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→3. 怖いのは拒絶される事(Side-N)

「はあ?手を繋ぐにはどうしたらいいかって…あんた何言ってんの?」
「う、うるせえなっ高い金払ってご教授願ってんだからしっかり教えろ!」
「はいはい…」

 

とある金曜日の夜。
「おい、話がある!」
「はい?」
「あかねにばれないように、後で部屋にいくからなっ」
…話がある、っていう割りにはやけに偉そうな態度の乱馬君が、あかねに気付かれないようにあたしにそう話し掛けてきた。
「あかねに気付かれないように」っていうのが何だか気になっていたあたしだったけど、
別に、乱馬君があたしに気があるわけでもあたし達が変な関係な訳でもないし、あたしは気軽にその申し出にOKを出す。

でも、一体何の用かしら?

あ、もしかしたらこの間の運動部への助っ人バイト代をピンはねしたのがばれたのかしら?
それとも、隠し撮りした写真を九能ちゃんに横流ししたのを、今更文句でも言おうとしている・・・あ、それともあれかしら?
オリジナルグッズを作って販売しているそのモデル料をよこせとか?
「…」
…どちらにせよ、乱馬君に対してうしろめたいことがたくさんあるあたしは、彼の指示どおりに自分の部屋で乱馬君を待った。
そして、あかねの目をかいくぐってようやくやって来た乱馬君が言った第一声が、
「相談に乗ってくれ」
だったわけ。
後ろめたい事があるのと、相談に乗るのは別の事。
あたしは「三十分千五百円」と相談料をしっかりと取った後、乱馬君の「相談」に乗ろうとしているわけだけど、
その相談内容のあまりのバカらしさに、思わず本音を口にしてしまう。
「こうやって繋げばいいんじゃないの?」
あたしは、でかい身体を小さくすぼめて真っ赤になっている乱馬君の手をムズっと掴んでそう言った。
「そ、それが出来ねえから困ってんだろっ」
「あんたまさか、まだあかねと手を繋いでないわけ?」
「わ、悪いかよっ」
「中国の呪泉洞から帰ってきて、一体どの位経つと思ってるのよ。もう、三週間よ?押し倒してキスぐらいしていたって文句言われない日数だわ」
…聞くところによると、日本で祝言はあげそこなったものの、本人同志の間では気持ちが通じ合っているというか、両思いみたいな「雰囲気」があるとのこと。
「雰囲気、じゃなくてあんた達誰がどう見ても両思いよ」
「そ、それは…その…」
「だいたい、何で今頃そんなことをあたしに聞くの。あ、もしかして明日何かあるわけ?」
「え?い、いやその・・・」
乱馬君は、あたしに尾行されたらたまらない、とでも思っているようで中々口を割らなかったけれど、
「ふーん、じゃあ相談されても的確には答えられないわ」
あたしがそんな風に脅しをかけてやると、
「じ、実は明日、その…学校帰りに映画を見に行くことになって…」
と、白状した。ちょろいもんだった。
乱馬君にすると、この映画を見に行くことを利用して、一歩前に踏み出そうとでもしているみたい。
この照れ屋で奥手に見えるこの男にしては、随分と行動的。
「あら、いい傾向じゃないの。がんばんなさいよ」
「で、でも…どうしたらいいか・・・」
鍛え上げたがっしりとした身体を小さく捩りながら照れる男は何とも奇妙な感じだけれど、
「映画館なんて、始まっちゃえば暗闇でしょ?それを利用すればいいじゃないの」
「ど、どうやってだよっ」
「だからー。最初は偶然触れたみたいにして触れていって、慣れてきたらそのまま握っちゃえば言いじゃないの」
「ててて手をひっこめられちまったらどうすんだよっ」
「パンフレットでも手にとらせるようなきっかけを作って、手を表に出させればいいでしょ」
あたしが淡々と、でも親切丁寧にアドバイスをするも、
「で、でも…」
乱馬君は何だか今いちのりが悪い。
「何をそんなに躊躇しているのよ。握りたくないの?」
「そんなわけねえだろっ」
「じゃあなんなのよ」
あたしはウジウジしている乱馬君に檄を飛ばしてやった。すると、
「きょ…」
「きょ?」
「拒絶されたら怖いじゃねえか」
…乱馬君は、何とも弱気な台詞をあたしに呟いた。
「あのねえ…」
この言葉に、あたしは思わずため息をつく。
…あたしからしてみれば、こんなのどう考えたってデキレース。
乱馬君が一歩行動を起こせば、絶対この二人は上手くいくなんて分ってるのに。
ううん、だって誰がどう見たって両思いなんだし、本人同士だって分かり合っているんだから。
こんなに結果がわかりきっているレース、八百長試合よりもつまらないというのに、
どこをどうしたらこんなに自信がなくなるのかしら…。

「拒否される事なんて、絶対にないから」
「わ、分からないじゃねえか…」
「あたしが言うんだから間違いないわよ。五百円くらいかけてもいいわ」
「!そ、そんなに言うなら間違いはねえか…」
あたしがお金をかけたことによって、あたしの言葉の信憑性を感じたのか、乱馬君は急に素直になる。
「とにかく、やるだけやってみたら?その代り上手くいったら謝礼は貰うわよ」
「ま、まだ金とるのかよっ」
「当たり前でしょ」
慈善事業じゃないんだから…と、あたしは乱馬君を部屋の外に送り出し、再びため息をつく。

 

拒絶されるのが怖いって。一体どの口からそんな台詞が出るのかしら?
されるわけ無いじゃない、されるどころか、あっという間に関係が進むわよ。
あたしにしてみれば、自信が持てないこと自体が信じられないわ。

 

あたしがそんなことを考えていると、
「お姉ちゃん…」
軽いノック音がして、今度はあかねが部屋に入ってきた。
「何よ、どうしたの?」
「うん…あの…あのね…」
乱馬君の次はあかね。もしや…と思いつつあたしがあかねに尋ねると、
「あのね、明日ね、映画みにいくの・・・」
「そう」
「うん、それでね…その…男の子が喜ぶような仕草って、その、あるの?」
「はあ?」
「だから…その…乱馬が何か、その…喜ぶような仕草とか行動とか…」
あかねはそんなことを言いながら、顔を真っ赤にしていた。
「…」
…カップルで同じこと考えてちゃ、もう、どうしようもないじゃないの。
あたしは心の中で再びため息をつくも、
「簡単じゃないの」
「簡単、て?」
「映画いくんでしょ?映画館で手でも握られたら、素直に握られててあげなさいよ」
「ええっ…ら、乱馬がそんなことするのかなあっ…」
「してきたっていいじゃないの。嫌なの?」
「そ、そんなことっ…乱馬があたしと手を繋ぎたくないって、思っていたらそんなことありえるのかなっておもって…」
「あるわけないじゃないの、そんなこと」
「でも…」
「あんたは余計な心配しなくていいの。
それよりも、映画館からでたあとも、手、繋いであげてたら乱馬君は大喜びよ。振り払ったりしたらもうその先は期待できないわね」
「そ、そうなの…?」
「そういうものよ」
「うん…」
「あんたと手が繋げたら、乱馬君はそれだけでも嬉しいんだから」
あたしはあかねにそう言い聞かして、再び部屋の外へと送り出す。
全く、あたしときたらとんだキューピッドだ。
元々デキレースなのに、更に周りがこんなお膳たてをして、うまくいかないためしがないっていうものよ。

 

…本当は見に行ってやろうかと思ってたけど、上手く行かないわけもないし、それにせっかくのチャンスなんだし。
明日は大目に見てやるか。
ま、成功したら乱馬君から謝礼が出るわけだしね。

 

妹カップルの進展の応援と、乱馬君からの謝礼の金額…どちらの期待があたしの中では大きいかは別として、
「拒絶されたら怖い」
だなんて…そろいも揃ってそれに脅えていただなんて、本当に似たものカップルね。
あたしはそんなことを思いながら再び、ため息をついてしまったのだった。

 

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