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→1. この距離を壊したくない

…きっと、あと一歩なんだと思う。

 

あたしは、隣を歩いている乱馬の横顔を盗み見ながら、そんなことを考えていた。
お互いがお互いを思っていることなんて、分かっている。
でも、それが分かっていても今の関係よりも先にはどうしても進む事が出来ない。
恥かしいとか、照れるとか、きっとそういうのだけじゃないと思うんだけど…

「…」
夕暮れ時の、学校からの帰り道。
アスファルトに反射したオレンジ色の夕陽が、乱馬の顔を照らしている。
良くみると、綺麗な顔立ちをしているその横顔も、
ぱん、と張った唇も、
歩くたびに揺れているおさげ髪も…見つめているだけで眩しくて、何だかあたしの顔が火照ってしまうのは、とりあえずこの夕陽のせいにしておこう。
あたしは、そんなことを思っていた。

 

あたしと乱馬の間には、微妙に隙間が空いていた。
人、一人分は離れていない。でも、拳一つ以上は離れている。
手を繋いでくれれば、きっとこの隙間はすぐに埋まるんだ。
離れないように繋ぎとめておいてくれたら、きっとあたしはこの距離をすぐに埋められるじゃないかって、思う。
でも、
「あ…」
「あ…ご、ごめん…」
偶然に歩いていて手が触れた瞬間があったとしても、乱馬はあたしに一言そう謝るだけで、それ以上は何もしない。
それどころか、今度は手が触れないようにわざと気を使ったり、して。

何で?
何で謝るの?
そんなに乱馬は、いけないことをしたの?
「…」
謝られてしまったら、手を繋いでもいいって思っていたあたしが…バカみたいじゃない。
距離を縮めたいって思っていたあたしが馬鹿みたいじゃない。

 

「あ、あのさ…」
「な、なんだよ」
「今日、学校でね…」
…でも。
そうやって心に思っていることを、あたしが口に出す事はない。
それを口に出してしまったら、何だか今の、こんな風に隣を歩けるこの関係もおかしくなってしまうかもしれない…そう思うから。

 

あと一歩、彼に歩み寄りたい。でも、今のこの関係も壊したくない。
もっと側に寄り添いたい。でも、それをすることで今のように気軽く話が出来ないんだったら…それは我慢してしまう。

例え口に出さずともお互いの気持ちはわかっていたとしても、
確かな証拠が一つくらいないと、
忘れないくらい強い証拠がないと、
あたしはまだ、不安で仕方がない。
あたしが離れて行きそうになった時、乱馬はあたしが離れないようにって…この拳一つ分空いているこの距離を越えて、あたしの手を掴んでくれるのだろうか…。
きっと答えは決まっているはずなのに、
そんなゆるぎない物まで疑ってしまいたくなる。

 

聞きたいけれど、聞くのが怖い。
でも、知りたくて仕方がない。


この距離は壊したくないけれど、でもこの距離が憎くてたまらないときもある。
ほんのわずかに見えても、それは遙に遠い距離。
他愛もない話をしながら道を歩きつつ、あたしはその距離を思い深いため息をついていた。

 

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