまるでこの心臓を素手で鷲づかみされたような苦しみを、味わわされたはずなのに。
なのに俺の、その傷を受けていたはずの傷口は、そんな後も残らぬくらい綺麗に、治癒されていた。
たとえ「魔界」の、それも王族であったとしても、だ。
どんなに強い魔力をもった悪魔であったとしても、だ。
大天使ほどのものに直に力を注ぎ込まれたら、無事ですむはずはない。
親父の力を持って治癒をしたとしても、傷の一つは残っても不思議ではないはずだ。
なのに、何で・・・?
「・・・」
俺がそんなことを考えていると、
「失礼いたします・・・おお、王子。お目覚めになりましたか」
親父に使えている悪魔の一人が、俺の服を抱えて部屋へと入ってきた。
「・・・」
俺がその悪魔をじっと見ていると、
「お召し物をお持ちいたしました。王子が戻られた時に召されていた衣服は、損傷が激しくて既に処分させて頂いて
おります」
「戻られた・・・?なあ、俺は一体どうやってココに戻ってきたんだ?」
「は?どうやってって・・・・王子はご自分でココに戻られたのですが・・・。それより、王がお呼びです。お召し物を変え
られたらすぐにとのことです」
悪魔は不思議そうな顔でそう言って、俺に自分が持ってきた衣服を渡して部屋を出て行った。
「俺が・・・?自分で?」
悪魔の言葉を聞いて、俺は少し混乱してしまった。
・・・そんなはずはなかった。
俺は、「天上界」で意識を失ったはずだ。
立ち上がることが出来ないくらい、流血だってしていた。
大天使に、「魔界」へ押し戻されたというのなら、それはわかる。
だが、動けずに強引に押し戻された俺が、だ。
そんな俺が、自分の力で再びココまで帰ってきたというのか?
「・・・一体どうなってんだ・・・?」
いくら考えようとも、大天使に魔力を注ぎ込まれて意識を失った以降、こうして目覚めるまでの記憶が全くない。
どうやって自分の力で帰ってきたのかなど、想像もできなかった。
・・・それに。
俺は自分で「罪を犯した」と自覚している。
だから、もう「魔界」へ帰れないと思っていた。
たとえ強引に「魔界」へ押しも出されても、もう親父のいるこの城には戻れないと考えていたはずなのに。
俺そんな事を考えながら、渡された服に着替えようと、ベットから体を起こし立ち上がったが・・・
「うわああああ!」
・・・立ち上がり、なんのことなくふと、光の入ってこない窓ガラスを見た俺は、思わず奇妙な叫び声をあげてしまった。
「何故だ!何でッ・・・何だよこれッ・・・!」
俺は、ガラスに映った自分の姿にガクガクと身を震わせていた。
慌ててそのガラス窓にも手で触れてみた。
しかし、そんな風にガラス窓に触れたところで、そこに映っている俺のその姿は、変らない。
「何でッ・・・」
・・・俺は、体中から血の気が引くような錯覚に見舞われながらも、自分の背中にゆっくりと手を伸ばし、そこに生えているはずの「漆黒の翼」に触れた。
背中に、翼は生えていた。
翼を封じ込めて置くほど今の俺は体力も魔力も残っていないので、翼は俺の背中から剥き出しになってはえている状
態だ。
どんな闇をも駆け抜ける、「魔界」のものの証である「漆黒の翼」。
だが、今の俺の背中に生えている翼は・・・闇が色あせ、どんよりとした鉛色にまでその色素が落ちてしまっていた。
どう見てもそれは、「漆黒」ではない。
「漆黒」どころか、この闇の空間にポウッ・・・と浮かび上がり、うっすらと白い光さえも帯びているように、見えた。
(何で・・・今までどんなに体力や魔力がなくてもこんな事には・・・)
俺は、背中の翼から羽を1本引き抜いた。
そして、ガタガタと震える手でその羽根をマジマジと見つめる。
・・・この世に生を受けて、初めてのことだった。
いや、今まで「魔界」で暮らしてきて、こんな色あせた翼を持つ物は見た事がなかった。
(・・・俺が罪人だからだか?本当にもう、「魔界」で生きる資格がないからなのか?)
それとも・・・大天使の奴に魔力を注ぎ混まれたせいで、何か俺の身体に異変が?
俺は、ありとあらゆる可能性を色々と考えてみた。しかし、勿論の事そんな理由など思いつくこともない。
俺は、背中と額に妙な汗をかいていた。
・・・こんな翼のままで、部屋の外、しかもたとえ呼ばれているとはいえ、親父の所になどいけるわけがない。
どうする?
どうしたらいい?
たとえ「罪人」として「魔界」を追放されるとしても、こんな奇妙な翼のままでは・・・
・・・
「とりあえずこの翼を元に戻す方法を見つけないと・・・」
親父ならきっと何か知っているかもしれないが、さすがにこれは親父には聞くわけに行かなかった。
それならば、と、俺はある場所へとこっそりと赴く事に決めた。
・・・それは、この「魔界」の外れにある細身の塔。
そのてっぺんは、「天上界」へも届くのではないか・・・と歌われるぐらい、高さもある。
その塔には、「魔界」の中でも無法な行いをした凶悪なものが何人も閉じ込められていて、そんな凶悪かつ無法者を監視するべく、一人の番人が置かれていた。
その番人は、そんな無法者達が脱走したり反乱をおこさぬように、とありとあらゆる魔術等を研究している。
魔力が強く、そして知識がある者でないと、この塔の番人は務まらない。
なので、「魔界」の王族の次にこの「魔界」で強い魔力を持っているのではないか・・・と一部では囁かれているくらい
だ。
そんな番人ならば、ある意味、親父よりもこういう特異な現象についてはくわしかもしれない。
幸な事に、何かの行事の時に一度、挨拶程度だったが言葉を交わしたこともあった。
向こうが覚えているかどうかは、この際関係ない。
今は頼れる者といったらそれぐらいしか思いつかないのだ。
俺はそんな風に考えた。
なので、俺はとりあえず部屋の入り口から顔を出して、
「お、王子!何をッ・・・うわッ」
・・・通りがかった悪魔を適当に気絶させると、その背中に生えている羽根を何本か毟り取った。
そして、その羽根をグッ・・・と手に握り締めて、小さく呪文を唱える。
・・・こうすることで、その羽根に込められている魔力を自分の中に吸い取ろうとしているのだ。
怪我をしたせいか、それとも目を覚ましたばかりだからなのか。
今の俺には、このくすんだ翼を自分の体の中へと隠しておける魔力が残っていなかった。
でもその魔力が復活するまで待っている時間もないので、一時的ではあるが、この通りすがりの悪魔から、その魔力を吸い取ったのだ。
ジジ・・・ジジジジジ・・・・
俺がしっかりと握り締めている手の中の羽根が、黒い光を発しては1本、また1本と俺の体の中へと吸い込まれてい
く。
「・・・」
俺は、また少しその悪魔から羽根を毟り取っては、その動作の繰り返しをした。
そして、
ビュオッ・・・
・・・犠牲になった悪魔の羽根が、半分くらい毟り取られた頃だろうか。
ようやく、俺の背中からその色あせた翼が消えた。
「・・・」
翼を体内に収めて置けるぐらいの魔力を吸収した、証拠だった。
俺はさらにその悪魔から羽根を数本毟り取って洋服のポケットに突っ込むと、周りに注意を測りながら、こっそりと部屋を抜け出した。
闇の中を走り、そして塔の周囲を覆い隠すように茂っている樹木の間を抜けると、そこには鉄で出来た大きな門が聳え立っていた。
この門には番人はいないのだが、その門の真ん中辺りには大きく、そしてしっかりとした錠がかけられていた。
・・・無論、俺がその錠をとく鍵を持っているはずもない。
なので、
(ならばこの羽根で・・・)
俺は、先ほどポケットの中に突っ込んできた黒い羽根を1本、取り出した。
そして、その羽根を握り締めながら口の中で、小さく呪文を唱えた。
・・・ポウッ・・・
するとその羽根は、小さな光を帯びて光リ始めたかと思うと、ブブ・・・ブブブ・・・と、ゆっくり、ゆっくりとその形を変え始めた。
形を変えた羽根はやがて「鍵」へとその姿を完全に変化させると、門を閉じているその錠の中へと滑り込んだ。
ガチッ・・・・
滑り込んだ鍵は、錠のロックをいとも簡単に外してしまうと、その役目を終えたのと同時にフッ・・・と姿を消した。
・・・羽根を変化させてありとあらゆる鍵を開けてしまうこと。
これは、「魔界」の王族に代々伝わっている魔術の一つだった。
これによって、「魔界」の王族のものは、この「魔界」では開けられない扉がなくなるというわけなのだが、
(・・・まさかこんな所で役立つなんて思わなかったな)
俺は妙な感心をしつつも、ようやく錠の取れたその鉄の扉を押し塔の中に入った。
が。
鉄の扉を抜け、そして荒れ果てた草木が無造作に生えている道を少し歩いていくと、辺り一体に黒い霧が流れ込んできた。
「・・・」
・・・じっとりと湿った、妙に胸につく霧だった。
おそらく、その霧と混じって、この塔に捕らえられている魔物達のオーラというか怨念というか・・・禍禍しい物も流れ
込んできているのだろう。
(すげえ環境だな・・・)
「魔界」の王の血を引いている乱馬でさえ、背中にじっとりとした汗をかいてしまうこの不穏な空気、こんな空気の中で、その元凶ともいえる魔物たちの番をしているとなると・・・その番人、やはり相当な魔力と、そして
強靭な精神力の持ち主だ。
(とりあえず、話を聞いてみないと・・・)
俺は、自分の身体にまとわり着いてくるその奇妙な黒い霧の中、ただひたすらとそれだけを思い歩を進めていった。
「おや、王子ではありませんか。どうされました?このような場所に・・・」
・・・そして。
ようやく塔の入り口にたどり着いた時。
俺が塔の方へ向って来る気配を感じ取っていたのか、俺が塔の入り口を開ける前に、その番人が塔の中から顔を出して出迎えてくれた。
「ちょっとお前に聞きたいことがある」
(よかった、俺のこと覚えていたのだな・・・)
俺はそのことにホッと胸を撫で下ろしつつ、さっそくその番人に切り出そうとした。
が、
「・・・お話をゆっくり聞いて差し上げたいのですが、王子、今日はちょっと時間が取れそうもないのです」
「え?」
「申し訳ないですが、王子のお話、後日でもよろしいですか?」
番人は俺の言葉を遮るようにそう言い被せると、そう言って頭を下げた。
どうやら、俺の気配に気がついて塔から顔を出したのではなく、
ちょうど出かけようと入り口にやって来たところに偶然、俺の姿を見つけたようだった。
「た、頼む!何とかして時間を取れはしないか!?一刻を争うのだ!」
ここまで来て出かけられてはたまらない・・・と、それでも俺が必死に番人に食い下がると、
「そうですか・・・」
番人は、やれやれ・・・というような表情をすると、
「では、手短にお願いします。ちょっと珍しい物をこの近くの森に見つけたので、それが他のものの目に触れる前に回
収に行きたいのです」
「分かった。邪魔をしてすまない。すぐ済むから」
「さ、どうぞ。さっそく王子のお話とやらを聞きましょう」
俺を塔の中へと招きいれ、入り口近くの部屋へと通した。
・・・暗闇に、ボーッ・・・と浮かび上がるオレンジ色の炎。
窓もなく、鉄で出来た壁に無造作に置かれているテーブルと椅子。
壁際にぎっしりと並べられている書物。
そして、
「!」
その書物の並んでいる棚の合間合間に、奇妙な「瓶」が幾つも並べられているのに俺は気がつき、思わず息を飲ん
でしまった。
「どうしました?王子。何か見つけられたのですか?」
そんな俺の様子をにこやかに見つめながら番人が話し掛けるので、
「その瓶は・・・何だ?」
俺は、棚に並べられている幾つかの瓶を指差しながら呟いた。
・・・瓶には、小さな人型のようなものが収められていた。
よく見るとそれら一つ一つには表情もあり、
そして何よりも驚いたのは・・・その人型の背中には、真っ白い「翼」が生えていたこと。
よく見ると、その白い翼の生えた人型は皆、長い美しい髪を伸ばしていた。
真っ白い翼に、長い髪。
・・・それはまさしく、「天上界」の天使達の特徴でもあった。
「・・・」
俺がその瓶をじっと見つめていると、
「・・・その瓶に入っているのは、何らかの事情で「天上界」からこの「魔界」へ落ちてきた天使です」
「なッ・・・」
「「魔界」のほかの場所でならばすぐに力をそがれた天使は殺されてしまいますが、私はそのような無益な殺生はし
ません。
殺すぐらいなら・・・と、私の魔術を研究する手伝いをしてもらう事にしたのです」
番人はそう言って、瓶をちょんちょん、と指でつついた。
「「魔界」に落ちた天使は、長生きも出来ません。ですから、その残り少ない命を私に託してもらうのですよ。そのために、こうして活け取りにして保管しているのです。本当は髪の毛なんて研究の邪魔だから切ってやろうとしたんですが、『天使が髪の毛を短くしてしまうことは天使の誇りを捨てる事。それだけは許してくれ』と訴えるものですから。仕方なく髪の毛も長いままで全て保管しているのです」
番人は笑顔でさらりとそう言いのけたが、
その笑顔が逆に俺には不気味で、背中に嫌な汗が走る。
「今日も、「天上界」からこの近くの森へと落ちてきた天使の気配を感じたので捕獲に行く所だったのです。さ、王子。早く話を済ませましょう。せっかく見つけた天使が、他の魔物に食べられでもしたらたまらない」
番人はそんな俺を無視するように俺に席を勧めると、話をするように急かした。
「・・・」
・・・この男に相談しても、本当に大丈夫なのか。
俺は一瞬だけ躊躇してしまったが、でもそれでもこの俺の状況を打開する為にはどうしても、この番人の力が必要だった。
「・・・実は・・・」
なので、覚悟を決めた俺は、「絶対に他言しない事」を約束させて、自分の背中に生えている色あせた翼の話をした。
・・・
・・・・・・
「・・・事情は、わかりました」
・・・しばらくして。
俺から話を聞き終えた番人は、ふう・・・と一息ついた。
そして、
「その羽根を、ちょっと見せてもらえませんか?」
「ああ・・・」
俺は、ビュオッ・・・と今まで隠していた色あせた翼を飛び出させると、そのこから羽根を一本抜き取り、番人に渡し
た。
「ちょっと失礼」
番人はその羽根をいろいろと眺めたり、かざしたりしながら何かを考えていたが、
「・・・このような灰色の羽根・・・私も見た事がありません」
その内、少し困ったような顔をしながら俺に向ってそう答えた。
「そうか・・・お前でもわからないか・・・」
俺が落胆を隠し切れずにそう呟くと、
「ただ・・・」
「ただ?」
「過去に一度だけ、そのような翼を持つ物の話だけは、聞いたことがあります」
「!?」
「ただ、そのものがその翼を持った条件が王子には当てはまらないので、関係ないとは思うのですが・・・」
番人はそう言って、壁際の本棚から1冊の本を持ってきた。
「それは?」
俺がその本を覗き込むと、
「これは、私の前にこの塔を守っていた番人がつけていた日誌のような物です。そこに確か・・・」
番人はそう言って、その日誌をパラパラとめくり、
「あ、あったあった。ここだ、ここ」
そう言って、俺にそのページを指差して見せた。
「この日誌によると、とある悪魔が連れてきた赤ん坊の翼が・・・今の王子と同じ灰色の翼だったとかいてあります」
「その赤ん坊は何でそんな翼をしていたんだ?」
「・・・悪魔と、天使の血を引いていたからです」
「!?」
「王子も、聞いたことはありませんか?天使と恋に落ちた悪魔の話を・・・。
二人は罪人として両方の世界から終われ、そして別世界へと旅立っていった事を」
番人の言葉に、俺はドキッと心を震わせてしまった。
・・・そう、俺はその話を知っている。
そして、その恋に落ちた天使の女というのが、実はあかねの父親である大天使の女だったということも。
だから、よりいっそう大天使は「魔界」の者を憎んでいるという事も。
たしかその女は、悪魔との子供も作ったと言っていたが・・・
・・・
「まさかその灰色の翼を持つ子供が、その二人の子供だというのか?」
・・・俺が小さな声でそう尋ねると、
「そうです。純粋な悪魔でもなく、天使でもない。だからそのものの翼は灰色になった。
この日誌によれば、その赤ん坊はその後すぐにこの番人によって魔王様・・・王子のお父上ですね、に差し出されて
殺された、とあります」
「!」
「王子は魔王様のご子息ですし、この殺された赤ん坊のように両方の世界のものの血を引いているわけではな
い・・・ですから、王子には当てはまらない、と先ほど申し上げたのです」
番人はそう言って、日誌をパタン、と閉じてしまった。
「なあ・・・どうしてその悪魔は赤ん坊をこの塔の番人に預けにきたんだ?」
「それは・・・この塔の最上階に、もう一つの世界へ繋がっている入り口が見える場所があるからです」
「え?」
「この塔の最上階から、その入り口へ向って・・・この悪魔と天使は飛び降りたのですよ。別世界は、我々が住む「魔界」・「天上界」とは全然違う時間が流れております。
例え一緒にその入り口へと飛び込んだとしても、二人がもう一つの世界でも一緒に入れるかどうかさえも分からないの
に・・・愚かな行為です」
「?それはどういうことだ?」
番人の言葉に俺が首をかしげると、
「つまり、ですね。もう一つの世界というのは、我々が住むこの世界とは全く別の時間が流れているのです。ですから、二人がもう一つの世界に旅立つという事は、二人はその世界での時間を初めから・・・歩き始める事になるわ
けです」
「ああ」
「つまり、悪魔でも、天使でもなくなる。全く別の物に生まれ変わるわけです。もう一つの世界には、もう一つの世界の掟があります。もちろん、記憶も全て消されてしまいます。ですから、旅立った二人が
『異性』として生まれ変われるかどうかさえ分からないのです。ましてや同じ場所へ生を受ける事など、天文学的な確率でしかありえない」
番人はそう言うと、俺の顔を見た。
「・・・それでも、たった少しの『再会』できる可能性、そして制約のない場所で二人が生きれる・・・という事を信じて、あの二人は旅立ったわけです。
最後まで子供を連れて行くかどうかは迷っていたようですがね。でも『子供には罪はない』と思ってここに残していこ
うとしたんでしょ
・・・無論、そんな都合の良い理屈は通りませんでしたがね」
「・・・」
番人の言葉に、俺は何も言葉を発する事が出来なかった。
・・・胸が、痛かった。
そうか、これが本当の罰か・・・と、俺は何だか妙に痛感した。
「異世界の者を本気で愛してはならない」
その掟を破った二人へとかされる罰はこんなにも重いものなのか。そう思った。
「魔界」と「天上界」から追放されたらば、否が応でももう一つの世界へと旅立つしかない。
だが、旅立ったとしても、それから後二人は共に生きれるかどうかさえ分からない。
生まれ変わったその世界で、再び出会えるかどうかさえも分からない。
生まれ変わる前の記憶さえも奪われて、たとえ顔を合わせたところで・・・まさか以前に愛し合っていたなどと思うわけもない。
では、もう一つの世界へ旅立たずに二人で命を絶つか?
・・・例え絶ったとしても、両方の世界を追われたものの魂など、どちらの国でも再び受け入れてはくれない。
そんな魂はやがて、邪悪な魔物に食われてしまい・・・そこで終わってしまう。
どちらに転んでも、罪を犯した二人が共に生きていく事などできない、ということだ。
「・・・ま、とにかくですね。王子のその翼、私の方でもしばらく調べてみます」
・・・ぼんやりと考え込んでいる俺に、再び番人が話し掛けてきた。
「すまないな・・・」
「いやしかし、本当に灰色をしている翼など・・・見た事がない。うん」
「・・・」
しきりに感心している番人に、俺は「研究に使え」とばかりにもう一本羽根を抜き取って渡すと、
「邪魔をして悪かったな。出かけるところだったんだろう?」
俺はそう言って番人と一緒にその塔を出ようとしたが、
「・・・そうだったんですが」
「え?」
「どうやら、やっぱり今日は出かけられそうもありません」
番人は、そんな俺を塔の入り口まで見送ると、大きなため息をついた。
「?どうした?」
俺が不思議に思って尋ねると、
「・・・何か、大きな力が「魔界」へと向かってきています。何処へ向っているかは分かりませんが、もしその力がこの塔を崩すような事があったら大変です。中の魔物たちを
管理するのが私の仕事、脱走でもされたら後々面倒ですので」
番人はそう言って、フッと空を見上げた。
「大きな・・・力?」
俺もつられて空を見ると、
「!」
・・・それまではただの漆黒の闇に包まれた天上の空間が、いつの間にか赤黒い光が渦巻くおぞましい「雲流」へと姿を変えていた。
生暖かい空気が、俺の肌をフワリ、とすり抜けていった。
辺りを覆っていた暗黒の霧さえも、そのおぞましい赤黒い雲流へと次々と飲み込まれていくようだった。
「こ、これは・・・」
・・・こんな空、見たことねえ。
俺が番人の方を慌てて振り返ると、番人は、俺のほうなど見もせずにただその空を見上げている。
・・・と、そんな番人の後ろの方から、
ウオオオオ・・・・
ウオオオオ・・・・
・・・まるで、地の底から生まれてくるような「うねり声」が聞こえてきた。
「!?」
俺が塔の内側を覗き込むと、
「・・・魔物たちが騒いでいる。近くに、「天上界」のものが近づいているという事か」
番人はそう言って、声の聞こえるとの内部へ目線を移した。
「天上界の?」
「そうです。もしかしたらこの空の異変や、近づいてくる大きな力は・・・「天上界」の・・・」
「!」
俺は、番人の言葉にはっと息を飲んだ。
・・・「魔界」へ乗り込んできただけで、こんな風に空を異変させることができる天使。
塔に捕われている魔物たちがざわめくくらい、強い魔力を持った天使。
そして、あたり一体の空気さえも変化させてしまう力を持つ天使など・・・一人しかいない。
(大天使!)
俺は、そう直感した。
・・・何らかの事情があって、大天使が、この「魔界」へやってこようとしているのだ。
大天使が、憎んでいる悪魔たちのいる「魔界」へとやってくる理由。
「二度と姿を見せるな!」
そう叫んで、俺を「魔界」へ送り返した、大天使がだ。
そんな大天使が、それを覆してまでもこの「魔界」へとやってくるんだ。
そんな・・・そんな理由は、一つしかない。
「・・・俺、もう行く」
「そうですか。王子、妙な空模様ですからお気をつけてお戻りください」
俺は番人に挨拶をして、慌てて塔から飛び出した。
・・・あかねだ。
あかねが、「魔界」へきっと降りてきてしまったんだ。
そのあかねが、俺に見つかる前に・・・大天使の奴はこの「魔界」へとやってきたんだ。
そういえば、さっき番人が、
『この近くの森に天使が落ちてきたようで・・・』
とか何とか言っていたな。
「くそ!あいつなんで魔界なんかに!」
・・・大天使に見つかる前にとかではなく、他の魔物に見つかる前にあかねを見つけ出さないと、天使の力をそがれたあかねが危ない。
「・・・」
俺は、ポケットに隠し持っていた漆黒の羽を握り締めた。
そして、
「・・・飛べッ」
俺はその羽根をグッ・・・と握りつぶしてバラバラにさせると、赤黒く渦巻く空に向って投げた。
ヒュッ・・・
粉々になった羽根は、しばらくは俺の周りをグルグルと飛んでいたが、
カッ・・・
急に閃光を放ったかと思うと、俺がいる場所から少し離れた所にある茂みに向って、その羽根が動き始めた。
「あそこにあかねが・・・」
俺は、その羽根を追って地を走り始めた。
・・・二度と逢うつもりはないし、逢わないようにしよう。
俺一人が罪を背負えばいい。
そう思っていたのに・・・そんな俺の心とは裏腹に、気持ちは逸った。
誰よりもさきに、
誰よりも早く、
俺の足は光が導く方向へと向っていた。
そして・・・
「おい!」
・・・黒い羽根と光が俺を導いてくれた場所にたどり着いた時。
俺は、その場所に座り込んでいまにも泣き出しそうな顔をしているあかねに・・・叫んだ。
「乱馬ッ・・・」
あかねは、やってきた俺の姿にパッと顔を輝かせた。
そして俺のほうに駆け寄ってこようとしたが、
「何しに来た!今度俺に迷惑をかけたら、その喉に手をかけて息の根を止めるって言っただろ!」
俺はそんなあかねをピシャリとそう言って跳ね除けると、
「・・・大天使が。お前を探している。そこまで連れてってやるから、すぐに「天上界」へ帰れ!」
今度は大天使に俺達の居場所を教えるべく、まだポットの中に残っている羽根に手を伸ばした。
が。
「何でよ!」
その俺の手をポケットから離させるように、あかねが俺の手を掴んだ。
俺がその手を振り解いて再びポケットに手を伸ばそうとすると、
「乱馬!」
あかねは、やっぱりそんな俺の手を掴んでその手を止めた。
「おいッ・・・」
俺がそんなあかねを睨むと、
「何で・・・?何でよ。せっかく、四年ぶりに逢ったのに・・・」
あかねはそう言って、困ったような・・・今にも泣き出しそうな表情をした。
「え?」
そんなあかねの表情のかげりに、俺の心は少し痛んだ。
「逢いに来てくれるって・・・約束したから、待ってたのに・・・。知ってるもん!あたしだって。そりゃ、後から聞いたんだけど、でも・・・乱馬がくれたこの耳飾りの意味、知ってるもん!」
あかねは、そんな俺にはっきりとした口調で叫んだ。
「知ってるってお前・・・」
俺がその言葉に驚いていると、
「魔界の王族の・・・求愛の印、なんでしょ?そりゃ最初は驚いたわよ。「魔界」のものに求愛されるなんてって・・・でも・・・」
あかねはそう言って、ギュと唇をかみ締めながら俯いた。
「でも・・・四年前のあの日も、それにこの間も・・・あたしが本当に困っている時に力を貸してくれたのは、乱馬だったのよッ。「天上界」では、あたしは大天使の娘だからって、皆腫れ物にでも触るような感じで接してくるわ。だけど・・・大切には扱ってくれても、あたしが「魔界」へ落ちてしまったあの日だって、誰一人「魔界」へと降りてくる
物はいなかった。乱馬が「天上界」へ矢を放ってくれなかったらきっと・・・あたしは見殺しにされていた。
この間だって塔に閉じ込めたら誰一人逢いに来ない・・・お父様でさえもよ!」
「でも、大天使は今、お前を探しに「魔界」へやってきている」
「・・・事情はわからないけど、お父様は乱馬とあたしが接するのを極端に嫌っているわ。あたしの気持ちが乱馬に向えば向うほど、向きになってあたしを閉じ込めようとする。だから、また閉じ込められる前に、あたしは逃げてきたのよッ」
あかねはそう言って、顔を上げた。
・・・鳶色の大きな瞳が、ゆらゆらと揺れていた。
その揺らめきに、俺はズキ、と心を痛める。
「また逢えるって、約束してくれるまで帰らない!帰らないわッ」
あかねは、そんな俺の腕にしっかりとしがみついてそう叫んだ。
俺はそんなあかねに思わず空いている片腕だけでも手を回してしまいそうだったが、それを必死で堪えて・・・目を閉
じた。
・・・罪を犯すのは、俺だけで充分だ。
そう思って、あかねを突き放したのに。
何の運命のいたずらか、それともなるべくしてこうなったのか。
俺の心の奥底にあった「叶わぬ思い」が叶ってしまったのかは分からない。
でも・・・どうやらあかねも「罪」を犯してしまったようだ。
だが、
罪を犯したものの末路を、俺は知っていた。
もう一つの世界へ旅立って、再会できるかどうかも分からないような新しい生を歩む事になるか、それとも、報われぬ魂を魔物に食われて終わるか。
どちらにしても、罪を犯した二人が幸せに共に生きることなどできるわけがなかった。
・・・今ならば。
今ならば、きっと間に合う。
あかねが本気で罪を犯してしまったことを大天使に知られる前の今ならば・・・あかねだけは、助ける事が出来るはず
だ。
あかねに、そんな悲惨な運命を辿らせるわけには行かない。
軽い罪ならば、もしかしたら忘れ去ることだってできるかもしれない。
今ならば、間に合うのだ。そう、きっと。
俺は、そう自分に言い聞かせた。
「ならば・・・」
・・・なので。
俺は、わざとあかねに向けて冷たい笑顔をしてみせると、本当は千切れてしまいそうなほど痛んでいる胸の内を隠し・・・・あかねに向って冷たく言い放った。
「ならば、証拠を見せろ」
「しょう・・・こ?」
「そうだ、証拠だ。お前、俺の求愛を受けるんだろ?俺のことを愛してるって事だよな?ならばその証拠を見せろ」
「・・・」
「証拠がなければ、俺は信じない。天使の戯言として、聞き流す」
俺はそう言って、あかねが掴んでいる腕をわざと乱暴に振り払った。
「どうした。見せられないのか?」
そして、証拠なんて見せられないのを承知であかねにそう言い寄ると、
「・・・見せれないのだろう?だったら、もう二度とそのような事を口に出すな。あの求愛は、俺の気まぐれだ。あんな物を本気にされたら迷惑だ」
俺の言葉に何も答えないでじっとしているあかねに、背を向けた。
・・・体が、引きちぎれてしまいそうだった。
今すぐ、この心をばらばらに引き裂いて欲しかった。
でも、こうでもして俺を嫌わせないと、あかねは言う事を聞かない・・・俺はそう思った。
姿かたちは美しいくせに、あかねは意外と芯が強いようだ。
もしもあかねが「魔界」に生を受けているものならば・・・何の躊躇もせずに俺はコイツを手に入れたのに。
成人してよがしてまいが関係ねえ。
絶対にそう思ったはずだった。
「・・・」
あかねは、背を向けた俺に対してしばらくは何も言わなかった。
が。
「乱馬」
・・・その内。小さいが、はっきりした声で俺の名を呼ぶとゆっくり、俺の顔があるほうへとゆっくりと歩いてきた。
「・・・」
俺がそんなあかねを真っ直ぐ見据えると、
「・・・」
あかねも、そんな俺をじっと見つめていた。
・・・強く、力を持った瞳だった。
何か意志の炎でもともったように見えるその鳶色の瞳は、何故か、俺の目を一瞬たりともそらさせなかった。
「・・・もう、分かっただろ。大天使の元へ帰れ」
俺は、目をそらさないまま、あかねに向ってそう言った。
あかねはそんな俺に一言も言葉を発そうとはしなかった。
・・・しかし。
その代りに、あかねは自分の懐に手を入れて、その懐から、忍ばせてきたのか、一本のナイフを取り出した。
「そ、そんな物で俺を脅そうとしたって俺の意志は変らねえからな!あんまりふざけた事を考えていると・・・」
俺がそのナイフの登場に内心ドキリとさせられながらも、怯むことなくそう言うと、
「・・・」
あかねはそんな俺に答えないで、そのナイフをしっかりと右手に握りなおした。
そして・・・
「おい!おまえ一体何をッ・・・・!
ザクッ・・・ザクッ・・・
次の瞬間、あたり一体に俺の叫び声と、そして・・・物をナイフで絶つ音が響いた。
ザクッ・・・ザクッ・・・と音を立てては、地面へと次々と落ちていく物。
それは・・・それは、あかねの髪の毛だった。
漆黒の、艶やかな髪。
背中まで伸びた、美しい長髪。
そして、
『天使の誇り』。
・・・塔の番人に命乞いをした天使が最後まで「それだけは切らないでくれ」と嘆願した、天使の証・・・。
その黒髪を、あかねは無造作にナイフで切り始めたのだった。
「やめろッやめろって・・・!」
俺が慌ててその手を止めさせようとしても、
あかねは無言でそのナイフを動かしつづけた。
やがてあかねの背中まで降りていた長髪が、肩より少し上ぐらいまで短く切りそろえられたと、
「・・・」
あかねは、地面に大量にそげ落とされた自分の髪を、一房拾い上げた。
そして、そのままその黒髪を俺に向って・・・差し出した。
「え?」
俺がそんなあかねの行為に戸惑っていると、
「・・・これが、証よ」
あかねは、俺に向って小さな声で呟いた。
「!」
俺がはっと息を飲むと、
「・・・長い黒髪は、天使の誇り。天使の証。それを短く絶つという事は、天使の誇りを捨てるという事。すなわち、天使であることを否定する事」
あかねはそう言って、俺の顔を真っ直ぐに見つめた。
「自らその髪を絶つ事は、「天上界」では罪になる・・・私もこれで、罪を犯したわ。正確には二つ目の罪だけど・・・。悪魔を愛してしまって、さらに自分で誇りの髪の毛を絶ったんだもん。これであたしも「天上界」追放ね」
・・・あかねはそう言って、笑った。
「お前・・・バカじゃねえか」
・・・俺は。
そんなあかねの笑顔を直視することが出来なかった。
バカか、コイツは。
何だよ。何やってんだよ。
人がせっかく、罪が明るみに出る前に何とかしてやろうと、人がせっかく、本気で罪を犯しきる前に何とかしてやろうと、冷たくあしらってやったのに。
・・・何で、そんなことすんだよ。
そんなことされたら、俺は・・・俺が必死で今まで抑えていた想いはどうなるんだよ。
全部、捨てる事になるんだぞ?
大天使の娘、という地位も名誉も・・・全てを捨ててまで、なんで悪魔に・・・
何で俺なんかに・・・
・・・
「・・・後戻りは出来ねんだぞ」
・・・俺は。
俺の顔を真っ直ぐに見つめていたあかねに、今度は何の躊躇もせずに腕を回した。
「分かってるわよ」
あかねも、そんな俺にゆっくりと腕を回す。
「「天上界」に戻りたいって泣いても、もう返せねえぞ」
「知ってるわよ」
「怖いって泣いても、もう「天上界」には帰さないぞ」
「・・・乱馬」
・・・そんな俺に、あかねが言葉を遮るが如く口を挟んだ。
俺は、そんなあかねをじっと見つめた。
あかねも、そんな俺をじっと見つめていた。
・・・その大きな瞳には、一点の曇りもなかった。
その表情には、少しの陰りもなかった。
天使の誇り、天使の証を失ったあかねは、たった一言、俺の言葉を待っているかのような表情をしていた。
・・・その言葉を俺が口にしたら、
俺は、いや俺たちは、もう本当に後戻りが出来ないと・・・充分に分かっていた。
だけど・・・あかねも、そして俺も。
その言葉がお互いの口から発せられる事を強く、強く今は望んでいた。
「・・・」
・・俺は、覚悟を決めた。
「・・・あかね」
・・・愛してる。
そう呟いた俺に、
「・・・私も」
あかねは、すぐに答えた。
「・・・」
短いが、でも何千の言葉よりも強い力を持つその一言をお互いに確認しあった俺たちは、それ以後は何も言わずに強く、ただ強くお互いの体を抱きしめた。
・・・このまま、時間が止まってしまえばいい。
心からそう思った。
時間が止まれば、俺の罪も、あかねの罪も、ずっとずっと誰にも知られず責められることなく済むのに。
俺は心からそう感じた。
俺の腕の中でじっとしているあかねもそう思っているのか、何度となく俺の顔を見上げては、切なそうな・・・時折寂しそうな表情を見せる。
俺もあかねも、お互い言葉も交わさずに、ただただずっと・・・お互いの温もりを感じていた。
・・・しかし。
この幸せな時間は、そう長くは続かなかった。
「あかね!」
・・・お互いの気持ちを確かめ合い、そして抱き合うことに気をとられていた俺たちは、
「あかね!」
あかねを血眼になって探していた大天使と、
そして、
「王子・・・王がお呼びです。直ぐに城にお戻りいただかねば困ります」
・・・親父の命令で俺を連れ戻しに来た悪魔たちに周りを取り囲まれていた事に気がつかなかったのだ。
「乱馬・・・」
「・・」
大天使に弓矢を向けられながら、そして俺を連れ戻しに来た悪魔たちに槍を向けられながらも、俺は、あかねを自分の背中へとかばうようにして前に立った。
・・・やはり、これが罪を犯したものの末路なのか。
「・・・」
退路を絶たれた俺とあかねは、最高に幸せな空間から、一気に最高に危険な状況へと追い込まれていった。